会社にたくさんの人が集まると、どうしても「やる気のない社員」がいます。少子高齢化に伴う労働力人口の減少で、人材不足が叫ばれており、中小企業ほど、やる気のない社員でもクビにすることができず、雇い続けるしかないことがあります。
やる気のない社員がいると、社内全体の士気が下がってしまいます。全社のモチベーションが低下すると業績悪化に繋がるため、一社員の問題と甘くみることはできません。上司や管理職など、責任あるポジションだと「やる気のない社員は解雇したい」と感じるでしょう。しかし、解雇は制限されており、「やる気がないから」といってすぐクビにはできません。やる気のない社員の分、周囲に仕事の負担が押し付けられると、長時間労働や残業代など、別の労働問題に派生します。
今回は、「やる気のない社員をクビにしてもらえないのか」と不満の募る人に向けて、やる気のない社員を会社に解雇してもらうための立ち回りについて解説します。
- やる気のない社員は、その人だけの問題でなく全社的な悪影響がある
- やる気のない社員をクビにする権利は会社にしかないが、解雇は容易ではない
- やる気のない社員を辞めさせるために、会社に進言し、現場の意見を伝える
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やる気のない社員による悪影響
まず、やる気のない社員が周囲に及ぼす悪影響について解説します。
少子高齢化に伴って、人手不足や採用難への対応が急務となっています。また、近年はワークライフバランスが重要視され、社員一人あたりの業務量も低下しがちです。働き手が足りないと、やる気のない社員でも「いないよりまし」というのが現状の企業もあります。
やる気のない社員とは、次のような特徴を有する人です。
- 業務態度に関する特徴
- 仕事に無関心であり、積極的に参加しない
- 自ら行動せず、上司からの指示待ち状態である
- 時間管理に関する特徴
- 時間に対する意識が低く、頻繁に遅刻や早退をする
- 残業を避け、仕事が終わっていなくても定時退社する
- 成果やスキルに関する特徴
- 目標を達成する意欲がなく最低限の成果しか出さない
- 自己成長やスキルアップに関心がない
- 社内の立ち回りに関する特徴
- 同僚や上司とのコミュニケーションを避ける
- チームでの協力作業や会議に消極的である
- 職務態度に関する特徴
- 会社の不満や愚痴ばかり言うが、自分は改善しない
- 常にネガティブな態度で職場の雰囲気を悪くする
「辞められると困る」となると、会社もなかなか強くは指導せず、まして、解雇などできないケースも多いものです。しかし、一緒に働く立場では、このような会社の都合はさておき、やる気のない社員が居座ると、現実的に大きな悪影響があります。
社内の士気が下がる
まず、社内の士気が下がることです。やる気のない社員がいると、職場全体の空気が悪くなります。働かない社員はどの会社にも一定数いますが、やる気のなさの程度がひどいと、大きな害悪です。「サボっても許される」という雰囲気が伝わると、他の社員も仕事をしなくなり、社内の士気が下がっていきます。
このようなダラけた状態だと、在職し続ける人はもちろんのこと、新たに入社する人も「サボってもクビにされないぬるい会社だ」と勘違いしてしまいます。
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公平感がなくなる
次に、公平感がなくなることです。やる気のない社員がいると、真面目に働くのが馬鹿らしくなってしまいます。
やる気があってもなくても同じ評価なら、だらけてしまう人も多いでしょう。「頑張っているのに評価されていない」「どうせ同じならサボろう」と思うのも仕方ありません。やる気がないとしても、最低賃金法で守られている以上、辞めさせない限りは最低限の給料は保障されてしまいます。
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同僚の負担が増し、残業が増える
やる気のない社員が責任をもって仕事をしないと、他の社員にしわよせが来ます。同僚の負担が増し、残業が増えてしまい長時間労働になります。やる気のない社員がいることが、一緒に働く人の負荷やストレスを増してしまい、不満に繋がるのです。
頑張った分だけ残業代がもらえればまだしも、やる気のない社員を放置するような労務管理の雑な会社では、残業代を払わないサービス残業となってしまっていることもしばしば。更に、たとえ残業代が払われても、長時間労働となって心身の健康を崩してしまう危険もあります。
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やる気のない社員をクビにできる?
