会社に不満のある労働者も多いことでしょう。パワハラの横行するブラック企業だと、悪口を言いたくなるのも当然のことです。
しかし、会社の悪口でも、SNSなどネット上の書き込みをすると大きな問題に発展するケースがあります。インターネット上にはけ口を求め、会社の悪口を書き込んでしまった結果、違法な誹謗中傷となるおそれもあるので注意が必要です。
退職後に転職会議で悪口を書いたら賠償請求された
2ちゃんねるへの書き込みがバレて解雇された……
SNSや匿名掲示板などのネット上の情報は、すぐに拡散されます。そして重要なのは、決して「完全なる匿名」ではないという点。弁護士が発信者情報開示請求をすれば、IPアドレスなどから投稿者を割り出され、特定されるケースも多いです。
ネット上で、会社や上司の悪口を書き、バレてしまえば責任追及を受けます。名誉毀損、業務妨害といった理由で損害賠償を請求されます。あわせて、まだ在職中であれば、内容によっては解雇されるリスクもあります。
会社の不満や悪口をネット上に書き、責任追及されそうな方の対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社に不満があっても、ネット上に悪口を書き込むと違法となるおそれがある
- 「解雇するほど重大ではない」「ブラック企業側に問題があり、指摘せざるを得ない」といった理由がある場合は、解雇できないケースもある
- ネット上の書き込みは完全な匿名ではなく、バレると刑事罰を科されることもある
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問題となるネット上の会社の悪口とは
労働者なら、誰しも会社に不満くらいはあるものです。同僚や友人に愚痴を吐く程度なら仕方ないですが、次のような会社への悪口の言い方、表現方法は、法律問題に発展するおそれがあります。
- X(旧Twitter)などのSNSで、社名を示して会社の悪口を書く
- 会社の評判を落とすような行為をあえてする
- 5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)などの匿名掲示板で、会社の悪口を書く
- ネット上の口コミで営業妨害をする
- 退職後にネットで会社の悪口を拡散する
ネットやSNSにおける情報発信が容易になった現代では、上記のような行為を軽い気持ちでしてしまいがちです。しかし、ネット上では、問題ある行為をすれば全て記録が残ってしまいます。IPアドレスなどのアクセス情報をたどって投稿者を特定できるケースは思いの外多く、決して匿名ではありません。会社に発覚してしまうと、解雇や慰謝料請求といった不利益を被るおそれがあります。
「労働」と関連した問題行為が行われやすいのは、次のネット媒体です。
- 匿名掲示板
5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)、爆サイなど - SNS
X(旧Twitter)、Facebook、インスタグラムなど - 転職情報サイト
転職会議、カイシャの評判、キャリコネなど
コンプライアンス意識の高い会社ほど、悪評が立って企業イメージを損なわないよう、これらの媒体をチェックし、監視していることが多いです。「バレないだろう」という甘い考えは禁物で、発覚して大変なことにならないよう、慎重に行動すべきです。
ネット・SNSで会社の悪口を書くと違法?
