退職を決意したとき必要なのが「退職届」。退職届の提出は、労働者が、自らの意思で退職する「自主退職」を意味します。
しかし、退職届をどう書けばいいか、どのタイミングで出すべきか、迷う人も多いでしょう。口頭のやり取りはトラブルのもとなので、退職届で証拠化する必要がありますが、退職届を出す時期や方法を誤ると、会社とのトラブルに発展してしまう危険もあります。
早くやめたいけど、退職届は出しづらい
退職届に、どう書いてよいかわからない
退職を決意したなら、退職届は早く出すべきであり、このとき、退職届の書き方についてもよく理解しておかなければなりません。
今回は、退職届の書き方と出し方について、退職をスムーズに進めるための注意点も踏まえて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職届には、退職日、退職理由、退職の意思表示を記載する
- 退職届は、退職を希望する日の2週間前までに出すようにする
- 退職届を出したら、引き止めや受領拒否に負けず、退職の意思を貫き通す
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退職届とは
まず、退職届とはどのような書類か、その意味や役割を解説します。
退職届とは、労働者が退職の意思を会社に伝えるための書類です。労働契約を終了させるための正式な意思表示であり、「一身上の都合により退職します」と簡潔に記載されるのが通例です。
退職届が必要となる場面
退職届は、次のような場面で必要となります。
- 自主的な退職の場合
労働者が、自身の一方的な判断で会社を辞めることを「自主退職(辞職)」を呼びます。退職届を出すことは、自主退職(辞職)を意味します。 - 退職勧奨に応じた場合
会社が労働者の退職を促す「退職勧奨」に応じて会社を辞めるときにも、退職届の提出を要求されることがあります。 - 定年退職や契約満了の場合
定年や契約期間の終了に伴う退職は、退職届を出さなくても効果を有しますが、問題なく退職したことを確認するために、形式的に退職届を提出するケースが多いです。
退職届は、これらの場面で、「労働者が、退職をする意思を有している」ことを示す正式な書類として、会社との労働契約関係を終了するために重要な役割を果たします。
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退職届と退職願の違い
退職届と混同しやすいのが「退職願」です。退職願が「退職したい」という希望を示し、会社の承認を求めるのに対し、退職届は「退職します」という最終的な意思を示すものです。そのため、退職届は、一度会社に受理されると、撤回できないのが原則です。
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退職届をめぐる労働トラブル
円満退社したいでしょうが、退職届の書き方、出し方をよく理解しておかないと、労働問題の原因となってしまいます。退職時に揉めると、悪質な会社ほどあなたを攻撃し、悪い噂を広めるかもしれず、今後の転職の支障になりかねません。
退職届をめぐる労働トラブルには、次のケースがあります。
- 退職届を出さないことで、強い引き留めを受けた
- 退職の意思は示していたのに、退職日が先延ばしされた
- 退職日の記載を誤り、退職前の有給消化ができなかった
- 退職届を受け取ってもらえず保留にされてしまった
- 退職が認められず、転職先に迷惑をかけた
労働者は、自由に退職する権利がありますが、人手不足の会社ほど、しつこく引き留めます。退職届を出すことで引き留めを断ち切らなければ、辞めるに辞められません。退職できないと、長時間労働やパワハラによって体調を崩し、うつ病や適応障害などの精神疾患になってしまう危険もあります。
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退職届の書き方【テンプレート付】
次に、退職届の書き方を解説します。
退職届の書き方に、法律上のルールはありません。重要なのは、「退職する」という確定的な意思を会社に伝えることです。退職届に書くべき内容が不足していると、退職の効果を正しく発揮できないおそれがあります。
退職届の書式・テンプレート
退職届の書式・テンプレートは、次の通りです。
退職届
株式会社○○
代表取締役社長 ◯◯◯◯ 様
【所属部署・氏名】
この度、一身上の都合により、20XX年XX月XX年日を持って退職いたします。
在職中は格別のご指導、ご高配を賜り、誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます。
以上
あくまで書式例なので、事情に応じて追記・修正して利用してください。以下では、退職届の書き方について、上記の雛形をもとに詳しく解説します。
