「終身雇用が崩壊した」と言われる昨今、転職はごく一般的になりました。なかでも、人手不足が加速する近年では、ヘッドハンティングによる転職の増加が顕著な傾向となっています。
ヘッドハンティングによる転職は、これまでの実績や経験を高く買ってもらえることを意味します。労働者にとってこの上なく喜ばしいでしょうが、浮つきがちなヘッドハンティングの場面こそ、労働問題が起こりやすいため注意が必要です。
前職にとってヘッドハンティングは、優秀な人材の流出を意味します。退職することへの嫌がらせに、在職中のミスや失敗について責任追及をされるケースもあります。リスク回避のためには、ヘッドハンティングで退職する際に特有のポイントを理解してください。
今回は、ヘッドハンティングでの転職・退職の労働トラブルと対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- ヘッドハンティングによる転職は、メリット・デメリットを比較して慎重に進める
- ヘッドハンティングの条件交渉は、必ず前職の退職前にしておく
- ヘッドハンティングで損しないため、全ての労働条件を総合的に考慮する
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ヘッドハンティングでの退職は慎重に!
ヘッドハンティングでは、甘い話がたくさんあり、その分、甘い誘いに乗ってしまって後悔している労働者も多くいます。当然ながら、ヘッドハンターは、誘いの際には良いことしか言いません。これまでの能力や実績の評価が高いと知らされる一方で、現職での不満が多いと、つい心が揺れ動いてしまうのも仕方ありません。
しかし、ヘッドハンティングで退職する前には、慎重な検討が必要です。軽い気持ちで引き抜きに応じて退職すると、転職した後で予想外のトラブルに陥り、後悔するおそれがあるからです。「ヘッドハンティングによる転職に失敗した」という相談には、例えば次のケースがあります。
- 給料の高さにつられて転職したが、労働環境が劣悪だった
- 給料は上がったが、労働時間が長くなり、時給換算するとむしろ下がった
- ヘッドハンティングで転職したが、期待に応えていないといわれ解雇された
- ヘッドハンティングされた会社の社風に馴染めなかった
- これまでの会社の当たり前が通じず、前職に戻りたくなった
「ヘッドハンティングされた」という優越感で、周りが見えず、判断を誤る方もいます。少なくとも、給料の高さに釣られて転職するのはお勧めできず、その他の労働条件や、今後の働き方なども詳細に検討して決めるべきです。ヘッドハンティングされた会社で働く自分がイメージできるまで、よく検討しなければなりません。軽い気持ちで入社してから「やはり思っていたのとは違った」と文句を言っても取り返しはつきません。労働条件通知書や雇用契約書、就業規則といった書類に書かれた労働条件については、違法なものでない限り争うのは困難です。
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「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
ヘッドハンティングで退職する前に転職後の労働条件を交渉する
ヘッドハンティングで転職するなら、労働条件の交渉はしっかり行いましょう。
労使関係では一般に、労働者が使用者より弱い立場に置かれ、保護が必要です。ただ、ヘッドハンティングで転職するタイミングは、あなたの能力や業績は高く評価され、対等な交渉が可能な場面です。「納得いかない条件なら転職しない」という交渉のカードを駆使して、有利な条件を勝ち取るようにしてください。
前職の給料と「総合的に」比較する
ヘッドハンティングで転職するとき、最も気になるのは給料面でしょう。給料交渉で、労働者の最大の関心事が「前職の給料を越える金額かどうか」という点であり、増額がないならヘッドハンティングで転職する意味はないのは当然です。
しかし、額面に目がいくあまり、総合的な考慮が足らず、給料で損してしまう人もいます。例えば、次のような失敗例があります。
- 成果主義で、期待通りの成果が出せず給料が下がってしまった
- インセンティブの基準が厳しく、前職の給料を下回った
- 達成困難なノルマを与えられ、未達により減給された
- ヘッドハンティングで管理職に登用され、残業代が出なくなった
- 全社の業績が悪化して賞与が支給されなかった
- 約束されていたストックオプションをもらえなかった
- 早期に解雇され、退職金がもらえなかった
ヘッドハンティングされる労働者は、ある程度以上の地位を保障されるのが通例です。そのため、基本給の増減だけでなく、歩合給やインセンティブ、ストックオプション、賞与、残業代といった全ての費目について総合的に検討する必要があります。
