退職を決意したときに、準備すべき書類が「退職届」と「退職願」です。退職届と退職願は、似ていますが役割が異なるため、区別する必要があります。退職届と退職願の違いを理解して使い分けなければ、思った通りに退職を進めることができないおそれがあります。
退職願と退職届の違いとは?
どちらを提出すべきか迷う…
いずれも、労働契約を終了させる書類なのは共通ですが、意味合いが異なります。退職届は一度出すと撤回が難しいもの、退職願は交渉の余地が残るものといったように、それぞれの役割や効力には違いがあります。自分の気持ちとは異なった種類の書類を提出すると、狙った効果が生じずに、労使紛争で不利になってしまいます。
今回は、退職届と退職願の違いと、状況に応じてどちらを選ぶべきなのか、適切な使い分けについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職届と退職願の違いは、法的効果、退職できるタイミング、撤回の可否など
- 退職届と退職願では、出し方にも違いがある
- 自分の気持ちに合う書面を選び、使い分けなければ、思った効果を得られない
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退職届と退職願の意味と役割
労働者は、会社との間で労働契約を締結しています。退職届と退職願はいずれも、会社を辞めるときに書く文書であり、労働契約の終了に向かう手段の一つです。
労働契約を終了させて、会社から退職する方法には、次の3つの種類があります。
- 自主退職(辞職)
労働者の一方的な意思で労働契約を解約すること - 解雇
会社の一方的な意思で労働契約を解約すること - 合意退職
労使双方の合意によって労働契約を終了させること
退職届と退職願の最も大きな違いは、この法的な効果の違いとして説明することができます。
退職届とは「自主退職」の意思表示
退職届は、労働者が正式に退職の意思を会社に通知するための文書です。退職届を提出することは、労働者の一方的な退職の意思の表明を意味し、その結果として労働者は「自主退職(辞職)」をすることとなります。既に心のなかで決まった意思を伝えているだけで、会社の承諾や同意など、一切の反応を予定しているものではなく、退職日をもって労働契約は終了します。
したがって、退職届は、会社が拒絶しても、退職をする効果を生じます。その反面、一度提出すると撤回することが難しく、会社が受理した後で労働者の気持ちが変わったとしても、原則として退職の意思を覆すことはできません。
このような強い効果を有する退職届は、退職の意思が固まって、退職日が確定したタイミングで提出するのが適切です。なお、法的には、労働者が退職の意思表示をして、2週間が経過することで労働契約が終了することとされています(民法627条)。
「退職届の書き方と出し方」の解説
退職願とは「合意退職」の申し入れ
退職願は、労働者が退職したいという意思を「お願い」として会社に伝える文書です。退職届と異なり「退職の了承を求める」という意味合いが強く、会社の同意ないし承諾を得てはじめて退職の効力を生じます。退職願を出すことは、合意退職の申し入れを意味しており、会社が承諾した結果として辞めるに至った場合は、合意退職となります。
退職願を出した段階では労働契約の終了が確定したわけではありません。あくまで「お願い」である退職願は、会社の了承を得るまでは、撤回したり、条件を交渉したりすることができます。
退職願は、退職をする方向ではあるものの確定的ではない、検討段階で提出されます。社内の人間関係を重視したい、今後のキャリアについて会社と相談したい、といった意図があることもあり、労働者としてもまだ退職するか迷っている場合もあります。
「会社の辞め方」の解説
退職届と退職願の違い
次に、退職届と退職願の違いについて解説します。
前章「退職届と退職願の意味と役割」の通り、退職届は法的効力が即座に発生し、撤回するのが難しいのに対して、退職願は会社の承諾が必要で、提出後であっても交渉や撤回をすることができる可能性があります。どちらを使うかは、労働者の退職に向けた気持ちの程度と、どの段階で退職を確定させたいのかによって選ぶべきです。
退職の効力が発生するタイミングの違い
