解雇をされた場合、30日前に予告をされていなければ労働者は解雇予告手当を受領できます。このことは解雇を争う場合も、争わない場合でもあてはまります。ところが、なかなか解雇予告手当が払われない会社もあるため、未払いがあるときは強く請求しなければなりません。
この請求時に作成すべき書類が、解雇予告手当請求書です。解雇予告手当請求書は、法律の定める解雇予告手当を払わない会社に強いプレッシャーをかけ、円滑に払わせるための重要な手段です。速やかな支払いを受けるには、事案に応じた適切な内容の書面を送付する必要があります。書き方を誤ると、もらえたはずの手当を受け取れず損するだけでなく、トラブルに発展する危険もあります。
今回は、解雇予告手当請求書の書き方を、テンプレートを示して解説します。なお、不当解雇を主張して争う場合は、解雇予告手当を請求する書面を出すと、解雇を争う行動と矛盾して不利になるおそれがあるので注意してください。
解雇予告手当請求書のテンプレート
まず、解雇予告手当請求書のテンプレートを解説します。
解雇予告手当請求書とは、解雇予告手当を払う義務があるのに未払いのまま放置している会社に対して送付すべき書類です。解雇予告のルールとして、解雇の30日前に予告をするか、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う義務が会社にはあります(労働基準法20条)。
そのため本解説では、解雇予告手当請求書がよく必要になる場面ごとに、記載例を紹介します。ご事情にあわせて、文例としてダウンロードして活用ください。
即日解雇の場合の文例
まず、即日解雇の場合、解雇予告手当請求書の文例は、次の通りです。即日解雇の場合には、解雇予告期間は全くないため、30日分の解雇予告手当を請求する内容とすべきです。
解雇予告手当請求書
20XX年XX月XX日
株式会社◯◯◯◯
代表取締役 甲野一郎殿
東京都〇〇区〇町〇丁目〇番〇号
乙野次郎㊞
私は、20XX年XX月XX日より、貴社営業部の社員として勤務して参りましたが、20XX年XX月XX日、同日付で解雇を言い渡されました。しかしながら、貴社は現在に至るまで、解雇予告手当を一切支給していません。
よって、本書面をもって30日分の解雇予告手当の支払いを請求します。下記の通り、お支払いくださいますようお願い申し上げます。万が一、下記期限までに入金を確認できない場合は、労働基準監督署へ申告すると共に、法的手段により解雇予告手当とその遅延損害金、及び、同額の付加金等を請求せざるを得ないことをあらかじめ申し伝えます。
記
1. 解雇予告手当:316,484円
2. 支払対象日数:30日分
3. 支払期限:本書面到着から1週間以内
4. 支払方法:下記の口座に振込み
(XX銀行 XX支店 普通0XXXXXX 名義人:乙野次郎)
【解雇予告手当の計算方法】
解雇予告手当 = 平均賃金 × (30ー解雇予告日数)
平均賃金 = 直近3ヶ月の総支給額 ÷ 暦日数
直近3ヶ月の給与計算期間 | 暦日数 | 総支給額 |
---|---|---|
4月分:4月1日~4月30日 | 30日 | 32万円 |
5月分:5月1日~5月31日 | 31日 | 32万円 |
6月分:6月1日~6月30日 | 30日 | 32万円 |
合計 | 91 | 96万円 |
平均賃金 = 96万円 ÷ 91日 = 10,549円
解雇予告手当=10,549 × 30日 = 316,484円
以上
一定の予告日数がある場合の文例
予告日数がある場合は、不足する日数分の解雇予告手当が請求できます。例えば、1週間前に予告された場合であれば、23日分(30日-7日)の請求が可能です。この場合、解雇予告手当請求書の書き方は、次の通りです。
解雇予告手当請求書
20XX年XX月XX日
株式会社◯◯◯◯
代表取締役 甲野一郎殿
東京都〇〇区〇町〇丁目〇番〇号
乙野次郎㊞
私は貴社において、20XX年XX月XX日より勤務を開始しましたが、20XX年XX月XX日、その一週間後である20XX年XX月XX日付で解雇する旨を言い渡されました。 したがいまして、貴社は私に対して、23日分の解雇予告手当を支払う義務を負います。しかしながら、私はいまだ上記手当を受け取っておりません。
よって、本書面をもって23日分の解雇予告手当の支払いを請求します。下記の通り、お支払いくださいますようお願い申し上げます。万が一、下記期限までに何らのご対応もいただけない場合は、労働基準監督署へ申告すると共に、やむなく法的手続きをとらせていただきます。その場合、法的手段により解雇予告手当とその遅延損害金、及び、同額の付加金等を請求せざるを得ないことをあらかじめ申し伝えます。
記
1. 解雇予告手当:242,627円
2. 支払対象日数:23日分
3. 支払期限:本書面到着から1週間以内
