労災のなかでも重度の場合、警察が介入するケースがあります。
どれほど勤勉な労働者でも、仕事場が危険だと、負傷や病気の危険があります。最悪は、死亡するケースもあるため、労働災害は、決して見過ごすことのできない大きな問題です。社会の治安を守る警察は、ブラック企業の労災の危険にも対処してくれます。
しかし、いざ当事者になると、重度の労災ほど対処が難しいと感じることでしょう。警察に通報すべきなのは会社の義務ですが、労働者側でも対応を理解しておかなければなりません。労災を報告しない問題ある会社もあるので、労災事故が発生した際には、被災者である労働者側でも、警察に通報しておくべき場面もあるからです。
今回は、労災で警察が介入するケース、通報までの流れを、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 労災のなかでも重大な災害ならば、警察が介入する可能性がある
- 重大災害に被災してしまったら、会社に対し、警察に通報するよう強く求める
- 労働基準監督署もまた、労働問題に限り、警察官と同じ権限を有している
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労災で警察が介入するケースとは
労災が起きた場合に、警察が介入するケースとはどのようなものでしょうか
警察には、社会の治安を維持する役割があります。なので、通常、警察が介入するケースというのは「事件性」のあるもの、つまり、重大な犯罪が発生したと疑われる場合です。職場で起きた労災事故でも、人が死亡したりケガを負ったりした重度の事案では、警察が対応することがあります。警察が関与して事件化したものについては、ニュース報道の例が参考になります。例えば、最高裁平成22年5月31日判決は、花火大会で群衆がドミノ倒しになった事例で警察が出動し、勤務中だった警備員の死傷について、警備会社支社長に業務上過失致死傷罪の責任が認められました。
厚生労働省では、一度に3人以上が業務上の死傷または病気にかかった災害を、「重大災害」と定義しており、次の条件に該当する場合には警察が出動する可能性が高いケースだといえます。
- 死亡、重い後遺障害が予想される重篤な災害
- 有害物による中毒などの特殊な災害
- 一度に3人以上が被災する重大災害
労災は起こらないに越したことはないですが、どれほどホワイトな職場でも、ミスや事故はつきものです。そして、最初は小さなミスでも、放置していると重大な労災に発展しかねません。警察は、このようなケースで労働者の安全を守り、使用者の責任を追及する役割を果たします。
なお、「重大災害発生件数(労働政策研究・研修機構)」によれば、統計上も毎年一定数の重大災害が発生し続けています。
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労災で警察に通報するときの流れ
次に、警察が介入する可能性ある重大災害が発生したら、どのような手順を踏むべきか解説します。
労災の被害者になってしまったら、やるべきことは多くありますが、重大災害だったなら警察へ通報すべきケースもあることを忘れないでください。たたでさえ労災で大変な目にあったら、手続きで損はしたくないものです。警察に通報すべきか、対応に迷う場合は弁護士にご相談ください。
まずは事実確認する
労災の事故にあったら、まず事実確認が重要です。冷静になるのは難しいでしょうが、慎重に検討してください。
労災のあった現場はできるだけ、そのままの状態で保存すべきです。重大災害において警察が介入した際に、捜査しやすいよう配慮しましょう。発生当時の状況を詳細に知ることができれば、警察が刑事責任を追及するのに役立ちます。後に、警察に事情を聴取されるのに備えて、被災者目線での事実確認をしておくことが大切です。
警察に通報する
被害が大きければ、警察も動かざるを得ません。したがって、前述した重大災害かどうかが、警察に通報するかの1つの目安となります。ただ、危険な状態が続くなど、判断に迷うならばまずは通報しておくのがよいでしょう。ガス漏れや爆発など、消防の出動が必要なケースもあります。
他方で、被災者が自分ひとりだと、被害を小さく見積もりがちです。「警察には通報しづらい」「警察沙汰になると働きづらい」といった不安を抱く人もいますが、労災で、警察に通報することは、まったく後ろめたいことではありません。
次のケースでは特に、警察への通報を急ぐべきです。
- 労災の原因が、労働者の故意の言動にあるケース
(例:ドライバーの運転ミスでトラックに轢かれた) - 労災の原因の特定に、警察の捜査が必要なケース
(例:機械の修理点検が十分でなかったことが原因の可能性がある) - 現場の危険な状態が継続し、治安を維持すべきケース
(例:足場が倒れかかってきて不安定なままである)
職場の安全は、第一次的には会社が守るべきです。労働者を安全な環境で働かせることは会社の義務(安全配慮義務)だからです。なので、可能ならば、会社に相談して警察に通報するのがよいでしょう。しかし、会社は労災を隠すために、警察への通報を怠ることがあります。「警察には通報しないように」と強く言われても、従う必要はありません。危険を感じるならば、ひとまず警察には連絡しておくべきだからです。
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労災病院で治療する
労災に遭ったら、できるだけ速やかに治療を受けるべきです。労災認定を受けたなら、労災保険指定医療機関で治療するのがお勧めです。
