定年後の再雇用について「会社は自由に拒否できるのか」という相談例があります。
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)により、定年後の再雇用は原則として希望者全員が対象とされており、企業側の裁量には大きな制約があります。また、再雇用の拒否については、労働契約法16条の解雇権濫用法理が類推適用され、解雇と同じく厳しく判断されます。
したがって、定年退職だからといって安易に雇用を打ち切られた場合、労働者は、不当解雇として争うことができ、再雇用契約の成立や慰謝料を請求することが可能です。
今回は、定年後の再雇用の基本ルールと、例外的に拒否が認められるケース、その際の実務的な対処法まで、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 高年法では、65歳までの就業機会の確保が事業主に義務付けられている
- 60歳定年制であれば、定年退職後の再雇用制度を導入する必要がある
- 定年後の再雇用を拒否した場合には、解雇と同様の規制が適用される
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定年後再雇用とは

はじめに、定年後再雇用がどのような制度か、法律と実態に即して解説します。
定年後再雇用とは、労働者が定年退職した後も、同じ企業に引き続き雇用されて働く制度を指します。この制度は、高年齢者の就業機会を確保するために、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)で企業に導入が求められるものです。
高年法上の義務について
高年法は、高齢者の雇用について、65歳までの雇用確保を義務とし、70歳までの雇用確保を努力義務としています。
近年、少子高齢化の進行に伴い、労働力の確保と高齢者の就業支援の観点から、高年法が改正され、定年後再雇用をめぐる状況は大きく変化しています。
定年後再雇用の基本的な仕組み
定年後再雇用は、定年(多くは60歳)で一度退職した後、65歳まで、新たに有期雇用契約を締結する仕組みが一般的です。この際、労働条件が変更されることが多いです。この制度は、前章で解説した高年法上の義務のうち継続雇用制度に含まれ、最も広く採用されています。
定年後再雇用の形態は、「嘱託社員」として有期契約を1年更新とされ、業務内容や責任範囲が限定される分、給与も引き下げられることが多いです。
企業にとって定年後再雇用は、終身雇用・年功序列の慣行により昇給を重ねた賃金を、高齢者の労働能力に合わせて引き下げる役割があります。しかし、「新しい雇用契約」である一方、高年法上の継続雇用義務があるため、再雇用の拒否は違法となるのが原則です。
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定年後の再雇用は拒否できないのが原則

では、定年後の再雇用を、企業側は拒否することができるでしょうか。
結論として、定年後の再雇用は拒否できないのが原則です。退職して新たに雇用するという形式であるものの、実際には高年法によって65歳までの雇用確保が義務とされるからです。したがって、定年後の再雇用を拒否することは、高年法違反として違法となります。
高年法は65歳までの雇用確保を企業に義務付けており、その手段としてよく採用されるのが「継続雇用制度(定年後再雇用制度)」です。そのため、定年退職後も働く意思のある労働者について、企業は原則として希望者全員を再雇用しなければなりません。能力や成績を理由としても、不採用とすることは認められていません。
「例外的に定年後の再雇用拒否が認められるケース」の通り、就業規則上の解雇や退職の事由に該当する場合は再雇用しないことができますが、解雇と同様の厳しい審査が行われます。
例外的に定年後の再雇用拒否が認められるケース

一方で、例外的に、定年後の再雇用拒否が認められるケースがあります。
就業規則上の解雇や退職の事由に該当する場合は、再雇用を拒否できます。ただし、解雇権濫用法理によって厳しく規制されます。また、就業規則とは異なる独自の基準を設けて恣意的に拒否することも許されません。
解雇事由に該当する場合
就業規則の解雇事由に該当する場合、定年後の再雇用を拒否できます。
ただし、高年法の定めからして、定年退職者には、希望すれば継続雇用されるという合理的な期待が生じており、再雇用拒否は「雇い止め」と類似の状況にあるため、解雇権濫用法理が類推適用されます。その結果、再雇用の拒否にも「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められ、これらを欠く場合は違法となります。