次に、やる気のない社員をクビにできるかについて解説します。
現実問題として、「業務の都合上、クビにすることができない」という会社は多いです。やる気がないとは分かっていても、人員が少なく、その人を辞めさせると仕事が回らないのが理由です。このようなケースでは、他の社員に悪影響だとしても、会社は解雇には踏み切りません。
そして重要なのは、法律問題としても解雇はそれほど容易ではないという点です。やる気のない社員は、問題社員には違いありませんが、それだけの理由で解雇できるとは限りません。解雇は厳しく制限され、解雇権濫用法理のルールによって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でないときは、「不当解雇」として違法、無効となるリスクもあります(労働契約法16条)。
「やる気がない」という問題点を理由に解雇したいとき、まずは注意指導して、改善のチャンスを与える必要があります。その上で、解雇をする前に、懲戒処分による制裁を与えたり、それでも聞かない場合は解雇理由を説明して弁明を求めたりといったプロセスを踏まなければ、軽々にした解雇は、対象者から争われると無効になってしまうリスクがあります。
やる気のない社員が早くクビになってほしいという気持ちはわかりますが、会社としても「分かってはいるが、それほど簡単なものではない」という本音もあります。そのため、やる気のない社員をクビにしてもらうまでには、次章の通り、粘り強い働きかけが必要です。
「解雇の意味と法的ルール」の解説
やる気のない社員を辞めさせる方法
次に、やる気のない社員を辞めさせる方法について解説します。
前章では、たとえやる気のない社員でも、解雇は容易ではないと解説しました。しかし、他の社員のやる気まで失わせている現状を会社に理解させれば、対応が進むこともあります。職場環境の改善のためにも、うまく働きかけをする必要があります。
悪影響を会社に説明する
やる気のない社員にはクビがふさわしいと、会社に理解してもらう必要があります。会社に対して、次の事情を説明して、状況を改善してもらえるよう促しましょう。
- やる気のない一部の社員のせいで、職場環境が悪くなっている
- 人が足りない現状ではあるが、このままだと他の社員が退職してしまう
- やる気のない社員のせいで、真面目に働く社員が長時間労働となり、健康被害が出ている
- 不公平感が、職場のモチベーションを下げている
重要なポイントは、単なる「職場への不平不満」だと取られないように説明することです。愚痴や不満だと受け取られると、逆にあなたが「やる気がない」と評価されてしまいます。会社の立場で考えれば、やる気のない社員でも、一応は戦力となっている可能性があります。あくまで「自身の利益」ではなく「会社の利益」「立場」を理解していることを伝えましょう。
やる気のない社員をそのまま働かせる場合と、きちんと対処する場合とのメリット・デメリットを提示し、解雇をはじめとした対処をしたほうがメリットが大きいと理解させる必要があります。
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適切な処分を進言する
解雇するか、他の処分(例えば懲戒処分や注意指導など)にとどめるかを決める権利は会社にあります。やる気が全く見られない社員でも、経営判断として「いてもらったほうがよい」という場合もあります。このとき、労働者の立場でできるのは「会社への進言」です。
不公平感を抱き、モチベーションの下がったまま仕事をすると、やる気のない社員の影響だったとしても、あなた自身の評価も「やる気がない」として下がってしまう危険があります。進言し、現状を把握してもらうことは、あなたの身を守ることにもなります。
「勤務態度を理由とする解雇」の解説
他の同僚と協力する
あなたの個人的な文句、恨みだと思われないよう、他の同僚と協力する手も有効です。職場の空気が悪いことを、一人の主観だと思われないようにしなければなりません。
経営者ほど、現場が見えていないこともあります。「その人を嫌いなのでは」「相性の問題ではないか」など、パワハラやいじめを疑われないよう、社員の総意として伝えましょう。会社に進言するときは、「自分への影響」ではなく「職場環境への影響」を中心に説明しなければなりません。職場全体での対応は、団結して、労働組合となって進めるのも効果的です。
「労働組合がない会社の相談先」の解説
やる気のない社員との人間関係に注意
やる気がない、勤務態度が悪いといった点が事実でも、注意されると逆上する人もいます。会社に告発されたことを根に持って、「告げ口された」と反撃してくる可能性もあります。
あなたがすべきことは、現状を伝えることに終始すべきです。注意指導、懲戒処分や解雇など、どう処分するかは会社次第ですが、その人には悪く伝わるかもしれません。適切な対応ができない会社だと、「誰が会社に伝えたか」を本人に知られてしまう危険があります。
やる気のない社員を解雇してほしいとクレームを言うとき、その社員とのトラブルは当然避けたいでしょう。問題ある社員との間でも、職場の人間関係には注意が必要です。
「部下から上司への逆パワハラ」の解説
やる気のない社員を会社が放置するときは?
