残業代の不払いが長引くと、ただ未払い分をもらうのみでは納得できないでしょう。弁護士に依頼したり、裁判手続きになったりと費用や手間がかかったなら、遅延した分の制裁を企業に負わせるために未払い残業代の遅延損害金を請求すべきです。
残業代の遅延損害金は、期限を過ぎても残業代が支払われずに放置された期間に応じて請求できます(在職中は3%の遅延損害金、退職後は14.6%の遅延利息)。遅延損害金は、未払いの期間が長いほど高額になるため、不当に支払いを拒み続けた使用者に対する制裁として機能します。遅延損害金を正確に計算して警告することは、実際に損害金を受け取れなくても、未払いを防ぐ有効な策です。
今回は、残業代の遅延損害金について労働問題に強い弁護士が解説します。不誠実な会社に制裁を与える方法を理解することで、残業代トラブルで損しないようにしてください。
- 残業代の遅延損害金は、悪質なブラック企業の未払いを防ぐのに有益
- 残業代の遅延損害金の利率は、在職中は3%、退職後は14.6%
- 在職中の遅延損害金は各月の給料日から、退職後の遅延利息は退職日から起算する
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残業代の遅延損害金とは
遅延損害金とは、支払うべきお金が期限までに払われない場合に、その遅延によって生じる損害を補填するための金銭です。遅延損害金があることで、法的な義務ある金銭の履行が遅れると債務者はその分だけ追加の支払いを要するので、制裁(ペナルティ)として機能します。
遅延損害金は、法的には、債務不履行(履行遅滞)による賠償の一環と位置付けられます。期限のある債務は、約束通りに履行する必要があるところ、遅れると「履行遅滞」となります。これによって損害が生じたときの賠償が遅延損害金であり、支払期限から遅れが生じた期間に応じて、一定の利率を乗じた金額として算出することができます。
残業代は、労働者が働いた時間に対して支払われるべき法的な権利であり、未払いは労働基準法違反です。そして、残業代の未払いが生じると、その後に争って勝ち取っても、本来払われるべき期限には遅れることになるため、その遅れた期間分の遅延損害金が発生します。労働者が本来受け取れるはずだった賃金が遅れたことによる経済的損失を補填するために、未払い残業代の請求時には、必ず遅延損害金も追加で請求しておきましょう。
遅延損害金について民法419条に定めがあり、使用者が労働者に支払うべき賃金が遅延した場合、その遅延日数に応じた損害を労働者に補償する必要があります。
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残業代の遅延損害金の利率
次に、遅延損害金の利率について解説します。
次章の通り、遅延損害金は、本来支払うべき期限から遅れた「期間」に、一定の「利率」を乗じて算出します。このときの利率は、債務の性質によっても異なりますが、以下に解説する通り、在職中については3%、退職後については14.6%の利率となるのが原則です(在職中のものを「遅延損害金」、退職後のものを「遅延利息」と区別することがあります)。
在職中の遅延損害金の利率は3%
労働基準法24条によって賃金は毎月一定期日に支払う必要のあるところ、残業代もまた「賃金」に含まれ、1ヶ月単位で計算し、毎月支払わなければなりません。そのため、多くの会社では、残業代は給料の支払日を期限として、他の給料と共に払われる約束となっています。このとき、毎月の給料日ごとに、その月に支払うべき残業代が履行遅滞となり、遅延損害金が生じます。
在職中の残業代の遅延損害金について、利率は年3%です。民法419条によって金銭債務の遅滞による損害は、法定利率によって定めるのが基本とされるので、残業代の遅延損害金は、この民事法定利率に従って3%の利率で計算します(法定利率以上の約定利率を定める場合はそれによりますが、残業代の場合は該当しません)。遅延損害金は、各月の給料日から起算して、月ごとに計算して足し合わせていきます。
なお、2020年4月1日施行の民法改正によって法定利率には大幅な改正がなされています。そのため、2020年3月31日以前の未払い残業代には商事法定利率の6%が適用されます(現在は商事法定利率は廃止)。
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退職後の遅延損害金の利率は14.6%
退職後の残業代の未払いは、在職中の未払いにも増して大きなペナルティが課されます。退職後まで未払いを放置する方が悪質であり、労働者の保護を手厚くすべきだからです。そのため、退職後の残業代の遅延損害金について、利率は年14.6%です。このことは民法の特則として賃金の支払の確保等に関する法律(賃金支払確保法)に次のように定められています。
賃金支払確保法6条(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
