年度末が近づいてきたことから、特に多くなる労働問題の法律相談の1つが、「不当解雇」の問題です。
3月末で年度末となることから、会社としては、「新年度は新しい気持ちで迎えたい。」、「当年度の労働問題は、今年度中に処理しておきたい。」などと考え、3月末までを期限として退職を迫ったり、不当解雇したりというケースがあるためです。
しかし、3月末(年度末)だからといって、解雇が許されるわけでも、退職強要をしてもよいわけでもありません。
そこで今回は、この時期に特に多くなる法律相談である、「3月末で退職してほしい。」という退職強要・不当解雇について、労働問題に強い弁護士が解説します。
1. 3月末(年度末)の解雇の3ケース
まずは、弁護士のもとによくある、3月末(年度末)の不当解雇の相談について、3つのケースを紹介します。
いずれの場合も、会社からの通知のしかた、発言内容などが違うだけで、「不当解雇」の問題となるという点では共通しています。
そして、いずれの解雇のケースであっても、3月末(年度末)であることの理由は、会社側にはあるのでしょうが、それは会社側の一方的な都合であって、労働者側が配慮をする必要のないことであるといってよいでしょう。
1.1. 年度末(3月末)で解雇のケース
まず、一番わかりやすく、かつ、最も労働者にとってのダメージが大きいのが、「年度末(3月末)で解雇」といわれるケースでしょう。
日本の労働法では、解雇をする場合には、解雇日の30日前に「解雇予告」をするか、足りない日数分の賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります。
そのため、「年度末(3月末)で解雇」となり、30日前の解雇予告をすることとなると、2月末の、まさに今の時期こそが、「解雇予告」の時期となるわけです。
1.2. 年度末(3月末)で退職を強要されるケース
次に、よくある年度末(3月末)の労働問題の2つ目のケースは、「年度末(3月末)で退職をしてほしい。」と会社から迫られているという相談ケースです。
この場合、会社は労働者に対して退職をうながすことは可能ではあるものの、労働者が拒否しているにもかかわらず、退職をうながし続けることは、「退職強要」として違法となります。
特に、「年度末(3月末)」であることに、特に何らの理由もなく、会社の一方的な都合で3月末までにやめてほしい、と強く迫ることは、「退職勧奨」に理由がまったくなく、違法となりやすいケースとお考えください。
1.3. 年度末(3月末)で更新拒絶(雇止め)のケース
ここまでのことは、特に、期間の定めをせずに雇われている正社員によくある労働問題です。最後にあげるのは、「年度末(3月末)で更新拒絶(雇止め)」という、非正規社員の方によくある労働問題です。
契約社員、アルバイト社員など、期間を定めて雇い入れられている労働者の方の中で、年度末(3月末)がちょうど期間満了であるという場合、会社が「ちょうどよいタイミング」と考えて雇止めをすることが、残念ながら少なくありません。
しかしながら、ある程度の期間の間雇い続けられているような労働者の方の場合には、「雇止め(更新拒絶)」であっても、合理的な理由がなければ「不当解雇」と同様に無効となる可能性がありますから、「年度末(3月末)である」というだけでは足りません。
2. 年度末に退職強要を受けときの対応は?
まず、年度末に、退職強要、退職勧奨を受けてしまった労働者の方に向けて、適切な対応方法を、弁護士が解説します。
さきほど解説しましたとおり、労働基準法によって、解雇の際には、次のとおり、1か月前の「解雇予告」が必要とされていることから、年度末で解雇をしようと考える場合、ちょうど2月中には退職勧奨、退職強要をするケースが多くあります。
労働基準法20条1項使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
「雇止め(更新拒絶)」の場合にも同様に、解雇予告手当をもらうことはできないものの、行政のルールによって、一定期間雇い続けた場合には、30日前に予告をすることが推奨されています。
2.1. 契約書・就業規則を確認する
解雇、退職強要、雇止めのいずれのケースであっても、まずは、これらの「年度末(3月末)における不当な行為が、契約上ゆるされることであるのか、契約書、就業規則を確認してみてください。
いずれをみていただいても、「年度末(3月末)」であることが、労働者と会社との間の契約上、大きな理由となることはないことがご理解いただけることでしょう。
2.2. 退職勧奨・退職強要に応じない
さきほど解説しましたとおり、年度末(3月末)までに、人員削減などの目標を達成しようとすれば、退職勧奨ないし退職強要は、2月中には開始しておく必要が会社側にはあります。
しかし、労働者には「退職の自由」がありますから、「自主退職」なのであれば、退職の時期を決めるのは、労働者側の自由です。
また、退職勧奨の結果「合意退職」をするのだとしても、あくまでも「合意」によるものですから、労働者の意思に反して「年度末(3月末)で退職をしなければならない。」わけでは決してありません。
退職条件が労働者にとって非常に有利なものであればまだしも、ご自身の納得できない条件での退職に応じる必要はありません。
2.3. 「年度末(3月末)が近い」以外の理由を確認する
「年度末(3月末)」であることを理由に解雇、退職勧奨などの行為を会社が行ってきていると感じるときには、解雇、退職勧奨などを会社が行う理由を確認してみてください。
他に特に理由がないのであれば、それは不当解雇、退職強要といった、労働トラブルにつながる違法行為である可能性が高いといってよいでしょう。
労働基準法では、解雇予告を受けた労働者は、会社に対して、解雇理由を書面で証明するため、「解雇理由証明書」を出すように求めることができるとされています。
2.4. 録音をとる
会社が、何が何でも、年度末(3月末)までの退職を強要してくるときは、退職強要についての話し合い、面談などについて、録音をとっておくことがオススメです。
特に、次のような退職強要の場面における違法行為は、録音がない場合、労働者側だけでの証明が困難となってしまい、労働審判や訴訟において証明できなくなってしまうケースが少なくないからです。
- 長時間の退職強要の面談を行う。
- 労働者が退職を拒否しているのに面談を強要する。
- 退職をしない場合の脅迫を行う。
- 暴力的行為、暴言、罵倒する。
これらの行為が違法となることは、年度末(3月末)付近の退職強要であってもそうでなくても変わりありません。
3. まとめ
年度末(3月末)になると、どうしても「不当解雇」、「退職強要」の労働問題が増え、弁護士のもとにもこれらの法律相談が多く寄せられます。
会社にとっては、年度末(3月末)は、人員削減、経営方針の見直しのよい機会であることが多いですが、労働者にとっては、年度末(3月末)であるからといって労働者としての権利が変わるわけではありません。
年度末(3月末)を機に、退職を強く迫られたり、突然の解雇を予告されてしまった労働者の方は、労働問題に強い弁護士へ、お早めに法律相談ください。