障害者が働きやすい環境を整えることは、企業の責任です。障害者雇用促進法・障害者差別解消法によって障害者の雇用は法的に保護されており、働き方改革で多様な働き方が焦点となるなど、障害者の活用は社会的にも大きな課題となっています。
職場内であっても、障害者差別は許されません。しかし、障害者雇用に配慮のない企業では、残念ながら、障害を持つ人が不当解雇の被害に遭い、トラブルに発展する事例は少なくありません。障害を理由とした解雇が禁止されるのは当然ですが、直接的に障害を理由としなくても、合理的な配慮の足りていない解雇は、正当とはいえない可能性が高いです。
今回は、障害を理由とした不当な解雇の違法性と、判断基準や争い方について、労働問題に強い弁護士が解説します。
障害者雇用と解雇の関係
はじめに、障害者雇用と解雇の関係について、基本知識を解説します。
障害者は、法定雇用率による雇用保障や、差別の禁止といった法的な保護を受ける一方で、「障害者であること」を理由に健常者より不利に扱われ、労働条件を下げられたり不当な処分を受けたり、ハラスメントや職場いじめの対象とされたりすることがあります。
職場における障害者に対する不当な処分の最たる例が「解雇」ですが、障害者であっても不当解雇が許されないのは当然です。
障害者の法的な保護
障害者の雇用を保護するために、重要な役割を果たす法律について解説します。以下の法律は、障害者が平等に働ける環境を保障し、不当解雇から守るための基本的な枠組みを整備しています。
なお、法的に保護される「障害者」には、視覚や聴覚といった身体に障害のある人だけでなく、知的障害者や精神障害者も広く含みます。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法(正式名称「障害者の雇用の促進等に関する法律」)は、均等な機会と待遇を保障することで障害者の雇用を促進することを目的とします。障害者の差別を禁止し、待遇差の解消や障害者が能力を有効に発揮するための合理的な配慮を企業に義務付けることで、働きやすい環境を整えるよう促しています。
同法によって、企業には一定割合の障害者雇用が義務付けられ、法定雇用率を達成できない場合には障害者雇用納付金を徴収されるペナルティが課せられます。
障害者差別解消法
障害者差別解消法(正式名称「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)は、障害を理由とした差別を禁止し、行政機関や事業者に合理的な配慮を義務付けることで、障害者の権利を保護しています。
同法によって、企業や公共機関が、障害者を不当な理由で差別することは禁じられ、不当な扱いをされずに仕事を行えるよう配慮を受けることができます。
労働基準法や労働契約法などの労働法
労働基準法、労働契約法などの労働法は、全ての労動者を保護するものなので、障害者であっても当然に適用されます。
そのため、正当な理由のない解雇が無効となるという労働契約法16条の解雇規制、労災の療養期間中とその後30日間の解雇などを制限する労働基準法19条のルールなど、労動者を解雇から保護する定めは、障害者もまた享受することができます。
「解雇の意味と法的ルール」の解説
障害者が不当解雇される事例が多い理由
以上のように法的に保護されるにもかかわらず、障害者が不当解雇を経験する事例が多く相談されている背景には、次のような理由があります。
- 職場の理解や配慮が不足している
「障害」も多種多様であり、雇用主がその特性や必要なサポートを理解していないと、障害者の業務に支障を来たし、解雇に追い込まれやすくなります。 - 人件費削減の対象になりやすい
障害者は、業績不振などの際に、優先的に解雇の対象にされがちです。売上に直結しない補助的な業務を担当することが多く、軽視されやすいからです。 - 障害を理由に低く評価されている
業務が制限されているのが障害の影響なのに、十分に考慮せず「能力不足」といった低い評価を下し、解雇されてしまうケースがあります。 - ハラスメントの対象になりやすい
障害を理由としたハラスメントの犠牲になると、疎外感を抱き、職場に居づらくなります。形式は自主退職でも、「辞めざるを得なかった」なら実質は解雇です。 - 合理的な配慮が企業の負担となる
障害者に行うべき合理的な配慮が、企業にとってコストとみなされると、特に、経営が苦しい中小企業などでは、障害者が解雇されてしまうことがあります。
不当解雇の背景には、企業側の障害者雇用に対する理解不足が共通して見られます。不当解雇は、障害の有無にかかわらず労働者の生活基盤を脅かす深刻な問題ですから、自身の権利を守るため、会社と争っていくことが必要です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