1. 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年十四・六パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
2. 前項の規定は、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによるものである場合には、その事由の存する期間について適用しない。
賃金支払確保法(e-Gov法令検索)
このような退職後の重い責任を、在職中の「遅延損害金」と区別して「遅延利息」と呼ぶことがあります。退職後の遅延損害金は、退職の時点で存在する未払い残業代の全額に対して、退職日から起算して算出します。当然ながら、在職中の未払いについて蓄積した遅延損害金と、合算して請求することができます。
「残業代の計算方法」の解説
残業代の遅延損害金の計算方法と具体例
請求すべき残業代の遅延損害金の計算方法
次に、残業代の遅延損害金の計算方法を、具体例を交えて解説します。遅延損害金の計算方法は、次のステップで進めるようにしてください。
在職中の遅延損害金について、各月の給料日から起算し、年3%の遅延損害金を計算します。この際、在職中の遅延損害金は、各月ごとに発生し、それを足し合わせた合計額を請求する必要があります。
在職中の遅延損害金の利率3%は「年利」なので、日割りにして計算します(年利3% × 遅延日数/365日(閏年は366日))
未払い残業代の合計額と、前ステップで計算した在職中の遅延損害金を、全て合計します。
前ステップで合計した金額に、退職日から起算した14.6%の遅延損害金(遅延利息)を計算します。退職後の遅延損害金(遅延利息)の利率14.6%も「年利」なので日割りで計算します(年利14.6% × 遅延日数/365日(閏年は366日))
未払い残業代、在職中の遅延損害金、退職後の遅延損害金(遅延利息)を全て合計したのが、最終的に請求すべき金額となります。
「残業代請求の解決期間」の解説
具体例とシミュレーション
残業代の遅延損害金について、具体例でシミュレーションしてみましょう。簡単な例で解説しますが、自分の場合にあてはめて計算する参考にしてください。
- 未払い残業代(1月分12万円、2月分20万円、3月分15万円)
- 退職日:4月末日
- 給料日:25日締め、月末払い
- 遅延損害金の利率:在職中3%、退職後14.6%
→ 争った結果、5月末日に残業代の支払いを受けられた場合の遅延損害金
上記の事案で、前章に解説したステップに従ったシミュレーションは次の通りです。
まず、各月ごとに、在職中の残業代の遅延損害金を計算します。
- 1月分残業代の在職中の遅延損害金
12万円 × 3% ×(28日+31日+30日)/365日 = 878円 - 2月分残業代の在職中の遅延損害金
20万円 × 3% ×(31日+30日)/365日 = 1003円 - 3月分残業代の在職中の遅延損害金
15万円 × 3% ×(30日)/365日 = 370円
以上を合算すると、未払い残業代が47万円、在職中の遅延損害金が2251円となり、合計で47万2251円となります。この全額に対して、退職後の遅延損害金を計算します。
- 47万2251円 × 14.6% × (31日)/365日 = 5856円
以上のことから、最終的な請求額は、47万8107円となります。
「残業代請求の裁判例」の解説
残業代の遅延損害金の請求方法
遅延損害金は、正当な賃金を、適時に受け取れなかったことによる損失の補填なので、労働者は自身の権利を守るため、必ず請求しておくのが大切です。遅延損害金の請求は、未払い残業代の請求とまとめて行うため、同じ流れで進めることとなります。そのため、まずは内容証明を送付して、交渉からスタートします。
残業代の請求書に、未払い残業代の金額と共に、支払日の予定と、その際に発生する遅延損害金について記載します。次の文例を参考にしてください。
「私は、会社に対して、未払い残業代として金500万円を請求します。仮に、20XX年XX月XX日に支払うのであれば、遅延損害金としてXX万円を追加で支払うよう求めます。」
ただ、遅延損害金を必ずしも満額もらおうとするのではなく、交渉の段階では、早く払ってもらうためのプレッシャーとして役立てる方法もあります。例えば、次のように請求書に記載し、「法的措置に移行した場合は遅延損害金を譲歩しない」と警告するのが効果的です。
「未払い残業代を、本書面の到達から10日以内に支払うよう求めます。期限内に支払いも回答もない場合は法的措置に移行します。その場合、法律に従って計算した遅延損害金、遅延利息、付加金をあわせて請求することを申し添えます。」
交渉では解決しない場合には、労働審判、訴訟といった裁判手続きに進みます。なお、いずれかの段階で和解する場合に、和解というのは相互の譲歩を要することから、労働者としては遅延損害金は含めないで和解に応じるケースも少なくありません。このとき、今後裁判などに進んだ際の見通しと比較して不利な和解になっていないか、遅延損害金をあきらめてでも今すぐ和解をする合理性があるかどうか、といった点をよく検討してください。
