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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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戒告とは?譴責との違い、懲戒処分における戒告の意味と内容、労動者への影響を解説

何度も注意指導されても改めないと、「戒告」という処分を下されることがあります。軽度の懲戒処分である戒告は「処分の入口」であり、より重い処分の前の「警告」という意味があります。企業秩序を乱す行為を改善させる厳重注意なので、無断欠勤から勤務外の不適切な行為まで幅広いものが対象となりますが、あくまで軽度な非に限られます。

戒告は他の懲戒に比べれば軽いものの、「制裁」には違いなく、労動者に悪影響を与えます。そのため、戒告を受けた労働者は、会社の言い分を把握し、「懲戒事由に該当するか」「適切な手続きが実施されたか」といった観点から、正当な処分なのかを検討する必要があります。

不当な戒告の被害に遭ったら、撤回を求めて争う必要があります。処分の違法性の判断にあたっては、過去の裁判例が参考になります。

今回は、戒告の定義、類似の処分との違いから、不当なケースの争い方まで、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 戒告は、懲戒処分のなかでも軽度なもので、軽微な企業秩序違反に下される
  • 軽度とはいえ制裁の意味合いは強く、正当な理由なく行われれば違法
  • 不当な戒告処分を受けたら、その理由を通知書などで確認して撤回を求める

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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戒告とは

まずは、戒告の意味やその内容などに関する基本的な法律知識を解説します。

戒告の意味と内容

戒告とは、問題行動のあった労働者に対して、厳重注意を促すための懲戒処分です。

懲戒処分とは、労動者の企業秩序違反行為に対して会社が行う制裁(ペナルティ)です。戒告の懲戒処分は、そのなかでも軽度のものです。読み方は「かいこく」と読み、外資系だと英語で「warning(ワーニング)」と呼ぶこともあります。

戒告は、注意指導を繰り返してもなお問題が改善されない場合に言い渡されます。労動者に問題があると使用者が考えると、まずは口頭の注意、書面による注意から始まり、懲戒処分を経て、解雇に至ります。この流れのなかで戒告は、まさに「処分の入口」といえます。

戒告は、主に労働者のミスや非行を注意して、再発防止を促すことを目的として下されます。そのため、戒告を下されたからといって「辞めさせる対象」「問題社員」といった扱いをされているとは限りません。正しい戒告はあくまで、改善をさせ、今後社内でしっかり活躍してもらうためのものです。

懲戒処分における戒告の位置付け

戒告は、懲戒処分の1種類であり、その中で最も軽い処分に位置づけられるのが通常です(その対極にある最も重い処分が懲戒解雇です)。

懲戒処分の種類は会社が定めるもので、法律上の決まったルールはありませんが、一般的には軽い順に次のように決められている例が多いです。なお、正確に知るには、勤務先の就業規則を確認してください。懲戒処分は就業規則の相対的必要記載事項なので、懲戒を行うには就業規則にあらかじめ定め、労動者に周知する必要があります労働基準法89条9号)。

  • 戒告
    企業秩序違反の行為について厳重に注意し、改善を求める処分
  • 譴責
    厳重注意をして改善を促すとともに、始末書を提出させる処分
  • 減給
    非違行為のあった労動者の賃金を減額する処分
  • 出勤停止
    一定期間の間、出勤を停止させ、制裁としてその間は無給とする処分
  • 降格
    非違行為のあった労動者の役職や資格を下げる処分
  • 諭旨解雇・諭旨退職
    退職届を提出するように勧告し、拒否した場合には解雇ないし退職扱いとする処分
  • 懲戒解雇
    懲戒として行われる解雇。懲戒のなかで最も重い処分

他の懲戒処分と比べてしまうと、戒告は、目に見える不利益を被るわけではないようにも誤解されます。しかし「戒告による労動者への影響は?」で後述の通り、戒告はあくまで「制裁」には違いなく、対内的にも対外的にも、その悪影響は労動者が想像するよりも大きいものです。

