無期雇用派遣でも、派遣先から契約を打ち切られることがあります。
派遣先から契約終了を告げられ、次の派遣先も見つからないまま「待機」となり、やがて派遣元から退職を促され、今後の生活に不安を抱える派遣社員は少なくありません。最悪は、「派遣できる先がない」と言われ、派遣元を解雇される人もいます。
無期雇用派遣は有期雇用派遣よりは安定性が高いものの、派遣切りの被害も起こり得ます。その際に対応を誤ると、本来受け取れたはずの給与や休業手当をもらえなかったり、不当な退職に追い込まれたりといったトラブルに発展してしまいます。不当な扱いを受けたとき、権利を守るためには戦わなければなりません。
今回は、無期雇用派遣で派遣先から切られたときに起こりうる状況や、労働者として取るべき対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 派遣先の事情や個人の能力、勤務態度によって派遣先から切られることがある
- 派遣先が決まらない場合は、給与や休業手当を請求し、退職勧奨は拒否すべき
- 派遣先から切られても派遣元の業務命令には従い、不当な扱いは争う
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
無期雇用派遣とは
無期雇用派遣とは、派遣社員が派遣会社(派遣元)との間で、期間の定めのない雇用契約を結び、他社(派遣先)で勤務する形態です。
「派遣」では、雇用主は派遣元であり、給料の支払いや雇用維持の責任も派遣元が担います。一方、実際の職場は派遣先となり、業務指示を行うのも派遣先です。

2015年の派遣法改正により、有期雇用派遣(登録型派遣)では3年を越えて同一派遣先で働くことができない制限(いわゆる「3年ルール」)が導入されました。一方、無期雇用派遣は例外的にこの上限が適用されないメリットがあります。
派遣という働き方は、正社員と比べて雇用の安定性に不安が残るものの、自身のライフスタイルや希望に合わせて勤務先や働き方を選びやすい特徴があります。自由度がある反面、派遣先の都合で職場が変わりやすい点はデメリットとなります。
有期雇用派遣(登録型派遣)は、派遣先が決まるごとに契約が締結され、仕事がなくなれば雇用も終了します。これに対して無期雇用派遣なら、派遣会社の社員として常時雇用されます。とはいえ、派遣元と派遣先の間の「派遣契約」にも期間が設けられるのが通常なので、結局は、正社員ほど長く安定して働き続けられるとは限らず、待遇にも差が生じるのが現実です。
したがって、「無期雇用なら長く働けるはず」というイメージを抱いたとしても、派遣先の事情によって職場が突然変わったり、派遣先が見つからないことを理由に退職を打診されたり、最悪は解雇されたりといった労働トラブルが起こりやすいです。
「派遣切りは違法?」の解説

無期雇用派遣で派遣先から切られる理由

次に、派遣先から契約を打ち切られる主な理由について解説します。
無期雇用派遣でも、派遣先の都合などによって就業が終了することがあります。ただし、派遣先から契約終了を打診されたとしても、派遣元との雇用契約が終了するわけではありません。
派遣先の経営状況や体制の変化
第一に、派遣先企業の経営面の事情が理由となっているケースです。
派遣社員本人の勤務態度や能力に問題がなくても、派遣先の事情で契約が終了されるケースは珍しくありません。例えば、業績悪化による人件費削減の場合、雇用を維持すべき正社員が優先され、派遣社員がコストカットの対象となりやすいです。
部署縮小や組織再編といった体制変更によって、派遣社員が配置されていた業務そのものが無くなることもあります。景気悪化や取引先からの受注減など、外的な要因も影響します。
このような状況では、派遣社員にミスや問題がなくても、契約終了の対象になり得ます。
「リストラされやすい人の特徴」の解説

能力や勤務態度が評価されなかった
第二に、派遣社員自身の能力や勤務態度が問題視されるケースです。
スキルや経験が期待されたレベルに達していないと判断された場合や、職場の雰囲気に適応できないと見なされた場合、ミスマッチを理由に派遣先から契約終了を求められることがあります。また、無断欠勤や頻繁な遅刻などの勤怠不良は、派遣先からの評価を大きく下げる要因となります。
職場での人間関係やトラブル、顧客からのクレームが影響するケースもあります。能力に問題がなくても、コミュニケーション不足や周囲との関係悪化によって評価が下がることもあります。
派遣労働者といえど、経験や専門性を身に着けようとする姿勢が重要です。また、柔軟性やコミュニケーション力が不足していて、自分のやり方に固執したり、報告・連絡・相談を怠ったりすると、職場との関係が悪化しやすくなります。
「能力不足を理由とする解雇」「勤務態度を理由とする解雇」の解説


