不当解雇として争いたくても、収入が途絶えるのは現実的に厳しい人もいるでしょう。
労働審判や訴訟は一定の時間がかかるため、その間の生活費の確保は、解雇を争うことを検討する人にとっての切実な問題となります。
相談者不当解雇を争いたいが、当面の生活費に不安がある
相談者会社が離職票を交付してくれず、手続きが進まない
こうした場合に検討すべきなのが「失業保険の仮給付」の制度です。
仮給付を利用すれば、解雇について裁判所の判断が出る前であっても、「不当解雇として争う」という方針と矛盾することなく失業保険を受け取ることが可能です。この制度なら、失業保険を受給しても、会社から「解雇を受け入れた」と反論されるリスクを回避することができます。
今回は、失業保険の仮給付とはどのような制度か、離職票なしで仮手続きをすることは可能か、必要書類や返還が必要となる場合の対応まで、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 不当解雇として争う際に生活が困窮しないよう、失業保険の仮給付を活用する
- 会社と争うと離職票が入手できないことがあるが、仮手続きを利用できる
- 解雇トラブルの解決によっては、仮給付された失業保険を返還すべき場合がある
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失業保険の仮給付とは

失業保険の仮給付とは、解雇の効力を争っている場合でも、紛争の結果によって返還することを条件に、失業給付を受け取ることができる制度であり、「条件付給付」とも呼ばれます。
解雇の有効性を争う場合、「解雇は無効であり、労働者としての地位が継続している」と主張するため、失業保険を受け取らないのが自然です。しかし、収入面の不安から紛争を継続できなくなることを避けるために用意されたのが、「失業保険を仮に受け取る」という仮給付の制度です。
以下ではまず、失業保険の仮給付の基本的な意味について解説します。
仮給付と通常の失業給付の違い
仮給付と通常の失業給付の最大の違いは、求職活動を前提としていないことです。
通常は、離職後に自己都合退職や会社都合退職といった離職理由に応じ、ハローワークで手続きを行うことで失業保険を受け取ることができます。これに対し、仮給付は、解雇に関する争いが継続していることを前提に、その結果が出るまでの一時的な支援を意味します。
仮給付はあくまで一時的なものなので、解雇紛争の結果によって返還義務が生じる可能性があります(例:解雇が撤回されて復職した場合、満額の返還が必要となるなど)。
「失業保険の手続きと条件」の解説

不当解雇を争う場合に仮給付を活用すべき理由
不当解雇を争う際、失業保険を不用意に受給すると、労働者が不利になるおそれがあります。
解雇無効の主張は、「労働者としての地位が継続している」という意味であるため、離職を前提とした失業保険を積極的に受給すると、矛盾した行動を取ることになってしまうからです。一方で、解雇紛争は長期化することも少なくないため、その間の生活費の確保は深刻な問題です。会社を解雇されて無収入となり、生活の支えがないまま会社と争うのは現実的に難しいと感じる労働者の中には、泣き寝入りせざるを得ないケースも少なくありません。
失業保険の仮給付を活用すれば、解雇の有効性について裁判所の判断が下る前であっても、一時的に失業給付を受け取ることができます。退職を前提としたものではないので、解雇紛争に不利な影響を及ぼすこともなく、一定の収入を確保することが可能です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

失業保険の仮給付を受給するための条件
次に、失業保険の仮給付を受給するための条件について解説します。まずは、通常の失業保険の受給要件を満たしていることが必要となります。
- 失業の状態にあること
労働の意思と能力があるのに職業に就くことができない状態にあることが必要です。 - 被保険者期間が一定以上あること
離職日以前の2年間に被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが必要です。なお、特定受給資格者・特定理由離職者の場合、離職日以前の1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あれば足ります。
※ 詳しくは、「失業保険は何年働いたらもらえる?」「失業状態とは?」をご参照ください。
これらの通常の失業保険の受給資格を満たした上で、仮給付を受けるには、解雇について係争中であることを示す文書を提出する必要があります。仮給付はあくまで、解雇を争っている労働者に特別に認められる制度なので、保護の必要性を示す必要があるからです。
この要件は、単に「解雇に納得できない」というだけでは足りず、実際に裁判所などを通じて、法的手続きで争っている状況でなければなりません。実務上、次のような客観的な資料をハローワークに示すことが多いです。
- 訴訟で争っていることを示す資料
地位確認請求訴訟の訴状と受理証明書など - 労働審判で争っていることを示す資料
労働審判申立書と受理証明書など - その他の争いを起こしたことを示す資料
労働委員会のあっせん申立書と受理証明書、弁護士名義の内容証明など
失業保険の仮給付の申請には、解雇について係争中であることの証明が求められるため、労働審判の申立てや訴訟提起と、仮給付の申請のタイミングに注意が必要です。先に裁判所での手続きを行った上で、受理証明書を取得してからハローワークに行くのが確実な手順となります。
「不当解雇の裁判の勝率」「解雇を撤回させる方法」の解説


