不当解雇の慰謝料は、解雇による精神的苦痛の補償として請求する金銭。解雇が無効と判断され、復職やバックペイが認められてもなお、解雇があまりに悪質で大きな精神的苦痛を生じたなら、その賠償として慰謝料を受け取れます。報復や嫌がらせ目的の解雇、ダメージが甚大な解雇などが典型です。
解雇は、労働者にとって非常に大きな負担なので、法律で厳しく制限されます。法規制を無視した解雇は違法であり、慰謝料を請求できるケースもあります。
不当解雇の慰謝料の相場は、50万円から100万円が目安です。事情によっては100万円を越える高額の慰謝料が認められる例もあります。相場を知り、妥当な額を請求することで、会社が慰謝料の支払いに応じやすくなり、早期解決を目指すことができます。一方で、少しでも解雇の慰謝料を増額するには、不当解雇の違法性を示す証拠を集め、解雇の悪質さと苦痛の大きさを証明するのが有効です。
今回は、不当解雇の慰謝料の金額や請求方法について、労働問題に強い弁護士が詳しく解説します。
- 不当解雇の慰謝料は、解雇による精神的な苦痛を慰謝するために請求する金銭
- 実務的には、慰謝料は、解雇が相当悪質なケースに限って認められる
- 不当解雇の慰謝料の相場は50万円〜100万円が目安だが、事情によって増減する
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そもそも不当解雇とは
そもそも不当解雇は、正当な理由のない解雇のこと。権利濫用によって無効となる解雇のほか、差別の禁止などの強行法規に反する解雇が含まれます。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、権利濫用として無効になります(労働契約法16条・解雇権濫用法理)。不当な解雇がまかり通ると、労働者は経済的にも精神的にも多大な不利益を被るので、法律で禁止され、無効であると定められています。
例えば、次の状況における解雇は、不当解雇です。
- 結婚、妊娠、出産を理由とした解雇
- 労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
- 労働組合に加入したことを理由とする解雇
- 嫌がらせや報復目的の解雇
- 就業規則の解雇事由に該当しない解雇
- 軽微なミスを理由とした重すぎる解雇
そして、これらの許されない解雇のうち、悪質性の高い場合には、解雇の慰謝料を請求することができます。本解説では、解雇の慰謝料の考え方について、詳しく説明していきます。
「解雇が無効になる具体例と対応」の解説
不当解雇の慰謝料の考え方
次に、納得いかないクビに遭ったときに、不当解雇の慰謝料を請求する労動者側の考え方について、基本的な知識とその実態について解説します。
慰謝料請求は損害賠償請求の一部
解雇をされた労動者が検討すべき解決手段は、大きく2つあります。1つは、労働者の地位にあることを確認させる方法。もう1つは、損害の賠償を命じてもらい、被害の補償を受ける方法です。「解雇は無効である」と主張し、労動者の地位を確認させる請求(地位確認請求)が基本ですが、しかし、解雇に納得いかなくても、本音は「解雇された会社に戻りたくない」という方も多いもの。このとき、解雇によって被った損害の賠償を請求するのが、後者の「金銭を請求する」解決策です。
解雇された労動者が請求すべき損害には、財産的損害はもちろんのこと、精神的な損害も含みます。そして、精神的苦痛に対する補償を特に「慰謝料」と呼びます。つまり、慰謝料は、会社に請求する賠償金の一部であり、そのなかでも精神的な損害を賠償する性質の金銭です。
民法は次の通り、不法行為があるときの損害賠償を民法709条で、そのうち財産以外の損害の賠償も求めることができる点を民法710条で、それぞれ法的根拠を定めます。
民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
民法(e-Gov法令検索)