助成金や障害者雇用納付金のペナルティがある
障害者を解雇することは、企業にとっても大きなリスクがあります。
障害者雇用納付金制度は、法定雇用率に達成しない企業に納付金を課す仕組みです。法定雇用率の未達に対するペナルティとなるため、障害者を解雇したことで法定雇用率を下回ると、会社に経済的な損失が生じます。
また、雇用に関する助成金は、「会社都合の解雇がないこと」を支給要件とすることが多いです。例えば、障害者や高齢者の雇用時に受け取れる「特定求職者雇用開発助成金」は、「対象労動者の雇入れ日の前後6ヶ月間に事業主の都合による従業員の解雇をしていないこと」が受給条件です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
障害者の不当解雇は許されない
障害者雇用の労働者が直面しやすい労働問題が「解雇」です。
障害者の不当解雇が許されないのは当然です。会社を辞めさせられる状況が深刻なのは健常者も同じですが、障害者だと特に、大きな不利益を受けてしまいます。
障害者だからという理由で解雇することは認められません。採用時点で障害を把握している以上、それに伴う配慮や、業務上の一定の支障は、企業として受け入れるべきであり、解雇の理由にすることは許されません。
解雇には正当な理由が必要
障害者であっても、雇用される労動者であることに変わりなく、解雇に関する法的な規制が適用されます。具体的には、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合には、違法な不当解雇として、無効になります(労働契約法16条)。
健常者と同じく、事実と異なる理由でクビにしたり、不当な評価をもとに解雇したりすることは、上記のルールからして違法なのが明らかです。そして、障害者の特殊性として、次章の通り「障害があること」を直接的、または、間接的に理由にして解雇するケースは、不当解雇となっている可能性が非常に高いので特に注意を要します。
「正当な解雇理由の例と判断方法」の解説
障害を理由とした解雇は禁止される
障害を理由に解雇をすることは法律で厳格に禁止されており、不当解雇となります。障害者が巻き込まれやすい解雇トラブルについて、違法性の判断基準として次のポイントを理解してください。
障害そのものを理由とする解雇は差別である
障害者雇用促進法35条は、労動者の待遇について「障害者であること」を理由とした不当な差別的取扱いを禁止します。禁止される差別の内容は「障害者差別禁止指針(厚生労働省)」に詳しく定められていますが、「解雇」については次の3つの例が挙げられます。
- 障害者であることを理由として、障害者を解雇の対象とすること
- 解雇の対象を一定の条件に該当する者とする場合において、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと
- 解雇の基準を満たす労働者の中で、障害者を優先して解雇の対象とすること
いずれも、能力や勤務態度といった事情にかかわらず、「障害者である」というだけの理由で解雇の対象としたり、解雇の条件で不利に取り扱ったりすることを意味し、不適切なケースであるのは明らかです。
合理的配慮がないなら不当解雇となる
障害者雇用促進法・障害者差別解消法では、障害者に合理的な配慮をする義務を、企業に課しています。合理的な配慮とは、障害者の業務の便宜を図るために、設備や環境を整えたり、支援措置を講じたりといったもので、具体的には次の例があります。
【職場環境の改善】
- バリアフリー化
(段差をなくす、エレベーターや手すりの設置など) - 特別な施設の設置
(点字表記や音声案内、多目的トイレなど) - 専用デスクや作業スペースの確保
【業務内容の配慮】
- 負担の大きい作業を与えない
- 他の社員と分担して業務を割り振る
- 業務量を調整する
【労働時間や勤務形態の配慮】
- 時差出勤や短時間勤務
- 障害の治療に必要な時間を柔軟に調整する
- リモートワークを実施する
- 休憩を増やして頻繁に取れるようにする
これらの配慮は、障害の特性や能力など、個別の事情に応じたものでなければなりません。合理的配慮が不足しているのに障害者を解雇することは、企業として必要な努力を尽くしておらず、不当解雇となります。
障害が業務に支障を与えないなら不当解雇となる
業務に支障のない障害は、解雇の理由にはできません。障害があっても十分に貢献している人を解雇するのは、労動者の権利を侵害する不当解雇といえるからです。
