言葉によるパワハラは軽視されがちですが、精神的ダメージは決して小さくありません。
我慢し続けると取り返しのつかない深刻なトラブルに発展するので、こうした事態を防ぐためにも、どのような言葉がパワハラにあたるかを正しく理解する必要があります。この知識は、被害者側だけでなく、発言する立場となる管理職や上司にとっても重要であり、意図せずパワハラと認定されるリスクを避けるためにも役立ちます。
相談者不快に感じる言葉は全てパワハラなのか
相談者悪気がなければパワハラにならないのか
このような疑問も寄せられますが、実際は、パワハラに該当するかどうかは、発言内容だけでなく、状況や関係性も踏まえて判断されます。罵詈雑言や暴言、人格否定などが、どこから「アウト」なのかを理解するには、具体例や裁判例をもとに状況に応じて判断する必要があります。
今回は、パワハラにあたる言葉を一覧で紹介するとともに、違法性を判断する際のポイントについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 暴力的な行動を伴う場合だけでなく、発言や言葉だけでもパワハラになる
- パワハラにあたる言葉は、労働者の権利を侵害し、大きな不利益を与える
- パワハラ発言かどうかは、内容だけでなく状況や動機、目的も考慮される
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パワハラ発言は「言葉の暴力」

パワハラが「言葉の暴力」と言われるのは、決して誇張ではありません。
優越的な関係を背景に発せられる不適切な言葉は、身体的な暴力と同じく、違法なパワーハラスメント(パワハラ)に該当します。被害に遭わないためにも、パワハラにあたる言葉がどのようなものかを理解しておくことが重要です。
パワハラが成立するのは「行動」だけではありません。法律上も「言動」と表現される通り、発言や言葉もパワハラに含まれます。業務上の必要性を欠き、不相当な内容や言い方で行われる指導は、たとえ言葉だけでもパワハラとなる典型例です。
パワハラとなる言葉は「精神的な攻撃」「個の侵害」に該当する
暴力や退職強要といった「行動」によるパワハラの深刻さは分かりやすい一方、言葉や発言によるパワハラは軽視されがちです。しかし、言葉の暴力も、立派なパワハラの一種です。
厚生労働省が示す「パワハラの6類型」では、暴力などの身体的な攻撃に加え、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害といった無形の被害もパワハラに含まれています。精神的な攻撃には、脅迫や名誉毀損、侮辱、人格否定、著しい暴言などが含まれ、パワハラ発言はまさにその典型例です。

問題となるパワハラの多くは、発言による精神的な攻撃
暴言や人格否定などのパワハラ発言に悩むのは、決してあなただけではありません。
厚生労働省の統計でも、過去3年間に見聞きした、または相談を受けたパワハラ行為のうち、最も多かったのが「精神的な攻撃」であり、その割合は、2位の「過大な要求」を大きく引き離す56.6%となっています。

言葉や発言によるパワハラだからといって軽く考えるべきではありません。違和感や不安を覚えたら、速やかに弁護士へ相談することが、問題を深刻化させないための適切な対処法です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

