会社において、髭(ヒゲ)が禁止されていることがあります。汚い髭は論外でしょうが、オシャレで髭をはやしたい人にとって、大問題なルールでしょう。
口ひげやあごひげ、チョビひげなど、種類によって、ルールの適用が変えられることも。このような会社の命令には、理不尽なパワハラだと感じられるものもあります。
「髭を剃れ」と会社から命じられ、従いたくない方も多いでしょう。剃りたくはなくても、人間関係を壊さないため、しぶしぶ髭をやめる人もいます。最悪は、髭を理由に、解雇されるケースもありますが、不当解雇ではないのでしょうか。
今回は、髭を理由に起こる職場のトラブルについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 髭を生やすのは、憲法の保障する「自己決定権」により、労働者の自由
- 業務上支障がある場合にかぎり、会社は、例外的に髭を禁止できる
- 髭が禁止のルールなら、就業規則などに周知し、解雇する前に注意指導が必要
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会社が髭を禁止するのは違法?
まず、会社のルールで、髭を禁止するのは許されるのかを解説します。
「髭を禁止する」というルールが無効なら、その違反を理由とした処分も許されません。当然、注意指導や懲戒処分はもちろん、解雇とするのも違法になります。
そこで、髭を禁止できるかどうかが重要になります。憲法において、個人は、自分の外見を決める権利(自己決定権)を保障されています。
そのため、原則は「髭をはやすかどうか」は個人の自由です。この自由は、労使関係という特殊な状況なら一定の制限ができますが、あくまで必要な範囲に限られます。
労働契約をすることで、業務に支障があるときに限り、会社は労働者に命令し、その行動を制限することができます。そのため、髭をはやすと業務に支障がある場合なら、髭を禁止できます。髭が業務に影響する場合とは、例えば次のケースです。
- 飲食店の労働者が、不衛生な髭をはやしている
- 接客業の労働者が、顧客に不快感を与える髭をはやしている
- 髭をはやすのは不自然な業界の会社で勤務している
これらの例からわかるとおり、髭を禁止できるかどうかは、勤務する企業の業種、担当する職務の内容や責任などによって大きく変わります。会社のルールは、就業規則や雇用契約書に定められているので、あらかじめ確認しておきましょう。
「就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説
「髭を剃れ」は違法なパワハラになる?
突然に、「髭を剃れ」と命じられるとき、パワハラにあたる可能性もあります。髭は、ハラスメントの原因にもなるのです。
パワハラとは、職場における優越的な地位を利用した嫌がらせのこと。例えば、上司から部下に、髭を理由とした不快な言動をすれば、パワハラとなります。
髭には、個人的にさまざまな意味があるでしょう。
おしゃれやファッションであごひげや口ひげをはやす人も多いですし、それだけでなく、願掛けやポリシーなど、髭には個人の思考があらわれやすいものです。「調子のよいときは絶対に剃らない」など、頑なな考えやポリシーのある方もいます。
このような個人の見解を害し、「髭を剃れ」と命令することは、業務の必要性が高くない限り違法です。また、命令にしたがわず髭を伸ばし続けると、しつこくパワハラが続くケースもあります。「髭を伸ばすなら、明日から来なくていい」など、別の労働問題に発展しがちです。髭を理由に「問題社員」だと目を付けられてしまえば、髭以外の点についても厳しめに評価されるようになります。
「パワハラの相談先」「パワハラと指導の違い」の解説
髭を理由に解雇されたときの対応
最後に、髭を理由に解雇されてしまった労働者の正しい対応について解説します。
髭を理由として起こる労働問題の、最たる例が解雇トラブルです。髭は、特に年配の上司には敵視されがちで、解雇に至ることも珍しくはありません。
髭禁止の根拠を確認する
外見を理由に解雇できるのは、あくまで業務に支障のある例外的ケースに限られます。そして、仮に解雇できるケースにあたるとしても、労働者にとって不意打ちではいけません。そのため、髭禁止が、会社のルールとしてきちんと周知されている必要があります。
髭禁止、そして、その違反を理由とする解雇は、就業規則に定められるのが通例です。髭を理由に解雇されそうになったら、まずは就業規則を確認してください。
その他、髭禁止の根拠になりうるのは、次のものです。
- 就業規則
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 採用時の説明
- 入社説明会の資料
- その他、社長や上司からの注意指導を示す資料
「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説
懲戒処分の根拠を確認する
髭の禁止に違反していたとき、懲戒処分を受けることがあります。しかし、懲戒処分は、就業規則に定めてはじめて下すことのできる、特別な処分であり、懲戒処分にする理由と、その内容を定めていなければ、そもそも下すことができません。
このとき、髭をはやすのが、懲戒処分の対象となる企業秩序違反なのかどうかは、検討が必要です。懲戒処分のうち、最も重い処分が、懲戒解雇であり、労働者には大きなダメージがあります。懲戒解雇は特に手続きが厳格で、弁明の機会をはじめとした適正なプロセスを踏まなければ違法です。
「懲戒解雇の手続きの流れ」の解説
髭を理由にした解雇の有効性を検討する
髭を理由として解雇されてしまったとき、不当解雇の可能性は高いです。原則として労働者の自由となる見た目は、業務に支障があるとき例外的に禁じられるに過ぎないからです。
解雇権濫用法理によれば、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされます(労働契約法16条)。今回解説する髭のトラブルに置きかえていえば、まず「髭が業務に支障がある」という禁止の理由があり、かつ、その禁止の範囲が広すぎないものである必要があります。
解雇された労働者は、原則として自由なのを念頭に「それでも髭禁止に意味があるか」をよく考えましょう。例えば、次のケースは、髭を理由にしても不当解雇の疑いが強いです。
- プログラマーなど、顧客に接する機会のない職種
- 業務にまったく支障のない髭
- ベンチャー、スタートアップなど新しい体質の会社
- 自由な服装での出社が許される会社
- 社長や他の社員もあごひげや口ひげをはやしている
- 成果重視で、これまで見た目を指摘されたことはなかった
- 顧客からも髭についてまったく指摘されていない
- むしろ、髭がトレードマークだった
このとき、会社のルールで禁じられてもなお、解雇まではできません。
ただ、髭を理由に解雇できるかは、ケースバイケースの判断を要します。常識はずれの長さや汚い髭だと、さすがに解雇理由になることもあります。原則としては個人の自由であることを理解し、基本的には不当解雇だと考えてよいでしょう。
「解雇を撤回させる方法」「解雇の解決金の相場」の解説
まとめ
今回は、職場の髭にまつわる労働問題について解説しました。
世代によって、髭に関する価値観は人それぞれです。年配の上司や、古い体質の会社ほど、社員の髭を禁止するルールがある傾向にあります。
しかし、「髭を禁止するルールに違反した」という理由の解雇は、不当解雇となる可能性が高いです。髭をはやすかどうかは、個人の自由に任されると考えられるからです。なお、会社の業種や社風、髭のありさまなどによっても判断は異なります。
髭を理由に不当な解雇を受けてしまった労働者は、ぜひ一度弁護士に相談ください。不当解雇は、労働審判や訴訟などの裁判手続きによって争うことができます。
- 髭を生やすのは、憲法の保障する「自己決定権」により、労働者の自由
- 業務上支障がある場合にかぎり、会社は、例外的に髭を禁止できる
- 髭が禁止のルールなら、就業規則などに周知し、解雇する前に注意指導が必要
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