したがって、不当解雇の慰謝料の請求が認められるには、その前提として、不法行為の成立要件を満たさなければなりません。不法行為が成立するには、①故意又は過失により、②権利又は法律上保護される利益を侵害し、③損害が発生しており、かつ、④不法行為と損害の間に因果関係があることが必要です。これらの要件は、請求する側である労動者が主張し、証拠により証明する必要があります。
慰謝料は、不当解雇の効力を争う場合に同時に請求することができます。また、不当解雇の効力そのものは争わない場合(解雇は受け入れる場合)も、慰謝料のみを請求できます。
また、解雇を受け入れる場合には、慰謝料と同時に、再就職の見通しがつかないなら逸失利益を主張することもできます。未払いの残業代や賃金、退職金なども、退職時にあわせて請求できます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
不当解雇でも慰謝料が認められない場合が多い
もっとも、不当解雇があったからといって、その事実をもって直ちに慰謝料請求が認められるとは限りません。むしろ実務的には、解雇が違法であり、不当だったとしても、慰謝料については請求が棄却されてしまったり、少なくともさほど高額の慰謝料は認めてもらえなかったりする例も多いです。
不当解雇なのに慰謝料が認められないケースの主な事情は、次の2つです。
- 不当解雇として違法ではあるけれど、使用者の判断にも一定の事情があり「不法行為」といえるほどの違法性はない場合
- 解雇による労動者の不利益が、バックペイの支払いなどによって補填された結果、精神的苦痛までは生じていないと判断される場合
裁判例でも、これらの点を理由として棄却したものがあります。
- 大阪地裁令和4年4月12日判決(スミヨシ事件)
「慰謝の必要がある程度の精神的苦痛を生じさせるような違法性」がないと判断した裁判例。 - 東京地裁平成25年2月22日判決(エヌエスイー事件)
不就労期間の賃金が補填されることを確認し、「さらに慰謝料等の請求を認めるべき程の不法行為上の違法性があるとまでは認められない」と判断した裁判例。 - 東京地裁平成15年7月7日判決(カテリーナビルディング(日本ハウズイング)事件)
「本件各解雇が無効であるとしたうえで、労働契約上の地位確認及び判決確定日までの賃金の支払いを命ずる以上、本件各解雇による原告の精神的損害はてん補される」と判断した裁判例。
逆にいえば、次章でも説明する通り、解雇の悪質性が甚だしく、慰謝料以外の金銭によっては十分に被害をカバーすることができないと説明できれば、慰謝料をもらうことができます。
不当解雇の慰謝料が認められるケース
次に、不当解雇の慰謝料が認められるケースについて、裁判例と共に解説します。
不当解雇の慰謝料が認められづらい理由について前章で解説しましたが、一方で、悪質な解雇ほど、労動者が不当解雇の慰謝料を勝ち取ったケースも存在します。そこで、実際に解雇の被害に遭ってしまったとき、どういった事情があれば慰謝料を認めてもらいやすいのかを理解することで、自身のケースにも応用していただくことができます。
解雇が悪質である
まず、解雇の態様が悪質である場合には、慰謝料が認められる可能性が高まります。典型的には、会社の意図や動機が悪質である場合です。例えば、次の事実を主張立証していくのが有効です。
- 解雇事由に該当しないことを認識しながら、あえて解雇を強行した
- ずさんな調査や、弁明の聴取をせずに、事実を誤認したまま解雇した
- 解雇の相当性の判断に、明白かつ重大な誤りがあった
- 内部告発や外部機関への報告に対する報復として解雇を実行した
- たった一度軽微なミスだけで解雇し、全く指導をしなかった
労動者に精神的苦痛が生じている
解雇が悪質な場合でも、労動者に精神的苦痛が存在しなければ、慰謝料を請求することはできません。そして、解雇が無効であるという判断を勝ち取れば、それによって精神的苦痛は慰謝されると通常考えられています。