派遣契約そのものの期間満了
第三に、派遣契約そのものの期間満了が理由となるケースです。
無期雇用派遣は、派遣会社(派遣元)との間では期間の定めのない雇用契約を取り交わしていますが、派遣先と派遣元の間の派遣契約には期限が定められているのが通常です。そのため、派遣契約の期間が満了し、更新されなければ、その派遣先での就業は終了します。
形式上は期間満了を理由としていても、更新を見送るにあたって、その理由は派遣社員に対する不満であったというケースも少なくありません。
「解雇の意味と法的ルール」の解説

無期雇用派遣で派遣先から切られるとどうなる?

次に、無期雇用派遣で派遣先から切られたらどうなるのか、その後の流れを解説します。
無期雇用派遣は、派遣会社(派遣元)を雇用主として期間の定めなく雇用されているので、派遣先での就業が終了しても、派遣会社との雇用関係は維持されて待機期間となります。
派遣会社から次の派遣先を紹介される
派遣先での就業が終了しても、雇用主はあくまで派遣会社(派遣元)です。
そのため、派遣会社と派遣社員の雇用関係は継続します。派遣法30条の2第2項は「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の求めに応じ、当該派遣労働者の職業生活の設計に関し、相談の機会の確保その他の援助を行わなければならない」と定め、今後の勤務や働き方について相談に応じ、新たな派遣先を検討することを派遣会社に義務付けています。
無期雇用派遣だと、単に「派遣先が終了したから終わり」という扱いは許されず、新たな就業機会の提示が求められているのです。
しかし、現実には、適した派遣先がすぐには見つからないケースも少なくありません。また、提示される新たな派遣先が、必ずしも同一条件とは限らず、勤務地や勤務時間、時給が変わったり、従来の知識や経験とかけ離れた業務であったりする可能性もあるので注意を要します。
次の派遣先が決まるまでは待機期間
無期雇用派遣で、次の派遣先が決まるまでの間は、待機期間として扱われます。
待機期間中の扱いは企業の方針や契約内容によって異なりますが、自宅待機となる場合もあれば、派遣会社の事務所での内勤業務や研修への参加を指示されるケースもあります。
派遣法30条の2第1項は「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように教育訓練を実施しなければならない」と定め、派遣労働者のスキルアップのための教育訓練の実施を義務付けています(この場合、通常の労働として給与が支払われます)。
無期雇用派遣であれば、就業先が一時的に決まらなくても労働契約は継続しているので、待機中に業務命令(例:社内研修・資料作成・社内事務など)が出された場合、合理的なものであれば従う義務があります。
派遣先が見つからない原因が派遣社員本人にない場合、派遣会社の都合による休業に該当して、労働基準法26条により休業手当(少なくとも平均賃金の60%)を請求する余地があります。
派遣元が「次の派遣先がない」として自主退職を促すケースもありますが、決して退職届にはサインをせず、労働者としての地位を主張することが重要です。
「自宅待機命令は違法?」の解説

次の派遣先が決まらない場合の対処法

では、以上の流れで、派遣先が決まらない場合にどう対処すればよいかを解説します。
派遣先が決まらなくても派遣会社との雇用関係は継続するので、損しないためにも給与や休業手当を請求し、退職勧奨には応じない姿勢が重要です。次の派遣先が決まらない状況でも、泣き寝入りする必要はなく、派遣社員としての権利を正しく把握しておいてください。
待機期間中は休業手当を請求する
待機期間中は、派遣会社(派遣元)に休業手当を請求できるのが原則です。
新たな就業先をすぐには確保できない場合、派遣会社はまず、派遣社員を休業させるなどして雇用の維持を図る必要があります。この場合、労働基準法26条に基づき、休業手当(少なくとも平均賃金の60%)を支払う責任があります。
派遣会社が休業手当の支払いを拒否した場合は、待機指示の日時や内容を記録し、メールや電話、LINEなどのやり取りを証拠として保存しておいてください。そして、派遣会社に対して書面で請求し、それでも払われない場合は労働基準監督署への申告や弁護士への相談を検討します。
なお、休業手当ではなく、民法536条2項に基づいて給料の全額を請求できる場合もあります。裁判例では、休業手当の支払い義務を認めたケース(大阪地裁平成18年1月6日判決)と、賃金請求権を認めたケース(東京地裁平成202年9月9日)の両方があり、具体的な状況によって異なります。
「休業手当」の解説