パワハラにあたる言葉一覧

次に、パワハラにあたる言葉を一覧で紹介します。
職場で心無い言葉を投げかけられると、「パワハラではないか」と疑問を持つ人も多いでしょう。状況や関係性を踏まえる必要はあるものの、言葉そのものがパワハラに該当する内容であれば、違法となる可能性は高いといえます。
- 以下は代表例であり、これらに該当しなくてもパワハラと判断される場合があります。
生命や身体への危害をほのめかす言葉
生命や身体への危害を示唆する発言を受ければ、平常心では働けないでしょう。
暴力行為が実際には行われていなくても、発言そのものが強い恐怖心を与える以上、パワハラにあたる可能性は極めて高いです。
- 「殺すぞ」
- 「殴るぞ」「蹴るぞ」「叩くぞ」
- 「仕事でミスをしたら家に火をつけてやる」
- 「お前の家族を痛めつけてやる」「子供がどうなってもいいのか」
- 「末代まで呪ってやる」
「根性論だ」「喝を入れただけだ」「比喩だ」などと弁解する上司もいますが、業務指導としての必要性はなく、行き過ぎであることは明らかです。パワハラにあたる言葉で萎縮すれば、本来の能力を発揮できなくなり、職場環境も悪化します。指導の目的があっても、業務に不必要な威迫はパワハラにほかなりません。
なお、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」する行為は脅迫罪(刑法222条)に該当し、2年以下の懲役刑または30万円以下の罰金刑に処せられる犯罪行為です。
行動や自由を不当に制限する言葉
労働者であっても、理由なく行動や自由を制限されることはありません。職場において自由を不当に制限する言葉は、パワハラに該当します。
- 「この業界で生きていけないようにしてやる」
- 「逆らったら転職できないのは分かっているだろう」
- 「家に帰らず、死ぬ気で残業しろ」
- 「俺がその気になれば、気に入らないやつはすぐクビにできる」
- 「過去にも何人も辞めさせてきた」
自由の侵害は生命・身体の侵害ほどの危険はないものの、労働者としてのキャリアや人生設計に深く関わるので、働きづらさを感じるのは当然であり、看過できないパワハラです。
名誉毀損に該当する言葉
職場での評価や信用は、社会生活を送る上で不可欠のものです。そのため、社内での評価を意図的に下げる言葉はパワハラに該当する可能性が高いです。
- 「使えないやつだ」
- 「給料泥棒だ」
- 「無能だと社内で言いふらしてやる」
- 「セクハラ野郎」「スケベオヤジ」
- 「上司と不倫していると社内掲示板で公表してやる」
事実でない情報によって評価が固定されることもあり、組織ぐるみで行われると誤った人事評価につながりかねません。これらの発言が業務上必要とされる場面はほとんどなく、逆に、社員のモチベーションを下げ、職場の秩序を乱します。
なお、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」する行為は、名誉毀損罪(刑法230条)に該当し、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられる犯罪行為です(摘示された内容が事実であるかどうかに関わず成立します)。
人格を否定する言葉
人格を貶める言葉は、相手の自尊心を著しく傷つけます。感情のはけ口として投げつけられる人格否定的な発言は、典型的なパワハラです。
- 「馬鹿」「アホ」「ゴミ」「カス」「人間失格」
- 「うざい」「きもい」「サボり魔」
- 「会社に存在する価値がない」
- 「能無し」
- 「お前の声を聞くと無性に腹が立つ」
- 「こんな簡単な仕事もできないのか」
これらの言葉には、業務上の指導としての意味合いは全く含まれません。目的も正当とは言えず、パワハラと判断される可能性が極めて高いです。
「職場のモラハラの特徴と対処法」の解説

労働者の権利行使を妨害する言葉
労働者には、労働基準法をはじめとした法律に保障された権利があります。法律上の権利行使を妨害する言葉は、明らかにパワハラです。
- 「有給休暇を取るなら給料は払わない」
- 「休憩なしで働くのが社会常識だ」
- 「残業代を請求する社員は失格だ」
- 「休職するなら居場所はないと思え」
- 「終わっていないのになぜ帰るのか」
法令遵守の意識の低い職場では、法律上の権利が軽視されており、このような発言が常態化していますが、いずれも違法性の高いパワハラ発言です。
個人の財産を侵害する言葉
パワハラにあたる言葉が、個人の財産を不当に侵害する形で発されることもあります。
- 「契約が取れなかったら罰金を払え」
- 「役立たずに給料は払えない」
- 「会社に損害を与えた分、給料は返してもらう」
- 「マイホーム買って浮かれているなら燃やすぞ」
- 「レジ金が合わないので自腹を切れ」
そもそも労働は、対価として賃金を得るためのものです。理由なく財産を奪うと示唆する発言は、重大なパワハラに該当します。
キャリアや将来性を否定する言葉
学歴や職歴、雇用形態に言及するのも、パワハラにあたる言葉の可能性があります。
個人のキャリアや将来性を否定することは、その労働者のこれまでの人生そのものを否定することにつながるからです。
- 「コネ入社」「二代目のボンボン」
- 「中卒」「高卒」「Fラン」
- 「派遣のくせに生意気だ」「契約社員ごときが口出しするな」
- 「今まで成功してきたのはまぐれだ」
- 「社長にゴマをすって贔屓されている」
- 「愛人なのではないか」
これらの発言は、業務上の能力とは無関係であり、労働者の尊厳を傷つける不適切な言動として、パワハラに該当します。
家族や出自を侮辱する言葉
仕事の能力や成果と、家族構成や出身地、育った環境とは無関係です。
そのため、家族や出自を否定したり、それを理由に侮辱したりする発言は許されず、パワハラにあたる言葉と言ってよいでしょう。
- 「◯◯区出身だから頭が悪い」
- 「所詮田舎者は知識がない」
- 「貧乏人だから礼儀がなってない」
- 「片親育ちだから人の気持ちが分からないのだろう」
- 「お坊っちゃんが通用する世界じゃない」
これらの言葉の多くは偏見に基づくもので、放置すればエスカレートする危険があります。個人の努力では変えられない属性に対する侮辱は、違法性が非常に強いと考えるべきです。
容姿や外見、身体的特徴を指摘する言葉
容姿や外見、身体的特徴も、業務とは無関係です。本人のコンプレックスであることも多く、揶揄したり蔑んだりする言葉はパワハラに該当します。
- 「ハゲ」「チビ」「デブ」「ブス」「メガネ」「ダサい」
- 「ジジイ」「ババア」
- 「フケが汚い」「汗が見苦しい」「臭い」
外見に対する否定的な言葉は、強い精神的苦痛を与え、心身の不調を招くこともあります。また、性質上、容姿や外見への言及はセクハラに発展しやすい点にも注意が必要です。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説