そのため、不当解雇の慰謝料を勝ち取るには、解雇による精神的苦痛が、解雇無効や賃金の支払いによっても、なお償えない特別に大きいものだといえる必要があります。以下の裁判例でも同様の判断が下されています。
「解雇された従業員が被る精神的苦痛は、当該解雇が無効であることが確認され、その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実があったときに初めて慰謝料請求が認められると解するのが相当である」
「一般に、解雇された従業員が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的苦痛を生じた事実が認められるときにはじめて慰謝料請求が認められると解するのが相当である」
不当解雇の慰謝料を認めた裁判例の判断を参考にすると、解雇による「特段の精神的苦痛」があるといえる事情は、例えば次のものです。
- 自主的に退職させるため、一人だけ他の従業員と接点のない部屋に追い出されるなどの嫌がらせの末に解雇された
- 解雇の内容が記載された張り紙を、社内の大勢の前で掲載する方法で、解雇を通知された
- 十分な証拠がないのに横領で懲戒解雇され、その事実を取引先全社に書面で通知された
- 育児休業後の復職に向けて、保育所の入所手続きを進めていたなか、突如として解雇を言い渡された
- 勧誘を受けたから前職を退職して入社したのに、数ヶ月で解雇された
- 確たる証拠もなく窃盗扱いされて産前休業の直前に解雇され、そのせいで体調を崩し通院することになってしまった
いずれも、解雇の前後、もしくは、解雇と同時に、強度のパワハラがあったと評価することができます。その意味で、不当解雇の慰謝料は、解雇と同時に起こったパワハラの慰謝料という意味合いもあります。
クビにされたら、解雇理由証明書を請求してその理由を把握するなど、その解雇の違法性や有効性を判断するにあたって、すぐにすべきことを知っておいてください。
「解雇されたらやること」の解説
不当解雇の慰謝料の相場と目安
不当解雇の慰謝料の相場は、50万円から100万円が目安です。
正直な話、不当解雇の慰謝料が請求できる場合であっても、残念ながら高額にはなりづらい傾向にあります。その理由は前章でも説明した通り、「解雇が無効」という判断をされれば、その後は復職して働き続けることができ、解雇期間中の賃金(バックペイ)も得られるので、それ以上の精神的な苦痛は生じないと考えられているからです。
したがって、不当解雇の慰謝料も、上記のような一般論を超えた精神的苦痛が生じている必要があり、これを金銭評価した額が、相場の目安となります。
不当解雇の慰謝料請求は、まずは労動者と会社が交渉によって話し合うことから開始されます。この際の請求額が相場に比べて低すぎると、せっかく会社が支払いに応じても損してしまいます。逆に、請求額が相場に比べて高過ぎても、会社が誠実に話し合いに応じてくれません。そのため、交渉を成功させるには、不当解雇の慰謝料の相場を踏まえた適正な額を提示する必要があります。
上記の相場はあくまで一般論として、以下の個別事情に応じて、相場は増減します。具体的な請求金額を決定するにあたって参考にしてください。
【労働者側の事情】
- 解雇によって、それと因果関係のある疾患にかかってしまったかどうか
- 解雇が無効になった場合に得られる賃金などの額
- 勤続年数や貢献の程度
- 解雇について労働者側にも落ち度があったかどうか
- 労動者の家族構成、生活の状況
- 労動者が再就職しているかどうか、再就職に要した期間
- 解雇が無効だったとき、職場復帰までに要した期間の長さ
【使用者側の事情】
- 解雇前に、労働者の意見や弁明を聴取したかどうか
- 解雇の撤回を真摯に検討したかどうか
- 解雇理由を労動者に対して明確に説明しているか
- 報復や嫌がらせの目的の有無
- 解雇通知時の労働者への配慮があるか