退職届の形式的なポイント
退職届を作成する際、形式的なポイントを押さえるのが重要です。適切な形式を守ることでビジネスマナーに沿った退職届を作成でき、円満な退職を実現する助けとなります。
- 用紙のサイズや種類
一般に、退職届はA4サイズの用紙で作成します。コピー用紙など、破れたり滲んだりしにくい紙を使用してください。 - 筆記具の種類
退職届は、手書きでも、パソコンで作成しても問題ありません。手書きの方が誠実だと受け取る人もいるので、そのような慣行のある会社では従いましょう。ボールペンで記載し、鉛筆やシャープペン、消えるペンなどは控えるべきです。 - フォントや様式など
退職届は、正式な書類なので、ビジネス文書に準じた適切なフォントと書式で記載してください。
退職届に記載すべき内容
次に、退職届に記載すべき内容について解説します。必要な情報が不足していると、希望とは異なった効果になってしまうため注意してください。
タイトル
文書の冒頭に「退職届」と大きく書きます。これによって、その書類が退職の意思を示すものであることをわかりやすく表示します。会社が承諾しなくても一方的に退職するという強い決意が、このタイトルに込められています。既に確定した意思を「届ける」に過ぎず、退職の「お伺い」や「お願い」ではないことを示す意味があります。
退職届の宛先
退職届の宛先は、社名と、代表者名(通常は、社長)を書きます。
退職届は、人事権を有する人に届いてはじめて効果を発揮します。そのため、法的な効果を生じるためにも、代表権を有する人に宛てて出すのが適切です。人事部が窓口となるなど、宛先について指示があるときは、受領権限が委譲されたと考えられるので、会社の指示に従います。
提出日
退職届に記載する日付は「作成日」でなく「提出日」とします。退職届は、会社に到達したときに効果を生じるからです。
退職日
退職届には、必ず「退職日」を書きます。退職日は、無期雇用の社員の場合には、退職届の提出日から2週間以降の日を記載してください(民法627条)。民法のルールによって、退職の意思を示してから2週間が経過すると労働契約が終了するため、ちょうど2週間後の退職日でもよいですが、もっと後の日を指定することも可能です。
退職日を決めるときは、有給休暇の残日数を計算して、必ず退職日までに消化できるよう計画的に進めてください。
退職の理由
退職届には、退職の理由を記載します。退職理由は、「一身上の都合により」と記載する例が多いです。最も無難な表現であり、会社とのトラブルが生じづらいからです。
必ずしも詳細な理由は必要なく、むしろ会社や上司の不満を書けば関係が悪化し、円満退職の妨げとなります。なお、会社からの強い引き留めが予想されるとき、説得的に説明できる理由があるなら、詳しく書いてもよいでしょう(例:家族の病気など)。
確定的な退職の意思表示
退職届には、確定的な退職の意思表示を記載します。退職届では、必ず「確定的」に「退職します」と書きます。「退職させていただきたく存じます」などの表現では、「退職したい」という希望に過ぎないとも読めてしまうため、不適切です。
署名と押印
退職届には、誰の意思表示かが分かるよう、自身の名前を署名し、その末尾に押印します。合わせて、部署名や役職などを記載しておくのが通例です。手書きでサインして、印鑑を押すことで、退職届が正式な書類であることを示すことができます。なお、パソコンで作成した場合にも、署名は手書きですることがお勧めです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
退職届を出すタイミング
次に、退職届を出すタイミングと、適切な時期について解説します。
退職届を提出しても、すぐに辞められるわけではありません。会社が合意すれれば即日退職も可能ではありますが、実際は、業務の引き継ぎや残務があるなどで、すぐには辞めさせてもらえません。このとき、退職届を提出する時期が重要となります。
円満退職できそうなら、就業規則で、退職届の提出についての規定をチェックしましょう。「退職希望日の2週間前までに所定の退職届を出すこと」「1ヶ月前までに申告すること」といったルールが設けられるとき、可能な限り従うのが、トラブルを避けるポイントです。後任者の手配や業務の引き継ぎ、書類の整理などを滞りなく進めれば、会社に迷惑をかけずに退職できます。
ただし、法的には、無期雇用の場合には、退職希望日の2週間前までに退職の意思を表明すればよいこととなっているので、労働トラブルが激化しているなど、会社と対立して辞める際は、2週間前までに退職届を出せば足ります。
退職届の提出が早すぎることも、遅すぎることにも、いずれもリスクが伴います。
- 早すぎる場合のリスク
退職届の提出が早すぎると(例えば、半年以上前など)、仕事のモチベーションが低下したり、社内で重要な仕事を任せてもらえなくなったりといった悪影響があります。 - 遅すぎる場合のリスク
