無断欠勤をすることは、労働者にとって重大なリスクがあります。事前に連絡せず休めば、業務に支障をきたすだけでなく、会社との信頼関係を損なう可能性もあるからです。最悪の場合、無断欠勤を理由に解雇されてしまうケースもあります。
一方で、解雇は正当な理由がない限り違法であり、不当解雇として無効になることもあります。無断欠勤をしても、軽度なら、不当解雇として争うことができ、このとき、何日間の無断欠勤をしたら解雇されるのか、解雇を回避するにはどうすればよいかを理解しておくのが有益です。
今回は、無断欠勤によって解雇されてしまうリスクと、その際に取るべき対応策について、労働問題に強い弁護士が解説します。
無断欠勤とは
無断欠勤とは、事前に報告や連絡を行わずに出勤しないことを指します。
労働者は、労働契約にしたがって労務を提供する義務を負っており、その対価として賃金を受け取っています。労働契約上、労務日に出社して労務提供をする義務がある場合、休むためには会社に連絡して許可を得なければなりません。そのため、一切の連絡なく突然に休む「無断欠勤」は、労働契約上の義務違反となることを意味します。
無断欠勤が大きな問題になる理由は、以下の3点にあります。
- 業務に支障をきたす
予告なしに欠勤すると、業務遂行に大きな支障を与えます。 - 他の社員に迷惑をかける
無断欠勤すると仕事の分担が崩れ、他の従業員の負担となってしまいます。 - 信頼関係が破壊される
労使関係は、信頼で成り立ちます。無断欠勤は、約束した労務を果たさないことを意味するため、会社からの信頼を損ないます。無断欠勤をする人は、社内で「無責任」「信頼に足らない人物」と評価され、今後の待遇に悪い影響を与えます。
このように多くの問題を生じる無断欠勤は、就業規則などで厳しく禁じられます。少なくとも、欠勤をする際には事前に連絡し、理由を説明することをルールとしているのが通例です(病気や体調不良を理由とする場合、診断書の提出が命じられることも多いです)。
無断欠勤は、懲戒処分や解雇といった制裁が下される可能性が高く、特に、複数回や長期に渡る場合には、懲戒解雇も含めた重度の処分となることが予想されます。
「解雇の意味と法的ルール」「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説
無断欠勤で解雇されるケース
次に、無断欠勤をして、解雇されてしまうケースの具体例と、そのような解雇が許されるのか、それとも違法な不当解雇となるのか、といった点について解説します。
無断欠勤による解雇が認められる条件
無断欠勤は、会社の信頼関係を損なうもので、企業からは敵視されますが、「解雇することができるかどうか」は法律に基づいて判断すべきです。解雇は、解雇権濫用法理で厳しく制限され、正当な理由が必要となります。具体的には、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められなければ、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。
このことから、無断欠勤によって解雇することができるかどうかは、無断欠勤の理由、欠勤の日数や頻度、長さ、欠勤に至った経緯や、その後の会社側の対応などによっても左右されます。少なくとも、一回の無断欠勤ですぐクビになってしまうわけではありません。
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何日間の無断欠勤で解雇されるのか
厳しい解雇規制があるため、一度の無断欠勤や、結果的に業務に支障がなかった場合にすぐに解雇するのは不当解雇であり、許されない可能性が高いです。解雇のリスクを理解する会社では、すぐに解雇されはしないと考えられます。では、何日間の無断欠勤で解雇されるのでしょうか。
会社の就業規則には、何日の無断欠勤で解雇するかを明記されることが多く、例えば「連続して3日間以上無断欠勤した場合は解雇とする」と規定する例があります(会社ごとに異なるため、勤務先の就業規則で確認しておかなければなりません)。
ただ、前章と同じく、この点についても法律や裁判例をもとに判断すべきであり、厳しすぎる就業規則の定めは、労働者が争った場合は無効になる可能性もあります。
「正当な解雇理由の例と判断方法」の解説