4. 支払方法:下記の口座に振込み
(XX銀行 XX支店 普通預金 口座番号0XXXXXX 名義人:乙野次郎)
【解雇予告手当の計算方法】
解雇予告手当 = 平均賃金 × (30ー解雇予告日数)
平均賃金 = 直近3ヶ月の総支給額 ÷ 暦日数
直近3ヶ月の給与計算期間 | 暦日数 | 総支給額 |
---|---|---|
4月分:4月1日~4月30日 | 30日 | 32万円 |
5月分:5月1日~5月31日 | 31日 | 32万円 |
6月分:6月1日~6月30日 | 30日 | 32万円 |
合計 | 91 | 96万円 |
平均賃金 = 96万円 ÷ 91日 = 10,549円
解雇予告手当=10,549 × 23日 = 242,627円
以上
既に口頭やメールで解雇予告手当を請求している場合
既に口頭などで解雇予告手当を請求している場合でも、解雇予告手当請求書によって改めて催告しておくことには大きな意味があります。内容証明で書類を送ることで、会社に大きなプレッシャーを与えることができ、かつ、請求した事実を証拠に残すことができます。未払いが悪質であることを示すため、このような解雇予告手当請求書には必ず、既に請求済みであることを記載しておきましょう。
この場合、解雇予告手当請求書の書式例は、次の通りです(前章と重複する部分は省略)。
解雇予告手当請求書(催告書)
20XX年XX月XX日
株式会社◯◯◯◯
代表取締役 甲野一郎殿
東京都〇〇区〇町〇丁目〇番〇号
乙野次郎㊞
私は、20XX年XX月XX日、貴社に対し、解雇予告手当XX万XXXX円について支払期限を同月XX日までと定めて支払うよう請求しました。同支払期限を過ぎましたが、未だ上記手当の支払がありません。
よって、本書面到達後直ちに、既に通知済みの指定の銀行口座(XX銀行 XX支店 普通預金 口座番号0XXXXXX 名義人:乙野次郎)に、上記手当を振り込んで支払うよう催告します。なお、お支払なき場合には法的措置を講ずる所存であることを申し添えます。
以上
解雇予告手当請求書の基本的な書き方
次に、解雇予告手当請求書の基本的な書き方を解説します。
解雇予告手当請求書の書き方に、法律上のルールはありません。手書きでもパソコンによる作成でも、いずれでも構いませんし、用紙や筆記具にも指定はありません。ただ、金銭の支払いを請求する書面である以上、最低限、請求金額と支払方法、支払期限が明記されている必要があります。また、労働者に有利な内容を間違いなく記載しなければ、解雇予告手当請求書を送付する目的を果たせないおそれがあります。
わかりやすく誤解を招かないという心構えは当然として、労働問題の渦中にあるという事実を踏まえ、気を引き締めて作成する必要があります。
書面の題名、宛名、請求者名を明記する
まず、必須となる書面の題名、宛名、請求者名を明記します。これらの記載がなければ、何を目的とした文書かが全くわからなくなってしまいます。
書面の題名は「解雇予告手当請求書」と記載するのが端的ですが、タイトルがどうあれ大切なのは文面であり、本文から解雇予告手当の請求だとわかれば問題ありません。会社との対立を和らげたい場合には「通知書」などとして刺激を薄めることもあります。また、何度も請求したのに払われない場合は、「催告書」と記載して複数回請求していることを明らかにします。
宛名、請求者名も正確に記載してください。宛名は法人名と代表者名を併記します。請求者名は氏名と住所を記載しておくと、返答を得やすいです。記載場所は、文頭でも文尾でも構いません。請求者名の末尾に押印することは必須ではないものの、印鑑を押すことで重要書類であると示す効果が期待できます。
書面の作成日を記載する
書面の作成日も忘れずに記載してください。重要な情報なので、上部に記載するのが通例です。
作成日は通常、発送日を記載するのが実務です。作成から日をおいて発送する予定の場合は、発送日が確定してから記載します。解雇予告手当請求書に作成日(発送日)を記載しておくことで、いつ送付したかを明らかにし、未払いが生じたときの悪質性を際立たすことができます。
解雇予告手当を正確に計算して不足日数分を請求する
解雇予告手当請求書には、請求する解雇予告手当の額と対象となる日数、計算方法を記載します。法律知識の乏しい会社に送る書面ほど、計算方法を詳しく書くことが、法律違反の点について説得的に説明する手助けとなります。
解雇予告手当の金額は、次の計算式で算出します。
- 解雇予告手当の金額=(30-解雇予告期間)×平均賃金
即日解雇ならば30日分の解雇予告手当を請求することができます。計算方法について詳しくは次の解説をご覧ください。
「解雇予告手当の請求方法」の解説
支払期限と支払方法を指定する