退職届の提出が遅すぎると(例えば、退職日直前など)、引き継ぎが不十分となり、残された社員に負担をかけます。人間関係が悪化し、円満な退職の妨げにもなります。
適切なタイミングで退職届を提出することは、労使双方の負担を抑え、円満退職を実現するのに効果的です。会社と争って辞める場合の法律のルールはさておくとして、現実的には、退職届は1ヶ月前に提出するのが、最適なタイミングだといってよいでしょう。
「退職を伝えるのが早すぎるのは問題?」の解説
退職届の出し方
退職届を完成させたら、次に、退職届の出し方についても理解しておきましょう。
退職届を提出する前に会社に相談する
話し合って、円満に退社できそうなら、退職届を突然提出するのではなく、事前に相談するようにましょう。直属の上司や、人事部などに退職の意思を伝えて根回しすることで、トラブルを避けて円満に退職できます。退職時は、これまでの労働契約を清算するタイミングなので、労働問題が特に起こりやすくなっているので注意してください。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
直接手渡しと郵送の違い
退職届の出し方には、直接手渡しと郵送の2つの方法があります。それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、自身の状況に応じて適切な提出方法を選ぶ必要があります。
直接手渡しすべきケース
大きな問題がなければ、直接手渡しが基本と考えてください。
礼儀を重んじる人ほど、直接手渡しの方が丁寧で、誠実だと感じる傾向にあります。直接渡す際に口頭でも意思を伝えられるので、誤解やトラブルを避けることができます。退職の時期や条件の話し合いもその場でできるので、コミュニケーションが円滑に進みます。
郵送すべきケース
休職中で会社に出向くことが難しい場合や、最終出社日を過ぎた場合などは、退職届を郵送で提出してもよいです。ハラスメントがあって出社が大きなストレスとなる場合、退職届の提出が必要だとしても、直接手渡しするのは危険です。
ただし、手渡しよりも事務的な印象を与えるので、「退職届を送りつけるのは失礼だ」という評価を受け、トラブルの原因となるおそれがあります。
退職届を直接手渡す場合のマナー
退職届を直接手渡す際は、礼儀やマナーに注意して進めてください。
突然「退職します」と切り出すのではなく、まずは面談の時間を取ってもらえるよう事前に依頼し、アポイントを得ましょう。退職のこととは伝えず、「お話したいことがある」といった内容で時間を確保してもらうので構いません。面談の場では、口頭で退職の意思をしっかり伝え、その場で退職届を手渡します。「ご指導ありがとうございました」など、感謝を伝えるのは誠実ですが、一方で「意思は固いので必ず受け取ってください」というように断固たる姿勢で臨んでください。
退職は重要な決断であり、感情的に伝えると、余計なトラブルを招いてしまいます。色々な感情が入り交じるものですが、冷静に伝えるよう心がけてください。
退職届を郵送する場合の注意点
退職届を郵送するのは、手渡しができない事情がある場合の例外的な方法だと考えてください。そのため、デメリットが顕在化しないよう、注意点を理解しなければなりません。
退職届を郵送するときは、簡単な添え書きを付けて封筒に同封してください。添え書きには「退職届を同封いたしましたので、ご確認ください」といった内容を記載します。封筒に入れたら、封をして、表面に「退職届同封」と記載して、会社に送付しましょう。
退職届が会社に確実に届いたことを証明するためには、内容証明を活用するのがお勧めです。内容証明で送付すれば、最悪のケースで、会社が退職を許さないなどといった問題ある対応をしてきた場合にも、希望通りに辞めることができます。
「退職届を内容証明で出すべきケース」の解説
退職届を提出した後の確認
退職届を提出した後も、継続的に確認することが重要です。
郵送の場合には、退職届が届いたかどうか、追跡情報で確認してください。手渡しの場合も、上司や人事担当者に連絡し、退職届を受理したかを確認し、必要な引き継ぎや、退職日までのスケジュール、具体的な手続きの指示をしてもらえるよう依頼しておきます。
なお、引き留められたとしても、退職の意思が固いことを示し、気持ちは変わらないことを明確に伝えてください。
「在職強要の違法性」の解説
退職届を出す適切な時期
次に、退職届を出す適切な時期について解説します。つまり、「退職届をいつ出すべきか」「いつまでに出せばよいか」という問題です。
法律上のルールを理解する
まず、退職届を出す時期については、民法の定めを理解しなければなりません。
これらの法律のルールを遵守するためにも、退職届の提出は、余裕をもって準備しなければなりません。
