職場で、いつの間にか「外注」として扱われていた経験はないでしょうか。「雇用される労働者」と「外注」は明確に区別され、法的な保護の度合いは大きく異なります。表面的には同じ業務をこなしていても、契約形態が雇用ではなく外注とされてしまうと、法律上の保護が不十分となり、立場が不安定になってしまいます。
このような社内外注がなぜ起こるのかというと、外注にした方が、会社にとってメリットがあるからです。社員の外注化によって、残業代を払わなくて済むほか、解雇の規制もなく、不要になったらすぐに辞めさせることができる反面、働く人にとっては外注の立場はリスクの大きいものです。
今回は、社内外注が違法となるケースと、不当な社員の外注化や解雇をされてしまったときの労働者側の対応方法について解説します。
社内外注とは
社内外注とは、企業が「雇用する社員」に任せていた職務を、同じ職場内にいながら契約上は外部の業者や個人事業主と同じ「外注」という形式に変更することを指します。わかりやすくいえば「社員から業務委託への切り替え」のことです。社内外注にする手続きを「社員の外注化」と呼び、具体的には、労働契約を解約し、新たに業務委託契約を締結する流れで進められます。
雇用された労働者も、社内外注も、同じ社内で勤務することに変わりはないものの、法律上は全く異なる扱いを受けます。重要なのは、社内外注になると、労働基準法をはじめとした労働法の保護を受けられない点です。社内外注は、労働基準法9条の「労働者」としての保護を受けることができず、不安定な立場に置かれてしまうのです。
外注は本来「法務部の仕事を弁護士に依頼する」というように社外の独立した個人事業主・フリーランスに委託するのが通例ですが、社内外注の外注先は「社内」に存在します(多くは、元は社員として雇用していた人にそのまま外注します)。会社にとって既に実力を知る元社員に外注することで業務の質が担保されるメリットがありますが、社員の外注化のなかには、会社の悪質な動機、例えば「残業代や社会保険料の支払いを免れたい」「雇用リスクを負いたくない」といった理由で進められるケースも多くあります。労働者も納得して外注化に応じるならよいですが、無知に付け込まれて社内外注となってしまえば、労働者には次のデメリットがあります。
- 雇用が不安定になる
社内外注に雇用の保障はなく、業務委託契約の期間は限定され、契約更新も確実にされるとは限りません。 - 不利な条件に変更される
社員の外注化と同時に労働条件の不利益変更が起こることがあります。地位が不安定になるリスクの分だけ、業務委託の報酬は社員の給料より高いのが通例ですが、社内外注は安く買い叩かれ、給与や福利厚生の面で不利な条件に変更されるおそれがあります。 - 労働法の保護がなくなる
社内外注となると労働者としての法的保護は適用されません。例えば、解雇規制、残業代の支払いや長時間労働を抑制するための労働時間のルールは適用されず、労働者なら享受できた権利を失ってしまいます。
労働者は、使用者との関係で弱い立場として保護されるのに対し、業務委託の個人事業主やフリーランスは、会社と対等であると考えられていることが背景にあります。しかし実際は、個人事業主やフリーランスのなかで会社と対等な力を持つのはごく一部で、多くは、弱い立場に変わりありません。特に、社員の外注化によって生まれた社内外注は、元はといえば労働者だったのであり、契約形態が変わるだけで実態が変わらないと、労使の力関係の強弱は、雇用された当時と全く変わらないことがほとんどです。
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社内外注は違法となる場合がある
社内外注そのものは法律で禁止されてはいませんが、実際には、社内外注は違法となる可能性が大いにあります。
社内外注の違法性
社内外注は、次の2つの観点から、違法となる可能性があります。
違法な偽装請負(派遣法違反)
社内外注が「偽装請負」に該当するなら、派遣法違反であり、違法です。偽装請負は、業務委託の形式を取りながら実態は雇用であり、「請負を偽装している」という意味です。