失業保険の仮給付の金額と期間

仮給付で受け取れる金額や期間は、通常の失業保険と同様の基準で計算されますが、不当解雇として争っている場合に特に注意すべきポイントもあります。以下では、仮給付で受け取れる金額や期間、給付制限の考え方などについて解説します。
仮給付の支給額
仮給付の支給額は、通常の基本手当の計算と共通しています。基本手当は一般に、離職直前6ヶ月間の賃金総額を180で割って「賃金日額」を算出し、これに所定の給付率(60歳未満の場合は50%〜80%、60歳以上65歳未満の場合は45%〜80%)を掛けて算出します。
仮給付の所定給付日数
失業保険を受け取れる日数(所定給付日数)は、年齢や雇用保険の加入期間、離職理由で決まります。不当解雇を主張して仮給付を申請する場合、「特定受給資格者」として会社都合退職の扱いが基本となり、90日〜330日の給付を受けられます。
ただし、労使の認識に差があるときは、裁判所の判決確定などがない限り会社の扱いが優先され、自己都合退職扱いとされると、所定給付日数は90日〜150日となります。
仮給付の受給開始までの期間(待期期間と給付制限期間)
自己都合退職では、7日間の待期期間に加え、原則として1ヶ月の給付制限期間が設けられますが、解雇は原則として会社都合退職扱いとなるため、給付制限はないのが原則です。そのため、仮給付の申請でも給付制限はなく、7日間の待期期間が経過すれば給付が開始されます。
ただし、前述の通り、労使の認識に差があるときは、裁判所の判決確定などがない限り会社の扱いが優先され、正当な理由のない自己都合退職であると判断されると、待期期間の終了後に給付制限期間が課されます。なお、解雇を争った結果、給付制限を課す理由がないことが明らかになった場合には、給付制限期間分も後に受け取ることができます。
「自己都合でも失業保険をすぐもらう方法」の解説

失業保険の仮給付の手続きの流れ
次に、実際に失業保険の仮給付を受け取るまでの手続きの流れを解説します。
円満退職なら、会社も失業保険の手続きに協力的であり、速やかに離職票が発行されるでしょうが、解雇を争う場面では十分な協力を得られないことがあります。仮給付をスムーズに進めるには、労働者が手続きの流れを理解し、自身でハローワークに申請する必要があります。
ハローワークと弁護士に相談する
解雇を争いながら仮給付を求めるなら、まずハローワークに相談しましょう。
「仮給付」であることを明らかにした上で、その条件や手続きについて公的機関へ事前に相談しておくのが安心です。また、解雇について会社と争うには、労働問題に精通した弁護士に相談し、法的なアドバイスを得ておきましょう。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

仮給付の必要書類を準備する
次に、失業保険の仮給付を申請するための必要書類を準備します。
通常の手続きで必要となる離職票や運転免許証、マイナンバーカードのほか、解雇を争いながら仮給付を受給するには、解雇されたことを証明する資料(解雇通知書、解雇理由証明書など)と、解雇について係争中であることを示す資料が必要となります(詳細は「失業保険の仮給付を受給するための条件」参照)。
書類に不備があると給付が遅れてしまうおそれがあるため、事前にしっかりとそろえておくことが大切です。
「離職票のもらい方」の解説

仮給付の申請の場合は確約書が必要となる
仮給付では、通常の必要書類に加え「確約書」の提出を求められることがあります。
確約書は、仮給付が文字通り「仮」の支給であるため提出する書類であり、後の裁判や和解によって解雇が無効となって復職した場合や、給与相当額の支払いを受けられた場合などに、仮給付額を返還することを約束するものです。この書類はハローワークの窓口で用意されており、内容を確認した上で署名捺印して提出することとなります。
ハローワークに申請する
必要書類を準備したら、ハローワークでの申請手続きを行います。
住所地を管轄するハローワークの窓口で「失業保険の仮給付の申請をしたい」と伝え、必要書類を提出しましょう。申請が受理されると、ハローワークにおいて、仮給付の対象となるかどうかが審査されます。
離職票なしで失業保険給付の仮手続きが可能?
解雇を争う場合、離職票がなかなか交付されないことがあります。
労働者としても不当解雇であると主張する以上、離職票を積極的に求める行為は矛盾するため、要求しにくい側面があります。会社は「適法に解雇した」と主張するなら速やかに交付すべきですが、実務ではしばしば、離職票を受け取れずに手続きが進まないケースがあります。法的には、事業主(会社)は、従業員が退職した際、10日以内にハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を提出し、雇用保険の手続きを進める義務があります。