通常の医療機関でも、労災保険から療養費が支給されます。ただ、この場合には、一度、治療費を立て替えなければなりません。労災保険指定医療機関なら、労災保険から直接、病院に治療費が払われます。警察が介入するほどの労災だと、傷害の程度によっては職場復帰が難しいこともあり、手元にできるだけお金を残しておく方が安心でしょう。
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労災申請する
労災の被害回復と、社会復帰を支援すべく、労災保険が用意されています。労災申請は、会社の協力のもとに行うのが基本ですが、会社が非協力的なときには労働者本人でも行うことができます。労災申請は、会社を管轄する労働基準監督署で手続きをするようにします。
なお、重大災害ほど、警察が介入したことなど、できるだけ外に知られたくないでしょう。会社が協力を拒むなら、自分だけでも、労災申請をしなければなりません。
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損害賠償請求する
労災に遭ったら、多くの損失が生じます。働けないと収入が減りますし、精神的苦痛を被るおそれもありあす。損失を補填する労災保険も、全ての損害をカバーしているわけではありません。
労災の原因となった加害者や会社に対しては、損害賠償の責任を追及できます。警察が介入するほど重度のケースだと、請求額も高額になります。重大災害のなかでも特に、死亡事故では遺族の補償は多額となることが多く、大きなトラブルの火種となります。
交渉が難航すると裁判に発展しますし、警察対応が必要になることも。一人で交渉するのではなく、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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なぜ労災で警察が出動するのか
労災は、労働問題としての側面があるのに対して、警察が動くのは、刑事事件が主となります。では、なぜ、労災のケースでも、警察が出動する場合があるのでしょうか。
その理由はわかりやすくいうと、加害者個人などに、刑事責任を追及する必要があるからです。警察が出動すれば、刑事責任追及に向けた捜査が行われることを意味します。
労災のなかには、加害者を明確に特定できないケースもあります。足を踏み外して転落した事故、機械に挟まれた事故といったものが該当します。このとき、その責任は、会社がどれほど防止すべき義務があったかにより決まります。しかし、労災の原因が、加害者個人の言動にあるケースも少なくありません。このようなときは、警察が出動する事案となりえます。
例えば、フォークリフトの運搬中の荷物とプレス機械に挟まれたという労災の事案。
フォークリフトの運転手が、エンジンを停止していなかったことが事故の原因となったケースでは、責任は会社のみにあるわけではありません。運転手個人もまた、業務上過失傷害の責任を負う可能性があります。
もちろん、労災で刑法上の責任を負うのは、社内の人間ばかりではありません。職場での火災発生の原因は、外部の人間の放火であることもあります。このように、労災といえど、個人の行為に起因する限り、刑事事件になる例があります。したがって、警察が出動する余地があるのです。
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労災トラブルで警察が果たす役割
最後に、労災トラブルにおいて警察が果たす役割について解説します。
労災事案では、労働基準監督署もまた、警察に近い役割があります。ただ、警察と労働基準監督署では、果たす役割が違います。
警察は、労災を起こした個人の行為の責任追及が主となります。事故ケースについて、業務上過失致死傷罪になるか、捜査するのが典型です。
これに対して労働基準監督署は、会社を監督する役割があります。ブラック企業など、労働基準法などに違反する企業を、取り締まるのが目的です。
労働基準監督書に所属する監督官も、「特別警察職員」として捜査権限を有します。ただし、その権限は、労働基準法、労働安全衛生法などの労働法に限られます。これら労働法の罰則で処罰すべきかを調べるのが、労働基準監督署の役割だからです。
このように、警察と労働基準監督署の役割は異なります。重大な労災では、労働基準監督署だけでなく、警察の捜査にも対応しなければ円滑に解決できません。
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まとめ
今回は、労災で、警察が介入する場合の流れについて、具体例を踏まえて解説しました。
労災と一言で言っても、その程度は軽いものから重いものまで様々で、重大な労災ほど、警察が介入する可能性は高くなります。死亡事故であれば、必ず警察に通報すべきケースであると判断しやすいことでしょう。ただ、実際の現場では、自分が被害者になったとき、労災の被害を小さく見積もり、通報をためらってしまう人も少なくありません。
たとえ被害者があなた一人でも、労災の原因である会社の行為は、犯罪の可能性もあります。警察が介入する場合に備えて、事故の発生直後から注意深く行動するべきです。特に、警察が介入するような重大な災害では、治療時の対応にも気をつけてください。
労災への対処の過程で、損害賠償を検討しているなら、早い段階で弁護士に相談するのが適切です。被害を放置せず、適切な対処を尽くすようにしてください。
- 労災のなかでも重大な災害ならば、警察が介入する可能性がある
- 重大災害に被災してしまったら、会社に対し、警察に通報するよう強く求める
- 労働基準監督署もまた、労働問題に限り、警察官と同じ権限を有している
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