セクハラの責任でよくあるのは、慰謝料請求といった民事責任と、懲戒処分などの社内の責任。しかし、重度のセクハラは、刑法に定める犯罪にあたり、刑事罰を科されるおそれがあります。
つまり、セクハラでも、特にひどいものは「犯罪」なのです。犯罪になる重度のセクハラをすると、警察から連絡が来たり、最悪は逮捕されてしまったりすることがあります。
警察から連絡がきたが、出頭しなければならない?
社長は許すといっているが、逮捕は避けたいところ
犯罪にあたるセクハラだと、被害者も、身の安全のため警察にかけこむ例は珍しくありません。セクハラしたのが事実であるときも、セクハラしてはいないと反論したいときでも、警察に逮捕されるとすぐには外に出られず、社会生活に支障が生じてしまいます。
今回は、どのようなセクハラが犯罪になるか、そして、犯罪にあたるセクハラをして警察から連絡がきたときの対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 重度のセクハラほど、犯罪になってしまう可能性がある
- セクハラで成立する犯罪は、不同意性交等罪のような性犯罪が典型
- セクハラ犯罪で警察から連絡が来たら、逮捕される前に謝罪と示談するよう心がける
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違法性の強いセクハラは、犯罪になる
セクハラで慰謝料が請求できる根拠は、不法行為(民法709条)にあります。慰謝料は、セクハラという違法行為によって受けた精神的な被害を、金銭支払によって回復するという意味があります。
しかし「お金には代えがたい」ものは、世の中にたくさんあります。その典型例が、「人の生命」や「健康」ではないでしょうか。重度のセクハラは、お金に代えがたい大切なものを奪う行為であり、犯罪として処罰される可能性があります。
悪質なセクハラで、被害者の尊厳を奪い、生命すら奪いかねないケースは、慰謝料だけでは解決できません。セクハラの加害者の責任には、民事上の責任と刑事上の責任がありますが、この2つは区別されています。セクハラ加害者は、民事の責任追及と並行して、刑事事件として立件され、犯罪者となってしまう危険があるわけです。
なお、セクハラは、職場における、被害者の意に反した性的な嫌がらせのことを指します。性的関係を拒否したときに不利益を与える「対価型」と、性的言動によって職場環境を悪化させる「環境型」がありますが、犯罪になるセクハラの多くは、具体的な行為を伴う「対価型」で生じます。
「セクハラ加害者の対応」の解説
セクハラはどのような犯罪になるのか
次に、悪質なセクハラが該当する罪について、刑法における分類を解説します。
セクハラは犯罪になる可能性がありますが、具体的にどのような犯罪行為に該当するかを知れば、罪を犯さないように注意することができます。なお、刑法にはセクハラを直接処罰する規定はないものの、重度のセクハラに含まれる性的な違法行為は、様々な性犯罪に該当します。
不同意性交等罪
セクハラのなかで最も重度なのが、不同意性交等罪にあたるケースです。暴行、脅迫を手段として肉体関係をもつと、不同意性交等罪(刑法177条)に該当し、「5年以上の有期懲役」に処されます。
不同意性交等罪にあたるセクハラは、例えば次のケースです。
- 女性社員をレイプした
- 女性社員をホテルにつれこみ、殴って押し倒し、性交渉した
- 脅してこわがらせ、肉体関係をもたざるをえなくした
上司・部下の関係など、社内の上下関係がプレッシャーとなることもあります。職場の関係を重視するあまり、被害者が肉体関係を断りきれないとき、暴行、脅迫をともなうセクハラになりやすく、犯罪が起きやすい状況だといえます。被害者が、上下関係による圧力を感じていると、自分では「同意がある」と思っていてもセクハラ扱いされてしまう危険があります。
「同意があってもセクハラと言われた場合」の解説
不同意わいせつ罪
性交渉に至らずとも、性的な行為を強要するだけでも犯罪になります。このとき、悪質なセクハラは不同意わいせつ罪(刑法176条)に該当する可能性があります。不同意わいせつ罪は、性交渉までしなくても、暴行、脅迫といった手段にして性的な行為をするセクハラであり、「6月以上10年以下の懲役」に処されます。
不同意わいせつ罪となるセクハラには、次の例があります。
- 脅してこわがらせ、胸をさわる
- 社長が「解雇するぞ」とプレッシャーをかけ、キスを強要した
- 無理やり、力づくで抱きついた
不同意性交等罪と同じく、不同意わいせつ罪に該当するセクハラもまた、職場の上下関係を利用して起こることが多いです。