戒告は、最も軽い処分であるがゆえに、軽度な業務命令違反やハラスメントといった問題行為に対して「軽い制裁を下す」という意味もありますが、更に重い懲戒処分を下す前の「警告」として位置づけられるケースもあります。能力不足勤務態度の不良協調性の欠如といった改善可能なものが問題視される場面では、いきなり解雇に踏み切ることはできません。最初から重い処分を下せば労動者から反発され、かつ、処分の有効性を裁判所で争われると、是正の機会を与えなかったことを理由に無効とされる可能性が高いためです。

そこで、まずは軽い処分を行い、段階的に処分を重くしていく方策が取られ、戒告はその最も初期の段階です。この場合、戒告後も問題点が改善されず、同じ非違行為を繰り返す場合には、より重度の懲戒処分や、最悪の場合には解雇に進みます。

そのため「今は戒告だから」「辞めざるを得なくなったら争おう」と軽く見るのではなく、すぐに弁護士に相談すべき場面です。事を荒立てたくない、円満解決したいという気持ちが強いなら、まずは労働問題を多く扱う事務所に、無料相談を申し込むのがおすすめです。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

戒告とその他の懲戒処分などとの違い

戒告の性質や内容をよく理解するには、類似する他の処分との違いを知るのが有益です。

注意指導との違い

労動者に対して、態度を改めるよう求めるといった点で、戒告は注意指導と共通します。戒告と注意指導の違いは、「懲戒」すなわち「制裁」という趣旨を含むかどうか、という点です。注意指導は、本人の反省を促す点で戒告に似ていますが、懲罰的な意味合いは含まれず、戒告を含めた懲戒処分よりも前段階で、日常的に実施されます。

譴責との違い

譴責は、労働者に対して始末書を提出させて将来を戒める処分です。戒告と譴責はいずれも懲戒処分ですが、その違いは始末書の提出を伴うかどうかの点にあります。始末書を提出させる点で、譴責は、戒告よりも一段階厳しい処分と位置付けられます。

訓告との違い

訓告は、公務員に対して行われる、懲戒には至らない程度の処分です。ただ、その後に行われる重度の処分をするための「警告」という意味がある点では、民間企業における戒告と似た機能を有しています。

なお、懲戒処分の名称やレベル、内容は法律で決められているわけではないため、民間企業でも、軽い懲戒処分や、その前の処分として訓告を定めているケースもあります。

懲戒処分の種類と違法性」の解説

戒告の根拠

次に、戒告をする根拠について、法律と就業規則の2つの観点から解説します。

戒告は、軽いとはいえ懲戒処分であり、労動者に不利益を及ぼすため、「根拠」なしに行うことはできません。根拠のない戒告処分は違法であり、撤回を求めて争うべきです。不当だと疑われる戒告を受けたら、会社の処分の根拠がどこにあるかを確認するのが処分を争うプロセスの第一歩です。

戒告の法律上の根拠

労働基準法をはじめとした法律には、懲戒処分を規制する条文はあるものの、その処分を直接根拠付ける法律上の規定はありません。使用者は、企業の秩序と規律を維持する運営者として、当然に固有の懲戒権を有します。労働契約法15条が違法な懲戒処分の無効を定めている通り、労働法も懲戒権の存在を前提としています。

戒告の就業規則上の根拠

懲戒処分は就業規則の相対的必要記載事項なので、その懲戒処分をするための根拠が就業規則に定められていない限り、処分を下すことができません(労働基準法89条9号)。このことは、裁判例でも同様に「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」と判断されています(フジ興産事件:最高裁平成15年10月10日判決など)。

懲戒処分は、企業秩序違反に対する制裁罰という性質を持つので、事前に予告されていなければ労動者の自由を過度に制約するおそれがあるからです。そのため、戒告処分とするためには、戒告処分の対象となる行為、その理由と、戒告処分の内容など、就業規則に根拠がある必要があります。

就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説

不当な戒告処分は違法になる

就業規則に根拠がある場合であっても、定められた通りにどのような処分でも許されるわけではありません。会社が、懲戒処分の事由に該当すると主張していても、その処分が違法であり、争える場合があります。

具体的には、労働者の行為の性質、態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権の濫用としてその処分は無効になります(労働契約法15条)。

つまり、たとえ問題社員だったとしても、従業員を戒告とするには「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」の2つが法的な要件となるのです。

