正社員として勤めて退職した場合、再就職先が見つかるまで失業保険をもらうのも珍しくないでしょう。では、副業している場合はどうでしょうか。
副業収入があると生活に困ることはなく、「失業保険は受給できないだろう」とあきらめる人もいます。しかし、副業をしていたとしても、失業保険を受け取れる場合があります。正しい知識を理解し、受給できたはずの失業保険をもらい損ねないようにしましょう。一方で、失業保険をあてに退職したのに、副業が理由で受給できないことが判明すると、退職後の人生設計が狂ってしまいます。
今回は、副業をしている場合にも失業保険を受給できる条件と注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
失業保険は副業していてももらえる場合がある
失業保険は、職を失った人が次の仕事に就くまでの生活を支える制度です。その目的は、離職後の経済的な安定を計りつつ、安心して転職活動を行える支援をすることにあります。
今回解説するように、副業で収入を得ている場合、失業保険の受給が制限されるケースがありますが、副業をしているからといって必ず失業保険がもらえないわけではありません。むしろ、副業をしていても、失業保険を受給できるケースがあるので、注意が必要です。
副業をしている人が失業保険を受け取れるかどうかは、副業の種類によって異なります。副業の種類は大きく分けて、パートやアルバイトなど他の会社で雇用される「雇用型」と、フリーランスなどの個人事業主や他社の役員として働く「事業主型」の2種類があり、そのいずれに該当するかにより、失業保険の受給の可否に影響します。
【雇用側】
退職後に、パートやアルバイトなど、他の使用者に雇用されて副業している場合
→ 労働時間が週20時間未満などの条件を満たせば、副業していても失業保険を受給できる。
【事業主型】
フリーランスや個人事業主、他の会社の役員として働く場合など、雇用以外の形態でする副業の場合
→ 原則として失業保険の受給は不可能
雇用型の副業は、「労働時間が週20時間未満」といった一定の条件を満たせば、退職後に副業から収入を得ていたとしても失業保険を受給できます。一方、事業主型の副業を営んでいるケースは、原則として失業保険を受けられません(「退職後に副業から個人事業主として起業する場合は?」の通り、雇用保険受給期間の特例の適用を受ければ、例外的に受給できる場合あり)。
勘違いや思い込みで受給の機会を逃したり、もらえると思っていたのに受給できなかったりすることのないよう、次章では失業保険の受給条件を解説します。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
失業保険を受給できる条件と副業との関係
次に、失業保険の受給資格と、副業の関係について解説します。
失業保険を受け取るには、受給資格を満たす必要があります。そのため、副業をしている人が失業保険をもらえるかどうか判断するには、前提として失業保険の受給資格の理解が不可欠です。
失業保険の受給資格
まず、失業保険の受給資格として、雇用保険に加入していて、就労意思と能力があり、かつ、失業状態であることが必要となります。それぞれの内容について詳しく確認しましょう。
雇用保険に加入していることが前提
失業保険は、雇用保険に基づく給付なので、雇用保険に加入することが大前提です。雇用保険の被保険者となるには、31日以上の雇用見込みがあり、1週間の所定労働時間が20時間以上であることが要件となります。
失業保険を受けるには、雇用保険の被保険者期間が、離職の日以前2年間で通算して12ヶ月以上なければなりません(なお、会社都合の場合は、離職の日以前1年間で通算して6ヶ月以上で足りる)。
「失業保険は12ヶ月の加入が必要」の解説
就労の意思と能力があること
次に、就労の意思と能力があることも失業保険の受給資格の一つです。
失業保険は、いつでも働けるのに仕事に就けない人を支援する制度なので、働く意思がない人や、就職できない状態の人は給付を受けられません。例えば、求職活動を行っていない、専業主婦や学業に専念するための退職、妊娠・出産・育児や病気、ケガですぐに就職はできないといった場合、就労の意思と能力は認められません。
「失業保険の手続きと条件」の解説
失業状態であること
最後に、失業状態にあることが必要です。失業状態とは、就労の意思と能力があるにもかかわらず仕事に就けない状態のことです。「仕事に就いている」と判断されれば失業状態ではなく、失業保険を受給できません。
正社員として再就職していれば失業状態でないのは当然ですが、本解説のように本業の退職後に副業をしていた場合や、パートやアルバイトをした場合も、週20時間以上働いていると、そちらの勤務先で雇用保険に加入することとなり就職したものとみなされます。そのため、これらのケースでは失業保険を受給できません。
「失業状態」の解説
本業中に副業をしていた場合は?
