派遣社員は、正社員より弱い立場に置かれやすく、パワハラの対象となって悩んでいる派遣の方も少なくありません。
正社員から高圧的に命令されパワハラに悩んでいる
パワハラで、長年勤めた派遣先をやめざるをえない
このような相談が弁護士に多く寄せられていることからもわかるように、派遣社員に対する蔑視や差別、派遣であることを理由としたパワハラは、跡を絶ちません。
派遣先で、パワハラ、モラハラ、セクハラの対象となった派遣社員は、どのように対応したらよいのか、適切な対処法を知っておくべきです。派遣の労働関係は複雑ですが、派遣先、派遣元のそれぞれに、慰謝料を請求するといった責任追及が可能なので、我慢してはいけません。
今回は、パワハラの標的になった派遣社員が、パワハラに対抗するためのポイントや、適切な相談先について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 派遣社員は、責任や給料面から、正社員より劣後した地位になりがち
- パワハラを受けたら、派遣元、派遣先、弁護士など適切な相談先に相談する
- 派遣元、派遣先いずれもパワハラを防止してくれないときは責任追及が可能
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派遣社員のパワハラの問題とは
派遣社員が、派遣先でパワハラを受けることがあります。このとき、パワハラの加害者は、派遣先の正社員であることが最も多いです。しかし、それだけでなく、他の派遣社員やアルバイトからパワハラ被害を受けてしまうこともあります。
次のような労働トラブルについて「違法なパワハラではないか?」という法律相談がよく弁護士のもとに寄せられます。
派遣先の正社員から「仕事ができないならやめてしまえ」と罵倒された
派遣先の社長から、「派遣は使えないので契約更新しない」といわれた
派遣社員にすべての雑用を押しつけて、正社員はサボってて仕事しない
いずれも、パワハラにあたる可能性の高い行為だといえますから、慰謝料を請求できる可能性は十分にあります。
パワハラは、労働施策総合推進法30条の2(いわゆるパワハラ防止法)で、「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害される」ものと定義されます。そして、パワハラのうち、違法性の強いものは不法行為(民法709条)として、慰謝料をふくめた損害賠償を請求できるのです。
派遣社員は、派遣元に雇用されながら、実際には派遣先で働いています。このような法律関係のなかで、派遣先においては臨時的な労働力として扱われるため、その地位は低く見られがちで、しばしばパワハラの被害に遭いやすい状態となっています。
派遣社員が実際に受けたパワハラが、慰謝料を請求できる不法行為にあたるかどうかは、そのパワハラの悪質性によって決まります。パワハラの悪質性の判断基準には、次の考慮要素があります。
- 派遣社員に対するパワハラ行為がされた経緯・理由
- これまでの人間関係
- 派遣社員が受けたパワハラ行為の回数・頻度
- 派遣社員が受けたパワハラ行為の時間・長さ
- 派遣社員が受けたパワハラ行為の違法性・強度
「パワハラと指導の違い」の解説
派遣社員に対するパワハラの具体例
そこで次に、派遣先の職場でよく起こるパワハラの実態、具体例を解説します。
前章の通り、パワハラは、「優越的な地位」を利用した行為。つまり、パワハラは、職場内で優位な地位にある社員が、劣後した地位にある社員にする嫌がらせなわけです。
派遣は、職場内で、正社員よりも地位が低くなりがちです。短期間しか会社にいないため、責任や権限が少なく、給料も低いことが多いからです。そのため、派遣社員は、派遣先の職場内で劣後した地位に置かれやすく、いじめ、パワハラの被害にあいやすい傾向にあります。
【ケース1】正社員からの差別発言
派遣社員のパワハラで、最もよく相談のあるケースは、正社員からの差別発言です。正社員から派遣に対して、職場内の優位性を利用して、差別的な発言をされてしまうケースです。
通常、派遣先の職場では、正社員のほうが重要な仕事を任され、責任も重く、給料も高いのが一般的です。そのため、正社員のなかには、派遣社員を軽んじて、蔑視し、パワハラ、職場いじめの対象にする人もいます。派遣社員は、派遣先に直接雇用されておらず、派遣元から派遣されてきます。そのため「外部の人」のイメージが強く、仲間はずれにされてしまいがちな面もあります。