解雇予告手当請求書には、支払期限と支払方法を指定してください。期限を区切ることで会社へのプレッシャーを強めるとともに、先延ばしにされないようにして労働者側の損失を減らす効果があるからです。また、支払方法を記載しておかないと、いざ会社が支払う気持ちになったときに対応するハードルが高くなってしまいます。
支払期限は、「本件書面到着後1週間以内」といった記載の方法が多いですが、「20XX年XX月XX月日まで」といった具体的な日を特定する方法も可能です。支払方法としては、既に解雇後であるため、相当の期間を定めて振込送金の方法による支払いを求めるのが最適です。
振込先口座情報を正確に記載する
振込みによる支払いを求める場合、振込先口座情報を記載します。誤りのないよう通帳やキャッシュカードを参考にして正確に転記してください。在職中の給与口座に振り込んでもらう場合でも、既に退職してしまっているので念のため記載するのが無難です。
期限までに支払われない場合は法的措置を講じると警告する
解雇予告手当請求書の効果を強めるために、期限内に支払いがない場合に法的措置を講じる旨を記載して、警告をします。
記載すべき事後対応は、労働基準監督署への通報、労働審判や訴訟などの裁判手続きといった内容が一般的です。速やかに支払うことに会社にとってもメリットがあると示すため、裁判手続きに移行する場合には、遅延損害金や付加金によって支払額が増すことを伝えます。不利益な扱いをした場合には慰謝料や損害賠償の請求もありうることを伝え、誠意ある対応を求めることもできます。
なお、言葉選びには慎重にならないと、社長の感情を逆撫でし、かえって紛争を助長してしまうリスクがあります。解雇されて会社に憤りを感じるのは当然ですが、解雇予告手当請求書の最終目的は、手当を支払ってもらうことです。相手の性格や事案の性質にも留意して、どうにか支払ってもらえるように文面を考えていく必要があります。
弁護士を窓口にする場合
書き方の最後に、弁護士を窓口にする場合の記載例を紹介しておきます。
- 書面の作成者として、弁護士名、法律事務所名を記載する。
- 本文に、弁護士を窓口にして交渉することを伝える。
例:「今後は、本件についての一切の交渉について弁護士への連絡を行うようにし、本人への直接の連絡はお控えいただけますようお願い申し上げます」
解雇予告手当請求書を弁護士に依頼した場合には、弁護士名義での請求書を送付することができます。この場合、文面の作成、送付のいずれも弁護士に任せることができ、弁護士を窓口にすると伝えることによって、今後直接の連絡をしなくても済み、精神的なストレスを軽減できます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
解雇予告手当請求書を送付する際の注意点
解雇予告手当請求書は、作成の段階だけでなく、作成後に送付する際にも注意点があります。
支払いがない場合は法的な手段を講じる必要があります。その際に解雇予告手当請求書は「請求したのに適切な支払いをしなかった」ことを証明する重要な証拠なので、慎重に送付するよう心がけてください。
内容証明と配達証明を利用する
解雇予告手当請求書を送付する際は、「配達証明付き内容証明郵便」の方法を利用します。その意味は、内容証明と配達証明の2つの方法を併用することにあります。
- 内容証明
書面の内容を郵便局が証明してくれる郵便方法 - 配達証明
配達日を郵便局が記録に残してくれる郵便方法
いずれも郵便局のサービスであり、書面の送付日や記載内容を証拠に残すことで、後日の争いを防ぐことができます。また、証明のためだけでなく、普通郵便とは異なる形式で送ることによって会社に心理的なプレッシャーを与える狙いもあります。
利用にあたっては、郵便局で手続きする方法と電子内容証明サービスで手続きする方法があります。郵便局における手続きは、用紙や文字数の制限が厳しく、手続きが複雑なため、「e内容証明」を活用するのがお勧めです。
支払いがない場合の対応策を必ず講じる
解雇予告手当請求書の末尾には、必ず、支払いがない場合の対応策を記載します。具体的には、期限までに支払われない場合に、労基署への通報や裁判手続きを実施することを明記して、会社に対してプレッシャーを与えるようにします。そして、このような記載をした場合、期限を過ぎたら、直ちに書面に書いて警告した方法によって、事後の対応策を講じなければなりません。
解雇予告手当請求書で警告したのに、期限を経過しても放置していたのでは、警告の効果が薄まりますし、ただの脅しになってしまいます。何も起こらず期間が経過すると会社は安心し、甘く見て適切な対応に着手しなくなります。しばらく放置して改めて裁判するのでは、速やかに訴えた場合に比べ、会社が途中で和解に応じて払ってくる可能性も低くなってしまいます。
解雇予告手当を請求する手順