本業があるうちから副業を行っていたケースについて解説します。
副業が「雇用型」の場合、週20時間未満の労働ならば、本業の雇用保険のみ加入でき、副業では加入できません。これに対し、副業の就労が週20時間以上だと、副業先でも雇用保険の加入要件を満たします。本業と副業のいずれでも加入要件を満たすときは、収入の多い本業で加入すべきところ、その後に本業がなくなると、副業で雇用保険に入ることとなります。この場合、本業を退職後も副業で雇用保険に加入することとなるため「失業状態」とはいえず、失業保険は受け取れません。
一方、「事業主型」の副業だと、在職中であると退職後であるとにかかわらず、その事業をストップしない限り失業保険はもらえません。個人事業主や、業務委託のフリーランスなど、自身で事業を行う人は、就労意思はないと判断され、失業保険の受給資格を満たさないからです。
「退職したらやることの順番」の解説
退職後に副業を始めた場合は?
次に、退職後に副業を始める場合、開始のタイミングと働く時間に注意を要します。具体的には、失業保険の待機期間中と、給付制限期間中とで考え方が異なるため、以下では分けて解説します(なお、会社都合退職の場合には7日間の待機期間の経過後すぐに失業保険を受け取れますが、自己都合退職の場合には待機期間後、2ヶ月の給付制限期間があります)。
待機期間中は失業状態である必要がある
失業保険の受給は、ハローワークへ離職票を出してから7日間の待機期間を経過する必要があります。この期間は失業状態でなければならないので、労働時間数にかかわらず働くことができません。待機期間中に副業でバイトやパートをすれば、失業状態ではなくなり、待機期間の終期が先延ばしになって受給の開始が遅れてしまいます。
給付制限期間中は週20時間まで副業が可能
自己都合退職では、失業手当の受給までに2ヶ月の給付制限期間を経る必要があります。給付制限期間中は、バイトなどの副業を始めることができます。つまり、給付制限期間中は待機期間中と異なり、労働時間に注意すれば副業をしながら失業保険を受給することもできるわけです。
具体的には、副業が週20時間未満なら失業保険を受けられますが、週20時間以上になると就職したものと扱われ、受給できなくなります。また、労働時間が週20時間未満でも、1日の労働時間が4時間以上となると、その日の分の失業保険の給付は先送りされます。1日4時間未満の労働は「内職・手伝い」として扱われますが、1日4時間以上となると就職(就労)したものとみなされてしまうからです。
このように、副業をしながら失業保険を受けたいなら、給付制限期間中の労働時間についても配慮が必要となります。
「自己都合と会社都合の違い」の解説
副業している場合の失業保険の受給について
副業していても失業保険を受けられるケースがあるのは前章「失業保険を受給できる条件と副業との関係」の通りです。次に、実際に支給を受けるために満たすべき条件や、副業収入があることによって失業保険が減額されるケースなど、受給時のポイントについて説明します。
副業中でも失業保険がもらえる条件
副業中に失業保険をもらうには、申請手続きを行い、失業認定を受けることが必要です。
具体的には、管轄のハローワークに離職票と本人確認書類などを提出します。失業保険の申請を行うと、ハローワークの審査により、副業の時間が20時間未満なら、受給資格が認められます。
受給資格が認められると、7日間の待機期間に入ります。待機期間中は、労働時間数にかかわらず、副業で働くとその日数分だけ待機期間が延長されてしまいます。待機期間を終えたら、ハローワークで雇用保険受給者初回説明会が開催され、そこで雇用保険受給資格者証や失業認定申告書を受け取り、失業認定日になったら失業認定を受けて受給が開始されます。
なお、失業認定は原則として4週間に1回の頻度で行われ、その都度、副業の状況などを記載した失業認定申告書を提出する必要があります。
「離職票のもらい方」の解説
副業の収入があると失業保険は減額される?
副業による収入があると、失業保険が減額されることがあります。失業保険が減額される可能性があるのは、1日4時間未満の副業をした場合で、具体的には副業収入の金額によって以下の計算方法で判断します。
- 合計金額 ≦ 賃金日額の80%
→ 減額なく全額支給される。 - 合計金額 > 賃金日額の80%
→ 基本手当日額から超過金額を減額した金額が支給される。 - 超過金額 ≧ 基本手当日額
→ 不支給となる。
※ 合計金額:(1日分相当の副業収入ー控除金額)+基本手当日額
※ 超過金額:合計金額ー賃金日額の80%
減額の計算は複雑なので、弁護士に相談するのがお勧めです。なお、副業が1日4時間以上の場合は、その日の分の失業保険は減額ではなく、一切の支給を受けられずに先送りされます。
退職後に副業から個人事業主として起業する場合は?
退職後に個人事業主として起業する場合は、失業保険を受給できません。事業を営んでいると就労意思はないものと扱われ、受給資格が認められないからです。ただし、起業に向けた準備期間中は失業保険の対象となる場合もあるので、ハローワークに相談しましょう。
また、起業して個人事業主となる場合も、事業を行う期間を受給期間に含めない「雇用保険受給期間の特例」を利用できます。失業保険の受給期間は離職日から1年間が原則ですが、この特例を受ければ事業を行っている期間が受給期間に算入されない結果、廃業届を提出した後に、失業保険を受給できるようになります。
雇用保険受給期間の特例が認められる要件は、次の通りです。
- 事業の実施期間が30日以上であること
- 事業を開始した日(事業自体や事業の準備に専念し始めた日でも可)から起算して30日を経過する日が失業保険の受給期間の末日以前であること
- 当該事業で、就業手当や再就職手当の支給を受けていないこと
- 当該事業で自立できないと認められる事業ではないこと
- 離職日の翌日以後に開始した(または専念した)事業であること
「退職後の競業避止義務」の解説
失業して仕事をしないのと、副業するのと、どちらが得?