戒告は、懲戒処分のなかでも最も軽度なものなので、客観的に合理的な理由については、さほど重度の内容は求められない傾向にあります。とはいえ、まだ注意指導すらしていないような能力の問題やミスなどといったものは、たとえ軽度の戒告といえど、それをするだけの理由に達しているとはいえません。また、一定の理由があったとしても、それが戒告という手段にふさわしい重さである必要があります。

更に、「労動者に辞めてもらうために戒告を悪用する」といったように、目的が悪質な場合にも、権利濫用として無効となる可能性があります。戒告は、その後も在職して就労し続けることを前提とした処分であり、辞めさせようとして行うのは不適切です。懲戒処分だとしても戒告に留まる程度の軽い理由しかないならば、それに見合った扱いをすべきであり、過度に居づらくなり、辞めざるを得ないと感じるならば、違法な処分である疑いが非常に強いです。

正当な解雇理由の例と判断方法」の解説

戒告処分が下されるケースの具体例

次に、戒告処分が下されるケースの具体例を解説します。

戒告の対象となる行為は、使用者に迷惑をかける行為や、労動者の非について、現時点では重大な損害が生じておらず、指摘して注意することで改善の余地のあるものです。より重度の処分が相当であるとはいえない、労動者側に有利な情状がある場合は特に、戒告に適しています。

勤怠の不良(無断欠勤、遅刻、早退など)

戒告になりうる1つ目のケースは、無断欠勤やずる休み、遅刻・早退など、勤怠の不良に該当する場合です。勤怠不良は、度重なる場合は懲戒処分を行った上で、最終的には普通解雇になる性質のものですが、その初期段階には、戒告によって警告を与えるのが適切とされます。

戒告が有効とされた裁判例では、次の行為が対象とされました。

  • 正当な時季変更権の行使を無視し、有給休暇を取得した(最高裁平成3年12月13日判決)

無断欠勤を理由とする解雇」の解説

業務態度の不良(不適切な態度、反抗など)

戒告になりうる2つ目のケースは、業務態度の良くない場合です。例えば、不適切な態度をとったり反抗的になることは、その状況によっては一度で解雇するのは重すぎるので、まずは戒告から始めるべきケースがあります。

戒告を有効と判断した裁判例では、次の行為が対象とされています。

  • 教育訓練を目的とした残業命令を正当な理由なく3回以上拒否した(大阪地裁平成10年3月25日判決)
  • 正当な理由なく4つの業務命令に従わなかった(東京地裁平成29年8月10日判決)

勤務時間中の軽度な規則違反

3つ目に、勤務時間中の軽度な規則違反も、戒告になるケースの典型例です。

ただし、企業の規則には様々な種類があり、そのなかでも戒告に値するのは軽微なものに限られます。具体的には、企業秩序に与える影響、他の社員への影響、会社の損害や対応の緊急の必要があるかどうかといった観点から、その影響が少ないものの、懲罰の形を取るべき場合に戒告とされます。

例えば、戒告になる規則違反は、次のケースです。

  • 過失によるものだが、度重なる違反を戒める必要がある場合
  • 故意による問題行為だが会社に損害はなく、改善が期待できる場合

協調性の欠如を理由とする解雇」の解説

職務怠慢

戒告になりうる4つ目のケースが、職務怠慢を理由とする場合です。

職務の怠慢は、過失というよりは故意に近く、許されることではありません。しかし、労動者の甘えから来る場合も多く、初期の段階なら注意により改善が期待できます。これまで働いた貢献がある場合など、すぐに重度の懲戒処分やクビにするのは過剰な場合、戒告の程度が適切です。

例えば、次のケースで戒告になる可能性があります。

  • 業務時間中に、私用のメールのやり取りをしていた
  • 業務時間中にネットサーフィンしていた
  • 注意すれば避けられた簡単なミスを繰り返した

なお、これらの軽微なミスは、まずは注意指導を徹底すべきであって、戒告とはいえど初めから懲戒処分にするのは不当に重いとされる可能性もあります。

軽度のハラスメント

戒告になりうる5つ目のケースが、ハラスメント加害のうち軽度なものです。刑事罰にもなるほどの重いハラスメント加害は解雇とせざるを得ませんが、「場の空気に乗っかってしまった」「不用意に不適切な発言をしてしまった」といった程度だと、改善を期待して戒告にされることがあります。