このように、50万円〜100万円という相場を聞くと、「不当解雇の慰謝料」という名称とは真逆に、とても低いと感じるでしょう。しかし、そもそも解雇のトラブルは、慰謝料ではなく、地位確認請求によって解決するのが原則であり、会社に責任を負わせるのはむしろ、安すぎると感じる慰謝料ではなく、解雇の解決金、もしくは、バックペイの役割です。
不当解雇の解決金は、精神的苦痛を裁判例などに照らして金銭評価する慰謝料とは異なり、労使の責任の度合いに応じて、「月額賃金の3ヶ月〜1年分」程度を相場として、話し合いによって決定されます。
「不当解雇の解決金の相場」の解説
不当解雇の慰謝料請求の方法と手順
不当解雇による慰謝料請求は一般に、そう簡単には認められづらいものですが、正しい請求の方法と手順を知ることによって、慰謝料を得られる確率を上げることができます。
弁護士に相談する
不当解雇の慰謝料請求は労働者一人で進めていくこともできますが、法的知識と交渉力の不足を補うには、弁護士に依頼するのがお勧めです。
弁護士への相談は解雇されたらすぐに行う
解雇についての法律相談は、できるだけ早めに行いましょう。早期に相談すれば、解雇の通知後すぐに証拠を集めることができます。不当解雇の慰謝料を裁判で請求するなら、証拠による立証は不可欠ですし、しっかりと証拠を備えれば、交渉で会社に折れてもらいやすくなります。
もっとも、早ければよいというわけではなく、労働問題に精通した弁護士を選ぶ必要があります。不当解雇の慰謝料請求は、ただでさえ裁判所に認めてもらうのが難しく、解雇による苦痛の実態を説得的に記載するなど、訴訟活動にも工夫を要します。
日頃から不当解雇の事案を多く扱う弁護士でないと、慰謝料を満足に得られません。
不当解雇の慰謝料を請求するときの弁護士費用
不当解雇の慰謝料を請求するときの弁護士費用は、どのような請求をしていくか、つまり、不当解雇の争い方と、請求する慰謝料額によって異なります。
不当解雇の争いを弁護士に依頼するとき、弁護士費用は、着手金(依頼時に支払う費用)と報酬金(依頼の終了時にかかる費用)に分けられます。これに加えて、不当解雇の慰謝料を請求した場合には、獲得した慰謝料額から、一定の割合を成功報酬として加算するケースが多いです。
なお、弁護士に依頼するにあたっては、得られる可能性のある慰謝料額の見通しを聞き、慰謝料を目的として追加の弁護士費用を払っても損しないかどうか、事前に検討しなければなりません。見通しを聞くことで、相談した弁護士の経験値や、裁判例の知識を測ることもできます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
慰謝料を請求する内容証明を送付する
不当解雇の慰謝料を請求していくにあたり、まずは裁判所を利用せずに交渉で解決できないかを検討します。そのための準備として、慰謝料を請求する旨の書面を内容証明で会社に送付します。
内容証明は、郵便方法の一種で、送付日時と書面の内容を証拠として残しておけるため、慰謝料を請求する際によく活用されます。慰謝料請求には時効があり、不法行為の場合には、損害と加害者を知った時から3年(生命・身体の侵害については5年)、不法行為の時から20年とされています。時効が経過する前に慰謝料を請求したことを示すために、内容証明によって請求する手が有効です。
弁護士名義の内容証明にすれば、会社に屈しないという姿勢を示す意味もあります。
通知書では、少なくとも「解雇が不法行為(民法709条)に該当するため慰謝料を請求する」という旨を記載します。不当解雇の無効を主張する場合には、解雇の撤回を求める書面に、同時に慰謝料請求についても記載することができます。
会社との話し合い
会社が交渉に応じる姿勢を見せる場合には、話し合いで、具体的な慰謝料の額や支払期限、支払方法などを決めます。請求した満額の支払いが認められずとも、早期解決のため譲歩する場合もあります。同時に解雇が撤回される場合、職場復帰の時期、未払い賃金の支払いについても取り決めます。
いずれのケースも、労使の合意は必ず書面化し、証拠に残すことで、約束破りを防げます。通知書の受領を拒否されたり、回答がなかったりする場合は交渉をあきらめ、労働審判や訴訟といった裁判手続きに進みます。
