タトゥーや入れ墨がバレるのを恐れながら働く方もいます。しかし、いざバレたときにクビにされるなら、その解雇は不当だとして争えることもあります。タトゥーや入れ墨を理由に会社を辞めざるを得なくなったとき、「不当解雇ではないか」と疑問に思うのではないでしょうか。
面接でタトゥー禁止と言われなかったり、就業規則に記載がなかったりする場合、「後出し」で指摘するのは不適切です。さして業務に影響がないなら、労働者の不満はよく理解できます。このとき、解雇が不当なのかどうか、法律に基づいて判断しなければなりません。
今回は、タトゥーや入れ墨で解雇されたときの対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- タトゥー、入れ墨も直ちにクビではなく、業務に支障が生じるかがポイント
- 解雇するに相当でない程度のタトゥー、入れ墨なら、不当解雇になる
- 注意指導したり、代替手段を講じたりせずに解雇することはできない
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タトゥー、入れ墨は解雇理由となる?
まず、タトゥー、入れ墨で解雇される具体的なケースと、その理由を解説します。
タトゥー、入れ墨があると「クビにされてしまうのではないか」と恐れながら働いている方も多いことでしょう。まして、入れていることが会社にバレていないなら尚更です。一方で、「自分の体をどうしようと自由ではないか」という価値観も否定できません。
果たして、タトゥーや入れ墨は、正当な解雇理由になるのでしょうか。解雇の理由は、就業規則に定められているものの、規定が抽象的でわかりづらい場合も多いです。
業務に支障がある
タトゥーや入れ墨が解雇の理由となるのは、業務に影響があるからです。つまり、業務に支障を生じるようなタトゥーや入れ墨だと、解雇の理由とされても仕方ありません。業務に悪影響な容姿の人だと、企業としても安心して働かせることはできないでしょう。
業務に支障あるタトゥーや入れ墨の例は、次のようなケースです。
- 顔面に入れ墨、タトゥーがある
- 接客業など、よく顧客と接する業務である
- 入れ墨やタトゥーを好まない層(高齢者・主婦層など)がターゲット
タトゥーや入れ墨は、入れていない人には「怖い」「危ない人ではないか」といったネガティブな印象を与えがちです。本来スムーズに進むはずの取引が、担当社員のイメージが悪いことで難航するケースも、ビジネスではよくあります。このような場合、タトゥーや入れ墨が、業務の支障になっています。
業種や、担当する業務の内容によっては、タトゥーや入れ墨のある社員には任せられない場合もあります。業務に影響してしまうとなれば、会社としても安心して利益を追求することができず、むしろその社員が足を引っ張り、損失を与える状況となってしまいます。
「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説
社会的なイメージが悪い
イメージの悪さから会社の信用を落としてしまうと、クビになる可能性があります。
ファッションとしてのタトゥーは、若者を中心に増加しています。しかし、今もなお、タトゥー・入れ墨があると、反社会勢力との繋がりを想起させてしまいがちです。
会社の存続は、取引先企業や一般消費者からの信用で成り立っているもの。反社会勢力と関係があると思われると、大切な信用を失ってしまいかねません。堅いイメージのある古い業界ほど、このことがあてはまります。
[髭の禁止の違法性」の解説
服務規律に違反する
服務規律に違反すると、解雇されてしまいます。服務規律とは、企業秩序を守るルールのことで、就業規則に定められています。
服務規律は、染髪の禁止、髭の禁止、酩酊した状態での就労の禁止など、社内の秩序を守るための多くのルールが定められており、会社によっては「タトゥーや入れ墨を入れてはならない」と明示的な規定を置いている例があります。また、「社員として適性がない場合」といった包括的な一般条項に含まれると考えられている企業もあります。
服務規律に違反する場合、解雇される理由になります。ただし、その服務規律が、裁判例などに照らして適切でなければ、解雇は違法となることもあります。服務規律違反は、懲戒解雇という厳しい処分になり、労働者のデメリットは非常に大きいです。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
タトゥー、入れ墨による解雇が違法となるケース