解雇が認められる無断欠勤の具体例
では、解雇が認められる無断欠勤の具体例がどのようなものか、紹介します。
以下のような悪質な無断欠勤があると、解雇されても仕方なく、不当解雇とはいえない(正当な解雇となってしまう)おそれがあります。
長期にわたる無断欠勤(2週間以上)
無断欠勤が長期間続く場合、業務に与える支障は大きく、解雇理由として認められます。解雇が正当化される無断欠勤期間の相場は、2週間が目安とされます。14日間の無断欠勤があれば解雇されても仕方ないという意味で、その理由は次の2点にあります。
- 解雇予告の除外認定の基準
予告なく解雇するには、労働基準法20条に基づく労働基準監督署の「除外認定」が必要ですが、厚生労働省の通達は、除外認定がされる基準は「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」と定めます(昭和23年11月11日基発1637号、昭和31年3月1日基発111号)。つまり、14日間以上の無断欠勤があれば、予告なく解雇されても仕方ないほどの非が労働者にあるというわけです。 - 有給休暇を取得できる基準
6ヶ月以上勤務する正社員は、労働基準法39条に基づいて10日の有給休暇が付与されます。有給休暇は勤続年数に比例して増え、6年以上勤務すれば、年に20日は給与をもらいながら休めます。恩恵として与えられる休暇がある以上、無断欠勤がこれを超えない限り、解雇は酷だといえます。
「解雇予告の除外認定」の解説
注意しても繰り返される無断欠勤
一度の欠勤日数は少なくても、注意しても無断欠勤が繰り返される場合、解雇される可能性があります。会社は、無断欠勤する社員に注意指導し、改善を促します。何度注意しても無断で休むなら、改善の余地なしとみなされ、解雇の正当な理由となってしまいます。
また、無断欠勤中に会社が連絡を取ろうとしても労働者が応じない場合や、診断書を提出させるなどして解雇理由を確認しようとしても応じない場合、信頼関係が完全に破壊されていることから、解雇されてしまう可能性があります。
「会社に診断書を出せと言われたら?」の解説
業務に重大な支障のある無断欠勤
無断欠勤が原因で、業務に重大な支障が生じた場合には、欠勤日数や期間が少なくても、解雇になってしまう可能性があります。
例えば、無断欠勤によって重大なプロジェクトが遅延したり、取引先や顧客を失ってしまったりした場合、一度きりの無断欠勤でも、解雇される危険があります。取引先への訪問日や決済日など、事前に、重大な用件があると予想できたにもかかわらず、あえて無断欠勤し、社内外に重大な支障を生じさせた点で、悪質性が高いといえるからです。
無断欠勤による会社の不利益が大きい場合には、解雇されるだけでは済まず、損害賠償を請求されて逆に訴えられる危険もあります。
なお、逮捕されて事実上出社ができない場合には、業務への支障が大きいと解雇されても仕方ないケースもあります。
「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説
無断欠勤しても解雇にならないための対処法
無断欠勤をしてしまったときにも、解雇を避けるための対策を講じましょう。
本解説の通り、無断欠勤したとしても、一度ですぐに解雇されるとは限りません。むしろ、会社もまた、不当解雇となるリスクをおそれて、すぐには解雇に踏み切らない可能性もあります。放置せず、会社からの連絡にしっかりと対応しておけば、解雇を避けることができます。
事前に欠勤の連絡をする
無断欠勤を防ぐには、会社とのコミュニケーションを大切にし、何よりもまず、事前に欠勤の連絡をすることを徹底しましょう。
突然の体調不良や家族の不幸など、休むしかない理由があっても、事前連絡はすべきです。連絡が難しい理由があるとしても、対面ではなく電話やメール、手紙、メッセージなどと手段を選んだり、同僚に伝えてもらったり、弁護士を窓口にしたりなど、工夫はできるはずです。どの方法であれ、事前に必ず連絡することが、無断欠勤で信頼を失うことを防ぐ対策となります。
欠勤に関するルールは、就業規則に定められています。欠勤時の報告方法や報告先、どのような場合に欠勤が許されるかといった規定をしっかりと把握しておくことが、無断欠勤による解雇トラブルを避けるための重要なポイントです。