「派遣先が決まらないからクビ」は不当解雇として争える
次の派遣先が見つからない場合、解雇を告げる派遣会社(派遣元)もあります。
しかし、無期雇用派遣の場合、派遣先での就業が終了しても派遣会社との労働契約は継続するので、「次の派遣先がない」という理由だけで解雇することは認められません。派遣会社が解雇をするには、労働契約法第16条に基づき、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。
実際、三菱電機事件(名古屋高裁平成25年1月25日判決)では、派遣先との契約終了を受けて派遣労働者を解雇した派遣会社について、十分な説明や雇用を維持するための努力、新たな派遣先の検討などを行っていなかった点を問題視して、不法行為に該当すると判断しました。
クビにされてしまった無期雇用派遣の方は、解雇を示唆された経緯や派遣会社からの説明内容、派遣先紹介の状況などを整理して、弁護士に相談してください。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

派遣会社による退職勧奨は拒否する
前章の通り、解雇は許されないことを理解しながら、リスク回避の策として退職勧奨をしてくる派遣会社(派遣元)もあります。つまり、「あなたに行ってもらう派遣先がないから、退職を考えてほしい」「転職した方が活躍できる」などと打診されるケースです。
しかし、退職はあくまで労働者の意思で行うべきで、強要されるものではありません。退職勧奨に応じる必要はなく、断っても強制されるなら、違法な退職強要です。
退職勧奨に応じるかどうかは、次のような点を考慮して決めましょう。
- 次の派遣先の紹介状況
- 待機期間中の扱いや給与・休業手当の支払いの状況
- 派遣会社からのサポートや教育の体制
- 転職して新たな就業先が見つかりそうか
なお、退職勧奨を受けた場合、やり取りを必ず記録に残してください。面談内容をメモしたり、メールやチャットでの連絡を保存したりすることが、後のトラブルを有利に進めるのに大切です。
「退職勧奨のよくある手口」の解説

派遣先から切られたらすぐやるべきこと

次に、派遣先から切られたらすぐやるべき対応について解説します。
ここで誤った対処をすれば、本来得られたはずの権利を失ったり、不利な立場に追い込まれたりするリスクがあります。不安な状況だからこそ、冷静に行動することが重要です。
自分から退職届にサインしない
派遣先の契約が終了した直後、派遣会社(派遣元)の担当者から退職届や合意書へのサインを求められる場合があります。しかし、退職届にサインすると自主的に辞めたこととなり、後から不当解雇であるとして争ったり、失業保険を有利に受給したりすることが難しくなります。
会社側が自主退職を進めるのは、解雇をするリスクを避けるためです。
このような事態を防ぐには、「内容を詳細に確認したい」「持ち帰って検討したい」と伝え、即答を避けるべきです。強く求められても、納得できない内容に応じる必要はありません。弁護士など、専門家に意見を聞いて一度検討する旨を伝えましょう。
万が一、「このままでは次の仕事は紹介できない」「辞めないなら解雇する」など、違法な圧力を加えられた場合は、その状況を録音やメモで記録し、証拠に残しておいてください。
「違法な退職強要」の解説

待機中の業務命令には従うべき
次の派遣先が決まらない待機期間中でも、派遣会社から業務命令が出ることがあります。
例えば、派遣会社内での内勤業務や資料整理、スキル維持を目的とした研修への参加などです。これらは、派遣会社の業務として位置付けられる場合があり、雇用関係が続いている限り原則として従う必要があります。
正当な理由なく業務命令を拒否すると、就業規則の定めに従い、懲戒処分や解雇の理由となるおそれがあります。
なお、業務命令の有効性については、業務上の必要があるか、嫌がらせや退職に追い込む目的がないかどうかといった点で冷静に判断してください。
「業務命令は拒否できる?」の解説

派遣会社との面談内容を記録に残す
派遣会社(派遣元)との面談時には、雇用の維持や給料などの条件をめぐって争いになる可能性があります。そのため、必ず記録に残しておくことが重要です。
面談の際、労働者側が確認しておくべきポイントは次の点です。
- 派遣先が契約を打ち切った理由
- (解雇や退職勧奨を行われた場合)その理由や根拠
- 今後の派遣会社の対応方針
- 次の派遣先の紹介予定や、それまでの待機期間中の扱い
記録がないまま話が進むと、説明の一部分だけが切り取られて伝わり、「言った・言わない」の水掛け論になり、結果的に不利な状況を招きかねません。録音しておくのが理想ですが、難しい場合は日時や担当者名、話した内容を、面談後速やかにメモとして残してください。
「裁判で勝つ方法」の解説