ネット・SNS上に会社の悪口を書くことが違法となるケースがあります。会社の悪口が違法となり得るのは、退職した労働者はもちろんのこと、在職中の労働者にもあてはまります。
会社に対する名誉毀損
まず、会社の名誉毀損にあたるケースは、違法です。ネット上に会社の悪口を書くことによって、会社の社会的評価を下げれば、名誉毀損に該当するおそれがあります。
他の社員に対する名誉毀損・プライバシー権侵害
次に、会社の悪口を書いたつもりが、他の社員の名誉を毀損しているケースも違法です。例えば、ワンマン社長やブラック上司への不満を書き込んだ例です。このとき、対象となった社員の個人情報を記載すれば、プライバシー権を侵害するおそれもあります。
業務妨害
嘘の事実を書くことによって業務に支障が生じてしまえば、業務妨害にあたり違法です。ブラック企業への恨み、金儲け主義の社長への妬みといった個人的な感情でも、ネット上に書き込んでしまうと問題があります。
秘密保持義務違反
入社時、退職時などに、秘密保持に関する誓約書にサインをされられた方は多いでしょう。このような場合には、労働者は会社に対して秘密保持義務を負っています。
そのため、会社の悪口をネットやSNSに書くだけでなく、会社の重要な秘密をばらしたなら、そのこともまた、厳しい処分を受ける理由となってしまいます。会社の不平不満、悪口、誹謗中傷のなかには、社内の人しかわからない情報、企業秘密が含まれるケースが多くあります。
「誓約書を守らなかった場合の影響」の解説
ネット・SNSでの書き込みの危険性
会社に全く不満も悪口もないという労働者は少ないでしょう。
しかし、全社員が抱いている不満や悪口で、社内では周知の事実だったとしても、ネット上に書き込むのは慎重になるべきです。ネット・SNSへの書き込みが、違法となるおそれがあるからです。
ネット上の書込み、特に誹謗中傷にあたるものには、次の危険性があります。
コピペによる拡散が容易
ネット上に書き込まれた情報は、誰でも簡単にコピペ(コピー&ペースト)できます。
そのため、軽い気持ちで転職会議など口コミサイトに書いた会社への悪口が、思いもよらないスピードで、全世界に拡散されることも少なくありません。上場企業や大企業など、世間の興味関心の強い会社は特に、面白おかしく拡散され、収集がつかなくなる危険があります。
バズったり、まとめサイトなどに転載されたりすると、もはや投稿者であっても削除できなくなってしまいます。
匿名ではない
5ちゃんねるなどの匿名掲示板、転職会議などの口コミサイトは、氏名なしでも書き込めます。そのため、「ネット上は匿名だ」と勘違いし、普段溜め込んでいた本音を暴露してしまいます。
しかし、実際には、完全な匿名ではありません。IPアドレスなどの接続情報をたどれば、誰が書き込んだかを、技術的に特定できるケースは多いです(このような特定の方法を、「発信者情報開示請求」といいます)。
匿名で違法な書き込みをしたとき、特定されれば、慰謝料請求を受ける危険があります。
「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説
SNSはクローズド(閉鎖的)ではない
X(旧Twitter)、FacebookやインスタグラムなどのSNSでは、「自分の友達にしか公開していないから」という軽い気持ちで、会社の愚痴を日記のようにして書いている人もいます。しかし、会社の悪口など評価を下げる投稿は、違法となるおそれがあります。
たとえ公開範囲を制限しても、SNSは完全にクローズド(閉鎖的)ではありません。実際には、全ての友達、フォロワーを把握していない方もいるでしょう。最初は友人しか見ていなくても、興味を引く話題はコピペで拡散され、意図しない広がり方をするケースもあります。
会社の悪口をいったら解雇(クビ)になる?
ネットやSNS上で、会社の評価を下げるような悪口を書き込むことには大きなリスクがあります。会社にバレると、懲戒処分などの厳しい扱いをされてしまいます。そして、その最たる例が、会社に解雇されてしまうケースです。
会社の誹謗中傷をネットでしてしまったら、解雇でしかたないのかというと、そうではありません。後ろめたいことがあると不安になるでしょうが、実際は、全てのケースでクビにすることが許されるわけではなく、解雇には厳しい制限があるのです。
解雇は、会社が下す処分のなかでも最も重いものです。そのため、それに見合った重大な理由がない限り、解雇することはできません。具体的には、解雇権濫用法理のルールによって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない場合には、その解雇は違法な不当解雇となり、無効です(労働契約法16条)。
この解雇規制の結果、程度や内容によって、解雇できるケース、できないケースがあります。
たとえ会社の悪口をネットやSNSに書いてしまったケースでも、悪質性が高く、会社への損害や影響が大きいといった場合でなければ、解雇は重すぎる可能性があります。不当解雇された可能性があるなら、まずは弁護士に相談ください。
また、悪口を書いてしまった原因が、むしろ会社の労働法違反や過酷な労働環境にあるなら、労働基準監督署に通報するのも有効な策です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」「労働基準監督署への通報」の解説
