今回は、卒業できないときの内定がどうなるのか、留年で内定取り消しされてしまったときの対応も含めて、労働問題に強い弁護士が解説します。
苦労した就活のすえに内定がとれ、あとは卒業旅行にアルバイト…
と甘くみてたら、卒業できずに留年、一転して窮地に陥る学生は、毎年のようにいます。
せっかくの内定も、卒業できないことには取り消しされる可能性が高いもの。

単位不足で卒業失敗!留年をせざるをえなくなった

9月卒業できそうだが、留年を待ってくれるだろうか
一方的に内定を奪う「内定取り消し」は、労働者のダメージが大きいため制限されます。
しかし、そもそも卒業できなかったなら正当な理由があるため、残念ながら取り消しが許されるケースは多いといわざるをえません。
一方で、卒業できないのを理由に内定取り消しという建前ながら、本音はその学生に入社してほしくない理由があるといったケースでは、内定取り消しが違法となる事例もあります。
違法な内定取り消しなら無効であり、約束どおり入社できます。
あわせて、慰謝料をはじめとした損害賠償も請求できます。
- 卒業が条件になっている内定は、卒業できないなら取り消される
- 卒業できなくても、内定が取り消されないケースもある
- 留年が決まり卒業できなくても、内定を維持できる場合もあるため会社に相談する
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卒業できないなら、内定取り消しが原則

内定とは、法律用語では「始期付解約権留保付労働契約」と呼びます。
その意味は、次のとおりです。
- 始期付
内定を取得しても、労働のスタートは卒業後となる - 解約権留保付
一定の解約理由があれば、会社側が内定を取り消せる - 労働契約
内定は、労働契約の予約ではなく、労働契約そのもの
つまり、内定が成立した時点で、すでに労働契約は成立したものとみなされる
内定は、解約権が留保されているので、内定取り消しが可能。
しかし、内定取り消しが認められるような理由がなければ、一方的な取り消しはできません。
すでに労働契約が成立していることから、解雇権濫用法理の制限を受け、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には不当解雇になるからです(労働契約法16条)。

内定が労働契約そのものである以上、内定取り消しは解雇と同じこと。
そして、新卒採用の学生だと、「新卒」という価値に手厚い保護が与えられていることから、よほどの理由がなければ、内定取り消しは違法なのが基本です。
とはいえ、入社して働くには、学校を卒業するなど、条件を満たしていなければなりません。
新卒採用なら、大学を卒業できなければ、そもそも約束どおりに働けませんから、留年し、卒業できなかったことは、内定取り消しする十分な理由となります。
大企業や大手企業では、特に考え方が堅く、内定を維持してもらえる例は、残念ながら少ないです。
新卒採用の機会は、法律でも手厚く保護されています。
というのも、新卒というのは、人生で1回しか来ない、貴重なタイミングだからです。
この大切な機会を逃すと、新卒限定の採用には、今後一生応募できなくなってしまいます。
特に、新卒の内定には、大企業、大手企業など、新卒採用でなければ入社できない会社があります。
このような会社は、中途採用で入るのは相当ハードルが高いでしょう。
卒業できなくても内定が取り消されないケース