不当な扱いを受けたら弁護士に相談
派遣先に切られ、派遣会社(派遣元)からも不当な扱いを受けたら、弁護士に相談しましょう。
労働者派遣事業を行うには厚生労働大臣の「許可」が必要であり、派遣法を遵守して進めなければならないのは当然です。そのため、派遣会社に違法な対応があると疑われる場合、都道府県労働局の需給調整事業部などに相談する方法があります(厚生労働省「労働者派遣事業・職業紹介事業に関する相談窓口一覧」)
ただし、行政の相談窓口では、個別のトラブルについて直接交渉をしたり、解決までのサポートを受けたりすることはできません。
そのため、実際に生じた被害を回復したい場合は、労働審判や訴訟といった法的手段を検討する必要があり、労働問題に精通した弁護士に相談するのが有効です。弁護士なら、派遣に関する法律や制度、裁判例を踏まえ、状況に合ったアドバイスをしてくれます。
費用が不安な場合は、無料相談や法テラスの活用も検討しましょう。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

無期雇用派遣の契約終了に関するよくある質問
最後に、無期雇用派遣の契約終了に関し、よくある質問に回答しておきます。
派遣先から切られる前兆は?
派遣先から切られる前兆に早く気付けば、状況を改善できることもあります。
典型的な前兆の一つが、仕事量や指示の急な減少です。
派遣社員は、雇用の調整弁としての役割を有しているため、任せる業務が減少しているのは、必要性が低下したからである可能性があります。同じく、他の派遣社員の契約が終了したという情報も前兆の一つとなります。同じ部署や職場の派遣が次々と切られている場合、自分も対象になるリスクを意識しておく必要があります。
これまで頻繁に行われていた打ち合わせが減ったり、上司や担当者とのコミュニケーションが希薄になったりする場合、派遣契約の継続について検討が進んでいるサインの可能性があります。
前兆に気づいた段階で、派遣会社に状況を共有し、今後の対応を確認しておくことが重要です。
「会社をクビになる前兆」の解説

無期雇用派遣の契約終了は会社都合?自己都合?
会社都合とは、派遣社員本人に責任がなく、派遣会社側の事情で雇用が終了するケースを指します。この場合、失業保険の給付開始が早く、給付日数も手厚くなります。一方、自己都合とは、派遣社員自身の意思で退職した場合を指し、原則として1ヶ月の給付制限があり、失業保険の受給開始が遅れます。
無期雇用派遣の契約終了でも、どのような経緯で雇用が終了したのかという事情によって、自己都合か会社都合かが判断されます。基本的に、普通解雇や退職勧奨に応じての退職の場合は「会社都合」、自主退職や重責解雇の場合は「自己都合」と評価されます。
「自己都合と会社都合の違い」の解説

提示された派遣先を断ることはできる?
無期雇用派遣では、提示された派遣先を受け入れるのが基本となります。
雇用主は派遣会社(派遣元)であり、勤務先の決定について一定の裁量があるからです。そのため、理由を示さずに紹介を断り続けると、次の派遣先の紹介が遅れたり、退職を打診されたりするおそれがあります。
ただし、提示された派遣先の条件が、契約内容やこれまでの勤務実態とかけ離れている場合など、合理的な理由があるなら拒否を検討してもよいでしょう。この場合は、感情的にならず、具体的な事情をしっかりと派遣会社に説明すべきです。
「派遣社員がパワハラにあったときの対応」の解説

まとめ

今回は、派遣先から切られた無期雇用派遣の人の対処法について解説しました。
無期雇用派遣という働き方は、雇用の安定が確保されているように見えますが、実際は、派遣先の事情や体制変更などによって突然に職場を失うリスクがあります。そして、その後に派遣先が決まらない期間が続くと、退職勧奨や不当解雇の対象となる場合もあります。
派遣先で問題を起こした労働者を嫌い、「次の派遣先が決まらないから」という理由で不当に退職させようとする派遣会社もあるため、正しい法律知識をもとに対応しないと損をするおそれがあります。
無期雇用派遣でも労働者としての権利は法律で守られており、待機期間中は休業手当を請求できます。「派遣先がないこと」を理由とした一方的な解雇は、法的に争う余地が十分にあります。不当な扱いを受けたと感じたら、ぜひ弁護士に相談してください。
- 派遣先の事情や個人の能力、勤務態度によって派遣先から切られることがある
- 派遣先が決まらない場合は、給与や休業手当を請求し、退職勧奨は拒否すべき
- 派遣先から切られても派遣元の業務命令には従い、不当な扱いは争う
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】