退職届と退職願の最も大きな違いは、退職の効力が発生するタイミングです。
退職届は、労働者が会社に対して退職を正式に通知するもので、提出した時点でその意思が確定し、退職の効力が生じます。会社の同意や承諾は予定されず、退職届が会社に到達した時点で、会社はそれに従って退職の手続きを進めなければなりません。提出した時点で効力が確定するために、労働者が後から意思を撤回することが難しいのです。
退職願は「退職をしたい」という意思を会社に伝えるのみであり、退職の効力が生じるには、会社の承諾を要します。退職願を出しても、会社が受理し、承諾しない限り、退職とはなりません。
「退職は2週間前に申し出るのが原則」の解説
退職の意思を撤回できるかどうかの違い
退職届と退職願とでは、「退職の意思を撤回することができるか」という点でも異なります。
前章の通り、退職届は、会社に到達すれば、同意がなくも退職が確定するため、提出した後で撤回することはできないのが原則です。これに対して、退職願は、会社が承諾してはじめて合意退職となるに過ぎず、その承諾までの間は撤回することができると考えられています。
ただし、退職願を労働者が撤回しようとする場合には、会社から「既に受理されているから撤回できない」などと反論され、「受理されていたかどうか」がトラブルとなることがあります。会社による受理は、物理的に到着するだけでなく、社長などの責任者が受け取る必要があります。
「退職届の撤回」の解説
書面の内容と書き方の違い
退職届と退職願は、いずれも「会社を辞める」といった趣旨の内容となりますが、法的な意味が異なるため、その内容や書き方にも違いがあります。
退職届は、退職の意思を確定的に表明するものなので、その内容も「◯月◯日をもって一身上の都合で退職します」というように断定的に記載する必要があります。既に確定した意思として伝えるために、退職の日付についても特定しておくべきです。宛先は、雇用主である法人(ないしその代表者)宛とするのが基本です。
これに対して退職願は、あくまで「お願い」として、「退職させていただきたいと考えています」など、退職届より柔らかい表現で、お伺いを立てる内容とします。「退職を考えている」ということが伝わればよく、それだけでは法的な効力が生じないので、退職日や退職理由などが欠けていても構いません。法人代表者宛とする場合のほか、上司や上長に宛てて出す場合もあります。
「退職届を内容証明で出すべきケース」の解説
書類の出し方の違い
退職届と退職願は、その意味合いの違いから、書類の出し方にも違いが生じます。
退職届は、一方的に自主退職を告げるために出すものなので、会社が拒絶したとしても渡すことが想定されています。会社から、不受理や預かり扱い、たらい回しといったような不誠実な対応をされた場合は、郵送や、状況によっては内容証明で、一方的に送りつけるしかないケースもあります。そして、退職届を提出した後は、速やかに退職の手続きをするよう求めていきます。
一方で、退職願は、退職を検討している段階で提出するため、退職したい意向はあるものの、退職の時期や条件については協議を要します。労使の円満な解決を目指すケースも多いため、礼節を尽くして丁寧に手渡しする場合が多いです。退職願を手渡しするタイミングで、退職に向けた相談や話し合いが行われることもあります。
いずれも、表書きをした封筒に入れて、手渡しをするか、郵送で送付するのがよいでしょう。なお、会社が受け取ってくれないおそれがあるときは、内容証明で送付する方法も有効です。
「在職強要の違法性」の解説
退職届と退職願のどちらが適切か?使い分けのポイント
最後に「退職届と退職願の違い」を前提に、どちらが適切なのか、状況に応じた使い分けのポイントについて解説します。退職届と退職願は、「どちらの方が優れている」というものではなく、状況やお気持ちに応じて、ケースバイケースで自分に合った書面を提出する必要があります。
退職届が適切なケース
退職届と退職願は、状況に応じて使い分けることが大切ですが、退職の意思が確定していて、会社との交渉がもはや不要ならば、退職届がよいでしょう。
退職届の方が適切なケースは、次の通りです。
転職先が決まっている場合
既に転職先で働き始める日が決まっているなど、いつまでに辞めたいかが確定している場合には、速やかに退職することができるよう、退職届を提出するのが適切です。