しかし、これら正社員の差別的な言動はすべて、違法なパワハラです。
「職場いじめの事例と対処法」「パワハラにあたる言葉一覧」の解説
【ケース2】女性の派遣社員へのセクハラ
派遣社員のなかには、女性労働者も多いです。女性の派遣社員が事務職を担当している会社は多くありますが、女性の派遣社員にセクハラ発言をする正社員が、残念ながら少なくありません。派遣は、期間が終了するとやめていく社員もいるため軽くみられやすく、少しのセクハラなら見逃されてしまいがちですが、違法なことに違いはありません。
プライベートに関する発言が軽々しく行われると、セクハラにつながります。「結婚してるの?」「彼氏いるの?」「子供いつつくるの?」といった無自覚なセクハラ発言は跡を絶ちません。
「セクハラ発言になる言葉一覧」の解説
【ケース3】飲み会の強要
仲間はずれとは逆に、飲み会への参加を強要されるのもまた、派遣社員へのパワハラです。
派遣先に雇用されていなくても、派遣先で働くために、派遣先の社長、上司の命令にしたがう必要があります。派遣社員への優位性を悪用し、飲み会への参加を強要するのは、違法なパワハラと言わざるを得ず、慰謝料請求の対象となる悪質な行為です。
派遣という雇用形態をあえて選ぶ労働者には、育児や介護といった家庭の事情のある人もいて、働ける時間に限りがあるために仕方なく派遣で働いている人もいます。飲み会を強要されるというパワハラのダメージは、正社員が考えるよりも深刻なケースが多いです。
「飲み会でのセクハラ」の解説
【ケース4】派遣切りをにおわすモラハラ
派遣社員の地位は、不安定なものとなりがちです。不当な派遣切りによって、派遣社員としての地位を奪われることは、正社員の解雇にもましてよく起こりがちです。
派遣切りや、派遣社員の交代要求といった、派遣社員にとって不利な処分をちらつかせることで、命令を聞くしかない状況に追い込むというハラスメントが行われることもあります。このような言動は、暴力・暴言のようにパワハラと評価できるほどの違法性がないときでも、モラハラとして、同程度の違法性を有するケースもあります。
「派遣切りの違法性」の解説
【ケース5】派遣社員同士のパワハラ
派遣社員と正社員の間だけでなく、派遣社員同士でパワハラが起こることもあります。つまり、ある派遣社員が、他の派遣社員にパワハラするケースです。
このとき、派遣元となる派遣会社が同じのときもあれば、違うときもあります。同じ会社から派遣されているなら、派遣会社の担当者に相談して解決できますが、違う派遣会社からきている社員同士のパワハラのときは、会社間の話し合いも必要となり、複雑なケースとなります。
「部下から上司への逆パワハラ」の解説
派遣社員がパワハラを受けたときの相談先
派遣元となる派遣会社に雇われながら、派遣先の会社内で働くために、派遣社員との雇用関係は、派遣元にありますが、実際に労働のための指揮命令をするのは派遣先です。
このような状況のなかで、パワハラの被害にあった派遣社員の方は、適切な相談先に悩むでしょう。派遣先、派遣元のどちらにパワハラ被害の相談をしてよいか迷うかもしれませんが、責任追及はどちらに対してもできる可能性があります。
パワハラを受けた派遣社員が相談すべき、適切な相談先は、次の通りです。
派遣先の相談窓口に相談する
派遣先の会社は、その職場の安全を保つ義務があります(安全配慮義務)。そのため、派遣先が、派遣社員へのパワハラを放置することは安全配慮義務違反であり、慰謝料請求の対象となります。また、派遣社員へのパワハラの加害者が、派遣先の社員の場合に、そのパワハラが業務において行われたなら、派遣先は使用者責任(民法715条)もあわせて負います。
パワハラの被害者となった派遣社員としては、派遣先の社長や直属の上司、派遣先のパワハラ相談窓口などに、現在被害にあっているパワハラについて相談することができます。つまり、このとき、派遣先の担当者が、適切な相談先だということです。そして、適切な対応がなされなければ、派遣先をパワハラで訴えることもできます。
「パワハラの相談先」の解説
派遣元の相談窓口に相談する
現在も働いている派遣先に相談すると、社内の人間関係が不安であるとか、派遣先の社長が加害者で、直接話すと円満に解決できなくなってしまう場合は、派遣元に相談し、会社間で調整してもらう方法も有効です。したがって、派遣元もまた、派遣社員のパワハラの相談先となります。