「セクハラ上司への対応策」の解説
わいせつ物頒布等罪
わいせつな文書や画像を、公然と陳列した場合、わいせつ物頒布等罪(刑法175条)にあたります。
職場環境を悪化させる「環境型」セクハラは、程度がひどいとこの犯罪に該当するおそれがあります。つまり、性的な嫌がらせによって、被害者となる女性社員の職場環境を悪化させるセクハラ行為です。同罪は、「2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料」に処されます。
わいせつ物頒布等罪にあたるセクハラは、次の例です。
- パソコンの壁紙をエッチな画像にする
- 職場でAV鑑賞会をする
- 自席にきわどいアイドルのポスターを貼る
リベンジポルノ防止法違反
被害者となる女性社員の裸の画像などをネット上にアップすれば、リベンジポルノ防止法違反です。セクハラのなかでも、社内恋愛や社内不倫のこじれが、このような犯罪に発展します。性的関係を求めるタイプのセクハラでも、拒否された腹いせにリベンジポルノが起こることもあります。リベンジポルノ防止法違反は、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されます。
「社内恋愛で解雇された時の対処法」「社内不倫を理由とする解雇」の解説
暴行罪、傷害罪
セクハラの過程で、殴ったり蹴ったりすれば、暴行罪(刑法208条)になります。このとき、「2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料」に処されます。セクハラの結果、傷害を負わせれば、傷害罪(刑法204条)で「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されます。傷害は、必ずしも物理的なものに限りません。セクハラの結果、被害者がうつ病、適応障害、PTSDなどを発症したとき、傷害罪となる危険があります。
強要罪
セクハラは、被害者の意に反する性的な嫌がらせです。被害者のしたくないことを強要する性質があり、強要罪(刑法223条)になる危険があります。強要罪は、義務のないことをさせ、権利行使を妨害したとき成立し、「3年以下の懲役」に処されます。
強要罪になるセクハラの例は、次のケースです。
- 食事にいくようしつこくメールして強要した
- 女性社員を旅行デートに無理やり連れていった
- 何度も電話し、デートを拒否できなくした
名誉棄損罪、侮辱罪
言葉によるセクハラ、つまり、セクハラ発言もまた犯罪にあたるケースがあります。殴ったり蹴ったりといった荒っぽい行為がなくても、犯罪になりうるのです。
事実を指摘するセクハラ発言で、被害者の社会的評価を下げれば、名誉毀損罪(刑法230条)、事実の指摘がなくても、不快な思いをさせれば侮辱罪(刑法231条)にあたります。名誉毀損罪は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」、侮辱罪は「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に処されます。
- 「男性社員と付き合うなんてビッチだ」と面と向かって罵倒する
- 社内に、性的な噂を流す
- インターネット上で、女性社員の悪口を書き込む
犯罪にあたるかどうかは、発言の内容や程度、回数、被害者の受けとり方によっても違います。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
迷惑防止条例違反
公共の場で女性社員の体をさわるセクハラだと、迷惑防止条例違反になります。迷惑防止条例違反は、痴漢を処罰する法律として有名ですが、公の場所で身体的な接触をするセクハラの場合には、痴漢の場合と同じく同法が適用されます。
迷惑防止条例違反は、都道府県の条例によって違いますが、東京都の条例では「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されます。
迷惑防止条例違反のセクハラの例は、次のとおりです。
- 他の社員が見ている前で、女性社員の胸や尻をなでまわした
- 社内の飲み会で、女性社員の手を握り続けた
- オフィス内で女性社員の髪をなでた
また、これらの迷惑行為を、常習としてしたとき罪が重くなり、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処されます。
「痴漢を理由とする解雇」の解説
セクハラで逮捕された後の流れは?