着手金無料の弁護士に依頼すれば、コストを気にせず徹底して争うことができます。
「残業代請求を着手金無料で依頼する方法」の解説
遅延損害金と付加金の違い
あまりに悪質な残業代の未払いに対しては、遅延損害金に加えて、付加金を払わせることもできます。付加金は、遅延損害金とは性質が少々異なりますが、いずれも制裁としての特徴を有します。
付加金は、労働基準法の定める金銭の未払いについて、裁判所の命令によって、それと同額を限度として支払う金銭です(ペナルティを含めた支払額の合計は、最高で、未払額の2倍となります)。付加金の課せられる金銭支払の典型例が、残業代(割増賃金)です。
労働基準法114条
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第6項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は違反のあったときから2年以内にしなければならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
ただ、付加金を払わせるには、支払いを裁判所に命じてもらうことや、訴訟の判決による必要があることといった厳しい要件があり、必ず労働者の請求通りに支払われるわけではありません。また、付加金は、裁判所が悪質であると認めるケースに限られるのであって、単に支払いが遅れたことを理由としたペナルティではありません。
「残業代の付加金」の解説
残業代請求時に遅延損害金をあわせて請求すべき理由
最後に、残業代の遅延損害金を請求すべき理由と、その効果について解説しておきます。残業代は正当な対価なので、請求を後ろめたく思う必要はなく、遅延損害金の請求は労働者にとってメリットばかりです。
悪質な未払いを防げる
遅延損害金を請求すれば、会社が不払いを続けるほどに、最終的に払うべき金額を増額させることができます。そうすると、労働審判や訴訟といった裁判では到底認められないような反論しかないなら、これに固執して時間を引き伸ばすのは企業にとっても不利益です。会社にとって、時間を追うごとにリスクが増大するため、悪質な未払いを防ぐことができます。
遅延損害金がないと、企業側では「一旦は反論して未払いを続け、裁判で負けたら仕方なく払う」という戦略が取れてしまうところ、遅延損害金はこのような不当な戦略を許しません。遅延損害金を請求すれば、会社側でも将来の裁判の結果を予想して、合理的な経営判断をしなければならなくなり、不誠実な放置や無視を止めさせることができるのです。
「残業代請求の勝率」の解説
交渉を有利に進められる
労働問題の多くは、交渉での和解、もしくは、労働審判における調停といった、話し合いの手続きのなかで解決します。この際は、労使それぞれが妥協点を探って譲歩をしながら交渉を進めます。
交渉における和解金の調整は、労働者の請求額と、会社の提案額をもとにして進めるのが通例なので、労働者側としては、当初請求する残業代の金額を少しでも増やしておくことで、交渉を有利に進められます。その一手段として、正確に計算した遅延損害金を上乗せしておくことが役立ちます。いざ調整をする際も、まずは「遅延損害金は請求しない」という譲歩から始められます。
「残業代の和解金の相場」の解説
早期に解決できる
残業代トラブルは、訴訟に発展して大きな争いになると、時間がかかります。できるだけ早期に解決するためには、合理的な案なら、和解も検討してください。
ひとまずは請求した遅延損害金も、和解なら請求しないことで、早期解決が期待できます。会社が良い提案をしてくれるなら、強引に突っぱねず、和解をするのがよいでしょう。このとき、労働審判や訴訟に進んだらいくらもらえるか、見通しが必要です。
残業代トラブルの和解で、方針に悩むなら、弁護士への相談がおすすめです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、未払い残業代の遅延損害金について解説しました。
遅延損害金は、本来払うべきである金銭が遅滞した場合のペナルティであり、悪質な会社による残業代の未払いを防ぐのに非常に有効です。そして、いざ残業代請求をする際には、かかった期間に応じて遅延損害金を請求することで、長期間かかることによるダメージの増大を回避できます。
残業代と共に請求できるペナルティは、遅延損害金、遅延利息、付加金の3つがありますが、いずれも残業代トラブルを有利に解決する重要な武器となります。必ずしも全て獲得できなくても、残業代の請求書、労働審判の申立書や訴状に記載しておくだけでも、交渉のカードとなります。
残業代の未払いが続き、会社の対応が不誠実なら、ぜひ弁護士に相談ください。
- 残業代の遅延損害金は、悪質なブラック企業の未払いを防ぐのに有益
- 残業代の遅延損害金の利率は、在職中は3%、退職後は14.6%
- 在職中の遅延損害金は各月の給料日から、退職後の遅延利息は退職日から起算する
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