繁忙期は避けるべき
退職届を出す際には、繁忙期を避けるのが基本的なマナーとなります。繁忙期に退職すると、人員が不足し、業務が滞るおそれがあります。また、退職日が先だとしても、忙しいときに退職届を提出するのでは、結果的に悪い印象を与えてしまいます。
繁忙期は、業界や職種によっても異なるので、退職届の提出は、自身の仕事に沿った適切な時期を選択することが大切です。
有給消化やボーナスのタイミングを見極める
退職届を提出するときは、有給休暇の残日数やボーナスのタイミングにも注意しましょう。
法律上、有給休暇は退職前に消化でき、会社は拒否できません。ボーナスも、退職直前だとしても支払日に在籍していれば受け取れるのが基本です。ただし、円満な退職でないと、退職届を出したら空気が代わり、有給休暇を取らせないよう引き継ぎを命じたり、退職前の賞与が減額されたりといったトラブルを招くおそれがあります。
「ボーナス前の退職」の解説
退職を考え始めたら余裕をもって準備する
以上の様々な考慮要素を満たすためには、退職を考え始めたら、いきなり退職届を提出するのではなく、十分に余裕をもって準備する必要があります。まずは、退職日をいつにするか、その後の転職先などともあわせて検討し、そこまでのスケジュールを立て、計画的に動きましょう。
現職を辞めても困らないよう、再就職の時期や転職先、生活費の確保や失業保険など、退職届を提出する前に準備を整えておくのが望ましいです。
「退職したらやることの順番」の解説
退職届を出すときの注意点
最後に、退職届を出すときに、法律上注意したいポイントを解説します。
不当な退職の引止めにあった時の対応
労働者には、「退職の自由」があります。そのため、退職届を出せば「会社をやめられない」ということはなく、必ず退職できます。労働者が拒絶しているのに、退職の引き止めをしつこく続けるのは違法です。不当な退職の引き止めに、従う必要はありません。
法律より不利な退職予告を定める会社における対応
退職届の提出時期についての民法のルールで、2週間前に出せば退職できると解説しました。しかし、このルールは労働基準法のような強行法規ではありません。そのため、就業規則で「1ヶ月前」など、民法のルールよりも不利な定めをしている会社があります
会社のルールがあまりに労働者に不利だと、「退職の自由」を侵害し、違法です。労働者に一方的に不利なルールは、公序良俗(民法90条)に反して無効です。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
退職届を保留されたケースの対応
なかなか退職できない例のなかには「退職届を保留された」というケースもあります。上司に出したが、「預かっておく」「しばらく考えてほしい」といわれる例です。
退職届を保留にするのは本来不適切ですが、受領する権限のある人にたどりつかなければ、退職届は効力を生じません。例えば、直属の上司に保留されたとき、そのまま放置するのではなく、社長などの上位者に届くよう、郵送などの方法で出し直さなければなりません。
退職届を提出後も、給料はもらえる
退職届を出した後も、給料をもらうことができます。退職日までは労働者としての地位がありますから、当然の権利です。有給休暇も使えますし、在籍中なら賞与(ボーナス)ももらえます。
なお、退職を円満に済ませるためにも、給料をもらう分だけ、業務の引き継ぎはきちんとしましょう。常日頃から業務内容をまとめ、企業秘密の持ち出しをしないなど、トラブル回避に努めてください。離職票の交付をはじめとした退職手続きには、会社の協力が必要なものもあります。退職時にもめず、労働問題を起こさないに越したことはありません。
「退職予定者へのいじめ(ヤメハラ)」の解説
まとめ
今回は、退職届の書き方と出し方について解説しました。
退職届は、会社との関係を円満に終えるための大切な手続きです、正しい書き方や提出方法を押さえて、適切なタイミングで提出することは、トラブルを避け、スムーズに退職を進めるのに重要です。退職届には、法律に決められた様式や書式、ルールなどがあるわけではないので、ビジネスマナーを理解した、シンプルな内容で記載するのがお勧めです。
一方で、退職届を出すタイミングには民法のルールがあり、期間の定めのない社員は、2週間前に提出するのが基本となります。また、退職届を出す前には、しっかりと上司に意思を伝えておくことが、円満退職への近道となります。
万が一、退職に伴う労働問題が予想されるなら、退職届の提出前に弁護士に相談してください。
- 退職届には、退職日、退職理由、退職の意思表示を記載する
- 退職届は、退職を希望する日の2週間前までに出すようにする
- 退職届を出したら、引き止めや受領拒否に負けず、退職の意思を貫き通す
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