自分ではそのつもりがない言動が原因で、突然「セクハラだ」と指摘されることがあります。
実際はセクハラの意図がないのに加害者として扱われるケースが、いわゆる「セクハラ冤罪」です。セクハラの訴えは、「被害者」とされる側の主張が重視されやすく、意図とは関係なくセクハラと認定される危険があります。過去の対立や感情的なもつれから、虚偽の告発を受ける例も存在します。
そして、セクハラと認定された場合、慰謝料などの損害賠償を請求されるだけでなく、懲戒解雇や社会的信用の喪失といった深刻な不利益にもつながります。このような事態を回避するには、冤罪の疑いをかけられた際にどのように対応すべきか、正しい知識を持つことが重要です。
今回は、セクハラ冤罪の疑いをかけられたときに取るべき具体的な対策について、解決事例と合わせて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- セクハラ冤罪に巻き込まれると、その意図がなくても重大な不利益を被る
- 「被害者」とされる人の主張が重視されすぎると、冤罪が生じやすい
- 適切な調査を求め、言い分を正しく伝えれば、セクハラ冤罪を回避できる
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
セクハラ冤罪とは

セクハラ冤罪とは、実際にはセクハラをしていないのに、虚偽の被害申告や誤解によってセクハラと認定され、損害賠償を請求されたり、懲戒解雇などの不利益を被ったりすることです。
以下ではまず、セクハラ冤罪の意味と背景、具体例について解説します。
なぜセクハラ冤罪が起こるのか
職場におけるセクハラは、決して軽視できない深刻な問題です。
被害者の心身に大きな負担を与えるので、被害申告があった場合は早急に調査し、被害の回復や再発防止を図らなければならないのは当然です。
一方で、「セクハラは許されない」という意識が強すぎるあまり、セクハラのつもりがなかった言動が誤解されたり、事実と異なる申告がされたりして、セクハラ冤罪に発展してしまうリスクがあります。セクハラが不適切なのは当然ですが、無実の人が不当な扱いを受けるのもまた問題です。
セクハラ行為は証拠に残りづらく、その事実認定は被害者の証言に頼らざるを得ない面があります。企業がセクハラに厳しく対応しようとするあまり、被害を訴えた側の言い分だけで加害者認定されてしまうケースもあります。事実関係が十分に確認されないまま処分が下されれば、セクハラ冤罪となり、「加害者」とされた人に重大な不利益が生じます。
セクハラ冤罪とされる典型的なケース
セクハラは、被害者の感じ方が大きく影響する問題なので、自分は「そのつもりはなかった」「誤解だ」と思っても、実際にはトラブルに発展するケースが少なくありません。
セクハラ冤罪としてよく相談される例には、次のケースがあります。
- 相手の主観に基づいて処分が進んでしまった(「不快ならセクハラだ」など)。
- 被害者の訴えだけが信用され、加害者の言い分が聞かれなかった。
- 本人の知らないうちに調査が進み、弁明の機会なくセクハラ認定された。
- 証拠がないにもかかわらず「被害があった」と信じ込まれた。
- 私的な感情や報復の目的で、意図的に虚偽の被害申告をされた。
- 事前の通知や説明なしに調査が始まり、動揺して反論できなかった。
当事務所に寄せられるセクハラ冤罪の相談例では、人事に呼び出され、セクハラとの指摘を受けるなど、ある程度段階が進んで初めて気付くケースが多いです。当初は単なる行き違いに思えても、企業主導で調査が進み、気付いたときには異動や降格、懲戒処分や解雇といった重大な不利益を受ける寸前だった、という事例も珍しくありません。
セクハラ冤罪から身を守るためには
セクハラ冤罪のリスクを完全にゼロにすることは困難です。
しかし、危険な兆候を早めに察知し、適切な対応を取ることで被害を最小限に抑えることはできます。特に、人事や弁護士によるヒアリングなど、調査が開始されたことが明らかになったら、事実関係を正しく伝えると共に、証拠に基づいた反論をすることが重要です。
疑いをかけられたからといって、初動の段階で感情的に反応すると、「セクハラをしていたのでは」「後ろめたいことがあるのだろう」という誤解を深めるおそれがあります。やましいことがないのであれば冷静に対応すると共に、早期の段階で弁護士に相談しておくことが重要です。
「セクハラ加害者側の対応」の解説

証拠がないのにセクハラだと訴えられたら?