退職後に副業すると、失業保険を受け取れなかったり減額されたりするため、一切働かずに失業保険を受給するのと、副業をするのとでは、どちらが得なのか、気になることでしょう。この点には正解がなく、個人の価値観や目的によっても判断が分かれます。
例えば、「最終的にたくさんの収入を得たい」と考える人にとっては、可能な限り早く副業を始めるべきです。失業保険はあきらめざるを得なくても、副業によって多くの経験値を積み、稼げるチャンスを広げることができます。
一方で、働かずして収入を得ることを目的とする人の場合、ひとまず失業保険の受給ができる間は副業に着手しない選択が望ましいといえます。
前述の通り、労働時間が週20時間以上となると失業保険を受け取れず、週20時間未満の副業でも、副業収入の金額が多いと、失業保険が減額されます。「いくらの収入を確保したいのか」「副業でどれくらい働き、いくらの収入が得られるのか」といったことを総合的に考慮して、納得のいく選択をするのが大切です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
失業保険を受給しながら副業・起業をする際の注意点
最後に、失業保険の受給しながら副業する際の注意点について解説します。手続きが不十分で給付を受けられなかったり、不正受給となったりしないよう、慎重に対応してください。
ハローワークに適切な活動報告をする
ハローワークに、副業や起業の事実、活動実績などを正確に報告することが大切です。
失業保険の手続きとして、定期的に失業認定申告書を提出し、失業状態であることを認めてもらう必要があるところ、失業認定申告書には「認定期間中に副業をしたかどうか」「どれくらいの時間就業したか」を記載する欄があります。単発のアルバイトやパートでも、収入を得た以上は、働いて給料をもらった事実を正確に申告しなければなりません。
ハローワークへの申告・報告において副業などの活動実績が漏れていると、失業保険を受けられなくなるおそれがあります。
不正受給にならないよう注意する
次に、不正受給とならないように注意してください。
失業保険を受給する際に、副業などの活動実績を明らかにする必要があるのは、情報に誤りがあったり不十分だったりすると、不正受給を疑われるおそれがあるからです。失業保険を多くもらおうとして意図的に副業の事実を隠したり、活動時間を少なく報告したりすることは許されません。うっかりミスで申告が漏れていた場合にも不正受給と判断される危険があります。
不正受給をすると、将来の失業保険が受け取れないだけではなく、既に受給した給付を全額返金しなければなりません。悪質な場合は、返金に加えて不正受給した金額の2倍(返金額と合わせると3倍)の金額の納付が命じられる場合もあります。不正受給のペナルティは非常に重く、少額でもバレる可能性があるため、安易に考えないようにしてください。
「失業保険の不正受給」の解説
起業する場合の手続き(開業届・確定申告など)を怠らない
起業する際は、失業保険の受給手続きの他にも、開業届の提出や確定申告の準備、青色申告承認申請書の提出など、事業者として行うべき準備が多数あります。
開業届は事業の開始から1ヶ月以内に管轄する税務署に提出しますが、開業日について明確な決まりはなく、出さなくても罰則はありません。開業日をいつにするかは、取引を開始した日や店をオープンした日など、ある程度自由に決められます。また、会社員(サラリーマン)は年末調整があるため確定申告は不要ですが、起業すると、毎年自分で確定申告をすることとなります。確定申告は1年間に発生した所得について、翌年2月16日から3月15日までの間に行う必要があります。
なお、開業届や確定申告の書き方、提出時に必要な添付資料など、手続きをする上で参考となる情報は、管轄する税務署に問い合わせて確認しましょう。
「個人事業主の解雇」の解説
まとめ
今回は失業保険と副業の関係について解説しました。
パートやアルバイトなど、副業をしていても、週の労働時間が20時間未満ならば、失業保険を受給することができます。一方で、副業で週20時間以上働く場合や、自身の事業として副業で起業するときは、失業保険を受け取ることができません。また、週20時間未満も、副業収入の金額によっては失業保険が減額されてしまうことがあります。
失業保険の申請をあきらめたり、条件を満たさないのに受給可能と誤解してしまったりしないよう、失業保険と副業の関係を正確に理解しましょう。不安のあるときは、労働問題に精通した弁護士に相談してください。失業保険には、原則として離職日から1年間の受給期間の制限があるため、早めの相談が重要です。
【失業保険の基本】
【離職理由について】
【失業保険をもらう手続き】
【失業保険に関する責任】