あなたにとっては問題のある社員でも、会社としては高評価である例もあります。
解雇するかどうかを決めるのは使用者であって、労働者ではありません。どれほど地位が上であっても、役員や管理職であっても最終的な決定権はありません。経営者でない限り、やる気のない社員の労働者としての地位を奪うことはできません。
現場目線では「明らかに解雇した方がよい」と感じるやる気のない社員でも、放置し続けている会社は少なくありません。このとき、自分が損しないよう対応するのが重要です。
やる気のない社員から距離を置く
やる気のない社員が放置されていても、自分のすべきことは変わりません。その社員から距離を置き、自分の仕事を淡々とこなしましょう。やる気のない社員が原因で空気の悪くなる職場は多いですが、せめて自分には、やる気のない社員の悪影響が及ばないようにしましょう。
パワハラといわれないよう注意する
やる気のない社員に、感情的に当たり散らすのはお勧めできません。たとえ相手にやる気が感じられなくても、注意の方法によってはパワハラに該当します。パワハラをすれば、あなたの違法行為となり、不利になってしまいます。
やる気のない社員に冷たく当たったり、人格否定したりすれば、慰謝料を請求されるおそれもあります。注意指導のやり方が間違っていると、会社からも「上司として不適任だ」といった低い評価をされてしまいます。やる気のない社員ほど、被害妄想が強いことがあり、少しでもパワハラと感じられる行為をしたことが大きなトラブルに発展してしまうことがあります。
「パワハラと言われた時の対応」「パワハラと指導の違い」の解説
正当に評価されないなら退職する
やる気のない社員を放置する会社に、勤務し続けるのは辛いでしょう。
現場を知らない評価者が、むしろ問題社員を高評価してしまうような会社に、これ以上貢献すべきではありません。やる気を正しく評価してくれる会社に転職することを検討しましょう。やる気のない社員を放置する会社ほど、真面目に働く社員を酷使しがちです。やる気のない社員が支持される会社は、正当な評価ができず、いずれ不公平感を抱かれます。
「会社の辞め方」の解説
まとめ
今回は、社内にいる「やる気のない問題社員」にどう対応すべきか解説しました。
やる気のない社員の対応は、会社の責務であり、労務管理の問題です。しかし、しっかりと対処されなかったり、人手不足などで、問題があっても雇い続けなければならないと判断されていたりするとき、過度な迷惑を被らないよう、同僚としても立ち回りが重要です。
やる気のない社員が一人でも社内にいると、その悪影響は非常に大きいと言わざるを得ません。人手不足だと、会社としては「いないよりはましだ」という判断で雇い続けることがありますが、やる気のないことは、直接は目に見えなくても周囲に伝播し、様々な労働問題の原因となります。
人事権を持つ会社が、やる気のない社員に対処すべきですが、適切な対応をされないときは、労働者側でも働きかけが必要となります。その人だけの問題でなく、職場全体に及ぶ重大事だと理解させ、早急に対処してもらえるよう行動しましょう。
- やる気のない社員は、その人だけの問題でなく全社的な悪影響がある
- やる気のない社員をクビにする権利は会社にしかないが、解雇は容易ではない
- やる気のない社員を辞めさせるために、会社に進言し、現場の意見を伝える
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