労働審判または訴訟で慰謝料を請求する
会社が交渉に応じてくれない、または妥協点が見いだせなかったとき、労働審判または訴訟といった手続きで慰謝料を請求します。
労働審判は、原則として3回の期日で調停の成立を目指す非公開の手続きで、およそ3ヶ月で短期に解決できます。これに対し、訴訟は期日に縛りがない公開の手続きで、解決まで1年以上かかることもあります。労働審判なら、訴訟よりも少ない費用で、迅速かつ柔軟な解決が目指せますが、複雑な問題には不向きな面があります。他方で訴訟は時間はかかるものの、大きな争いがあっても裁判所で最終決着を付けてもらうことができるのが特徴です。
解雇に不当を訴えるのは、早期解決を優先し、まず労働審判がお勧めです。ただ、不当解雇の慰謝料を請求する場合、解雇の悪質性が非常に高いケースであり、数多くの証拠を調べる必要があるなど、労働審判には向かず、訴訟を提起すべきケースも少なくありません。
「労動者が裁判で勝つ方法」の解説
不当解雇の慰謝料が高額になるケース
不当解雇と一言でいっても、様々な事情があります。先にあげた慰謝料の相場は、あくまでも目安であり、状況によっては100万円を越える高額な慰謝料が認められているケースもあります。
そこで、慰謝料が高額になる事案に共通する要素を解説していきます。
解雇の違法性を示す確たる証拠がある
まず、解雇の慰謝料が高額になるためには、その著しい違法性を示す証拠が必要です。証拠が確実なものであるほど、裁判所で争えば高額の慰謝料を獲得できることが予想でき、交渉の段階でも、会社に解雇の慰謝料を支払わせやすくなります。慰謝料を認めるべき違法性を示す主張をしても、客観的な証拠がないと動者側に有利な心証を裁判官に抱かせることはできません。
不当解雇の慰謝料を認めてもらうための証拠は、解雇無効を争う証拠と共通するものが多いですが、慰謝料の請求事案において特に必要となる証拠として、次のものがあります。
- 解雇理由を示す証拠:解雇通知書、解雇予告通知書、解雇理由証明書など
これらの証拠によって会社の主張する解雇理由を確定させ、それが事実と異なるなど、悪質かつ不当なものであることを立証します。 - 解雇に至るやりとりを示す証拠:録音・録画、メールやラインなど
解雇の手口の悪質さを立証します。録音・録画なら、文字ではわからない抑揚や雰囲気まで証拠化できますが、収集方法が違法にならないよう注意深く進める必要があります。また、メールやLINEを証拠とする場合は、日付と送信者がわかるよう全体をスクリーンショットで保存します。 - 被害を示す証拠:診断書や通院記録など
解雇による精神的苦痛があることを示すため、労動者の負った被害の程度を示す証拠が必要です。精神的苦痛は目に見えないため、医師の診断と、通院回数、通院頻度によって、ダメージの大きさを表します。
「不当解雇の証拠の種類と集め方」の解説
解雇による精神的苦痛が非常に大きい
慰謝料は精神的苦痛を補填する金銭なので、解雇による精神的苦痛が大きければ大きいほど、認められる額が高くなります。
例えば、大阪地裁堺支部平成15年6月18日判決(大阪いずみ市民生協(内部告発)事件)では、内部告発への報復目的で自宅待機を命じられた後、懲戒解雇された事案で、裁判所は、不当解雇の慰謝料を検討するに際し、自宅待機が2年以上の長期になった点、懲戒解雇中は収入を絶たれるなどの多大な苦難を被ったといった事実を指摘し、「精神的な苦痛は非常に大きかったものと認められる」と述べ、従業員らにそれぞれ150万円、140万円という、相場を越える慰謝料を認めました。
「うつ病で休職したいときの対応」の解説
企業側の対応が非常に悪質である
最後に、企業側の対応の悪質性が高ければ高いほど、認められる慰謝料も増額されます。
この観点から、相場よりも高い慰謝料を認めた裁判例として、大阪地裁平成18年9月15日判決(アイホーム事件)を紹介します。本事案は、会社から行政に提出する書類の改ざんを命じられ、従業員が不正を主導したかのような風聞を社内に流され、責任をとらされた解雇されたものです。