能力を一方的に否定する言葉
怒りや感情に任せて能力を見下す発言は、パワハラにあたる言葉といってよいでしょう。
- 「本当に無能だ」「使えない」
- 「人としての理解力がない」
- 「よく入社できたな」
- 「新入社員以下だ」
- 「発達障害なのではないか」
- 「どうせ親も頭悪いんだろう」
- 「小学校からやり直せ」
能力や成果の不足が事実でも、人格的に傷つける言葉で責めるのは許されません。上司に期待される役割は、注意指導や教育によって改善に導くことです。
「能力不足を理由とする解雇」の解説

性格や人間性を否定する言葉
性格や人間性を否定する言葉も、パワハラにあたる可能性があります。
性格は簡単に変えられないからこそ、個性として尊重されるべきであり、「自分らしさ」を否定されるのは大きな精神的苦痛となります。
- 「頭がおかしいのではないか」「気が狂っている」
- 「考え方が理解できない」「異常者だ」
- 「根暗はどうせ帰っても寝るだけだ」
- 「課題は能力ではなく人間性だ」
- 「成果も出さずに言い訳ばかりするな」
業務上のミスや失敗を、労働者の性格の問題にすり替えることは誤りです。性格を頭ごなしに否定しても改善策は生まれてこないので、適切な指導とは到底言えません。
「勤務態度を理由とする解雇」の解説

価値観を押し付ける言葉
会社組織として一定の理念やルール、方針を共有することは必要ですが、必要もなく個人の価値観を否定したり、押し付けたりする発言はパワハラです。
- 「あなたには達成不能だ」
- 「努力で乗り越えられるから必死に残業すべき」
- 「君の考えは根本的に間違っている」
- 「何も考えずに発言するのは浅はかだ」
- 「敗者の思考回路だ」「負け組の人生を歩んでいる」
価値観の否定は人格の否定に結び付きやすく、職場における萎縮を招いてしまいます。「協調性」「空気」といった抽象的な言葉も、評価が難しいところです。
「協調性欠如を理由とする解雇」の解説

仕事上のミスを執拗に責める言葉
仕事で失敗したとき、再発防止のための注意や指導は必要ですが、感情的に責め続けたり、過去の失敗を執拗に蒸し返したりする行為は、パワハラの疑いがあります。
- 「覇気がないから失敗したんだ」
- 「あれだけのことをして許されると思っているのか」
- 「毎日謝罪しろ」
- 「自分が馬鹿だったと認めろ」
- 「二度と同じ仕事は任せない」
- 「ノルマ未達に罪の意識はないのか」
これらのパワハラにあたる言葉の裏には、ミスを吊し上げ、必要以上に精神的ダメージを与えようという悪意があり、非常に問題があります。
「みんなの前でミスを指摘されたらパワハラ」の解説