解雇できるケース
次のように会社に重大な影響を与える行為は、解雇される危険があり、注意を要します。
- 企業名を公開し、ネット上で評判を下げる悪口を書く
- 役職者など、責任あるポジションの社員が、ネット上で誹謗中傷する
- 事実でない口コミによって、会社が重要な顧客を失ってしまった
- 会社の悪口投稿が拡散されて炎上し、社会的評価を大きく下げた
- 誹謗中傷の書き込みによって、業務を著しく妨害した
重大な違法行為だと、解雇されて会社にいられなくなるだけでなく、損害賠償請求のリスクもあります。このとき、ネットやSNSで書き込んだ会社の悪口、誹謗中傷によって、顧客を失うなど具体的な損害があるときには、賠償請求の対象となります。実際には損害の証明が難しくても、慰謝料が認められるケースもあります。
更に、匿名での情報発信の場合には、ネット上の投稿者を特定するのにかかった弁護士費用も請求できるとするのが実務です。
「正当な解雇理由の例と判断方法」の解説
解雇できないケース
これに対して、単なる「会社の悪口」にとどまるなら、解雇は重すぎます。相当性を欠き、不当解雇だといえるでしょう。労働審判や裁判で争って解雇の撤回を求めたり、金銭補償を請求したりすることができます。
名誉毀損にあたりうるとしても、その書き込みが公共の利害に関わるもので、公益の目的があり、かつ、事実が真実ならば名誉毀損罪にあたりません(刑法230条の2)。したがって、刑法においても違法とされない書き込みなら、解雇とするのは厳しすぎます。
ブラック企業で、会社側にむしろ問題があるとき、労働者を救うためにやむを得ずした行為であれば、責任追及を受けないケースもありえます。また、口コミや評判の対象が、どの企業なのか特定できないときも、その会社の悪口とは必ずしもいえず、解雇は厳しすぎるとして争うことができます。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
ネット・SNSでの会社の悪口が、犯罪になるケースもある
会社の評価を下げる書込みを、ネットやSNSでしてしまったとき、懲戒処分や解雇などの社内での責任をとらされるだけにとどまらず、度が過ぎれば犯罪になってしまう場合もあります。
刑法に定められた次の罪にあたるとき、刑事責任を追及される危険があります。ネット・SNSでの会社の悪口、誹謗中傷があたりうる刑事上の責任は、次の罪があります。
罪名 | 法定刑 |
---|---|
名誉毀損罪 (刑法230条) | 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金 |
侮辱罪 (刑法231条) | 1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料 |
業務妨害罪 (刑法233条) | 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
背任罪 (刑法247条) | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
犯罪に該当しうるような相談例には、次のケースがあります。
【名誉毀損罪の例】
- 「社長が反社だ」など、事実を摘示して社会的評価を下げる口コミ
【業務妨害罪の例】
- 「会社に爆弾をしかけた」など、業務に支障を生じさせる書き込み
犯罪になると、刑事責任の追及のため、逮捕・勾留といった身柄拘束を受けます。逮捕後48時間は警察で拘束され、検察に送致されると24時間拘束、そして、勾留請求されると、そこから10日間(さらに最大10日間延長)という長い身柄拘束を受けてしまい、社会生活に支障が生じます。起訴されて有罪となれば、前科がついてしまいます。
重大な刑事責任を回避するために、つい出来心でしたネット上の書き込みについて指摘を受けたら、直ちに会社に謝罪し、示談してもらえるよう交渉するのが有効な方法です。示談交渉は、自身で対応するのは困難なので、弁護士に弁護活動を依頼するのが賢明です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、ネット・SNS上の書込みの危険性と、出来心でしてしまったときの対処法について解説しました。社員の立場で、会社の悪口、不平不満、誹謗中傷を、SNSやブログに書いてしまうのは、非常に危険な行為であると理解してください。
放置して、拡散されてしまえば、懲戒処分に処せられたり、最悪のケースでは解雇されてしまったりすることもあります。あわせて、会社に生じた損害の賠償請求を受けたり、社長や上司個人の誹謗中傷については慰謝料を請求されるリスクもあります。
万が一、軽い気持ちでネット上の書き込みをしてしまったら、即座に対応する必要があります。インターネットの問題と労働問題の絡む複雑な問題については、両方の問題に詳しい弁護士に相談してアドバイスをもらうべきです。
- 会社に不満があっても、ネット上に悪口を書き込むと違法となるおそれがある
- 「解雇するほど重大ではない」「ブラック企業側に問題があり、指摘せざるを得ない」といった理由がある場合は、解雇できないケースもある
- ネット上の書き込みは完全な匿名ではなく、バレると刑事罰を科されることもある
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