戒告が有効とされた裁判例は、次のハラスメントを対象としたものがあります。

  • 日本国籍を有しない部下に「あなた何歳のときに日本に来たんだっけ?日本語分かってる?」と発言(辻・本郷税理士法人事件:東京地裁令和元年11月7日判決)
  • 妊娠中の女性社員に「腹ぼて」「胸が大きくなった」と発言(東芝ファイナンス事件:東京地裁平成23年1月18日判決)
  • 育児で短時間勤務中の部下に、帰宅後の遅い時間の頻繁な業務報告を求めた(アクサ生命保険事件:東京地裁令和2年6月10日判決)

なお、パワハラセクハラなどの労働問題は、被害者側において慰謝料請求をはじめとした責任追及が問題となるのは当然ですが、加害者側でも、冤罪だったり不当に重く処罰されたりした場合には、弁護士のサポートを受けることができます。

パワハラ加害者の解雇」「セクハラ加害者の解雇」の解説

業務外で会社の信頼を損なう行為

戒告になりうる6つ目のケースが、業務外における会社の信頼を損なう行為です。

業務外における不適切な行為は、全てが処分の対象となるわけではなく、むしろプライベートは自由に行動して良いのが原則。ただし、会社の信頼を損なうという影響のある行為は、処分される危険があります。そのため、社内で業務時間中に行われた行為よりは処分のハードルが上がりますが、殺人や強盗などの重大犯罪であったり、痴漢としてメディア報道されたりといった重大なケースでない限り、戒告に留めるケースも多いです。

痴漢を理由とした解雇」の解説

戒告処分にする具体的な手続きの流れ

次に、戒告処分が下される際の、具体的な流れについて解説します。

戒告をするにあたり、使用者は適正な手続きを踏まえて決定をしなければなりません。労動者側でも、どのような手続きを必要とされるかを知れば、戒告の当否を判断するのに役立ちます。

STEP

問題行動についての事実確認と証拠収集

問題行動が懲戒事由に該当すると判断されると、その事実の存否について確認がとられます。

当事者の主張に齟齬のあるケースでは証拠の収集をして事実を認定します。調査が十分でなく事実無効な場合には、戒告は権利濫用となる可能性があります。社内メールの送受信記録や貸与スマホのGPS、パソコンの利用履歴の照会など、場合によっては調査会社や弁護士の力を借ります。

STEP

労働者に対する弁明の機会の付与

次に、労働者に弁明の機会が与えられます。弁明の機会は、懲戒事由に関する意見を陳述する場であり、労働者の視点では、自分の言い分を伝える重要な機会として活用すべきです。

なお、全ての懲戒処分について弁明の機会を与えるのは懲戒権の発動を硬直化するおそれがあり、戒告のように軽度の処分の場合、その付与を義務付ける規定を置かない会社もあります。また、懲戒解雇ほど厳密な手続きは求められず、処分前にヒアリングの機会があったことで実質的には弁明がなされたと判断されるケースもあります。

STEP

戒告処分の決定と当事者への通知

戒告処分相当であると判断されると、処分が決定され、労動者に通知されます。

戒告の通知は、たとえ軽いとはいえ懲戒処分なので書面でするのが適切です。戒告通知書などの書面を交付されたら理由を確認し、妥当な場合は二度と同じ行為をせぬよう改善すべきです。また、通知書に記載された戒告の理由及び適用する就業規則の条文を確認してください。

戒告は、厳重注意し改善を促すことが目的なので、労動者の納得感が必要です。そのため、納得のいくまで理由を説明されていない場合や、反論を全く考慮してもらえていない場合には、会社に対してより詳しい説明を求める必要があります。

STEP

戒告処分後の記録と再評価

戒告処分後は改善状況について記録がなされ、その記録に基づいた評価が下されます。つまり、戒告をされたことが、人事的な評価の場でもマイナスに考慮されることがあるわけです。

戒告が嫌がらせなどの不当な目的に基づいている場合、処分後の対応がずさんになるケースがあります。戒告後の行動について改善案や指針が示されないのは問題があります。また、一度戒告の対象とした行為を、再び懲戒処分の対象とするのは二重処罰に反し、許されません。

弁明の機会から解雇までの手順」「懲戒処分の決定までの期間」の解説

戒告による労動者への影響は?

