就職活動をしていると、「女性は不利だ」と感じることがあるでしょう。なかには、「女性だから不採用とする」と明言する会社もあります。しかし、女性だからという性別を理由に不採用とするのは違法です。
女性を採用したくないのには、会社側にも理由があります。「結婚してすぐ退職するのでは」「妊娠・育児の負担から仕事がおろそかになるのでは」など……。企業側にも、女性を採用するのに不安はつきものです。
しかし、結婚や育児は、男性にも起こるイベントです。女性だからといって採用拒否するのは不当です。一方で、会社には「採用の自由」があり、ある労働者を入社させないのも自由。採用されなかったとき、それが果たして男女差別、女性蔑視なのか、慎重な検討を要します。
今回は、「女性だから不採用」という方針の違法性と、女性を採用しない会社への対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社に採用の自由があれど、「女性だから不採用」という方針は違法
- 女性なのを理由に採用しないのは、男女雇用機会均等法に違反する
- 「女性を採用したくない」会社の理由を考えて交渉もできるが、ブラック企業に入社は不要
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「女性だから不採用」は違法
「女性」であることだけを理由に、採用を拒否するのは違法です。つまり「女性だから不採用」という方針そのものが、許されざるもの。
確かに、会社には「採用の自由」が認められます。どの候補者を、どんな条件で採用するか(または、採用しないか)は、会社が自由に決められます。しかし、男女雇用機会均等法5条は、男女差別を明確に禁じています。
男女の均等な機会、待遇の確保を図るため、入社時においても、差別は禁止なのです(当然ながら、入社後の待遇や、処遇における男女の格差も許されません)。
男女雇用機会均等法5条
事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)
男女雇用機会均等法5条は、「機会」の均等を定めています。機会を均等に与えれば、結果として、男女の採用人数が異なることは、違法ではありません。また、「性別」以外の理由を、男女どちらかを採用する理由とするのも認められます。
あくまで均等な機会の確保であり、均等に採用しなければならないのではありません。女性差別でない限りは、結果として男性を採用しても違法とはなりません。
なお、入社時の労働トラブルは、労働問題に精通した弁護士に相談するのが適切です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
女性を採用しないのが違法となるケースの例
女性を採用しないのが違法となるケースとは、つまり、差別のあるケースです。厚生労働省「男女均等な採用選考ルール」によれば、次の5つが挙げられます。
- 募集・採用の対象から男女のいずれかを排除すること。
- 募集・採用の条件を男女で異なるものとすること。
- 採用選考において、能力・資質の有無等を判断する方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。
- 募集・採用に当たって男女のいずれかを優先すること。
- 求人の内容の説明等情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること。
そもそも、募集対象に女性を入れなければ違法なのは明らかです。つまり、男性に限って募集する場合が典型です。一見すると男女を対象にした募集でも、実質で評価しなければなりません。募集要項を男子校に送ったり、男性のみ推薦するよう指定するなどは、違法な扱いです。
募集、採用の条件を男女で変えるのも違法です。特に、結婚や育児、出産などの面で、女性を敵視するかのような採用条件を課してはいけません。これでは、女性に機会が均等に与えられているとはいえないからです。
以上の条件面だけでなく、実際の判断の場面でも「女性だから」という理由だけで不採用にはできません。差別の問題についても、弁護士に相談することで解決できます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
「女性を採用したくない」と考える会社側の理由
「女性だから不採用」という違法な方針がとられてしまう理由を知っておいてください。つまり、会社がなぜ「女性を採用したくない」と感じるのか、という点です。
この点を理解すれば、(違法なのはさておき)できるだけあてはまらないよう回避することができます。女性の社会進出は進んでおり、「女性」とひとくくりにしても一様ではありません。とはいえ、女性の特徴は、会社に採用をためらわせる面があります。
結婚すると寿退職してしまう
結婚後も働きつづける女性は、年々増加しています。しかし、昔ながらの考えは、「結婚したら寿退職」というもの。結婚したら仕事を辞め、専業主婦として家庭を守る選択をする方も少なくないのが現状です。
「結婚して辞める人材に、採用の手間はかけられない」と感じる会社もあるでしょう。これが、「女性は採用したくない」という気持ちにつながります。
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妊娠・出産がある
共働きを選ぶ女性でもなお、仕事に支障が出てしまうことがあります。女性は、妊娠、出産をすることが多く、その場合に、育児を優先しがちだからです。
もちろん、男性にとっても育児は大切ですが、妊娠・出産は女性特有のものです。子供の事情で休まざるを得ず、業務が滞るのをおそれると、「女性を採用したくない」気持ちに繋がります。
「マタハラの慰謝料の相場」の解説
育休・産休をとることが多い
妊娠・出産のみならず、育休・産休をとることが多いのも、女性特有の事情です。これらの休暇は、法律上の権利ですが、会社にはリスクだと判断されてしまうわけです。