次に、証拠なしにセクハラだと訴えられた場合の事実認定の考え方を解説します。
証拠が乏しい中で被害申告されると、「自分の言い分は聞き入れられないのでは」「一方的に処分されるのでは」と懸念して相談に来られる人も多いです。しかし、被害を訴えた側の言い分が、常に全面的に認められるとは限りません。
「被害者の言い分が絶対」は誤り
セクハラ問題では、被害者保護が重視される傾向にあります。
確かに、隠れて行われる悪質なセクハラもあり、誰にも相談できず泣き寝入りしている人もいます。しかし、だからといって「被害者の言い分が全て正しい」と扱われるわけでもありません。証拠がなく、事実関係が不明確なまま加害者扱いされると、重大な不利益を被ります。実際に、「セクハラだと感じたから」という主観だけで被害申告され、十分な調査なく処分が下された結果、無実なのに冤罪に巻き込まれた相談例は数多くあります。
職場では、被害を訴えた側の涙ながらの主張に周囲が同情し、信用されるケースもありますが、懲戒処分や解雇、まして刑事事件ともなれば、それだけで真実が決まるわけではありません。むしろ、根拠のない噂が広まると、名誉毀損や不当な人事評価といった別の問題にも発展します。
このような事態を防ぐため、セクハラをしていないのであれば、事実と証拠に基づいて的確に反論することが極めて重要です。
裁判所における事実認定の考え方
セクハラ冤罪に対抗するために、裁判所における事実認定の考え方を知りましょう。
裁判所の審理では証拠が重視されます。そのため、セクハラの紛争が訴訟に発展した場合、裁判所は、一方の言い分のみを信じて結論を出すことはありません。例えば、セクハラをされたと言われている場面の録音や録画、当事者間のメールやメッセージのやり取りなどが証拠になります。
また、セクハラ事案では、客観的な証拠が残っていないケースも少なくありませんが、その場合でも、当事者双方の証言の信用性について慎重に判断します。つまり、被害者と加害者の事実認識が大きく異なっているとき、裁判所は、次のような要素を重視して判断します。
- 供述の一貫性
前後で矛盾のない説明をしているかどうか(社内調査での発言との整合性など)。 - 供述の具体性
日時・場所・会話内容などの細部が説明されているか。 - 他の証拠との整合性
証言の内容が、他の客観的な証拠や目撃者の証言などと一致しているか。 - 被害申告のタイミングや背景事情
被害者が被害を訴える直前に厳しい注意を受けていたなど、冤罪の動機となるような事情がないかどうか。
したがって、証拠は重要であるものの、無くても諦めるべきではなく、自分の記憶を喚起し、合理的な説明を尽くせるよう準備しなければなりません。自らの主張を裏付けるため、日常的なやり取りを記録に残したり、メモや日記、日報を付けたりすることも有効です。
「裁判で勝つ方法」の解説

社内調査における本人の言い分の位置づけ
セクハラの申告があると、企業は社内調査を開始します。
この際、被害者側には十分に聞き取りが行われても、加害者とされた人の言い分は聞き入れてもらえなかったり、調査の進捗についても開示されなかったりして不安を感じることが多いです。例えば、「誰に対する、どのような行為がセクハラか」という具体的な内容を告げられないまま、「嫌な思いをした女性がいる」「心当たりはないか」と伝えられ、短時間でヒアリングが終了し、不当な処分を受けるケースが見受けられます。
労務管理が杜撰な企業では、その場で冷静に反論できないと「黙っていた=認めた」と解釈される危険があります。一方で、悪質なセクハラを行った人も、社内調査では否定することも多く、「否定した=セクハラをしていない」と即断はできません。
このような社内対応を踏まえ、セクハラ冤罪の被害に遭った人は、以下のポイントを意識して冷静な対応を心がけてください。
- 反論や弁明が必要な事実については具体的に質問する。
- 自分の発言を記録に残す(調査の場では録音をし、終了後にメモを作成する)。
- 十分な反論の機会が与えられなかった場合、書面で意見を提出する。
- 調査手法に問題がある場合、弁護士を通じて抗議する。
会社の調査が不十分であるほど、言い分が受け入れられず、不当な処分につながるおそれがあります。調査には受け身で臨むのではなく、積極的に質問し、事実でないことは否定するといった毅然とした態度が、自分の立場を守るためには欠かせません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

セクハラ冤罪の疑いをかけられたときの対策
次に、セクハラ冤罪を疑われた際に取るべき対応について解説します。
自分にそのような意図がないのにセクハラだと言われると、困惑してしまうでしょう。しかし、感情的に反発すれば、状況を悪化させます。冷静に、かつ戦略的に対応することで、身の潔白を証明することが必要です。