戒告は、懲戒のなかでは軽い処分といえど、違反行為に対するペナルティにほかなりません。戒告によって被る不利益の内容を理解して、根拠なき不当な処分であれば自身の権利のために会社と争う必要があります。

職場における評価の低下

まず、戒告にされると、職場における評価が低下するおそれがあります。

「戒告処分を食らった」という事実は、注意指導では改善しないほどの問題点があるということを意味し、人事評価においてもマイナスとなります。また、戒告が社内公表されることがあります。懲戒処分の社内公表は、被処分者の名誉にかかわるため、個人を識別できない形でなされるのが通常ですが、問題ある会社だと見せしめ的に張り出すことも。この場合、本来の戒告にはふさわしくないほど大きなダメージを受けてしまいます。

また、そうでなくても、どこからともかく噂が立って戒告の事実が知れ渡り、会社の居づらくなってしまうこともあります。小規模な会社や中小企業ほど、戒告の事実上の影響は大きいといえます。

職場いじめの事例と対処法」の解説

労動者のキャリア(昇給や昇格、出世)への影響

戒告は、労動者の今後のキャリアにも悪影響です。具体的には、社内の評価を左右するために、昇給や昇格を止めたり、出世のハードルとなったりすることはよくあります。

会社によっては、表沙汰にはできないものの、内規などで懲戒処分を受けたことを昇給や昇格をさせない事由として定める例もあります。戒告を受けたことによって、その後の出世の道が閉ざされたと感じる場合、不当な人事評価を元にしている危険があります。

戒告は軽度な処分ですが、「戒告されたことすらない労動者」と比較すれば、やはり劣後して扱われるのが現状です。社内でこれ以上の活躍が望めないと感じたら、退職して転職するのも有効な手です。不本意にも望まない退職となってしまうなら、残業代請求や退職金、会社都合での失業保険の請求など、労動者の権利を侵害されないよう退職前にしっかり準備してください。

退職したらやることの順番」の解説

経済的な不利益(賞与や退職金への影響)

戒告によって経済的な不利益を被るおそれもあります。

1つ目が、ボーナス(賞与)への影響です。賞与の有無やその金額には会社の裁量が幅広く認められることが多いです。多くの会社では、勤務態度や成績、貢献度、給与額などを考慮要素としてボーナスを決定する仕組みになっています。そして、戒告を受けていない労働者と比べて、戒告を受けたことで貢献度が低いと判断されると、ボーナスカットをされる危険があります。

2つ目が退職金への影響です。退職金の性質も、貢献に対する評価の側面があります。諭旨解雇や懲戒解雇になったときは退職金を減額、不支給とする条項を定める企業が多いですが、戒告によって規程上の退職金が減ることは稀です。ただ、退職金の額は、給料や役職に連動するのが通例なので、戒告で昇給や昇進が遅れると、本来ならもらえたはずの退職金が少なくなる事態が予想されます。

退職金を請求する方法」の解説

転職時の履歴書への記載

戒告は、社内で改善するための処分なので、対内的な効果はともかくとして、対外的には悪影響は少ないのが基本です。少なくとも、懲戒解雇のように会社を辞めさせる処分よりは、転職の支障とはなりづらいと考えられます。

ただし、全く影響がないとは言い切れません。戒告の事実が面接の際に明らかになることもあり、その場合には、戒告が転職活動の妨げになってしまいます。積極的に戒告された旨を申告する義務はないものの、懲戒歴を尋ねられた場合は回答する必要があります。「無い」と答えてしまうと経歴詐称に問われるリスクがあります。

なお、履歴書には「賞罰」の欄が設けられた様式もありますが、「賞罰」とは刑事罰を指すのであり、懲戒処分である戒告をされたことまで記載する必要はありません。

履歴書の賞罰」「経歴詐称」の解説

戒告による心理的な影響

最後に、戒告の影響は、法律上のものに留まらず、心理的な影響も無視できません。つまり、戒告によって労動者にストレスや不安が生じるのは当然、「会社に目をつけられた」と感じることでこれ以上の就労意欲を損ない、モチベーションや自己評価の低下を招きます。