退職の意思が固い場合
退職の意思が固く、会社との交渉や調整は不要である場合は、退職届を提出することで迅速に退職手続きを進めてもらうのがよいでしょう。家庭の事情や健康上の問題のように、個人的にどうしてもすぐ退職したい理由がある場合も、退職届を出すのに向いています。
強い引き留めが予想される場合
会社による強い引き留めが予想される場合も、すぐに辞めたいなら退職届を出すべきです。退職願では、辞めてほしくないと考えている会社から承諾を得ることができず、いつまで経っても退職できないのに対し、退職届なら、提出から2週間で退職の効果が生じます。
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退職願が適切なケース
次に、退職願の方が適切なケースは、次の通りです。
退職時期を会社と調整したい場合
退職願は、退職を希望する意思を伝えるものの、まだ退職の時期を確定する必要はありません。「退職したい」という希望を伝えた上で、具体的な退職時期については、転職活動や業務引き継ぎの状況などを見極めながら会社と協議したいときは、退職願が適しています。
退職時の待遇や条件を交渉したい場合
退職の条件が確定しておらず、会社を辞めたいものの、その条件については交渉が必要となる場合には、退職願を提出するのが適切です。退職時に交渉しておくべき条件は、例えば、退職金の額や支払いのタイミング、有給休暇の消化や買い取りといった事項があります。
できるだけ円満退社を目指す場合
円満に退職することを希望するなら、退職届で一方的に伝えるのではなく、会社にも配慮し、退職願とするのがよいでしょう。会社としても「今すぐ退職されるのは困るが、少し先延ばししてくれるならよい」といった事情のあるとき、退職届ではなく退職願に留め、話し合う姿勢を見せることで、トラブルにならず退職にこぎつけることができます。
退職時のトラブルが拡大すると、狭い業界で噂が広まってしまったり、転職活動を妨害されたり、後から損害賠償請求をされたりといったデメリットが生じることがあります。これらの行為はいずれも違法の可能性が高いものの、退職時の配慮によって避けられるなら、自己防衛をしておくべきです。
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書面の「名前」ではなく「内容」で区別する
退職届と退職願は、異なる法的効果を生じるもので、区別されると解説しました。しかし、この2つの書面の区別は、単なる名前の違いではありません。
書面の題名という形式によって違いが生じるわけではなく、むしろ大切なのは、書面の内容です。つまり、例えば、一方的に辞めたいときに、「退職届と記載する」ことが大切なのではなく、その内容として一方的な意思表示という体裁で記載されているかどうかが重視されます。
内容によって法的性質が判断される以上、その書き方は十分に注意が必要です。「すぐに退職したい」と思って退職届を書いたつもりが、内容として「願い出る」という姿勢では、会社の不当な引き留めを受けてしまい、辞められなくなってしまう危険もあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、退職届と退職願の違いについて、法的な側面から解説しました。
退職届と退職願は、どちらも退職の意思を会社に伝えるための文書ですが、その効力や使い方には違いがあります。退職届は正式な退職意思の表明であり、一度提出すれば撤回が難しいため、確実に退職を決めた際に適しています。一方、退職願は交渉の余地を残した意思表示であり、会社の同意を必要とするため、退職時期や条件について相談を求める場合に活用できます。
自分の意向が正しく表示された書面を使わないと、思いも寄らないリスクを負いかねません。自身の状況に適した文書を選ぶことが、スムーズな退職を目指す近道となります。
- 退職届と退職願の違いは、法的効果、退職できるタイミング、撤回の可否など
- 退職届と退職願では、出し方にも違いがある
- 自分の気持ちに合う書面を選び、使い分けなければ、思った効果を得られない
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