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労働時間が延びるなら「時給換算」する
ヘッドハンティングによって変わる労働条件は、金銭面だけではありません。転職に伴って、労働時間が変わる可能性もあります。
たとえ給料が上がっても、労働時間が延びたり、残業代が出なくなってしまったりすることがあります。このとき、単純に総額で比較するのでなく、時給換算」しなければ損してしまいます。残業代の計算方法は複雑で、固定残業代やみなし残業が設定される場合も多く、転職先のルールをよく理解しないと、支給される総額が前職より減ってしまうリスクがあります。
額面の大きさに目がくらんでヘッドハンティングされるのは愚策です。「最終的にもらえる給料が前職より少なかった」と後悔することのないよう注意しましょう。
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担当業務を確認する
ヘッドハンティングによる転職は、労働者の応募によるものではなく、ヘッドハンターの勧めに従って進められます。そのため、担当業務についてよく確認する必要があります。「希望は全て叶う」「経験を生かして活躍してほしい」といった抽象的な言葉に惑わされず、具体的に確認することが大切です。自分のポジションや職種、担当業務と共に、それによって生じる責任についても書面で確認しておくのが重要なポイントです。
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期待値のすりあわせが必要
最後に、どういった業務を任されるかと関連して、期待値のすりあわせが必要です。
ヘッドハンティングの場面では、労使双方の期待値が高くなりがちです。「高給を払うのだから能力が高いと思ったが、期待したほどではなかった」といった思いを抱かれれば減給されたり、最悪は解雇されるリスクもあります。逆に労働者からしても、「期待していたほど働きやすい会社ではなかった」となれば、入社してすぐに退職したくなってしまうかもしれません。
入社時に、互いの期待値を確認しておけば、労使の感覚のズレ、価値観の違いを避けることができます。
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ヘッドハンティングで転職すると解雇されやすくなる
ヘッドハンティングの増加は、終身雇用の崩壊が一つの理由となっています。その結果、ヘッドハンティングによって転職すると、解雇されやすくなるという最大のリスクがあります。
終身雇用は、日本の伝統的な雇用慣行です。旧来の慣行の下では、一つの会社に新卒で入社したら、定年まで勤務するのが一般的とされていました。労働者の雇用は保障されており、解雇権濫用法理によって解雇は厳しく制限され、転職をすることはない分だけ、その会社における労働者の地位は手厚く保護されていました。
ヘッドハンティングは、終身雇用の崩壊と共に増加したもので、真逆の考え方を背景としています。つまり、ヘッドハンティングに応じて転職すれば、「定年まで働き続ける」という利益は放棄することになります。会社としても労働者の地位を手厚く保障することはできず、その結果、転職した先では、前職に比べて解雇されやすくなります。
上記の考え方は、価値観の違いに過ぎず、どちらが良いと一概に言える問題ではありません。「一つの会社で長く働きたい」という安定志向の人も、「転職しながら能力を活かしたい」という人も、どちらも存在していて当然です。
ただ、ヘッドハンティングされた際に重要なのは、自分がどちらの考えに親和的なのかを分析して選ぶことです。安定志向の人は、新卒入社した企業からヘッドハンティングで転職すると、雇用保障が薄くなることを理解しなければなりません。ヘッドハンティングでは特に、収入が上がる分だけ能力面への期待が大きくなります。そのため、収入に見合った能力や成果がなければ、裁判所でも正当な解雇理由があると判断されやすくなります。
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ヘッドハンティングにはリスクが大きいケースがある
ヘッドハンティングで、外資系やベンチャー、スタートアップに就労する方もいますが、特にリスクが大きい決断であることを理解してください。
外資系企業のヘッドハンティングのリスク
例えば、外資系企業へのヘッドハンティングには、次のリスクがあります。
- 労働環境が日系企業と大きく異なり、思うように活躍できない
- 社風がまったく違い、期待した成果が出せない
- 外国特有の文化に馴染めない
- 能力評価に厳しく、解雇されやすい