裁判所は、会社が自ら違法行為の隠蔽に巻き込んだばかりか、従業員を解雇することで全責任を押し付けようとする姑息なものであり、その責任は決して軽くないと判断しました。慰謝料額の算定にあたっては、従業員も業務命令の違法を知りながら関与した点を考慮してもなお、当初請求した400万円のうち200万円の請求を認めました。
「パワハラの相談窓口」の解説
不当解雇の慰謝料請求を認めた裁判例
次に、不当解雇の慰謝料請求を認めた裁判例について解説します。どのような事例で、いくらほどの不当解雇の慰謝料を請求できるのかを知る参考にしてください。
社長ミーティングにおける批判的な発言をきっかけに、違法に配転命令を下され、その後に解雇された事案。
まず裁判所は、本件解雇について、社長の意に沿わない者を退職に追い込むために精神的圧迫を加え、それでも辞めない従業員を排除するのが目的であり、権利濫用が明らかであると判断した。そして、精神的圧迫の執拗さ、陰湿さ、悪質さからして、会社ぐるみの退職強要としても類を見ないもので、従業員の精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいとし、結果として、退職強要についても不法行為が成立することも考慮し、解雇の慰謝料100万円を認めた。
解雇の有効性が争われ、ほぼ全部勝訴の判決が確定したにもかかわらず、その後約2年間も出勤を許さず、再び退職勧奨されたうえ解雇した事案。
裁判所は、一連の行為が不法行為を構成するとし、従業員が専業主婦の妻と幼い双子の児童を抱えている点も考慮し、著しい精神的苦痛を被ったと判断。慰謝料は、従業員が請求する30万円を下らないことは明らかであると認めた。
教諭が、生徒への暴力や保護者とのトラブル、喫茶店の料理長としての勤務、休暇中の仲裁センターへの和解斡旋の申立てといった事情から、職場放棄の疑いをかけられ、教職員の資質に著しく欠けるとして解雇された事案。
裁判所は、いずれの事情も教職員の資質に欠けると結論づけるのは相当でないとし、解雇を無効と判断。これによって一定の精神的苦痛を被ったと認め、未払い残業代や付加金の支払いにより相当程度回復できるとしてもなお、不当解雇の慰謝料として100万円の支払いを命じた。
退職金規程の改定や健康相談室の廃止といった会社の施策に反対して外部機関に相談したことを使用者が快く思わず、解雇を強行された事案。
解雇の要件に該当する事実がないばかりか、解雇当時労働者が妊娠しており、これを知りながら解雇の撤回要求を拒否したといった悪質さを加味し、本件解雇により、解雇期間中の賃金が支払われることでは償えない精神的苦痛が生じたと判断し、100万円の慰謝料の支払いを命じた。
新店舗の開店計画を秘密にされたまま、旧店舗の閉店を理由に社員を全員解雇にした事案。
裁判所は、長年就労してきた従業員に対し、虚偽の事実を告げて一方的に辞めさせる方法は解雇権の濫用の程度が悪質といわなければならないと評価し、後日、新店舗の開店を知った従業員らの驚きと憤懣は容易に想像でき、大きな精神的苦痛を被ったと認め、30万円ないし50万円の慰謝料の支払いを命じた。
航空機整備士が乗客用に用意したシャンパンを誤って一回すすり、その後整備作業を継続したことなどを理由に解雇された事案。
裁判所は、本件行為は解雇事由に該当しないとし、会社が必要な事実調査を尽くさないばかりか、行為態様が軽微なものであるのに任意退職を働きかけ、自宅待機命令を継続し、解雇に及んだ点は、労動者の権利を違法に侵害するとし、不法行為に基づく慰謝料100万円の支払いを命じた。
慰謝料以外にも不当解雇の場面でもらえる金銭はある
不当解雇に遭遇したら、慰謝料以外にもいくつかの金銭を請求することができます。これらの金銭はいずれも、解雇による経済的な損失を補填し、生活の安定を図るための重要な権利であり、忘れず請求しておきましょう。
以下に、具体的な金銭の種類とその内容を説明します。
未払い賃金、残業代