「業務に支障があるかどうか」は、労働契約上の義務を果たすことができているかどうかで判断します。決められた時間に出社し、任された職務を遂行できている場合、障害者だからといって評価を下げてクビにするのは不当解雇です。雇用形態が正社員か、それとも非正規か、任せられた仕事の軽重といった事情も、解雇の有効性に影響します。
「能力不足を理由とする解雇」の解説
障害者である労働者の解雇の届出が必要
障害者を解雇する際は、通常の解雇手続きに加え、ハローワーク(公共職業安定所)への届出が義務付けられています。(障害者雇用促進法81条)。障害者が不当に解雇されやすく、かつ、一般の求職者に比べて再就職が困難なことが多いので、解雇の状況を把握するために設けられた規制です。
なお、天災事変による場合や労動者の重大な責任がある場合など、やむを得ない理由で解雇になった場合には、届出は不要とされます。
「障害者である労働者の解雇の届出」と呼ばれ、解雇年月日と解雇理由、障害の種類・程度が記載されることで、障害者の解雇が正当に行われているかどうかが確認されます。書式については、厚生労働省の下記サイトを確認してください。
労災による障害では解雇が制限される
労災によって障害を負った労働者は手厚く保護され、労働基準法19条により、業務災害による療養のための休業中とその後30日間は、解雇が制限されます。労動者に責任のない災害によって生じた被害から回復する期間について、解雇されて生活が不安定になるのを避けるためです。
したがって、障害の原因が労災である場合は、すぐに解雇することは労働基準法違反となります。この場合にも、軽易な業務に転換して負担を軽減したり、業務時間を調整したりといった配慮をしなければなりません。
「解雇制限の期間と例外」の解説
「障害者雇用は解雇できない」は誤り
「障害者雇用は解雇できない」と言われることがありますが、これは誤解です。
確かに障害者雇用は、健常者と同等の業務ができなくても一定の配慮をして補うべきで、すぐ解雇に踏み切ると「不当解雇」とされる可能性は高く、慎重に進められるべきです。しかし、障害を持つ労働者でも解雇してはいけないわけではありません。障害者でも正当な理由があるなら解雇は可能であり、「解雇には正当な理由が必要」の通り、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合なら、障害者だとしても解雇することができます。
例えば、解雇が有効となるケースには、次のような事例があります。
有効に普通解雇できる事例
普通解雇は、能力不足や勤務態度の不良などによって、労使の信頼関係が損なわれたことを理由とします。障害者であることを前提とした雇用契約上の義務すら果たせていないなら、「能力不足」と判断できます。障害者といえど、始業時刻に何度も遅刻し、注意しても改善が見られないなら「勤務態度の不良」を理由に解雇するのもやむを得ないケースもあります。
確かに、障害者には一定の保護が必要ですが、配慮をした上でもなお、業務遂行があまりに不適切な場合は、普通解雇とすることができるのです。
「解雇が無効になる例と対応方法」の解説
有効に整理解雇できる事例
業績不振により人員整理が必要となった場合、障害者が解雇対象となることがあります。このような経営上の理由による解雇は「整理解雇」と呼ばれ、労働者に責任はないため厳しく制限されます。整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性)を満たす必要がありますが、やむを得ない場合は障害者が解雇できる可能性があります。
ただし、障害者だからといって優先的に整理解雇の対象とすることは許されず、合理的な人選基準によって解雇対象者を選定する必要があります。
「整理解雇が違法になる基準」の解説
有効に懲戒解雇できる事例
障害者でも、企業の秩序を守る義務があるのは当然です。そのため、重大な責任のある行為があれば、障害者であっても懲戒解雇とすることが認められます。例えば、横領や窃盗などの犯罪行為、重度のハラスメント行為、他の社員への暴力や、会社の機密情報の漏洩や無断での持ち出し、長期の無断欠勤といった悪質なケースは、懲戒解雇とされてもやむを得ません。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
解雇された障害者が会社と争う方法
次に、障害者だからという理由で不当解雇をされてしまったときの争い方を解説します。違法な障害者差別を受けた場合でも、法律に基づいて救済を求めることができます。労動者としても、不当な解雇をされても、あきらめずに行動することが重要です。