相談を受けた派遣元もまた、派遣社員のパワハラについて適切な対応をしなければなりません。具体的には、派遣元から派遣先へ、会社間で連携したり、調整したり、配慮を促したりといった対応が必要となります。派遣元もまた、相談を受けていたのに対応せず、放置し、パワハラ被害が拡大してしまえば、派遣社員のパワハラについて責任を負うこととなります。
加害者の所属する企業に相談する
派遣社員にパワハラをした加害者が、責任を負うのは当然です。
したがって、直接パワハラした社員には、慰謝料請求をはじめとした損害賠償を請求できます。これは、パワハラの直接の加害者が、派遣先の正社員だろうとアルバイト社員だろうと、派遣元の社員でも、同僚の派遣社員でも同じこと。そして、このとき、加害者の所属する企業が、適切な相談先となるケースがあります。
加害者の所属先である会社に相談をすれば、使用者として加害者に注意をし、パワハラをしないよう指導をしてもらうことが期待できます。
「パワハラの相談を受けたときの対応」の解説
労働基準監督署に相談する
派遣元、派遣先などの社内だけの対応では、派遣社員へのパワハラを止められないとき、社外の相談先を使うしかありません。
このとき、パワハラの違法性が強度なら、労働基準監督署(労基署)が相談先としておすすめです。ただし、労働基準監督署では、暴力をともなうような悪質なパワハラでなければ、スピーディには対応してくれないおそれがあります。
「労働基準監督署が動かないときの対処法」の解説
弁護士に相談する
最後に、法的な責任を追及しなければパワハラが止まりそうにないときは、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士なら、軽度なものから重度のものまで、パワハラの程度を問わず対応できます。弁護士名義で、違法なパワハラをなくすよう警告書を送付することで、これ以上のパワハラ被害を防ぐことができます。
また、弁護士に依頼すれば、労働審判や訴訟といった裁判手続きを利用して、損害賠償請求することにより、過去に受けたパワハラの被害回復を図ることもできます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
派遣社員がパワハラに対抗する方法と、注意点
最後に、パワハラや職場いじめの被害にあってしまった派遣社員に向けて、派遣社員がパワハラに対抗する方法と、その際の注意点を解説します。
派遣社員は、派遣先のなかでは弱い立場になってしまうことがあります。しかし、それはあくまで、派遣先のなかで通用する序列であり、社会的にあなたの価値が低いわけではありません。正社員からのハラスメントを我慢する必要はなく、泣き寝入りはよくないでしょう。
パワハラに、その場では反論しない
派遣社員にパワハラする人は、とても軽い気持ちで、パワハラとすら思っていないこともあります。特に、正社員のなかには「派遣はそもそも地位の低いもの」だと考えていて、軽視している自覚すらない人もいます。
加害者の心理として、パワハラの現場で過剰に反論すれば、むしろ被害が加速するおそれもあり、おすすめではありません。下に見ていた派遣社員から突然反撃を受けると、更に激化する危険があります。パワハラ直後に反論するより、適切な相談先にパワハラ被害を相談し、パワハラをストップしてもらえるようはたらきかけるのが適切な対応です。
相談してもパワハラがやまないときは、労働審判や訴訟といった裁判手続きで責任追及する方法もあります。その間、派遣先とはあわないと感じたら、派遣期間の途中でも、派遣先を変えてもらえるよう、派遣元と相談したおくのがよいでしょう。
一人で抱え込まない
パワハラの被害者となった派遣社員のなかには、派遣先という職場では「外部の人」なために、誰にも相談できず、一人で悩みを抱え込んでしまう方もいます。パワハラ被害の悩みを抱えると、ストレスをさらに加速させ、うつ病、適応障害などのメンタルヘルスにかかったり、過労死、過労自殺といった深刻な事態の原因となったりしてしまうことも。
再就職しても、当時の苦痛がフラッシュバックして、転職先での就労の支障となるケースもあります。くれぐれも一人で抱え込まず、さきほど解説した相談先へ、まずはパワハラの相談をしましょう。
「パワハラが起こる理由」の解説
パワハラの経緯をまとめる
パワハラの被害について相談するときには、できるだけ順をおって、時系列でわかりやすく話すのが基本です。わかりやすく、それでも具体的に説明をしなければなりません。