次に、卒業できなくても内定が取り消されないケースを紹介します。
卒業失敗、留年といった自分側の理由があるときでも、まだ内定をあきらめるのは早いでしょう。
卒業できなくても、内定取り消しにならず、内定がなくならないケースもあるからです。
内定は手厚く保護されており、一方的な内定取り消しは認められないのが原則。
そして、会社にとっても、一度出した内定を引っ込めるのは、それなりの覚悟と、コストを要します。
卒業が条件になっていない場合
新卒採用のケースで内定を得るには「大卒」、「高卒」など、一定の学歴が条件となるのがほとんどです。
「大卒」を条件とした求人に応募し、内定を得たのに卒業できなければ、内定取り消しの理由になりえます。
しかし、採用応募のなかには、学歴が条件としていないものもあります。
卒業が条件でないなら、残念ながら卒業できなくても、それだけでは内定取り消しになりません。
第二次新卒や、中途採用の多くは、卒業を条件とはしていないでしょう。
このとき、たとえ学生だったとして、予定どおりに卒業できなかったとしても、内定がなくなることはありません。
「卒業が条件になっているかどうか」は、求人票や内定通知書の内容が参考になりますが、これらの資料だけでは判断できないとき、内定時の説明なども考慮要素となります。
9月卒業まで待ってもらえる場合
留年が確定し、卒業できないことがあきらかになったときにも、9月卒業が可能なのであれば、それまでは内定を待ってくれる会社もあります。
9月卒業まで待ってくれるのは会社の配慮ですから、丁寧にお願いをする必要があります。
このとき、9月には確実に卒業できることを、スケジュールとともに説明するのが大切なポイントです。
会社も、採用コストをかけて内定を出した以上、半年後に必ず入社してくれるなら、9月卒業まで待ってくれる可能性もあります。
次年度の内定に振り替えてもらえる場合
内定が得られたということは、入社できる水準に達していたことを意味します。
毎年一定数の社員を採用している会社であれば、次年度の内定に振り替えてもらえないか、お願いしましょう。
次年度の内定をすぐには確約してもらえないときでも、入社に熱意を見せれば、次年度の採用選考で優遇してもらえる可能性もあります。
留年を理由に、内定が取り消しされたときの対応

卒業できず、留年してしまったことに責任ありとはいえ、せっかく苦労して勝ちとった内定ですから、できるだけ守りたいものです。
適切な対応をすることで、内定がなくなってしまうリスクを少しでも減らしましょう。
留年が回避できないか検討する
まず、そもそもの対策として、留年が回避できないか、念のため検討してください。
卒業できなそうだからと悲観しないでください。
例えば、試験が不合格でも追加のレポートを提出したり、教授に相談したり、補講を認めてもらったり、単位認定に異議を述べたりといった方法により、卒業資格が得られるケースもあります。
卒業できないと確定したら、会社にきちんと伝える
卒業できなかったことを隠し切ることはとても困難です。
「隠しておいて、こっそり通学して卒業すればよいのでは」といったずるい考えをせず、きちんと会社に伝えなければなりません。
卒業できなかったのを隠して入社すれば「卒業できた」と嘘つくことになり、経歴詐称のおそれもあります。
次に解説のとおり、会社の配慮で内定を維持できるケースもあるため、誠意ない対応はおすすめできません。
会社に、卒業できなかったと伝えるときには、次のステップで進めてください。
まず、できるだけ早く、卒業できなかったと内定先の会社に伝えます。
会社側としても入社に向けた準備を進めてしまいますから、迷惑をかけないようスピーディに対応してください。
次に、直接会って、対面で謝罪すべきです。
約束どおりに卒業できず迷惑をかけてしまったことについて、誠意をもって謝罪してください。
最後に、今後の処遇について相談してください。
入社したいという強い意志を示し、あなたが評価されているなら、次に解説するような内定取り消しを回避するような配慮がもらえることもあります。
経歴詐称のリスクは、次に解説しています。

内定取り消しを回避できないか相談する
次に、内定取り消しをなんとか回避する方策がないか、会社に相談してください。
社長や人事担当者としても、できれば内定者に入社してほしいでしょうから、なにかしらの取り計らいがあることもあります。
労使の話し合いにより、内定取り消しを回避するべく柔軟な扱いをしてもらえた例もあります。
- 単位取得に必要な通学のみ、有給休暇をとって対応する
- 夜間の講義で、必要な単位を取得し、働きながら卒業する
卒業できず留年しても内定を取り消すのでなく、卒業まで入社を待ってもらえないかお願いしてみましょう。
単位不足で留年してしまっても、あなたにどうしても入社してほしいなら、卒業まで内定を出したまま待ってくれる会社も少なくありません。
最初から内定取り消しを争う姿勢では、会社も敵対的になってしまいます。
内定を失わないためにも、下手に出てお願いする姿勢が大切です。
せっかく得た内定を失わないためにも、たとえ違法な内定取り消しの疑いがあったとしても、まずは交渉するのがおすすめです。
違法な内定取り消しなら、争うことも検討する
最後に、内定取り消しが違法なら、会社と争えないか検討してください。
卒業できなかったなら、内定がなくなってもしかたないと考えがちです。
確かに、単位不足で卒業できないだけのケースは、原因が内定者側にありますから、違法とはいえません。
しかし、留年を理由とした内定取り消しでも、違法となるケースもあります。
- 卒業が条件となっていないのに、卒業できなかったことを理由に内定取り消しするケース
- 卒業できないのを理由に内定取り消しというのは建前で、本音ではその学生に入社してほしくない別の理由があるケース
内定取り消しが違法なら、労働審判、裁判を活用して争えます。
このとき、争って勝っても、もはや入社して活躍するのは困難でしょう。
そのため、解決金をもらって和解し、他の会社を探すケースがほとんどです。
違法な内定取り消しを争った例には、このようにスタート地点から労働者の利益が大きく害されてしまうことに対する補償として、慰謝料をはじめ損害賠償請求を認めたケースもあります。
違法な内定取り消しへの対応は、次の解説をご覧ください。