形式は外注なのに、実際には業務を直接指示し、監督しているなら偽装請負であり、派遣法に違反します。社内外注では特に、人件費カットや雇用リスクの回避といった目的で社員を外注化したのに、その後も社員だった頃と同じように指示を続けるケースが多く、違法になりすい傾向があります。本来なら、外注でなく派遣労働者として扱い、派遣法のルールを遵守しなければなりません。社内外注が、違法な偽装請負となっているかどうかは、実際の指揮命令を誰が行っているかによって判断するのがポイントです。
実質的には労働者として保護すべきケース
形式的に外注として扱っても、実態は労働者なら、労働基準法をはじめとした労働法で保護されるべきです。労働基準法9条の「労働者」は「事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されますが、この判断は実質的に行われるのであり、社内での呼び名や契約の形式によっては左右されません。
労働者として保護すべきなのに、外注として不当な扱いを受けている人を「名ばかり事業主」と呼ぶこともあります。このような扱いは、労働者としての権利を侵害される点において、各種の労働法のそれぞれに違反することとなります。
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社内外注が違法と判断された裁判例
裁判例でも、社内外注が違法と判断されているケースがあります。
大阪地裁令和4年5月20日判決は、土木工事の施工管理に従事する労働者が、会社の求めに応じて業務委託契約に変更したケースで、この外注化に伴って健康保健資格を喪失したものの、実態として労働者なら支払いが不要だった国保の保険料を損害として賠償請求をした事案です。
裁判所は、「健康保険法3条3項所定の適用事業所の事業主は、同法48条に基づき、健康保険の被保険者の資格の取得及び喪失等の事項を届け出る義務を負う」とし、会社が健康保険法上の適用事業所であることは容易に認められると判断しました。直接的に明示されてはいないものの、届出義務の不履行を通して、社内外注には違法性があると認めたものといえます。そして、この義務を怠った点について、会社に対して自己負担分に相当する約118万円の支払いを命じました。
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社内外注は労働者にとってデメリットがある
社内外注は、会社にとってのメリットのために行われるもので、その反面、社員から外注先に転身する人には多くのデメリットがあります。自分にもメリットがあると感じるなら外注化に応じてもよいですが、具体的なデメリットをよく吟味して決めるようにしてください。
解雇されやすい不安定な立場
社内外注のデメリットの1つ目は、解雇されやすい不安定な立場であることです。
弱い立場にある労働者は、厳格な解雇規制によって保護されます。事前の解雇予告(もしくは解雇予告手当の支払い)が義務とされ(労働基準法20条)、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、違法な不当解雇として無効となります(労働契約法16条)。
これに対し、会社と対等の立場とされる個人事業主・フリーランスには、この規制が適用されず、民法の「委任」のルールに従っていつでも解約することができます。
いわゆるフリーランス保護法や民法によって一定の保護はあるものの、労働者と比べると格段に弱いものです。契約上の地位は、著しく不安定となり、社内外注となることによって辞めさせられやすくなってしまいます。会社を辞めざるを得なくなれば仕事を失い、収入を絶たれてしまいます。
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残業代がもらえない
社内外注のデメリットの2つ目は、残業代がもらえないことです。
残業代の請求は、労働基準法37条に定められた労働者の権利です。そのため、労働者でなくなってしまえば残業代を受け取ることはできません。社員の外注化によって社内外注となった個人事業主は、会社の具体的な指揮命令を受けて稼働するのではなく、時間に応じて報酬を受けるわけでもないのが原則です。業務委託は成果によって評価され、いつどのように働くかは、その人の自由に決めることができるからです。
