いたるところで禁煙が広まり、喫煙者にとって肩身の狭い時代になりました。
「嫌煙ブーム」にさらに拍車をかけるのが、今回解説する「スモ休」。
平成29年にWebマーケティング会社「ピアラ」(東京都渋谷区)が導入し、巷で話題になりました。
「スモ休」は「スモーク休暇」の略称。
タバコを吸わない労働者(非喫煙者)に、特別に有給休暇を与える制度設計になっています。
スモ休は斬新で、珍しい制度のため、賛否両論です。
「ハラスメントを回避するいい手段」「自分の会社にも導入してほしい」という賛成意見がある一方、「喫煙者への差別ではないか」「喫煙者にとって不公平で、違法ではないか」といった反対の声も出ています。
行きすぎた不公平、差別は、違法となる可能性もあります。
今回は、スモ休の制度の内容と、労働法の観点から見た問題点を、労働問題に強い弁護士が解説します。
スモ休とは
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スモ休とは、非喫煙者、つまり、タバコを吸わない労働者の保護のための制度です。
具体的には、年間に決められた日数だけ、非喫煙者にのみ有給休暇を与えます。
スモ休を導入した会社の発表によれば、具体的な内容、対象となる労働者は次のとおりです。
【スモ休の目的】
- 労働者の体調管理への意識を高め、健康増進を図ること
- 喫煙者と非喫煙者の、日中の労働時間の不平等感を解消すること
【スモ休の対象となる労働者】
- 正社員で、かつ、入社後6か月以上勤務している、タバコを吸わない労働者(非喫煙者)
スモ休の制度は、有給休暇のように、法律で定められた制度ではありません。
有給休暇は、労働基準法に定められたとおりに正しく与える義務があります。
一方で、スモ休を誰に、どれだけ与えるかは、会社の自由。
労使間の労働契約の内容によって柔軟に決められます。
労働トラブルの疑問は、弁護士に相談できます。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説しています。
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スモ休の導入は、喫煙者と非喫煙者の不公平感が理由
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スモ休を導入した会社によれば、その理由は、喫煙者と非喫煙者の不公平感の解消にあります。
スモ休の制度の理由となった非喫煙者の不満の声には、次の例があります。
- タバコ休憩が多すぎて、業務のコミュニケーションがとれない
- タバコ休憩中に大切な話が進み、非喫煙者が仲間はずれにされている
- タバコ休憩が多すぎて、同じ給料なのに喫煙者のほうが労働時間が短い
- タバコ休憩で業務が進まなかった分、残業時間が長くなり、残業代をもらっている
- 喫煙者との連絡がとりづらく、業務効率が低下する
- タバコ休憩と称して、実際は喫煙以外のサボりが横行している
- タバコのにおいが充満し、スメハラになっている
喫煙者は、業務時間中であっても、「タバコ休憩」をとるのが日課となっています。
「タバコなしでは生きられない」と主張する喫煙者もいるでしょうが、タバコはあくまで嗜好品。
タバコを吸うことで仕事をしなかったり、残業代を余計にもらったりすることは正当化されません。
非喫煙者からすれば「日中しっかり働いていないのに残業して、結果的にたくさんの給料をもらっている」という考えになり、「不公平」「不平等」といった文句があがっても仕方ない状況となります。
そこで、タバコを吸わない労働者を優遇する、スモ休の制度が考え出されました。
スモ休の恩恵は受けられない喫煙者側からも、賛成の声があがっています。
スモ休はあくまで非喫煙者のための制度ですが、喫煙者の肩身の狭さも解消できます。
これまで申しわけなくとっていたタバコ休憩を、非喫煙者にはスモ休があれば堂々ととれるからです。
スモ休を導入するデメリット
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以上のとおり、タバコを吸わない労働者(非喫煙者)の不公平感をなくし、喫煙者と非喫煙者の不公平を是正するのを目的として導入されたスモ休ですが、反対の声も少なからずあります。
スモ休のデメリット、「導入すべきでない」という反対意見についても解説します。
もし導入を検討するなら、有効活用するためによく理解してください。
有給休暇すら使い切れていない
スモ休は、非喫煙者への優遇のために与える有給の休暇。