卒業できないときの内定者の注意点

最後に、卒業できないときに、内定者がどんな点に注意したらよいかを解説します。
留年、卒業できないことを理由に内定を取り消されてお悩みのとき、ぜひ弁護士にご相談ください。
内定取り消しが違法でないか、ケースに応じたアドバイスを差し上げることができます。
次の就活に不利にならないようにする
残念ながら卒業できず、一度得た内定を失ってしまったことは、人生の汚点だと感じることでしょう。
しかし、今後の就活に不利になるかどうかは、あなたのこれからの努力次第です。
内定取り消しされ、卒業できず、腐ってしまえば、結局次の就活も失敗するおそれがあります。
今回の失敗をバネにして、努力ではね返せれば、決して就活に不利になるばかりではありません。
単位取得の努力をし、卒業できれば、次の採用面接で、成功事例を示すエピソードトークにも使えます。
内定を得た証拠は残しておく
卒業できなかったことによって内定を失ってしまうとしても、1度は内定を得ていたのは事実です。
そのため、後々のためにも、内定を得た証拠は残しておくようにしてください。
内定を得た証拠としては、内定通知書が最適です。
ただ、内定通知書をもらう前に留年が決まってしまったケースなど、卒業できないことが早いうちに明らかになってしまって口頭の約束しかなくても、あきらめないでください。
このとき、人事担当者とのメールやLINE、電話の録音なども、内定の証拠となりえます。
採用面接の場で、口頭で内定をもらったときは、「本日は内定をいただき、ありがとうございました」などとメールし、内定の証拠を残すようにしてください。
卒業できなくても、内定辞退はしない
卒業できないときでも、会社から内定取り消しだといわれないかぎり、内定辞退をしてはいけません。
内定者のほうから、自ら内定を失うことを認めてしまう必要はないからです。
今回解説したように、卒業できないとしても、内定を失わないケースもあります。
会社が配慮してくれて、なんとか入社ができた例も多いもの。
そして、内定取り消しが違法となるような悪質な例も、少ないとはいえ存在しています。
自分から内定辞退してしまっては、これらの機会をすべて失います。
もし、内定取り消しのタイミングでの会社の誠意ない対応に嫌気が指し、もうどんな形でも入社したくないと考えるなら、今度は、違法性を指摘して損害賠償請求するという手も検討できます。
入社辞退のリスクと損害賠償請求については、次の解説もご覧ください。

まとめ

今回は、卒業ができず、留年してしまった採用内定社に向けて、卒業できなかったときに内定がどうなるのか、内定取り消しが違法として争える余地があるのかどうかを解説しました。
卒業できなかったことを理由にしながら、裏の理由があるなら、内定取り消しが違法の可能性もあります。
違法の疑いがあるような内定取り消しの犠牲になったら、ぜひ弁護士に相談ください。
ただ、単位不足で留年したあなたにも責任があります。
丁寧に頼みこめば、会社が留年を待ってくれる可能性もあるため、円満解決を目指すべきケースもあります。
- 卒業が条件になっている内定は、卒業できないなら取り消される
- 卒業できなくても、内定が取り消されないケースもある
- 留年が決まり卒業できなくても、内定を維持できる場合もあるため会社に相談する
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