「仕事に行きたくないときに休む理由」の解説
無断欠勤後に迅速に連絡する
既に無断欠勤をしてしまった場合、迅速に会社に連絡し、事情を説明するのが大切です。
事前連絡がどうしてもできなくても、事後連絡は必ず行うべきです。無断欠勤の後、何もせず放置しておけば、信頼関係は更に悪化し、解雇されるリスクが高まります。無断欠勤したことを謝罪し、欠勤理由を説明することで、失った信頼を取り戻す努力をしましょう。指摘されてから説明するより、速やかに、自ら謝罪して反省を示した方が、解雇などの厳しい処分を回避できます。
無断欠勤しても、解雇までには次の手順を踏むため、一定の期間がかかります。早い段階で会社に連絡し、信頼関係を再構築することが、解雇を避けるポイントです。
無断欠勤ではなく、事故や自死の可能性もあるため、安否確認をします。
無断欠勤であると判明したら、出社するよう業務命令が下されます。
出社命令を無視し続ける場合、働く意思なしとみなされ、退職勧告をされます。
自主的に退職しない場合は、解雇となります。
労使の信頼関係が破壊されたことを理由とする場合は「普通解雇」、無断欠勤による企業秩序の違反が著しいときは「懲戒解雇」が選択されます。
事前であれ事後であれ、欠勤連絡をする際は、証拠に残す努力をしてください。後から「言った言わない」の争いになり、連絡したにもかかわらず「無断欠勤」だという言いがかりを付けられて解雇される事態は、避けなければなりません。
「不当解雇の証拠」の解説
欠勤の正当な理由を説明する
やむを得ない事情がある場合、欠勤に正当な理由があると証明できれば、解雇を回避することができます。例えば、体調不良が理由なら、医師の診断書を提出するのが有効です。家族が事故に遭ったり急病になったり、死亡したりといった緊急事態なら、そのことを証明する書類を会社に提出すれば、「無断欠勤」でなく「正当な欠勤」と認められる可能性があります。
長時間労働やハラスメントなどが原因で職場環境が劣悪な場合、欠勤せざるを得ない理由は会社側にあります。こうした場合、欠勤が正当化されるだけでなく、会社の安全配慮義務違反として、慰謝料を請求することも可能です。
「長時間労働の相談窓口」「労災の慰謝料の相場」の解説
無断で休んだ非は認めて再発を防止する
欠勤の理由が正当で、会社に理解してもらえる状況だとしても、「無断で」休むことまで正当化されるわけではありません。病気や体調不良、家族の不幸といった理由は、誰にも起こるものであり、休まざるを得ないことは理解してもらえるでしょうが、できるだけ会社に迷惑がかからないよう配慮しなければならないからです。
したがって、どのような理由であれ、無断で休んだ非は認め、会社に迷惑をかけたことを謝罪して、再発を防止するための改善策を提示すことが、解雇を回避することに繋がります。
有給休暇や休職制度を利用する
無断欠勤を避けるために、有給休暇を利用するのも有効です。労働基準法39条は、一定の条件を満たす労働者に、有給休暇の権利を認めています。有給休暇は、理由を問わず取得してよいので、急な体調不良や私用でも、無断欠勤するのではなく、有給休暇を利用して休むことができます。ただし、有給休暇は事前申請が原則なので、突発的に休まないよう注意してください。
病気やケガなどで業務ができない場合は、無断欠勤するのではなく、休職制度を活用すべきケースもあります。有給休暇、休職のいずれでも、重要なのは会社とのコミュニケーションを密に取ることです。突然の欠勤になってしまわないよう、体調が悪化する前に早めに相談し、利用できる制度を検討し、調整を図らなければなりません。
「うつ病休職時の適切な対応」「有給休暇を取得する方法」の解説
無断欠勤して不当解雇されたときの争い方
次に、無断欠勤して、不当解雇をされてしまったときの争い方を解説します。
無断欠勤して解雇されてしまったとき、その解雇は、不当解雇の可能性があります。特に、懲戒解雇をされた場合は、注意指導をして改善の機会を与えていたか、欠勤するに至った経緯に配慮があるかどうか、といった点をよく検討してください。
解雇理由が無断欠勤であるか確認する
無断欠勤を理由に解雇されたときは、まず、解雇理由証明書を請求して、解雇の理由を確認してください。解雇理由証明書は、解雇予告の後、労働者の請求があったときは遅滞なく交付する義務があり、解雇の理由を書類に記して交付する必要があるものです(労働基準法22条)。