一方で、本解説の失業保険の仮給付でも、原則として離職票が必要となります。
会社側の手続きの遅延によって離職票が手元にないなどのやむを得ない理由があるとき、ハローワークで「受給資格の仮決定」という手続きを行うことが可能です。この手続きは、離職票を提出できない場合でも受給資格の有無を仮に判断し、失業保険の認定を進めるものです(実際に支給されるまでには離職票を提出する必要があります)。
また、会社から離職票が交付されず、請求する場合は、解雇を争う方針と矛盾しないよう「仮給付を受けるため」であることを留保しておきましょう。加えて、ハローワークに働きかけ、会社に対して交付を促してもらうことも有効です。離職票の発行が遅れている事情を説明すれば、離職票がなくても手続きを進めてくれることがあるため、ハローワークに相談することをおすすめします。
「離職票が届かない理由と対処法」の解説

紛争解決後の仮給付の返還について

仮給付を受け取った後の注意点として、返還を要するケースがあります。
失業保険の仮給付は、あくまで「仮」のものなので、解雇紛争の解決内容によっては返還しなければなりません。返還の要否や扱いは、具体的な解決内容ごとに異なります。
仮給付の返還が必要となるケース
以下の形で解雇紛争が解決した場合、仮給付の返還が必要となります。
解雇が撤回されて復職する場合
不当解雇が撤回されて復職するケースがあります。この場合、会社を退職しないことになるので失業保険の条件を満たさず、仮給付額の返還が必要です。なお、失業保険の仮給付は返還しなければなりませんが、解雇が無効となった結果、争っていた期間中に未払いとなっている給与(バックペイ)を請求することが可能です。
金銭解決として給与相当額の支払いを受けた場合
解雇の争いについて、金銭解決による和解が成立するケースもあります。
具体的には、解雇は撤回するものの復職せず、当初の解雇日で合意退職したものと扱い、代わりに一定額の金銭を支払うことを内容とする場合です。その金銭が過去の給与に相当するものとして支払われるなら、仮給付額を返還しなければなりません。

この金銭解決のケースで、失業保険の仮給付の返還が必要となる場合には、実務上、次のような具体例があります。
- 当初の解雇日を退職日とし、過去の賃金分に相当する額を支払う場合
- 合意時を退職日とし、当初の解雇日から退職日までの間は社員としての地位が継続していたとして賃金を支払う場合
労働者にとって、これらの扱いでは失業保険の仮給付の返還を要するデメリットがある一方、社員としての地位が継続していた扱いにすれば、転職活動において在籍を主張できるなどのメリットもあるため、状況に応じて検討してください。
「不当解雇から復職したくない時の対応」「解雇の解決金の相場」の解説


仮給付の返還が不要となるケース
一方で、復職せず、当初の解雇日を退職日として合意退職とし、賃金以外の名目で金銭の支払いを受ける形で解決すれば、仮給付の返還は不要です。実務上よくあるのが「解決金」や「慰謝料」という名目で金銭の支払いを行うケースです。この場合、仮給付として受け取った金額は、そのまま本給付として扱われます。
ただし、「解決金」「慰謝料」という名称なら必ず返還が不要とは限らず、実質に基づいて判断しなければなりません。解決時の合意書や和解書の定め方により、仮給付の返還の要否が変わるおそれがあるため、署名前に弁護士に相談するなどして、万全を期するのがおすすめです。
仮給付を返還する際の注意点
失業保険の仮給付を返還する手続きも、ハローワークで行います。
仮給付として受給しているのに、生活費として必要な額を超えて浪費してしまうと、後の返還が大きな負担となるおそれがあります。解雇紛争の解決内容によっては返還が必要となる場合があることを念頭に置き、無駄遣いしないようにすることが重要です。
なお、受給要件を満たさなくなったにもかかわらず仮給付を受け続けると、不正受給となるおそれもあるため注意してください。
「失業保険の不正受給」の解説

【まとめ】失業保険の仮給付

今回は、不当解雇を争う際に、失業保険の仮給付を受け取る方法について解説しました。
失業保険の仮給付は、解雇を争う労働者が、生活の安定を図りながら法的手続きを進めるのに非常に役立ちます。「解雇に納得できないが、収入が途絶えると争えない」という板挟みに悩む方は、ぜひ仮給付を活用してください。解雇トラブルは、精神的にも経済的にも負担を伴いますが、仮給付があれば生活費の不安を和らげることができ、労働審判や訴訟に集中しやすくなります。
解雇の撤回を求める場合、矛盾する行動はできる限り避けるべきです。仮給付の形で受け取れば、失業保険を受給していても「解雇を認めた」と評価されるリスクを下げることができます。
不当解雇として争うことを検討する場合、法的な観点から見通しを立てるため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
- 不当解雇として争う際に生活が困窮しないよう、失業保険の仮給付を活用する
- 会社と争うと離職票が入手できないことがあるが、仮手続きを利用できる
- 解雇トラブルの解決によっては、仮給付された失業保険を返還すべき場合がある
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