自分だけが戒告になると、上司や同僚に疎外されたように感じたり、将来のキャリアが閉ざされたと思い込んでしまったりする方もいます。精一杯業務に取り組んだつもりなのに戒告の対象とされると、自分の行動が否定されたように感じ、モチベーションをうまく維持できなくなります。

これらの心理的影響は、責任感の強い人ほど大きく、うまく対処しなければうつ病や適応障害を発症してしまうこともあります。なお、不当な戒告処分によって心身の健康や体調を崩した場合には、労災(業務災害)であると考えられ、労災保険による補償を得られるほか、誤った判断をした会社に慰謝料請求などの責任を追及すべきケースです。

労災の慰謝料の相場」の解説

戒告処分に関する裁判例

次に、戒告処分に関する裁判例を紹介します。戒告処分を労動者が争った結果、適法と判断されたケース、違法と判断されたケースのそれぞれを知ることによって、自身の戒告処分が有効なものかどうかを知る助けとなります。

戒告を有効であると判断した裁判例

東京地裁令和元年11月7日判決(辻・本郷税理士法人事件)

部下に対する差別的言動、厳しい叱責がパワハラに当たるとして訓戒処分を下された事案で、就業規則で必要とされた手続きの履践がないとして争われた。

裁判所は、就業規則には釈明または弁明の機会についての規定があるが、機会付与の方法までは定めておらず、処分前になされた調査で、弁護士が中立的な立場で聴取をしていることから釈明の機会の付与の方法として適切だったと判断した。そして、訓戒が最も軽い処分であることからすると、相当性についての意見聴取がなされなかったからといって必要な手続きが不足するとまではいえないとし、結論として訓戒を有効と判断した。

東京地裁平成23年1月18日判決(東芝ファイナンス事件)

妊娠中の女性社員に対するセクハラ発言を理由に戒告となった事案で、懲戒処分に際して求められる適正な手続きを尽くしたかどうかが争点となった。

裁判所は、処分前に事情聴取があった点や、自らの申出により部長と面会の機会を得ていた点をもって労働者の主張を採用せず、戒告は有効と判断した。なお、労働者は、問題となった発言の具体的状況が訴訟前に明らかにされなかった点を指摘したが、裁判所は、戒告が最も軽度な処分であることからして、発言の具体的な日時や状況が判明しなかったとしても手続的な相当性を欠くとまではいえないとした。

総じて、戒告という処分の軽さからして、求められる弁明の機会などの手続きもまた簡易なもので足りると判断される裁判例は少なくなく、厳密な手続きがないからというだけの理由で戒告処分を争うのは有効な方策とはいえないと考えられます。

戒告を違法であると判断した裁判例

東京地裁平成31年2月25日判決(学校法人大東文化学園事件)

大学講師のゼミ生に対する不適切なメール送信が、いわゆるアカハラとして懲戒規程に該当するとして戒告にされた事案。

裁判所は、メールが大学教員として相応しくない行為であり、学生に不快な思いをさせたとしながら、それまで通りゼミや演習に積極的に参加し、打ち解けた様子のメールのやり取りをしている点から就学に悪影響を及ぼしたとまではいえないと判断。

全体として相当手厳しい表現はあるものの奮起と努力を促す趣旨と理解しうる、また、特定のゼミ員を寵愛していると受け止めるとは考え難いとして、懲戒事由に該当しないと判断し、結論として、懲戒事由について重大な事実誤認ないし評価の誤りがあり、処分内容は重きに失するとして、懲戒権を濫用した違法があると判断した。

広島地裁平成5年4月14日判決

有給休暇を申請した郵便局員が、時季指定変更権が行使されたのに申請通りに休暇を取ったことから、無断欠勤とその際の暴言を理由として戒告処分に付した事案。

裁判所はまず、有給休暇を取ると最低配置人員を欠くものの、使用者が通常の配慮をすれば勤務割を変更して代わりの勤務者を配置できたことから、事業の正常な運営を妨げるとはいえず時季変更権の行使を無効と判断。暴言についても、上司が有給休暇の取得について具体的な検討をせず、直ちに時季変更になると発言したことに端を発しており、職員の権利への配慮を欠くため、発言内容のみを責めるのは相当でないとし、結論として使用者の主張する信用失墜行為ないし非行に当たらないとして、戒告を違法なものと判断した。