ヘッドハンティングでの転職だと、これまでの会社と違ったリスクを背負います。なので、転職前の会社と、転職後の会社の性質がかけ離れているほど、順応に時間がかかるものです。伝統ある企業や、有名な大企業に勤務していた方ほど、外資系企業にヘッドハンティングされるときのリスクは顕著に表れます。
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ベンチャー企業のヘッドハンティングのリスク
例えば、ベンチャー企業へのヘッドハンティングには、次のリスクがあります。
- 大企業であれば当然にある福利厚生が存在しない
- 大企業なら間接部門がサポートする仕事を、自身でしなければならない
- ベンチャー特有の精神論が肌にあわない
- 労働法の知識にうといブラック企業だった
ヘッドハンティングは、現在の収入よりも有利な条件を提示してする場合が多いもの。なかには「通常の求人応募だと優秀な人材に選んでもらえない」という後ろ向きな理由もあります。残業代がもらえない、ワンマン社長のパワハラを受けたなど、設立から間もないベンチャー企業ほど労働問題が起きやすい状況にあることを理解しなければなりません。
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ヘッドハンティングの退職理由をどう伝えるべきか
ヘッドハンティングされて転職する会社との問題と同じく、現職との間にも労働トラブルが生じます。
退職時に、慎重な対応をして、労働問題の激化を避けなければなりません。
ヘッドハンティングで退職するとき、退職理由をどう伝えるか、迷う方が多いでしょう。
この点について法律上のルールはありません。
つまり、どう伝えても法律上は問題ありません。
したがって、「できるだけ問題にならないように」という観点から、退職理由の伝え方を検討します。
一身上の都合による退職
「一身上の都合」という退職理由は、とても便利な使われ方をします。ヘッドハンティングによる転職で退職するときにも、まずは「一身上の都合」と伝えるのがよいでしょう。
「一身上の都合」という言葉には、労働者の都合による様々な事情を含みます。家庭の事情や家族の不幸などといった踏み込みづらいプライベートな問題もあり、会社としてもこれ以上問い詰めづらくなる効果が期待できます。
なお、このような退職の場合に、失業保険は自己都合となります。とはいえヘッドハンティングで転職するなら、失業保険の受給を気にする必要はありません。
「退職届の書き方と出し方」の解説
嘘の退職理由を伝える
会社がしつこく引き止めをしてきて断りづらいなら、嘘の退職理由を伝えるのも手です。
例えば、家族の不幸、重い病気など、触れづらいプライベートな理由を伝える方法があります。労働者には退職の自由があり、嘘を付かなければ辞めることのできないほどしつこく在職強要をする会社側に問題があるといえるからです。ただし、嘘がバレれば、違法ではないものの今後の良好な関係は築けないでしょう。
「会社の辞め方」の解説
正直に転職先を言うリスクは?
正直に転職先をいい、ヘッドハンティングされたと伝えても問題ありません。しっかり会社に貢献していれば、快く送り出してもらえるでしょう。待遇への不満からヘッドハンティングを試した方のなかには、退職を伝えたのを機に労働条件が改善され、結果的に前職に残る人もいます。
ただ、退職を伝えるのが早すぎると、社長や上司との関係性によっては、嫌がらせを受けるおそれがあります。ヘッドハンティングで退職するなら前職内の関係に未練はないでしょうが、あまりに悪質なハラスメントがある場合は、その責任を追及することもできます。
「退職予定者へのいじめの違法性」の解説
まとめ
今回は、ヘッドハンティングされて転職、退職するときの注意点を解説しました。ヘッドハンティングにはメリットがある一方、デメリットやリスクもあります。ヘッドハンティングで引き抜かれて退職する際に、労働問題を発生させてしまわないよう、適切な対処法を理解してください。
終身雇用が崩壊したことによって、ヘッドハンティングを利用して転職する労働者が増えました。外資系やベンチャーなど、人材の流動性の高い業界では、引き抜き合いが頻繁に起こっており、その分、退職と転職に伴うトラブルも頻発しています。会社を移るタイミングこそ、特に前職の恨みを書いやすく、労働問題の火種が潜んでいるのです。
今回の解説を参考に、ヘッドハンティングで労働問題を起こさないよう、十分注意してください。
- ヘッドハンティングによる転職は、メリット・デメリットを比較して慎重に進める
- ヘッドハンティングの条件交渉は、必ず前職の退職前にしておく
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