他人の悪評を聞かせる言葉
他人からの悪評を聞かされると、自分が社内で孤立していると感じるでしょう。事実をねじまげたり馬鹿にしたり、不安を煽ったりすれば、パワハラとなる言葉に該当します。
- 「お前のせいで皆イライラしている」
- 「部長も嫌いだと言っていた」
- 「部署内での評判、最悪だぞ」
- 「営業成績が悪いってみんな馬鹿にしていたよ」
- 「社長も一緒に仕事したくないと言っていた」
人間不信に陥れば、周囲の目が気になり、仕事に集中できなくなってしまいます。
「職場で無視されるのはパワハラ」の解説

私生活やプライベートを侵害する言葉
私生活は、本来、業務とは無関係です。プライベートを引き合いに出して非難する発言は、パワハラに該当します。
- 「離婚したのはお前のせいだろう」
- 「仕事もできないやつに家族は養えない」
- 「借金まみれでどうしようもない人間だ」
- 「君は友人がいないから、休日も出勤できるよね?」
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説

知られたくない秘密を暴露する言葉
本人の同意なく個人情報やプライバシーを暴露する発言は、重大なパワハラです。
- 「うつ病で休職する人間に与える仕事はない」
- 「普通に生活していればエイズにはならない」
- 「不妊治療までして子供が欲しいのか」
- 「ゲイに大切な業務は任せにくい」
性的指向や性自認、病歴、不妊治療などに関する情報は、極めて慎重に扱うべきセンシティブな個人情報であり、これらに言及する発言は、パワハラと判断される可能性が高いです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

言葉の内容以外でパワハラの可能性を高める要素

ここまでは、パワハラにあたる言葉について「内容面」を中心に解説しましたが、実際には発言の内容だけでパワハラかどうかが決まるわけではありません。
言葉がパワハラになるかは、その「内容」に加え、周囲の事情を踏まえて総合的に判断されます。特に、次のような要素があると、パワハラと評価される可能性が高まります。
- 発言の目的
「侮辱したい」「感情のはけ口にしたい」「ストレスを発散したい」「職場から排除したい」といった業務とは無関係な動機がある場合、パワハラに該当しやすくなります。 - 発言に至る経緯
労働者側にミスや成果不足があっても、理由が説明できない、あるいは内容と釣り合っていない場合、パワハラと判断される可能性があります。 - 発言の態様(言い方)
大声で怒鳴る、威圧的な口調で罵倒するなど、感情に任せた攻撃的な態様は、パワハラに該当しやすくなります(最悪の場合、暴力を伴うケースは、言葉の内容に関わらず明らかにパワハラです)。 - 発言の回数や頻度
一回きりでなく何度も繰り返されたり、日常的に執拗に行われたりする場合、パワハラに該当しやすくなります。改善しようと努力してもなお指摘が続く場合も同様です。 - 発言がなされた状況
大勢の前で叱責されるなど、発言が行われた場面や状況が不適切な場合、精神的な負担が大きくなり、パワハラと判断される可能性が高まります。
例えば「馬鹿」という言葉一つを例にしても、話し手と聞き手の関係性や、その場の状況によっては、単なる冗談やからかいといった意味合いになることもあります。ただし、言い訳や逃げ道を安易に認めすぎると、パワハラ行為を正当化し、問題を見逃すおそれがあります。「パワハラには当たらない」と判断する場合ほど、慎重に検討しなければなりません。
会社や弁護士などの第三者に相談し、パワハラに該当するかの判断を仰ぐ際は、発言内容だけでなくその態様や状況を理解してもらうために、録音を残したり、日時や場所、発言者についてメモに残したりすることで、適切な対応をしてもらいやすくなります。
「パワハラの証拠」の解説