これにより、非喫煙者は、喫煙者よりも多くの日数休めることになります。
しかし、労働基準法の有給休暇すら、消化率が低く、すべて使い切れていないのが現状です。
非喫煙者が、スモ休をもらったとしても、まだ有給休暇が残っていると、その恩恵を十分受けられません。
休みたいなら、まずは有給休暇から使えばよいのであって、スモ休を使う必要はありません。
そして、有給休暇は法律上の義務であり、喫煙の有無に関わらず当然行使できます。
スモ休を取りづらいケースがある
スモ休を導入しても、残念ながら休みがとりづらい雰囲気は変わりません。
会社全体で、スモ休を推奨する雰囲気をうまく作らなければ、結局うまく機能しません。
有給休暇の取得率が低い理由も、会社のブラックな雰囲気が原因になっているケースが多いです。
「他の社員ががんばって働くなかで有給休暇とは言い出しづらい」というもの。
このような空気が蔓延していれば、結局、スモ休についても取りづらくなってしまうでしょう。
「スモ休の申請先の上司が喫煙者だった」など、ハラスメントにつながりかねない被害報告もあります。
喫煙者への差別になる
スモ休は、喫煙者と非喫煙者の不公平感を是正するためのもの。
しかし、やりすぎてしまえば、逆に、喫煙者への差別につながりかねません。
タバコは、健康にはよくないものの、喫煙そのものが悪いことのようにとらえられるのも誤りです。
喫煙者にも、タバコを吸う権利があり、他人に迷惑をかけないかぎり制限はされません。
あまりに敵視しすぎるのは、別の問題を生みます。
離席回数が多いときの対処法は、次に解説しています。
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スモ休は違法な差別になる?
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さきほど、喫煙者にも「タバコを吸う権利」があると説明しました。
すると、スモ休は、喫煙者への不当な差別として、違法なのではないか、が問題となります。
スモ休を導入するにあたり、注意すべき点を解説します。
スモ休は、新しい制度のため、まだ裁判などの争いにはなっていません。
歴史が浅く、どの程度なら違法なのか、過去の判例も蓄積されていないため、なおさら注意が必要です。
差別が合理的かどうか
まず1つ目の注意点が、差別が合理的かどうか、です。
労働者を区別して扱うことは、その区別が合理的なら適法ですが、不合理なら違法です。
このとき「喫煙者のタバコ休憩による不公平」という、差別の理由が適切かが問題になります。
喫煙者といえど、1日何度も長時間の休憩をとる迷惑な人ばかりではありません。
むしろ、大変の喫煙者は、肩身の狭い思いをしながらタバコ休憩をとっていることでしょう。
「喫煙者」をどう定義するか
次に2つ目の注意点が、どんな労働者を「喫煙者」と定義するかという問題です。
「喫煙者」にあてはまれば、スモ休をもらえず、差別の対象となりうるからです。
喫煙者のなかにも、禁煙している人もいます。
禁煙を宣言したものの、隠れてすぐに吸い始める人もいます。
このとき、スモ休の対象者をどう区切るか、例えば「○○日以上、タバコを吸っていない人」などとしたとき、その定義が曖昧だと、恩恵を受けられない労働者から不満の声があがります。
また、喫煙者かどうかをどうチェックするかについても、ルール作りの難しい面があります。
付与される日数が多すぎないか
最後に3つ目の注意点として、付与される日数が多すぎないかという点です。
あまりに、非喫煙者の優遇が強すぎると、差別の理由となってしまいます。
喫煙者のタバコ休憩(場合によってはそれにともなうサボり、業務効率の低下)に対して、適切な日数のスモ休を設定しなければ、逆に喫煙者が不公平感を感じてしまいます。
「健康増進」という目的もまた、タバコを吸わないことを逆に強制しているかのようであり、「タバコを吸う権利」を制限しすぎているのではないか、という問題もあります。
まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、スモ休という、新しい休暇制度について解説しました。
IT企業などでの導入が話題となっていますが、法律上の制度ではないため、導入には注意を要します。
スモ休について反対意見もあり、デメリットもあると理解しなければ、有効活用できません。
「健康増進」「非喫煙者の不平等の解消」といった制度目的を最大限実現するためには、スモ休の基本的な考え方を理解するようにしてください。