育休は「育児のための休業」ですが、1年が基本(最大2年まで延長可能)。そのため、休みがあけてもまだ育児が大変なのことに変わりありません。すぐには仕事を元に戻せず、育児の負担から退職を余儀なくされる方もいます。悪質な会社だと法定の育児休業すらとれず、時短勤務を断られ、マタハラを受けることもあります。働きづらくなれば退職せざるを得なくなってしまいます。
妊娠・出産した女性から、以下のような相談が寄せられます。
やめる気はなかったが、復帰しづらい
育休をとったら突然働きづらくなった
育休後すぐに退職すると、白い目で見られるのが不安かもしれません。しかし、育休明けの退職も、全くの適法であり、育休から復帰したからといって退職できないわけではありません。むしろ、育休を理由にハラスメントがあると、働けないのはむしろ会社の責任。より良い職場への転職も手です。
今回は、育休から復帰後に退職するとき注意したい点を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 育児休業(育休)から復帰後に退職しても、法律上、まったく問題ない
- むしろ、やめなくて済むよう、会社に育児への理解、配慮を求めるべき
- 育休から復帰後に退職するとき、やむをえない理由をよく伝えるなど辞め方に注意
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育休から復帰後に退職するのは問題ない
育児休業(育休)をとると、少なくとも1年は会社を休むことになります。責任感の強い人ほど「同僚に迷惑をかけた」と感じ、すぐに復帰しなければと焦る方もいます。このような人ほど、復帰後の退職に不安を覚え、後ろめたい気持ちになるでしょう。
しかし、育休から復帰後に退職するのも、法律上、まったく問題ありません。「育休後に退職してはならない」という法律もありません。仕事は大切ですが、あくまで人生の一部でしかなく、家庭とどちらを優先するかは個人の自由です。
内閣府男女雇用参画局の次の調査によれば、第一子出産後、半数弱の女性が、退職を選んでいます。このように、育休を取得したかどうかにかかわらず、多くの女性が、妊娠・出産のタイミングで退職を選択しています。
育休は法律上、復帰を前提としています。使用者は「育休から復帰後はたくさん働いてほしい」と思うかもしれません。しかし、家族の状況は日々変わるもので、予想しておくのも限界があります。家庭の状況によっては、法律上の最低限の育児休業では不十分な方もいるでしょう。
次のようなとき、結果的に育休後に退職することになってしまったとしても、妊娠・出産した女性側に「悪質だ」「ずるい」と責められるいわれはありません。
産休、育休をとって育児を頑張っても、結果として仕事するのが難しいなら、退職を選んでも全く問題ありません。むしろ、退職してほしくないなら会社が配慮し、育休が明けた後の人にも働きやすい制度や職場を作るのが大切です。
なお、男性でも育休を取得することができるので、「育休後にすぐ退職してもよい」ということは男性にもあてはまります。
「職場の男女差別の例と対応方法」の解説
育休後に退職する方法と円満に辞めるためのタイミング
育休後に、育児を理由に退職するには、次の3つの方法があります。それぞれ、会社を辞める時期によって、メリット・デメリットが変わりますので注意を要します。
育休中に退職する
まず、1つ目が育休中に退職する方法。
この方法はデメリットが大きく、よほど特別な理由のない限り使われません。育休中に退職を決断してしまうと、退職の意思表示をした後は育児休業給付金(育休手当)が取得できないデメリットがあるからです。社会保険料の免除も受けられません。育児休業給付金(育休手当)は、日割り計算され、退職の意思を示した後は払われません(受給した分の返金までは不要です)。
したがって、育休中に転職するなど、退職の必要性が強くない限り、育休の期間満了までは退職は待ちましょう。どうしても育休中に退職を伝えざるを得ないときも、経済的に損のないよう、辞めるタイミングは注意してください。
なお、育休を嫌って退職勧奨や退職強要をしてくる会社もありますが、違法であり、応じる必要はありません。
「退職勧奨のよくある手口」の解説
育休が終了した時に退職する
次に、育休が終了した時に退職する方法です。
育休は、復帰後ある程度は働くことが前提だとはいえ、やむを得ない理由で退職するケースはよくあるもの。このとき、一旦形式上は復職して、有給休暇を消化してから退職することもできます。
育休後の退職で、いつ退職できるか、つまり、退職日には注意を要します。
会社が同意するなら即日退職できますが、会社が承諾しない場合は一方的に辞めるしかありません。一方的な自主退職の場合、退職の意思表示から2週間の経過をもって労働契約が終了します(民法627条1項)。つまり、退職の意思を伝えたからといってその日に辞められるとは限りません。
したがって、使用者側の同意が得られそうにない場合、育休の終了日を退職日としたいなら、育休中にあらかじめ退職の意思表示を伝えておく必要があります。トラブルが予想される場合は、退職の意思を伝えた日が記録に残るよう退職届を内容証明で送付する方法がおすすめです。