例えば、著しい能力不足や勤怠・勤務態度の不良、無断欠勤、企業秩序違反といったもののほか、急激な経営悪化や人員削減の必要性がある場合も、再雇用拒否が認められます。なお、いずれにしても上記のように解雇権濫用法理が適用される上に、会社側の事情を理由とする場合は「整理解雇の4要件」に基づいて厳しく審査されます。
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退職事由に該当する場合
就業規則の退職事由に該当する場合にも、定年後の再雇用を拒否できます。
例えば、病気やケガなど、心身の故障によって就労が困難であるとき、退職事由に該当すれば、再雇用も拒否することが可能です。ただし、休職制度が適用される場合は、休職期間満了までに復職できなかった、休職期間満了までに回復する見込みがないといった事情が必要です。
健康状態の悪化を理由として定年後再雇用を拒否されたケースでは、自身の体調や休職後の復職可能性について、医師の診断書によって証明することが大切です。
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合理的な条件提案が拒否された場合
会社が合理的な提案をしても労働者が拒否した場合、再雇用は不要となります。
再雇用時は新たな労働契約を結ぶ必要がありますが、労働条件について労使間の合意に達しない場合は、再雇用を拒否できるからです。ただし、定年前と全く同一の労働条件で働く人は少ないものの、再雇用を妨害することを目的として、労働者が受け入れがたい不合理な条件を提示することは許されません(例:著しく低い給与条件、遠方への異動など)。
したがって、再雇用を拒否できるのは、労働時間や業務内容、職責の程度などに応じた合理的な条件を提示して誠実に交渉してもなお、労働者との合意に達しなかった場合に限られます。
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労使協定の基準に該当する場合(旧法と経過措置)
高年法の旧制度は、労使協定により「継続雇用制度の対象者を限定する基準」を設けることを認めていましたが、平成24年の法改正により、本解説のように希望者全員を65歳まで雇用することが義務付けられた経緯があります。これに伴い、平成25年3月31日までに、既に労使協定によって継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主には、令和7年3月31日まで、段階的に基準を適用することができる経過措置が設けられています。
定年後の再雇用拒否について判断した裁判例

次に、定年後再雇用の拒否について判断した裁判例を紹介します。
裁判例の中にも、再雇用拒否を違法・無効としたケースと、有効として認めたケースの双方があります。具体例を知ることは、自身の状況に当てはめて判断する際の参考になります。
再雇用拒否が無効とされた裁判例
再雇用拒否が無効とされた裁判例には、再雇用契約の成立や雇用関係の存続を認めたケースと、慰謝料などの損害賠償のみを認めたケースがあります。
東京地裁平成22年8月26日判決(東京大学出版会事件)
再雇用の要件を満たす定年退職者は再雇用契約上の地位を有すると判断されました。会社が主張した協調性や規律性の欠如は、身体的・技術的能力を減殺する程度とは認められず、拒否は無効とされました。
札幌高裁平成22年9月30日判決(日本ニューホランド事件)
組合活動を理由とする再雇用拒否が権利濫用とされたものの、再雇用後の賃金額が不明であるとして契約成立を認めず、財産的・精神的損害として500万円の賠償を命じました。
最高裁平成24年11月29日判決(津田電気計器事件)
継続雇用基準を充たしたのに、査定ミスで再雇用を拒否された事案で、裁判所は、継続雇用を期待する合理的理由を認め、拒否は客観的合理性を欠くとして、再雇用されたのと同様の雇用関係の存続を認めました。
東京高裁平成31年2月13日(国際自動車事件)
残業代請求訴訟への報復としてされた再雇用拒否について、100万円の損害賠償を認める一方で、労働条件が合意により決定される慣行であり内容が特定できないとして、雇用契約の成立自体は否定しました。
再雇用拒否が有効とされた裁判例
例外的に、経営上の理由がある場合、退職・解雇事由にあてはまる場合、労働条件の合意が成立しない場合などに、再雇用拒否を有効とした裁判例があります。
大阪地裁平成23年8月12日判決(フジタ事件)
経営状況が著しく悪化し、会社存続のために人員削減の必要性が高いとされた事案で、希望退職の募集などの回避措置も講じていたことから、再雇用拒否を適法と判断しました。
東京地裁令和元年5月21日判決(アルパイン事件)
会社が定年前とは異なる他部署での職務内容を提示したのに対し、労働者が従前の業務に固執して拒否した結果、契約が不締結となった事案です。会社の提示は不合理ではなく、不成立について会社に違法はないと判断されました。
再雇用拒否が違法とされる場合の法的効力