パワハラを実際に体験していない、相談をされた側の気持ちになって、できるだけわかりやすくまとめられていないと、理解をしてもらえなくなってしまいます。相談したとき、すぐに理解をしてもらえないと、パワハラの救済が遅れる原因となります。「5W1H(いつ、誰が、誰に、何を、どこで、どのように)」に沿って、時系列にメモにまとめ、頭を整理してから相談するのがよいでしょう。
パワハラの経緯をしっかりまとめ、わかりやすく説明すれば、社長や上司などが対応してくれて、法的手続きに至らずとも相談段階で解決できることもあります。
「パワハラの証拠」「パワハラのメモの作り方」の解説
パワハラの証拠収集と録音
パワハラ問題が、相談だけでは解決しないとき、労働審判や裁判で責任追及が必要です。このとき、直接の加害者はもちろん、派遣先や派遣元に対して、慰謝料請求をします。
裁判所で救済してもらうためには、証拠が重要。パワハラのように、密室で隠れてされたり、業務上の注意指導に似せてされたりする言動では、特に、正確な証拠を保存しなければなりません。パワハラ発言の内容、行為の内容や、日時、場所、状況などを、パワハラ発言、職場のモラハラ、職場いじめを受けるたびごとに、しっかり記録してください。
パワハラの証拠をきちんととるためには、ボイスレコーダーを携帯するなど録音の準備をし、パワハラ発言を受けそうなときには隠れてこっそり録音(秘密録音)してください。目撃者がいても、会社の味方となる可能性が高いため、社員の証言に頼るのは難しいこともあります。
「パワハラの録音」の解説
パワハラの労災申請をする
労災というと、業務上の事故などによってケガをしたケースが典型ですが、パワハラによって負った精神的ダメージによるうつ病、適応障害などの精神疾患もまた、労災認定の対象です。
精神疾患について、労災認定を受けられるケースのなかには、長時間労働によってうつ病などにかかったケースがありますが、これに加えて、パワハラもまた、強いストレスとして労災の原因となっているのです。強度のパワハラがある事例では、さほど労働時間が長くなくても、労災申請をし、労災認定を得られる場合が少なくありません。
パワハラによる精神疾患、メンタルヘルスによって労災認定を得ようとするとき、まずは心療内科、精神科などを受診し、診断書を入手しましょう。
「労災の条件と手続き」の解説
パワハラの慰謝料請求をする
最後に、ここまでの予防策、対応策を講じても、派遣先も派遣元も対応してくれず、パワハラ被害が拡大しそうなときは、慰謝料請求を検討してください。パワハラの直接の加害者はもちろん、派遣先、派遣元は、派遣社員を安全に働かせる義務(安全配慮義務)を負いますから、違反があれば、慰謝料請求をすることができます。
派遣社員からパワハラの相談を受けたにもかかわらず、派遣先、派遣元が誠実な対応をしてくれずに放置すれば、安全配慮義務違反を理由に、慰謝料請求ができます。また、直接の加害者を雇用している会社は、使用者責任(民法715条)を負います。
「労災の慰謝料の相場」の解説
まとめ
今回は、派遣社員がパワハラの被害に遭った場合の対応について解説しました。
パワハラの被害にあった派遣社員のなかには、派遣先の人間関係を気にしすぎたり、正社員という優位性に基づいた圧力に負けてしまっていたりして、我慢している方も残念ながら多いです。
しかし、派遣だからといって、違法なパワハラに屈する必要はありません。派遣先の社員に問題のあるケースでは、パワハラを我慢してまで働き、精神的苦痛を受け続ける必要はありません。真面目で実直な正確な方、弱い立場にある女性の派遣社員の方といったように、派遣社員は、その属性からしてもパワハラ被害のダメージが大きくなってしまいやすい性質があります。
パワハラ被害にあったら、すぐ証拠収集をはじめてください。派遣労働をやめると生活が苦しくなってしまうとき、パワハラから逃げてもしばらくはお金に困らないようにしておくため、慰謝料請求によって被害を回復しましょう。
- 派遣社員は、責任や給料面から、正社員より劣後した地位になりがち
- パワハラを受けたら、派遣元、派遣先、弁護士など適切な相談先に相談する
- 派遣元、派遣先いずれもパワハラを防止してくれないときは責任追及が可能
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