なお、以下はセクハラ冤罪のケースの対処法です。実際にセクハラをしてしまった加害者の対応は、「セクハラ加害者側の対応」の解説を参照してください。
初動対応を確認する(ケース別)
まず、セクハラ冤罪の疑いをかけられた直後に何をすべきか、知っておきましょう。以下では、よくある場面ごとに、初動対応をまとめています。
初動を誤ると、不利な印象を与えたり、誤解をされたりするリスクが高まってしまいます。どのような場面でも、慌てず冷静に、記録をしながら行動することが基本となります。
社長や人事から呼び出された場合
- 呼び出しの理由を冷静に確認する。
- その場で無理に言い訳や謝罪をしない。
- 相手の発言や質問を録音やメモなどで記録に残す。
- 記憶が曖昧な場合は、その場で回答しない。
- 用件が不明確なときは、詳細な説明を文書で求める。
被害者本人からセクハラであると抗議を受けた場合
- 感情的に反論したり、謝罪したりしない。
- 速やかにその場を離れ、物理的に距離を取る。
- 後ろめたいことがなければ会社に報告し、対応を一任する。
- その日の出来事を具体的にメモに残しておく。
- 被害を訴えた人とのやり取りなどを保存しておく。
社内での噂を耳にした場合
- 直接指摘されていないことに弁明はしない。
- 自身の言動を振り返り、問題のある部分がないかを検討する。
- セクハラ行為に該当するか不安なときは、弁護士のアドバイスを受ける。
セクハラであるとは認めない
セクハラ冤罪に巻き込まれたとき最も重要なのは、していないセクハラを認めないことです。特に、会社からヒアリングを受ける際は、次のような誘導に注意してください。
- 「認めれば、会社としては穏便に済ませる」
- 「被害者は、謝罪してくれるなら示談にすると言っている」
- 「社長には報告しない(上司限りにする)から正直に話してほしい」
- 「この場で認めれば、今回に限り処分せず、口頭注意に留める」
- 「セクハラを否定するなら懲戒解雇になるかもしれない」
このような誘い文句に応じて認めてしまうと、仮に証拠がなかったり、虚偽の被害申告であったりしても、「加害者が自白した」とされ、処分が正当化される危険があります。また、後になって「やはり違った」「処分されるなら、セクハラだとは認めない」などと覆そうとしても、最初に認めたという記録が残っていると撤回は非常に困難です。
実際にはセクハラをしておらず、やましいことがないのであれば、一貫して否認する姿勢を貫くことが、結果的に自分を守ることとなります。
証拠のない冤罪は徹底して争う
セクハラ問題は、証拠が残りにくい性質があります。セクハラをしていない冤罪事案なら当然に、証拠は存在しないはずです。被害者も、確たる証拠もなく申告しているケースもあります。
この場合、「証拠がない=自分が不利」と思い込む必要はありません。「証拠がないのにセクハラだと訴えられたら?」の通り、証拠がないからといって被害者の言い分のみが信じられるわけではなく、むしろ、「セクハラをした」と主張する側に、その事実を立証する責任があります。
セクハラを巡るトラブルが訴訟に発展しても、裁判所の審理では証拠のない事実は認められません。この点は社内対応の段階でも同じであり、「証拠がなければ、処分はできないはずだ」という立場を明確にして、感情論ではなく証拠に基づいた扱いを強く求めましょう。
「セクハラの証拠」の解説

被害者との連絡や接触は控える
一方で、セクハラ被害者との連絡や接触は控えるべきです。
セクハラが冤罪の場合、「誤解だと伝えたい」「話せばわかってもらえるはず」と思う気持ちはよく理解できます。しかし、それでもなお、被害を訴えた相手に直接連絡することは、かえって状況が悪化する危険があります。
直接の連絡や接触が悪影響なのは、次のような理由があるからです。
- 「嫌がらせ」「二次被害」「口止め」といった悪印象を抱かせる。
- 被害者に連絡しようと焦る姿は、「後ろめたいことがある」と受け取られる。
- 会話内容を録音されて、証拠として不利に使われるおそれがある。
- 会社が、再発防止の観点から厳しく処分すべきと判断するおそれがある。
- 冤罪事案では、被害者側に悪意がある可能性がある。
明らかな冤罪のケースほど、相手に悪意があることを想定して動かなければなりません。「話し合えばわかる」と考えるのはリスクが高く、一切のやり取りは会社、もしくは弁護士を通じて行うことを基本方針とすべきです。
なお、仮にセクハラの事実が一部あった場合の示談交渉も、自分で直接連絡するのではなく、弁護士を窓口とするようにしましょう。
「セクハラの示談」の解説