労動者が裁判で勝つ方法」の解説

その他の戒告処分について

最後に、懲戒処分の戒告と同じく「戒告」という語を用いられる、その他の場面について解説しておきます。厳密な労働問題ではないものもありますが、知識として理解しておいてください。

国家公務員・地方公務員の戒告処分

公務員に戒告処分が下される場面があります。公務員の戒告は、企業における懲戒処分と違い、根拠となる法律に明確な定めがあります。

国家公務員法82条1項(抜粋)

職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

国家公務員法(e-Gov法令検索)

地方公務員法29条1項(抜粋)

職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

地方公務員法(e-Gov法令検索)

公務員の懲戒処分は、戒告、減給、停職、免職の4つ。公務員でも民間企業と同じく「戒告」は最も軽い位置付けです。懲戒事由も、概ね一般企業と同じですが、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」という観点で判断するのが公務員ならではの特色です。国や地方公共団体は「懲戒処分の指針」に基づいて懲戒の程度を決定します(本指針は、代表的な事例について標準的な処分の種類を掲げた基準で、国家公務員は人事院、地方公務員は各地方公共団体のサイトで確認できます)。

なお、不当な戒告処分を受けた場合、行政上の不服申立てや行政訴訟で解決します。

教員の戒告処分

教員も、公立の場合は、前章の通り地方公共団体から戒告処分を受けます。また、私立学校の教員は、民間企業と同じく、本解説の通りに戒告される可能性があります。

公務員として働く場合は、都道府県教育委員会が定める詳細な基準が参考になります。体罰や生徒に対するいじめなど、教育現場に特有の行為類型を、非違行為として掲げている点が特徴。例えば、東京都教育委員会は次のケースが戒告に値すると定めます。

  • 体罰を行った場合
  • 暴言又は威嚇を行った場合で、児童・生徒の苦痛の程度が重いとき(欠席・不登校等)
  • 常習的に暴言又は威嚇を繰り返した場合
  • 暴言又は威嚇の内容が悪質である場合
  • 暴言又は威嚇の隠ぺい行為を行った場合
  • 児童・生徒へのいじめ又は児童・生徒間のいじめへの加担若しくは助長を行った場合
  • 性的な冗談・からかい、食事・デートへの執ような誘い、性的羞恥心を害するような言動等を行った場合(交際を求める、正当な理由なく自宅に入れたり、所属長の承認を受けることなく、自家用自動車等に同乗させたりする等を含む。)
教職員の主な非行に対する標準的な処分量定(東京都教育委員会)

弁護士の戒告処分

弁護士は、弁護士会に登録し、独立した存在として活動します。弁護士法や所属弁護士会、日弁連の会則への違反、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときは、懲戒を受けます(弁護士法56条)。

弁護士の懲戒処分は、戒告、業務停止、退会命令、除名の4種類であり、戒告は、反省を求めて戒めることを内容とする最も軽い処分です。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
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今回は、懲戒処分の1つである「戒告」について、特に間違えやすい「譴責」との違いを明らかにしながら詳しく解説しました。

戒告は軽度の懲戒処分ではありますが、不当に悪用されると労動者の被害は思いのほか大きいと言わざるを得ません。賞与退職金といったまとまった金銭が減ってしまったり、出世やキャリアアップに悪影響であるなど、決して無視できない処分です。

戒告を受けた労働者は、その理由を確かめ、戒告に値する責任があるかどうかを確認してください。あわせて、事実関係の調査が丁寧にされているか、処分前に弁明の機会が付与されたかなど、手続き的な観点からも、会社に不適切な対応がないか、注意を向けておく必要があります。

万が一、違法、不当な戒告が疑われる場合、早期に労働問題に精通した弁護士に相談するのが大切です。

この解説のポイント
  • 戒告は、懲戒処分のなかでも軽度なもので、軽微な企業秩序違反に下される
  • 軽度とはいえ制裁の意味合いは強く、正当な理由なく行われれば違法
  • 不当な戒告処分を受けたら、その理由を通知書などで確認して撤回を求める

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