タトゥー、入れ墨を理由とする解雇は、違法となる可能性があります。そこで次に、どういった場合に解雇が違法となるのか、具体例を交えて解説します。
解雇は厳しく制限されており、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性がなければ、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。
一方で、タトゥー、入れ墨などの容貌は、本来、個人の自由であるのが原則です。前章で解説したような業務に支障がある場合などのように、例外的なケースで制限されるに過ぎません。
タトゥー、入れ墨を理由とした解雇にも、解雇権濫用法理が適用され、その判断基準は、他の理由による解雇と全く変わりません。そのため、タトゥー、入れ墨が、業務に支障がなかったり、解雇という処分が重すぎたりする場合には、不当解雇として争うことができます。
以下では、具体的に、どのようなタトゥー、入れ墨なら、解雇が規制されるのか、具体例をもとに解説していきます。
採用時から判明していたタトゥー、入れ墨
解雇が違法となる1つ目は、タトゥーや入れ墨が採用時から判明していたケースです。
採用時から判明していたなら、企業としては入社させない選択もありましたし、どのような支障が生じるかは、当初から想定しておくことができました。分かっていて入社させたなら、そのタトゥーや入れ墨は、少なくともその会社の業務には影響がなく、認められたに等しいといってよいでしょう。後から想定外の支障があったからといって、直ちに解雇理由とはなりません。
このように評価できるケースには、次のような例があります。
- タトゥーや入れ墨があると採用面接で申告していた
- 許可は取っていないがタトゥーの見える服を着ていた
- 社長と昔から知り合いで、入れ墨があることを知られていた
労働者があらかじめ申告していた場合には明確に許容されていたといえますし、許可を取っていなくても、見えていたタトゥーなら黙認されたと評価できます。このとき、タトゥーや入れ墨による解雇に、客観的に合理的な理由はなく、不当解雇だといえます。
「就職差別の対応策」の解説
業務に支障がないタトゥー、入れ墨
解雇せざるを得ないのは、業務に支障があるからだと解説しました。逆に、業務に支障を生じないタトゥーや入れ墨は、解雇理由にはなりません。
タトゥーや入れ墨で考えられる業務の支障は、次のものがあります。
- 担当者のタトゥー・入れ墨が理由で、取引先から契約を打ち切られた
- 接客をしていた際にタトゥー・入れ墨が見えて、顧客からのクレームが殺到した
- タトゥー・入れ墨が原因で、予定していた接客業務が担当できない
- 他の社員を威圧し、適正な職場環境が害された
これらの支障がないのにクビにされたら、違法な不当解雇ではないかを疑うべきです。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
隠すなどの手段を検討していない場合
タトゥー、入れ墨のイメージが良くないのは確かで、全く影響がないとはいえないかもしれません。しかし、入っている部位や服装などによっては、その部位をカバーで隠すなどすれば、業務への支障は軽減することができます。
したがって、業務への支障を減らす努力は、会社が指示して行わなければなりません。タトゥーや入れ墨を隠すなど、代替手段がまったく検討されず、すぐクビにするのは許されません。
単に見た目だけの問題ではありません。態度が威圧的か、誠実な対応ができているか、といった点も大きく影響します。勤務態度が良く、処分歴もないなら、外見だけを理由にした解雇は相当でないこともあります。
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注意指導がない場合
業務に支障がある場合にも、すぐにクビにしてはいけません。注意指導なく解雇になったら、違法なものではないか、検討してください。
というのも、解雇がもたらす不利益はとても大きいもので、解雇が適法だといえるには、それ以外他に方法がないことが必要です。注意指導をし、改善され、解雇が回避できるならば、それに越したことはありません。
タトゥーや入れ墨は、すぐ消すことはできないものの、隠すことはできます。「勤務中には袖をまくらない」など、工夫して対策することもできます。場合によっては、異動や転勤で、業務に支障のないところ(例えば、顧客対応のない部署など)に配転する手もあります。
「違法な異動命令を拒否する方法」の解説
他の社員のタトゥー、入れ墨が許されている場合