近年では、男性の育休取得も増え、女性だけが育児をする社会は変わりつつあります。とはいえ、男性の育休取得はまだまだ低水準に留まります。やはり、育休、産休をおそれる気持ちが、「女性を採用したくない」会社の思いに繋がってしまうのです。
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教育コストが無駄になる
会社は、社員を採用すれば、教育をし、指導しなければなりません。社員を1人、一人前にするには、相応の教育コストがかかります。教育した社員が長続きすればよいですが、すぐ辞めてしまえば教育コストは無駄になります。
日本の伝統的な働き方では、女性は長く働くことはありませんでした。結婚、妊娠、出産といったライフイベントごと、女性は退職しがちだったからです。旧来の「男社会」の弊害ともいえるでしょう。
また、男性だろうと女性だろうと、解雇は厳しく制限されます。正当な理由のない解雇は、違法な「不当解雇」として無効となってしまいます。雇った後、解雇するのは現実的でなく、「それなら入社時に不採用に」という判断がはたらきます。
不当解雇の被害に遭ってしまったら、すぐ弁護士に相談すべき重大な問題だと理解してください。
「不当解雇に強い弁護士への相談」の解説
性別を理由に不採用にされた時の対処法
最後に、性別を理由に不採用とされてしまった時の対処法について解説します。女性は特に、「女性だから」という理由で採用を回避される事態に、正しく対応しましょう。
不採用の理由を確認する
まず、残念ながら不採用を告げられてしまったら、その理由を確認してください。「女性だから不採用」というのでなく、他に理由があるなら適法。その点でも、不採用となった理由が性別にあるのかどうか、争う前に検討を要します。
そもそも採用面接で、結婚や育児の希望など、プライベートな事情を聞くのは問題があります。このような質問がよくされ、社長の反応が悪かったなら、性別が理由にされている疑いがあります。
「女性だから不採用にした」と明言するケースは少ないでしょう。しかし、女性なの以外に、不採用となる理由がないときも、性別が理由だと強く疑われます。「採用がほぼ決まっていたのに、結婚の話をしたら不採用になった」という相談もあります。
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採用を求めて交渉する
次に、採用を求めて交渉しましょう。性別以外に、採用を回避する理由がないなら、活躍できる人材と見られた可能性は十分あります。
「なぜ女性が採用されづらいのか」を理解すれば、必要な配慮が見えてくるでしょう。要は、会社側が「女性のデメリット」と感じる要素を、排除すればよいのです。
ただ、あくまで交渉であり、必ず雇ってもらえるという保障はありません。また、性別を理由に「女性は不採用」とする会社はブラック企業です。惜しい気持ちはわかりますが、無理して入社する必要もありません。
なお、既に内定を得ていたなら、その取り消しにも正当な理由が必要です。性別を理由にして内定を取り消すこともまた違法であるのは明らかです。
「内定取り消しの違法性」の解説
慰謝料を請求する
最後に、採用面接や入社時に受けた不快な思いは、慰謝料を請求することで回復できます。
「女性だから不採用」などの発言は、性に言及するもので、セクハラにもあたります。セクハラは違法であり、不法行為(民法709条)に該当します。そのため、「女性を採用したくない」といった性別を理由に不採用にされることは、慰謝料を請求する十分な根拠となります。
「セクハラの慰謝料の相場」の解説
逆に「女性しか採用しない」は違法?
以上は、女性なのを理由に不採用とするケース。女性を採用したくない企業は少なくなく、構造的な差別が生まれています。性別による差別は努力によっては覆せません。そのため、差別改善のための「ポジティブ・アクション」がとられることもあります。
ポジティブ・アクションは、不利益を受ける一方を優遇し、差別を解消する措置です。本人の意思や努力ではどうにもならない格差の是正が目的なら、許されるケースもあります。
厚生労働省では「男女の均等な機会・待遇の確保の支障となっている事情を改善するために、事業主が、女性のみを対象とするまたは女性を有利に取り扱う措置」と定義されています。
ポジティブ・アクションが必要な状況なら「女性だけ採用」という扱いは違法にはなりません。是正の対象となる格差は、例えば「一の雇用管理区分において、男性労働者と比較して、女性労働者が相当程度少ない状況にあることをいい、具体的には、女性労働者の割合が4割を下回っている場合」(厚生労働省「男女均等な採用選考ルール」)が挙げられます。
なお、女性を優遇する差別が許されるのはあくまで例外で、正しい目的で活用せねばなりません。
「職場の男女差別の例と対応方法」「ジェンダーハラスメント」の解説
まとめ
今回は、採用の場面で起こりがちな、「女性だから不採用」という問題を解説しました。
残念ながら不採用で、入社できなかったとき、「女性だからでは」と疑問に思うでしょう。性別を理由に、採用・不採用を決めるのは許されません。妊娠や出産など、女性独自のイベントは当然、結婚や育児など、男性もあてはまるものもあります。いずれも、採用を回避する事情としては不適切で、違法なのは明らかです。
企業には「採用の自由」があり、誰を採用するかを決められます。それでもなお、女性なのを理由に不採用にできないのは、男女雇用機会均等法に違反しています。女性だからと不採用、採用拒否に遭ったら、ぜひ弁護士に相談ください。
- 会社に採用の自由があれど、「女性だから不採用」という方針は違法
- 女性なのを理由に採用しないのは、男女雇用機会均等法に違反する
- 「女性を採用したくない」会社の理由を考えて交渉もできるが、ブラック企業に入社は不要
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