解雇予告手当請求書を送付しても、なお手当が支払われないとき、次のステップで解雇予告手当を請求します。
必要書類を準備する
まず、必要書類を準備しましょう。会社から解雇通知を受け取ったら、その内容を確認してください。解雇予告日と解雇日を確認することで、法律に定められた期間である30日にどれだけ不足しているかを知り、解雇予告手当を正確に計算できます。
その他に、解雇予告手当を請求するために次の必要書類を準備します。
- 雇用契約書
- 就業規則
- 解雇通知書
- 解雇理由証明書
- 給与明細
労働基準監督署に通報する
解雇予告手当請求書を送付しても支払がされないとき、労働基準監督署(労基署)に通報します。
労働基準監督署は、全ての労働問題に対応するわけではないものの、解雇予告手当の不払いは明らかな労働基準法違反であり、労基署が動く見込みは高いです。具体的には労働基準法20条違反であり、注意指導や是正勧告といった行政処分のほか、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰が科されます(労働基準法119条)。
解雇予告手当を得られず、生活が困窮する場合は、雇用保険の失業給付を受けます。会社の経営状況が悪化して解雇予告手当を払えない可能性のあるケースでは、労基署への申告とともに仮差押えによって会社の財産を保全する必要があります。
「労働基準監督署が動かないときの対処法」の解説
裁判に訴える
労働基準監督署による圧力を会社が無視するなら、裁判に訴える方法で解決しましょう。労基署が刑事事件として立件して使用者に刑罰が科されても、解雇予告手当を労働者の味方になって取り立ててくれるわけではありません。そのため、労基署が動いても頑なに支払わない会社に対しては、裁判手続きで決着をつける必要があります。
労使の争いでは、労働審判、訴訟のいずれの裁判手続きも利用できます。労働審判なら、簡易かつ迅速に解決することができます。なお、支払うべき解雇予告手当を請求するときは、遅延損害金、付加金の請求も忘れずに行ってください。
「労働者が裁判で勝つ方法」の解説
解雇予告手当請求書のテンプレートの活用方法
最後に、解雇予告手当請求書のテンプレートの有効的な活用方法について、解説します。
事案に応じたカスタマイズが必要となる
解雇予告手当請求書のテンプレートは、事案に応じたカスタマイズを必要とします。
本解説では、幅広く活用できるよう3つの場面に応じたテンプレートを用意しました。ただ、これはあくまで例であり、全ての事案には対応できません。置かれた状況や会社の態度、違法性の度合いなどに応じて、文言や表現、ニュアンスを変更する必要があります。以下の観点から、効果に支障がないか検討し、テンプレートをたたき台にベストな請求書を作成してください。
- 法的に正しい内容か
- 違法性を説得的に伝えられているか
- 計算方法に誤りがないか
- 労働者の真意が正確に伝わるか
- 誤解が生じないか
- 会社からの反感を買わないか
解雇予告手当請求書を送付するにあたって重要なのは、受領した企業側の目線に立って考えることです。労働者側の主張の押し付けだけでなく、スムーズに払ってもらう助けになる書面こそ、最も良い請求書の姿だといえます。
不安な点は弁護士に相談する
解雇予告手当請求書を作成するにあたって不安があるなら、弁護士に相談しましょう。
解雇予告手当の請求のみだと、弁護士に交渉を依頼すると費用倒れになりがちで、自身で書面作成を進めざるを得ないことも少なくありません。それでもなお、書面作成のみ代行してもらったり、文面や今後とるべき手続きについて無料相談でアドバイスを受けたりといった形で弁護士の力を借りることができます。法律の専門知識が必要なとき、自分一人の判断で進めるのは危険です。
また、弁護士に相談して、解雇の不当性を知れれば、解雇予告手当請求書の送付だけでなく、解雇の撤回を求めて争う道に進めることもできます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
まとめ
今回は、解雇予告手当請求書について、解説しました。
解雇予告手当請求書を適切な内容とし、書き方の注意点を守ることは、スムーズな支払いを促すための重要なポイントです。解雇予告手当は、法律で認められた労働者の権利であり、払わない会社には問題があります。しかし、「解雇」という重大な局面において金銭を請求することには、どうしてもトラブルを招きやすい側面があり、書類の作成には細心の注意を払うべきです。
請求書を送付しても支払われない場合には、弁護士に相談ください。解雇予告手当請求書の作成に不安のある場合はもとより、不当解雇を争いたい場合には、弁護士のサポートが非常に役立ちます。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】