セクハラで警察から連絡が来たとき、最も心配なのが「逮捕」でしょう。逮捕により身柄拘束されると、家族に会えない、仕事ができないといった不利益があります。当然ながら、セクハラで逮捕ともなれば、社内でも厳しい処分が予想されます。
セクハラで、警察に出頭するよう要請されたとき、逮捕の可能性はないとはいえませんから、逮捕されるリスクに備え、その後の流れを知っておく必要があります。
セクハラで逮捕されたとき、その後の流れは次のように進みます。
逮捕から24時間は、警察で身柄拘束を受け、その後検察に「送致」されます。被害者が処罰を望まないときや、微罪処分のとき、ここで終了します。
送致の後、48時間、検察で身柄拘束を受けます。送致を受けた検察官が、勾留が必要と判断すると、勾留請求がされます。
勾留の理由、勾留の必要性があると、勾留請求から10日間「勾留」の身柄拘束を受けます。
勾留は、最大10日間延長できます。勾留の期間中に、検察官が、起訴を要するか判断します。
検察官が起訴すると、刑事裁判になります。刑事裁判では、公判が開かれ、審理の後、判決が下ります。
なお、セクハラでの逮捕は業務に関することなので、当然会社の知るところとなります。社内でも、解雇をはじめとした厳しい処分が予想されるでしょう。
「逮捕されたことは会社にバレるか」「逮捕を理由とする解雇」の解説
セクハラで警察に被害届を出されたときの対応
最後に、警察に被害届を出されたときの、セクハラ加害側の対応を解説します。
犯罪となるような重度のセクハラをして、警察から連絡が来てしまったという事態は非常に深刻です。そのスタートは、セクハラの被害者が、警察に被害届を出すところから始まります(被害届の提出と共に、被害者が処罰を求めることを「告訴」と呼びます)。
したがって、まずは被害届を出されないよう、被害者に謝罪し、示談の働きかけをします。そして、被害届を出されてしまった後も、刑事事件として立件され、逮捕、起訴、処罰へと進んでいかないよう、早急に示談をすることが大切です。なお、あくまでセクハラが事実の場合の対応であり、セクハラ冤罪のときには別の対処が必要です。
被害者に謝罪する
まず、セクハラの被害者に謝罪をしましょう。反省し、謝罪の姿勢を示すことによって、被害者の処罰感情をやわらげることができます。
性犯罪では、被害者の処罰感情がとても重視されます。被害者が「これ以上、厳罰にすることを望まない」といってくれれば、逮捕されたり、犯罪として処罰されたりするリスクを下げられます。
謝罪するにしても犯罪になるほどのセクハラだと、会って謝罪するのは危険です。セクハラの再発を疑われてしまうし、被害者に拒否される可能性も高いからです。このとき、謝罪文を作成し、会社や弁護士を通じて渡してもらう手が効果的です。
「セクハラの謝罪文」の解説
示談する
謝罪の意思を十分に伝えられたら、次に、示談を提案するようにしてください。示談できれば、刑事事件化するおそれを格段に下げることができます。被害者のいる犯罪では、示談の有無が、とても大きな情状として考慮されるからです。
日本の刑事司法では、起訴されたケースの99.9%が有罪となっています。そのため、起訴されてしまうと、前科がつく危険がとても大きいといえます。セクハラで被害届を出されたら、なんとしても起訴される前に、すみやかに示談するのがとても大切です。
「セクハラで示談する流れ」の解説
まとめ
今回は、セクハラが犯罪として処罰されるおそれがあることと、その対応を解説しました。
犯罪となるセクハラをすると、警察から連絡が来て逮捕され、刑事裁判になることがあります。このとき、セクハラはもはや社内で起こった労働問題の範疇を超えて、刑事事件となってしまいます。そのため、対応としても刑事弁護活動が必要なケースだといえます。
刑事弁護では、身柄拘束され自由を奪われたり、前科を背負わされたりするリスクがあるため、スピーディに対応することがとても大切です。セクハラが犯罪に該当し、警察から連絡が来たり、逮捕されたりする可能性があるときは、早急に弁護士にご相談ください。
- 重度のセクハラほど、犯罪になってしまう可能性がある
- セクハラで成立する犯罪は、不同意性交等罪のような性犯罪が典型
- セクハラ犯罪で警察から連絡が来たら、逮捕される前に謝罪と示談するよう心がける
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