育休から復帰した後に退職する
最後に、育休から復帰した後に退職する方法です。
ワーママで頑張ろうとしても、育児の負担はかなり大きかったと知ると、退職も選択肢に入ってきます。ただ、育休から復帰し退職するとき、すぐの転職には注意が必要。というのも、退職せずに続けていれば得られた配慮が、受けられないおそれがあるからです。
- これまで作りあげた人間関係からのサポートが、新しい職場では得られない
- 多くの会社では、勤務年数1年未満の社員を短時間勤務制度の対象外としている
なので、育児は大変でもなんとか両立したいなら、退職せず、今の会社に配慮してもらえないか探る方法も考えてください。
「退職届の書き方と出し方」の解説
育休明けに退職したいときの辞め方
育休が明けて、現実問題に直面し、やはり辞めざるをえないという方は多いでしょう。このとき、法的には退職する権利が労働者にありますが、辞め方には注意が必要です。
辞め方が適切でないと、本来なら辞めずに済んだのに退職してしまったり、不当な引き止めを受けて嫌な思いをしたりなどのリスクもあります。会社の違法な対応によって精神的苦痛を負ったなら、慰謝料をはじめとした損害賠償の請求も視野に入れてください。
育休の期間を再確認する
育児休業の制度は、育児介護休業法に定められています。出産、育児する女性を守るため、法律を下回るルールを定めることは許されていません。当然ながら「育休がない」という会社は違法なのが明らかですが、法律よりも短い育休しか与えない会社も違法です。
育休が終了し、復帰後に退職せざるをえないなら、念のため、育休の期間が、法律に照らして正しいものだったかどうか、再確認しておきましょう。
法律上定められた育児に関する休暇は、次のとおりです。
- 産前休業
6週間 - 産後休業
8週間 - 育児休業
子どもが1歳になるまで - 育児休業の延長可能期間
子どもが1歳6ヶ月になるまで
(子が1歳に達する時点で、次のいずれにも該当する場合:①労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合、②保育所に入所できない等、1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合、③1歳6か月までの育児休業をしたことがない場合) - 育児休業の再延長可能期間
子どもが2歳になるまで
(子が1歳6か月に達する時点で、次のいずれにも該当する場合:①労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合、②保育所に入所できない等、1歳6か月を超えても休業が特に必要と認められる場合、③2歳までの育児休業をしたことがない場合)
育休は、上記の条件を満たす限り、最長で子が2歳になるまで延長できますが、仮に延長や再延長をしたとしても、その延長後に退職することもまた、労動者の自由です。
「育休が取れない場合の対処法」の解説
有給休暇を消化する
育休が終了し、復帰した後で退職するときにも、育休後には有給休暇を使えます。そのため、有給休暇が残っているなら、退職前に必ず消化しましょう。
既に退職が決まっているときは、会社が時季変更権を行使しても、他に有給休暇をとらせるタイミングがありませんから、必ず消化して辞めることができます。育児を理由に退職するなら、少しでもお金のもらえる権利は、行使しておくべきです。
育休から復帰後に、更に有給休暇を使うのをよく思わない会社もあります。「まだ休むのか」などと嫌味を言われることもあるでしょう。しかし、有給休暇の取得を拒否されたり、様々な理由から結果的に取れなかったりするのは違法の可能性があります。有給休暇の取得は労働基準法の定める労動者の権利なので、取れない場合には弁護士にご相談ください。
「有給休暇を取得する方法」の解説
退職のやむを得ない理由を説明する
会社に迷惑をかけるくらいなら退職したいとか、退職して育児に専念したいなど、育休からの復帰後に退職したい事情は人によって様々です。このとき、あなたの退職理由がやむをえないものだと会社に理解させ、意思が堅いことを納得させなければなりません。
「育休を取得後の退職はNG」というのはマナーにすぎず、法律上の禁止ではありません。とはいえ、強い引き止めにあわないよう、やむを得ない理由があるとしっかり説明しましょう。
また、会社の業務に支障のある時期は避けるなど、最低限のマナーをまもり、誠意をもって伝えてください。育休後でも退職できるのは当然で、労動者は自由に会社を辞めてよいとはいえ、お世話になったこともあるでしょうから伝え方には配慮しましょう。
「会社の辞め方」の解説
育児のために退職するなら、失業保険を延長できる
育児を理由に退職せざるをえないとき、退職後すぐには失業保険がもらえません。失業手当をもらうには、「失業状態」にあることが要件。「働きたいのに働けない」ときの生活を維持するのが、失業保険の目的です。
育児を理由に退職するなら「働きたいのに働けない」わけではありません。そうでなく、育児のため、すぐに就労できない状態にあるというわけで、失業保険の対象になりません。このとき、すぐにはもらえない失業保険も、先延ばしし、できるだけ先までもらえる権利を確保しておけます。