ただ、社内外注の場合だと、この業務委託の原則的なルールは通用せず、社員だった頃と同じくオフィス内で働き、指揮命令を受け、時間的にも拘束される人も少なくありません。この場合には前章の通り、本来なら労働者として保護され、残業代を受け取るべきであり、残業代未払いは違法となる可能性があります。
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社員に比べて福利厚生がない
社内外注のデメリットの3つ目は、福利厚生が得られないことです。
労働者の場合には、会社によっては充実した福利厚生を受けられます。特に、 正社員として採用される場合、離職防止の観点から、充実した福利厚生を約束されるケースも少なくありません。住宅補助や特別休暇など、給与面以外の福利厚生が入社の決め手となった人も多いでしょう。一方で、社員の外注化によって社内外注となると、基本的に福利厚生はありません。
福利厚生は、長期雇用を想定してのものであり、業務委託には付与しないことが多いです。福利厚生がない分だけ、業務委託の報酬は社員の給与よりも高いことが多いですが、社内外注は必ずしもそうではなく、福利厚生がなくなっても給与面の引き上げはないこともあります。社員なら加入できた社会保険(健康保険・年金保険)や労働保険(労災保険・雇用保険)にも加入できません。
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社内外注を理由に辞めさせられるのは違法の可能性がある
社内外注として扱うことを理由に解雇されたり、退職を強要されたりといった扱いは、違法な可能性があります。また、業務の外注化を契機として仕事がなくなって解雇されるケースもあります。いずれの場合も、正当な解雇理由がなければ不当解雇であり、会社と争うべき場面です。
偽装請負なら労働者として保護され不当解雇となる
社員の外注化によって社内外注となった業務委託でも、労働者としての実質があるなら、違法な偽装請負であると解説しました。このとき、その実質に即して、労働契約法16条の解雇規制が適用されるため、正当な解雇理由のない解雇は、不当解雇として争うことができます。
裁判例においても、東京地裁令和2年3月25日判決(ワイアクシス事件)は、広告会社から業務委託を受けたコピーライターが契約終了を通知されたケースで、指揮監督下での労働であり、具体的な仕事の依頼や業務指示の諾否の自由がないこと、時間的場所的な拘束が相当程度あったこと、労働時間に対する固定報酬であったことなどの事情から、実質的には労働契約であり、客観的に合理的な理由があるとは認められないため解雇は無効であると判断しました。
「解雇が無効になる例と対応方法」の解説
退職の強要は社内外注でも違法となる
自主的に辞めるよう促すことは、雇用される労働者なら違法な退職強要となりますが、社内外注であっても違法な行為となる可能性が高いです。というのも、契約関係は、当事者間の合意によって成り立つものであり、強い働きかけによって他人の意思を左右することは許されないからです。
社内外注は、その実質が労働者であるときは特に弱い立場に置かれ、他の社員と同じく、退職勧奨を拒否しているにもかかわらず続け、強い圧力をかければ、違法な退職強要とみなされます。
「退職強要の対処法」の解説
外注化を理由とした解雇も違法
社員の外注化において、自身に外注先として今後も仕事を任され続けるならまだよいでしょう。そうではなく、人件費のカットなどを目的として担当業務を外注化され、その結果として担当していた仕事がなくなり、解雇されてしまうという最悪のケースもあります。
業務の外注化に伴う解雇は、能力不足や協調性の欠如といった労働者に理由のあるケースとは異なり、会社の一方的な都合による整理解雇、いわゆるリストラと同視されます。そのため、会社の一方的な理由による解雇として、その有効性は非常に厳しい基準で判断されます。具体的には、整理解雇の4要件にしたがい、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性といった4つの側面から判断されます。
「整理解雇が違法になる基準」の解説
社内外注として不当な処遇を受けたときの対処法
最後に、社内外注として不当な処遇を受けたときの対処法を解説します。