社内の相談窓口・人事部門に相談する
被害者から「セクハラである」と指摘を受けた場合、やましいことがないなら、社内のハラスメント相談窓口や人事部門に自分から相談しましょう。
放置しておいても止まることはなく、むしろ、会社に被害申告をされ、一方的に調査や処分が進むおそれがあります。それならば、加害者とされる立場からも言い分をしっかりと伝えるため、積極的に申告することは効果的です。
相談時には必ず、「セクハラと指摘されているが身に覚えがない」と伝え、事実確認を正確に行うよう要請しましょう。また、言い分が正しく伝わるよう、自身の主張を文書で提出すると効果的です。
弁護士に依頼して潔白を主張する
セクハラ冤罪は、非常にデリケートで、重大な問題です。
疑いを晴らすのが自分一人では難しいと感じるなら、できるだけ早い段階で弁護士に相談してください。冤罪のまま放置していると、時間が経つごとに覆すのが難しくなってしまいます。
弁護士に依頼することで、次のような対応をすることができます。
- 一方的なヒアリングについて異議を申し立てる。
- 自身の言い分を書面にまとめ、弁明書として提出する。
- 会社に書面で通知し、再調査を要求する。
- 不当な処分が下された場合は、労働審判や訴訟などで争う。
被害を訴えた側の処罰感情が強いと、会社も処分を急ぎがちです。調査に時間をかけていないと、不当な扱いを受けることも増えてしまいます。弁護士が介入することを伝えれば、会社も慎重な対応を取らざるを得なくなり、被害者の言い分に流されずに済みます。
「やっていないから」「嘘だから」と安易に考えることなく、懲戒解雇などの最悪の事態も見据えて、労働審判や訴訟といった手続きの準備まで念頭において対処しましょう。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説

セクハラ冤罪の解決事例

最後に、当事務所が取り扱った解決事例をご紹介します。
実際に、セクハラ冤罪の疑いをかけられた方が、適切な対応を取ることで不利益な処分を回避することができた実績があります。不安を感じたときには、早い段階で弁護士に相談し、今後の対応をしっかりと見極めることが大切です。
事例1:退職を迫られたが懲戒解雇を回避したケース
相談の内容
人事部に突然呼び出され、「嫌な思いをしている女性がいる」「何のことかわかるよね」と言われ、反論はその場で行うよう求められました。内容は曖昧なまま、反論が不十分だったことを理由に「セクハラを認めた」とされ、懲戒解雇か自主退職かの選択を迫られました。
対応と解決
弁護士が介入し、「被害者の言い分だけを一方的に信じること」の問題点を指摘し、再調査を要求しました。合わせて、言い分について弁明書を作成して提出しました。
再度のヒアリングが実施された結果、被害申告した社員が、相談者から厳しい注意指導を受けた直後、報復として行った可能性が高いことが判明し、懲戒解雇は回避されました。
事例2:噂による異動命令を覆し、元の部署へ復帰したケース
相談の内容
職場の同僚から「セクハラの噂がある」と伝えられた後、プロジェクトから外され、異動を命じられました。正式なヒアリングもなく、異動の理由も曖昧であったものの、伝え聞くところによると、セクハラ加害者であるという風評との関連が疑われる状況でした。
対応と解決
弁護士から会社へ、異動理由を書面で開示するよう要求しました。
しかし、不自然な説明が続いていたため、セクハラ冤罪の可能性があることを指摘し、それについての当方の言い分を弁明書にて提出しました。その結果、それ以外に異動を命じる理由がないとの結論となり、元の部署に復帰することができました。
【まとめ】セクハラ冤罪の対策

今回は、セクハラ冤罪の疑いをかけられた際の対処法について解説しました。
セクハラに関する労働問題では、「被害を訴える側」の主張が重視されやすく、実際にセクハラの意思がなかったとしても、加害者と見なされるリスクが常に存在します。企業側の判断も被害者寄りとなる傾向があるため、誰もがセクハラ冤罪の被害者になるおそれがあります。
セクハラを許さないという社会的な風潮がますます強まる中で、自分はセクハラのつもりではなくても、損害賠償請求や懲戒解雇といった重大な不利益を受けるケースも少なくありません。
事実無根のセクハラ冤罪の疑いをかけられ、不利益な扱いをされそうな場合は、ぜひ早めに弁護士に相談してください。
- セクハラ冤罪に巻き込まれると、その意図がなくても重大な不利益を被る
- 「被害者」とされる人の主張が重視されすぎると、冤罪が生じやすい
- 適切な調査を求め、言い分を正しく伝えれば、セクハラ冤罪を回避できる
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【セクハラの基本】
【セクハラ被害者の相談】
【セクハラ加害者の相談】
- セクハラ加害者の注意点
- セクハラ冤罪を疑われたら
- 同意があってもセクハラ?
- セクハラ加害者の責任
- セクハラの始末書の書き方
- セクハラの謝罪文の書き方
- 加害者の自宅待機命令
- 身に覚えのないセクハラ
- セクハラ加害者の退職勧奨
- セクハラで不当解雇されたら
- セクハラで懲戒解雇されたら
- セクハラの示談
【さまざまなセクハラのケース】