会社と対立が生まれてしまったとしても、離職票の発行などに最後まで協力をしてもらう必要があります。離職票をはじめとした退職の手続きを遅らせたり、誤った離職理由を記載されたりといった嫌がらせを受けぬよう、弁護士による退職代行などのサポートを受けるのが最善です。
「失業保険をもらう条件と手続き」の解説
育休取得後、退職しないときの注意点
今回解説のとおり、育休から復帰後に退職することは可能です。ただ、仕事が好きだとか、どうしても会社に居続けたい方は、退職せずに育児する方もいます。
そこで、育休取得後、退職しないとき注意しておきたいポイントを解説します。
育児への理解と配慮を求める
まず、育児が大変でも退職せずに仕事を続けたいなら、会社が育児に理解があることが必須です。家庭の事情は、仕事の言い訳にはならないとしても、全く配慮なしには育児と仕事の両立は不可能です。
特に、子どもの事情で急な欠勤が必要なとき、他の社員によるバックアップが必要です。退職しない代わりにフォロー体制を整備するよう、会社に強く求めましょう。万が一、育児を理由にして嫌がらせをしてくるなら、マタハラの一種です。ただちに会社に相談し、注意指導して改善を求めるようにしてください。
「マタハラの慰謝料の相場」の解説
残業、深夜労働を制限してもらう
育休から復帰後、仕事ができるとしても、すぐに今まで通りの働き方は難しいこともあります。子どもの世話を考えれば、残業、深夜労働はできない方が多いのではないでしょうか。深夜残業は、育児介護の負担のある者の請求により制限してもらうことができます。
そこで、残業、深夜労働を制限してもらい、働きやすい職場環境とするよう会社に求めましょう。あわせて、リモートワークや在宅勤務、フレックスタイム制などを併用してもらえるようであれば、無理なく育児と両立できる可能性が高まります。
配慮がなく、残業のなくならないケースでは、残業代請求によって違法な扱いを止めるよう警告することができます。あまりに不利益の大きい残業命令なら、子どものためにも断りましょう。
「違法な残業の断り方」の解説
短時間勤務にしてもらう
育児のために短時間勤務とする制度も、法律に定められています。会社は、育児短時間勤務制度を用意しておく義務があるため、これらの制度を活用する手も有効です。
具体的には、会社は、3歳未満の子どもを育てる労働者が希望するとき、所定労働時間を短縮しなければなりません。育児短時間勤務制度を利用する要件は、次の通りです。
- 3歳未満の子どもを育てる労働者
- 1日の所定労働時間が6時間を越える労働者
- 日々雇用ではない労働者
- 勤務年数1年未満の労働者などは、労使協定で除外されると利用できない
短時間勤務となると、1日の労働時間が原則として6時間になります。具体的な手続きは、就業規則や育児介護休業規程を確認するようにしてください。
「時短勤務なのに残業させるのは違法か」の解説
育休の復帰後、半年様子を見てもやはり辛いなら退職する
ここまで努力しても、やはり育児と仕事の両立が難しい方もいます。家庭の事情にもよりますが、配慮のない会社だと早々にあきらめるしかないことも。
このとき、「育休から復帰してすぐの退職はマナー違反だ」という思いで頑張ってきたなら、「どれくらい働いて貢献すれば、退職しても文句を言われないのだろう」と不安でしょう。しかし、法律上はすぐ退職してよいわけですから、期間を気にする必要はありません。
思慮のない同僚や上司のなかには……
育休が明けてすぐ退職するのはずるい
育休中に肩代わりしたのに恩知らずだ
……などと文句を言う人もいるかもしれませんが、逆恨みであり、気にしてはいけません。
育休後すぐに退職することも自由なわけですから、退職は全くの適法であり、他人にとやかく言われる筋合いはありません。
育児に配慮したくても体制をすぐには変えられない会社もあります。あなたの側でも、久しぶりの仕事、新しい生活に慣れるのにしばらくはかかるでしょう。そのため、育休の復帰後、半年くらいは様子見しましょう。半年頑張ってもやはりつらいなら、退職を決意するタイミングとしては十分です。
育休から復帰後の退職について不安なとき、弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、妊娠、出産、育児をする女性が気になるであろう、育休と退職について解説しました。
育休から復帰後に退職するとき、真面目な方ほど他の社員の目が気になるでしょう。しかし、復帰後に退職するのも、法律上は問題ないと知ってください。
「育休から復帰後、半年はやめてはならない」など、職場のルールとして語られることがあります。
しかしこれはあくまでマナーに過ぎません。守れるならそれに越したことはありませんが、家庭の事情、子どもの事情に優先するものでは決してありませんから、どうしても退職するほうがいいなら、我慢してはいけません。
- 育児休業(育休)から復帰後に退職しても、法律上、まったく問題ない
- むしろ、やめなくて済むよう、会社に育児への理解、配慮を求めるべき
- 育休から復帰後に退職するとき、やむをえない理由をよく伝えるなど辞め方に注意
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