解雇理由が障害に関わることを確認する
解雇されたらすぐに解雇理由を確認することで、「障害に関連して解雇されたかどうか」を把握しておくべきです。本解説の通り、障害を理由に解雇することは、障害者の法的な保護に違反する可能性が高いためです。解雇の理由について、解雇予告を受けた後であれば、労動者が請求することで「解雇理由証明書」を交付する義務が会社に課されています(労働基準法22条)。
「解雇理由証明書の請求方法」の解説
障害者への合理的な配慮を求める
解雇された場合に、それ以前に企業から合理的な配慮を提供されていたか、確認することが重要です。配慮のないまま障害者が解雇された場合、不当解雇となる可能性が高いためです。解雇の撤回を求める場合にも、復帰した後の配慮を求めておくようにしてください。
「解雇を撤回させる方法」の解説
労働基準監督署に相談する
解雇が不当だと感じた場合、労働基準監督署に相談するのも有効です。労働基準監督署は、労働基準法などの法律に基づいて、労働者の権利侵害について企業に助言指導や是正勧告を行って、法違反の状況を改善する役割を担います。ただし、解雇の正当性は個別の事情に基づいた判断となるため、解雇トラブルについては、必ずしも十分に対応してもらえない場合があります。
「労働基準監督署への通報」「労働基準監督署が動かないときの対処法」の解説
弁護士に相談して法的手続きで争う
不当解雇をされた障害者は、弁護士に相談し、アドバイスを受けるのがおすすめです。
弁護士に協力を依頼すれば、不当な差別に一人で立ち向かう必要はなく、法律知識と経験に基づいたサポートを受けることができます。
職場で行われる障害者への差別は多岐にわたり、しばしば目に見えない形で行われるため、障害を持つ労働者が一人で調査や検討を行い、会社と戦うのは困難と言わざるを得ません。弁護士に依頼すれば、被害状況の整理や証拠集め、適切な救済手段について助言を得ることができます。交渉で解決が難しいとき、労働審判や訴訟といった裁判手続きで争う必要があり、その際は、解雇によって失われた労働者としての地位の確認だけでなく、差別による精神的苦痛に対する慰謝料も請求すべきです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
障害者の解雇が争われた裁判例
最後に、障害者の解雇について争われた裁判例の判断を紹介しておきます。
障害者の解雇が有効と判断された裁判例
うつ病による精神障害を抱えた契約社員が、業務上のミスが続いたことを理由に契約を更新されなかったことについて、障害者雇用促進法の適用を主張し、雇用の継続を求めて争った事案。
裁判所は、会社は適切な労務管理を行っており、病状に配慮した業務を割り当て、指導担当者による支援や業務時間の調整といった合理的な配慮を提供してきたと認めた。そして、労動者はミスを繰り返した上にそれを隠すなどした点で、更新拒否に合理的な理由があるとし、雇い止めを有効なものと判断した。
「不当解雇の裁判の勝率」の解説
障害者の解雇が無効と判断された裁判例
鉄道車両や船舶を製造する会社の従業員が、勤務成績や業務能率などを理由に解雇された事案。原告は、てんかんで障害等級1級の認定を受けている上に、骨盤にボルトが入っていて足を動かしにくい状態で、配慮の求められる労動者であった。
裁判所は、解雇理由とされた「作業が遅い」という点について、てんかんの症状からくる作業の遅さに配慮を要すると医師が診断していたこと、作業スピードに改善の兆しが見られることなどから、解雇理由に該当しないと判断した。また、「スプレーガンの使用技術」についても、業務に深刻な支障はなく、他の作業員にも同様のミスがあったことなどから、解雇理由として不適切であるとし、解雇は違法であり無効であると判断した。
「裁判で勝つ方法」の解説
まとめ
今回は、障害者の不当解雇について解説しました。不当な差別を受けた障害者雇用の方は、適切な対処法と注意点をしっかり理解しておくことが大切です。
障害を理由に解雇された場合、その解雇が正当か不当かを判断する基準として、通常の解雇に適用される法的規制のほかに、障害者雇用促進法や障害者差別解消法の規定があります。企業が、障害を持つ労働者に対して働きやすい環境を提供し、合理的な配慮を尽くしていたかどうかが、重要な判断材料となります。
多様な人材の活用が進む一方で、障害を持つ労働者の地位が依然として軽視されがちな現状もあります。障害を理由とする解雇や不利益な扱いは違法であり、弁護士に相談するなどして、法的な救済を受けることが必要です。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】