言葉によるパワハラのグレーゾーンの見極め方

パワハラにあたる言葉は、身体的な暴力を伴うケースと比べて判断が難しい場面が多いのも事実です。業務上の必要性があり、相当な範囲にとどまる場合、厳しい指導であっても直ちにパワハラにはならないからです。
以下では、パワハラに当たるか迷いやすい、いわゆるグレーゾーンの事例の考え方を解説します。
言い方がきついだけではパワハラ発言にならない
強い口調や威圧的な話し方をされれば、不快に感じるのは当然です。
しかし、話し方や声の大きさは、個人の性格や話し方、社風や地域性にも影響されます。単に言い方や声色がきついという理由だけでは、パワハラにならない場合もあります。
このようなケースでは、言葉の内容とあわせて、発言の目的や置かれた状況に照らして、パワハラ発言かどうかを判断する必要があります。業務上の指導として必要性があり、内容や態様が相当な範囲にとどまる場合は、違法にはなりません。
「パワハラと指導の違い」の解説

労働者に落ち度があるとパワハラ発言にならない
内容だけ見るとパワハラにあたりやすい言葉も、労働者側の事情を加味すれば違法とまでは言えないケースもあります。例えば、注意されても改善の姿勢を示さず、同じミスを何度も繰り返している場面では、多少厳しく叱責されてもやむを得ない場合もあります。
裁判例でも、不正を是正しない従業員に対し、「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にならない」といった厳しい叱責について、違法ではないと判断した例があります(高田道路事件:高松高裁平成21年4月23日判決)。
また、作業遅れや発言内容の誤解を考慮し、不適切な発言だがパワハラとまではいえないとされた裁判例もあります(大阪地裁平成24年3月30日判決)。
とはいえ、「厳しい指導」が常態化した結果、低評価が続き、感情に任せて解雇されたと感じる場合、不当解雇として争える可能性があります。パワハラトラブルが深刻化して会社を辞めざるを得なくなるケースは、特に早期の法律相談が不可欠です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