解雇を不当として争う場合は、解雇事由を確認しなければなりません。解雇通知の段階で口頭で「無断欠勤による解雇は不当だ」と伝えられていたり、解雇通知書や解雇予告通知書に簡単に記載されていたりしても、解雇理由を確たるものとするため、解雇理由証明書は請求しましょう。
「解雇理由証明書の請求方法」の解説
無断欠勤による解雇の不当さを主張する
無断欠勤による解雇を争うとき、その不当さを主張して、会社と交渉します。「無断欠勤による解雇が認められる条件」に照らして、次のような主張を検討してください。
【客観的に合理的な理由がない】
- 交通事故や病気など、欠勤する正当な理由がある
- 体調不良や家族の不幸など、事前連絡が難しい理由がある
- 会社が欠勤を認めないものの、事前連絡は行っている
【社会通念上の相当性がない】
- 無断欠勤はしたが、業務に支障は生じなかった
- 事後に速やかに連絡して、欠勤理由を説明している
- 無断欠勤を反省し、今後の再発防止を誓っている
不当解雇の争いは、まずは撤回を求めて会社と交渉し、決裂する場合には、労働審判や訴訟といった裁判手続きを利用して解決を目指します。法的な手続きとなるような複雑な解雇トラブルは、労働問題に精通した弁護士に相談し、サポートを受けるのがおすすめです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
無断欠勤による解雇についてのよくある質問
最後に、無断欠勤による解雇についてのよくある質問に回答しておきます。
無断欠勤による解雇は自己都合?会社都合?
無断欠勤による解雇でも失業保険は受け取れます。
解雇は、会社都合となるのが基本であり、無断欠勤による解雇もまた会社都合となります。会社の一方的な判断である解雇は、退職時期を選べないため、雇用保険において有利な「会社都合退職」とすべきだからです。
ただし、無断欠勤によって会社に大きな支障を生じさせた場合、労働者の責任は重大であり、重責解雇として「自己都合退職」となるおそれがあります。
「自己都合と会社都合の違い」の解説
無断欠勤した場合の給料はどうなる?
無断欠勤で解雇された場合でも、働いた分の給料や残業代は請求できます。一方で、無断欠勤した日数の給料は、欠勤控除されるおそれがあります。ノーワークノーペイの原則により、労働しなかった日の対価は支払われないのが原則だからです。
ただし、労働基準法24条によって、生じた賃金の全額を支払う必要があり、労働者の同意なく給与を相殺・控除することはできません。そのため、「無断欠勤によって損害が生じた」という理由で、給料から賠償金を差し引く扱いは違法です。
「未払い賃金を請求する方法」の解説
無断欠勤で解雇されるまでの流れは?
無断欠勤を続けると、解雇されるおそれがありますが、解雇に至るまでには一定の流れがあり、すぐに解雇されるとは限りません(本解説の通り、すぐに解雇されてしまったら、不当解雇である可能性があります)。
無断欠勤は、業務命令違反であり、まずは注意指導や安否の確認が行われます。それでもなお、反省の色が見られなかったり、改善がなかったりする場合には、出社命令を経て、退職勧奨をされ、無視し続ける場合には、最終手段として解雇されます。
「懲戒解雇の手続きの流れ」の解説
まとめ
今回は、無断欠勤をしたら解雇されてしまうのかについて解説しました。
無断欠勤は、業務に支障を生じさせる重大な行為ですが、直ちにクビになってしまうとは限りません。解雇になるかどうかは、無断欠勤の日数や、その後の労働者の対応によっても異なります。そのため、万が一無断欠勤をしてしまったときも、すぐに会社に連絡し、誠意をもって理由を説明することで、解雇を回避できる可能性があります。
対策を講じてもなお、無断欠勤を理由に解雇されてしまったら、次に、不当解雇として争えないかを検討してください。無断欠勤はすべきではありませんが、解雇は正当な理由が必要であり、不当ならば争うことができます。無断欠勤の日数が少なく、業務への支障を軽減する努力をしている場合、不当解雇といえる可能性があるため、早めに弁護士に相談してください。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】