社内外注として仕事をしていて不当な処遇を受けたなら、適切な対処を速やかに行うのが重要です。不当な処遇には、いきなり契約を打ち切られたり、不利な条件に変更されたり、報酬が未払いだったりといったケースがあります。社内外注は、会社と対等な立場の事業者ですから、言うなりになってこき使われる理由はなく、正当な処遇を受けられるよう強く要求すべきです。
契約内容を確認する
不当な処遇に気付いたら、最初に行うべきは、契約内容の確認です。
自分がどのような契約の種類、契約条件で働いているかを明確にすることが、企業側の契約違反を指摘するための第一歩となるからです。特に、違法な偽装請負となるような時間的場所的な拘束、具体的な業務指示などがある場合は、労働者としての保護を主張しやすくなります。
業務委託契約書や外注契約書のほか、社員の外注化によって社内外注となった方は、以前に結んでいた雇用契約書も含め、契約書を確認してください。また、不当な処遇を受けたときは、できるだけ証拠を残すことも重要です。契約書だけでなく、給与や報酬の支払いの明細、メールでのやり取りや会話の録音といった、後の裁判で役立つ可能性のある資料を収集しましょう。
「不当解雇の証拠」の解説
適切な働き方を要求する
違法な点が明らかになったら、会社に対して適切な働き方を要求し、改善を求めてください。実質が労働者ならば、それに合わせて社員に戻してもらえるように求める方法がよいでしょう。もしくは、業務委託という自由な立場にメリットを感じるなら、形式に合わせて委託の範囲外となる業務を拒否したり、具体的な指揮命令をしないよう求めたりする方針もあり得ます。
社内外注のタイミングで不当な処遇を受けたとしても、今後も会社との関係性を継続したいなら、個人事業主・フリーランスとして委託業務の内容や報酬の額などについて、柔軟に話し合う姿勢を見せるのが有効です。会社と話し合うより前に、労働問題に精通した弁護士からアドバイスを受けるのが賢明です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
残業代を請求する
実質として労働者の扱いを受けているとき、改善を要求するには残業代請求をするのが効果的です。違法な偽装請負を強いる会社の思惑は「残業代の支払いを免れたい」というものが多いからです。このとき、実際に働いた時間の証拠をできるだけ多く収集しておくのがポイントです。
社内外注であった時期の残業代はもちろんのこと、外注化される前の労働者であった時期の残業代もあわせて請求できます。残業代の時効は3年のため、できるだけ早急に請求しましょう。
「残業代を取り戻す方法」の解説
不当解雇を争う
社内外注が、違法な偽装請負なら、契約を打ち切られてしまったときに不当解雇として争う余地があります。争い方は、雇用された労働者と同じであり、まずは打ち切りとなった理由を特定するために会社に書面で質問し、回答を求めます。そして、理由が開示されたら、その理由ごとに反論し、合わせて反論を基礎づける証拠を提示します。
労使間のトラブルは、交渉が決裂すると労働審判、訴訟といった裁判手続きを行います。労働審判は、労働者と使用者の争いにしか利用できませんが、たとえ社内外注の個人事業主・フリーランスであっても、実質が労働者であると評価されれば、労働審判を利用できる場合があります。
「解雇を撤回させる方法」「解雇の解決金の相場」の解説
まとめ
今回は「社内外注」という不当な扱いについて、違法性と対処法を解説しました。
社内外注は、一見すると柔軟な働き方の一つであって、働く人にもメリットがあるように見えるかもしれません。実際、近年では業務委託で働く個人事業主やフリーランスが増加しています。
しかし、会社の利益追求やコスト削減を目的にして、今まで社員だった人を外注に切り替えようとするとき、労働者にとっては大きなリスクが隠れています。甘んじて、社内外注の立場を受け入れてしまうと、残業代が請求できず、解雇の規制も及ばないなど、労働法の保護を受けられなくなってしまうからです。社員の外注化は、労働者にとってはデメリットしかありません。
自身の契約内容をよく確認し、労働者として保護されるべきではないかと疑問があるなら、労働問題の専門家である弁護士に相談し、権利を守るためのアドバイスを得ましょう。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】