不当解雇の問題とは別に、賃金や残業代に未払いがあるなら必ず請求しましょう。解雇が無効となった場合は、解雇期間中の給料(バックペイ)も請求できます。不当解雇だったなら、その期間中に就労しなかった責任は会社にあり、労働しなくても給料を請求する権利を失いません。
なお、就労の意思や能力がないとバックペイを受け取れないため、解雇通知を受けたら、日を開けずに「辞めたくない」ことを伝え、就労意思を示すようにしてください。なお、既に再就職して給料をもらっている場合は、最大で6割の範囲で、その分が控除されます。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説
解雇予告手当
不当解雇された会社に戻るつもりがないなら、解雇予告手当を請求しましょう。解雇予告手当は、解雇を予告した日から解雇日まで30日に満たない場合に、会社が支払いを義務付けられる手当です。具体的には、30日に満たない日数分の平均賃金に相当する額を請求できます。そのため、いきなりクビを宣告されたケースでは、30日分の解雇予告手当を請求できます。
なお、解雇を争い、復職する意思があるなら、解雇予告手当を請求するのは矛盾するため、労動者側から積極的に請求するのは控えてください。
「解雇予告手当の請求方法」の解説
退職金
会社に退職金規程があるなら、退職金を請求できる可能性があります。もっとも、残業代や解雇予告手当のように法律で支給が義務付けられるものではなく、退職金の有無や金額は会社のルールによって決まるものです。
なお、懲戒解雇の場合に、減額や不支給となる条項が定められることもありますが、勤続の功労を無に帰すほどの非が労動者にない限り、退職金は請求できる可能性があります。
「退職金を請求する方法」の解説
失業手当
復職を希望しない場合、要件を満たせば失業手当を受給できます。
重責解雇以外の解雇では、会社都合退職となり、7日間の待機期間の後、すぐに失業保険を受け取れます。一方で、労動者の責めに帰すべき重大な理由によって解雇された場合、「重責解雇」として自己都合退職になるおそれがあります。その場合の手当の受給は、退職日から7日間の待機期間の後、2ヶ月の給付制限期間を経た後となります。
解雇を争い、復職を希望しつつ慰謝料を請求する場合も、争っている間の生活を守るため失業保険の仮給付を利用できます。
「失業保険をもらう条件と手続き」の解説
まとめ
今回は、不当解雇の慰謝料とその請求方法などについて詳しく解説しました。不当解雇で被った精神的な苦痛は、慰謝料として会社に請求できます。悪質な解雇に苦しんだなら、慰謝料の請求を忘れてはなりません。
もっとも実務的には、解雇の慰謝料が認められるケースは多くありません。解雇トラブルは、解雇の撤回による復職、バックペイの支払いが第一目標となり、それでもなお慰謝しきれない精神的苦痛があるときに限って慰謝料を認めるべきと考えられているからです。金額も、解雇の慰謝料より、解雇の解決金、バックペイ、未払いの退職金や残業代といった金銭の方が多額になりがちです。
しかし、不当解雇を争うなら、戦略的に、慰謝料請求をするに越したことはありません。労使の話し合いで金銭解決する場合も、労動者側の請求額は少しでも多い方が有利な流れで交渉を進められます。復職する気持ちになれなかったり、そもそも復職できない事情があったりする方もいるでしょうが、このとき適正な額の補償を受けるにも、慰謝料請求は必須となります。
不当解雇を通知されたら、泣き寝入りする前に、専門家である弁護士にご相談ください。労働問題を多く扱う弁護士なら、希望に合わせた柔軟な対応が可能です。
- 不当解雇の慰謝料は、解雇による精神的な苦痛を慰謝するために請求する金銭
- 実務的には、慰謝料は、解雇が相当悪質なケースに限って認められる
- 不当解雇の慰謝料の相場は50万円〜100万円が目安だが、事情によって増減する
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