次に、再雇用拒否が違法とされた場合の法的効力を解説します。
再雇用拒否が違法・無効と判断された場合、企業には法的責任が生じますが、直ちに従業員としての労働契約上の地位が認められるとは限りません。重要なポイントは、再雇用後の労働条件が特定できるかどうかによって結論が分かれる点です。
再雇用契約が成立するケース
再雇用後の労働条件が特定できる場合、再雇用契約が成立するケースがあります。
業務の内容、賃金、労働時間、契約期間といった点について、就業規則や再雇用規程に具体的な定めがある場合が典型例です。この場合、労働者としては、労働契約上の地位確認と、未払い賃金の請求が可能であり、企業にとっては雇用義務を負うリスクがあります。
これに対し、再雇用後の労働条件は個別の合意によって決めるとされているケースでは、再雇用契約が成立しないとされ、次章のように損害賠償を請求することとなります。
契約不成立の場合の損害賠償
再雇用後の労働条件が不明確である場合、再雇用契約の成立は否定されます。
この場合、再雇用拒否が違法となるとき、労働者としては不法行為に基づく損害賠償請求を行うこととなります。具体的には、再雇用の機会を奪われたことによる損失(逸失利益など)や精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが考えられます。
裁判例でも、労働条件が特定できない場合には契約成立を否定し、損害賠償にとどめる判断が示されています(日本ニューホランド事件:札幌高裁平成22年9月30日判決など)。
定年後再雇用を拒否された労働者側の対処法

最後に、労働者側の立場で、定年後再雇用を拒否された場合の対処法を解説します。
「定年後の再雇用は拒否できないのが原則」であるため、再雇用を拒否されたら、違法ではないかを検討し、自身の権利を守るためにも会社の不当な扱いを争うべきです。
再雇用拒否の理由を確認する
まず、会社に対し、再雇用を拒否する理由を確認してください。
定年後再雇用の拒否の際も、労働基準法22条に定められた退職時の証明書の交付が必要となります。再雇用を拒否できるのは、就業規則上の解雇や退職の事由に該当する場合に限られるため、労働者から請求があったなら、会社はその具体的な事実を書面で示し、説明を尽くすべきです。
あわせて、一定の再雇用条件の提示がある場合には、その内容が合理的なものかどうかを確認しておきましょう。
再雇用後の地位確認を求める
定年後再雇用の拒否が違法であると考える場合、再検討を求めましょう。
高年法のルールに従えば65歳までの雇用は確保されるべきであり、60歳定年で再雇用されないのでは、予定していたキャリアや収入を失ってしまいます。会社が頑なで、再雇用が現実的に難しい場合や、労働者としても同じ会社で働き続ける気持ちがなくなった場合は、解決金による金銭解決を目指す方針に切り替えることもできます。


慰謝料を請求する
違法な再雇用拒否を争う方針には、「再雇用されて働き続けたい」という争い方のほかに、慰謝料を請求する方法もあります。
違法な再雇用の拒否は不法行為(民法709条)であり、これによって負った精神的苦痛について慰謝料を請求できます。また、再雇用されなかったことで失った収入について、逸失利益として損害賠償請求することも可能です。
「不当解雇の慰謝料」の解説

弁護士に相談する
定年後の再雇用をめぐるトラブルは、早い段階で弁護士に相談すべきです。
少子高齢化に伴って、高年法の法改正が行われており、定年後再雇用に関する法的ルールは複雑化しています。そのため、違法かどうかを判断するにも専門的な知識を要するため、労働問題に精通した弁護士のアドバイスを受けるのが適切です。
「定年後の再雇用拒否について判断した裁判例」の通り、法改正以降、重要な裁判例が出されているため、この分野の知識と経験が豊富な弁護士を選びましょう。
「労働問題に強い弁護士」の解説

【まとめ】定年後の再雇用

今回は、定年後の再雇用の拒否をめぐるトラブルと対処法を解説しました。
定年後再雇用は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)により希望者全員が対象とされ、自由に拒否できるわけではありません。例外的に再雇用を拒否するには、就業規則上の解雇や退職の事由に該当しなければなりません。再雇用の拒否が争われた場合は、解雇権濫用法理が類推適用され、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされます。
企業側が、就業規則の整備をはじめ、適切な制度設計と運用を確保することが大切ですが、労働者も、不当に再雇用を拒否されたら、労働審判や訴訟などで争うことを検討しましょう。
定年退職後の再雇用を拒否され、「まだ働きたいのに辞めさせられた」と感じる場合は、自身の権利を守るために弁護士にご相談ください。
- 高年法では、65歳までの就業機会の確保が事業主に義務付けられている
- 60歳定年制であれば、定年退職後の再雇用制度を導入する必要がある
- 定年後の再雇用を拒否した場合には、解雇と同様の規制が適用される
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