タトゥー、入れ墨のイメージは、業界によっても違います。少なくとも、会社でタトゥー、入れ墨が許されているなら、あなただけクビなのは不当です。社長や他の社員も、タトゥー、入れ墨を入れているなら、不当解雇といえるでしょう。
同部署の社員が、注意で済むなら、わざわざ解雇という重い処分をしなくてもよいはず。その背景には、あなたに対する嫌がらせ、いじめの意図があることもあります。
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タトゥー、入れ墨で解雇された時の対処法
タトゥー、入れ墨で解雇されてしまったら、どのように対処すべきか、注意点を解説します。
まず、自分の認識をあらためて見直すのが大切でしょう。
タトゥー、入れ墨を入れている人は、少数はといってよいでしょう。悪いイメージを持たれがちなのも理解しなければなりません。
しかし、容貌や外観を決めるのは、個人の自由であり、悪いことではありません。タトゥーや入れ墨を入れているからといってクビにするのは、不当解雇の可能性が高いもの。あきらめるのは、まだ早いといえるでしょう。
解雇が違法ではないかと感じたら、労働者としての権利を主張して、争うべきです。少なくとも、退職勧奨に応じて辞めてはいけません。
辞めざるを得ない状況に追い込まれたら、会社に対して、次の3点を確認しましょう。
- 入れ墨、タトゥーで、具体的にどのような支障が生じているか
- 入れ墨、タトゥー以外に、問題点があるか
- 他の職種への異動、転勤ができないか
ただ、真面目に取り合ってくれない可能性も十分に考えられます。交渉するときは、前例がないか調べておくべきです。配転や異動の希望も通らずクビになったら、解雇の無効を主張し、出社の意思を示しましょう。
働きたくても働けなかったら、解雇が無効なとき解雇期間中の給料(バックペイ)も請求できますまた、解雇されたら、解雇通知書、解雇理由証明書といった書類を必ず請求してください。タトゥー、入れ墨で生じた業務への支障を、具体的に知ることが、争う際の助けになります。
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そもそも、タトゥー、入れ墨を禁止してもよいのか
これまでは、就業規則自体が有効であることを前提に話を進めてきました。
ただ、タトゥー・入れ墨の禁止は、個人の自由を制限します。そもそも、個人の容貌を制限するような就業規則そのものが、違法の可能性もあります。会社は労働者の自由を制限できますが、あくまで業務に必要な範囲に限られるからです。
したがって、不当解雇となる理由の場合、そもそも就業規則が違法でないか検討してください。タトゥーや入れ墨も、企業秩序の維持が困難なものに限定して禁止されるべきです。
裁判例でも、タトゥーや入れ墨のイメージに言及したものがあります。
大阪高裁平成27年10月15日判決は「現時点の我が国において、反社会的組織の構成員に入れ墨をしている者が多くいることは公知の事実であり、他人に入れ墨を見せられることで不安感や威圧感をもつ」と指摘しており、一般に、イメージが悪いものとすることは仕方ないといえます。
とはいえ、そのタトゥーや入れ墨の内容、見え方によっても変わるでしょう。価値観は、時代とともに変化するのであり、過去の裁判例がそのままあてはまるとも限りません。重要なことは、具体的な状況に応じて、その解雇の違法性を判断することです。
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まとめ
今回は、タトゥーや入れ墨を理由とした解雇について解説しました。
結論としては、タトゥー、入れ墨で解雇されてもあきらめる必要はありません。不当な解雇の可能性は大いにあるので、しっかりと争うべきです。
タトゥーや入れ墨を入れるなら、その社会的な影響は考慮しなければなりません。それでもなお、解雇は、労働者の生活の基盤を失われる厳しい行為であり、業務に支障のない範囲なら、直ちにクビにすることはできません。どういった状況なら解雇が違法なのか、よく理解し、適切に対処するために、ぜひ弁護士にご相談ください。
- タトゥー、入れ墨も直ちにクビではなく、業務に支障が生じるかがポイント
- 解雇するに相当でない程度のタトゥー、入れ墨なら、不当解雇になる
- 注意指導したり、代替手段を講じたりせずに解雇することはできない
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