言葉によるパワハラと認められた裁判例

具体的な判断の参考として、言葉によるパワハラと認定された裁判例を紹介します。
サントリーホールディングスほか事件
サントリーホールディングスほか事件(東京地裁平成26年7月31日判決・東京高裁平成27年1月28日判決)は、度重なる叱責や不適切な発言を原因としてうつ病を発症し、休職を余儀なくされたとして、会社と上司らに対して損害賠償を求めた事案です。
業務上のミスや作業の遅れといった点はあったものの、上司の指導により精神的に追い詰められたと主張しました。裁判所が認定した上司の発言は、次のようなものです。
- 「新入社員以下だ。もう任せられない」
- 「何で分からないんだ。お前は馬鹿だ」
- (うつ病で休職を申し出た際)「3ヶ月休むなら異動の話は白紙に戻す」
裁判所は、業務指導として許容される限度を超え、人格を否定する内容を含み、相当性を欠くとし、言葉によるパワハラに該当する不法行為であると判断しました。その結果、上司個人の責任だけでなく、職場環境配慮義務を怠った会社の責任も認め、損害賠償が命じられました(控訴審では慰謝料150万円を認容)。
富国生命保険事件
富国生命保険事件(鳥取地裁米子支部平成21年10月21日判決)は、マネージャーが、営業所長の対応によりストレス性うつを発症し、休職の末に自然退職になったとして損害賠償を求めた事案です。裁判所が認定した発言には、次のものがあります。
- 「この成績でマネージャーが務まると思っているのか」
- 「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」
これらの発言は、「マネージャー失格」扱いをする叱責であり、人格を傷つけるような言い回しとなっています。業績不振の指摘に一定の必要性があったとしても、長年マネージャーを務めてきた原告の誇りを傷つける態様の叱責は違法であると判断され、慰謝料300万円が認められました。
国・静岡労基署長(日研化学)事件
国・静岡労基署長(日研化学)事件(東京地裁平成19年10月15日判決)は、医療情報担当者(MR)として営業活動に従事していた原告が、日常的に強い叱責や侮辱的な発言を受け、精神障害を発症して自殺に至ったケースで、労災の不支給決定が争われた事案です。
裁判所が認定した発言には、次のような言葉が含まれています。
- 「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している」
- 「お前のカミさんも気がしれん。お願いだから消えてくれ」
- 「お前は会社を食いものにしている。給料泥棒だ」
- 「車のガソリン代がもったいない」
- 「肩にフケがベターと付いている。病気じゃないか」
裁判所は、MRのキャリアだけでなく、人格や存在そのものを否定する発言が、嫌悪感情に基づいて威圧的に繰り返されたことから、通常想定される指導の範囲を明らかに超えるとし、自殺について業務起因性を認める判断をしました。
言葉によるパワハラが否定された裁判例
次に、言葉によるパワハラが否定された裁判例も紹介しておきます。
東京地裁平成20年10月21日判決
東京地裁平成20年10月21日判決は、言葉によるパワハラの主張について損害賠償請求を棄却しました。原告は、次の発言を受けたと主張しました。
- 「てめー、一体何様のつもりだ。責任を取れ。自分から辞めると言え」
- 「てめえの親父にも迷惑がかかるんだぞ、いいんだな」
- (何度も継続的に)「俺が拾ってやったんだから感謝しろ」
棄却の理由としては、退職強要や強迫について原告が主張する発言があったとは認められないこと、「感謝しろ」などの発言は、威圧的に繰り返されて精神的苦痛を与えるものだったとは考え難いことなどが挙げられています。
この裁判例のように、一見過激な言葉でも、その発言を立証する証拠がなかったり、発言の態様や当事者の関係性を考慮してパワハラとは認められなかったりすることもあります。
長崎地裁令和3年8月25日判決
長崎県の非常勤職員が、上司の言動がパワハラであると主張し、損害賠償を請求した事案です。裁判所は、以下の言動は業務指導の範囲内であると判断しました。
- 「3ヶ月たったら他の職員に迷惑をかけることになる」
- 「早くできるようにならないといけない」
- 「社会人として自分で勉強しておくもの」
これらは、業務上の期待や自立を促す指導の一環であり、人格否定や威圧ではないとして、パワハラに該当しないと判断されました。また、上司の一人称が「俺」であったことも、男らしさを誇示する目的の呼称とまではいえず、違法性を基礎づけるものではないと判断されました。
パワハラの言葉一覧に関するよくある質問
最後に、パワハラにあたる言葉一覧についてのよくある質問に回答します。
パワハラは「訴えたもん勝ち」は本当?
「パワハラは訴えた人が有利」「不快に思ったらパワハラだ」といった情報も見られますが、結論としては誤解です。
パワハラの対応を熟知していない企業では、被害者の言い分が通りやすい場面があります。しかし、パワハラに該当するかは、発言内容だけでなく、目的・態様・頻度・状況などを踏まえて判断されます。そして、パワハラ発言があったことを証拠によって証明する責任は、被害者側にあります。
証拠が不十分であったり、業務上の必要性が認められたりする場合には、パワハラとは認定されないケースも少なくありません。
侮辱罪にあたるのはどのような言葉?
侮辱罪(刑法231条)は、事実を示さずに相手の社会的評価を低下させる言動を処罰対象とする犯罪です。
例えば、具体的な事実を示さずに「馬鹿」「無能」「給料泥棒」のように人格を貶める言葉は、侮辱罪にあたる典型例です。ただし、全ての暴言について刑事責任を問えるわけではなく、発言の状況や言われた側への影響も踏まえ、違法性の強い行為である必要があります。また、これらの侮辱的な発言は、刑事責任だけでなく、パワハラとして不法行為に該当する可能性が高いです。
パワハラのグレーゾーンにおける対応は?
パワハラのグレーゾーンとは、不適切な発言でも、直ちに違法とは断定できない状態を指し、業務上の指導目的があるケースが典型例です。
このような場合、判断が分かれやすいものの、被害者側としては放置してはいけません。グレーゾーンの段階でも、発言が繰り返されたり、態様がエスカレートしたりすれば、明らかなパワハラに発展する兆候ともいえます。
より強度のパワハラにつながるおそれがあるかどうか、発言内容や日時・場所・周囲の状況を記録に残し、社内のハラスメント相談窓口や弁護士に相談するのが適切です。「グレーだから」と我慢を続けることは、問題解決につながりません。
言葉によるパワハラを指摘されたときの対応は?(加害者側)
部下を思って発した言葉が、意図せずパワハラと受け取られるケースがあります。
上司や管理職は、立場が上であるために強い影響を与えることを自覚すべきです。パワハラを指摘されても、感情的に反論するのは得策ではありません。まずは冷静になり、自身の発言が業務上必要だったのか、言い方が適切であったかを振り返りましょう。
会社からの事情聴取の場では、発言の意図や背景を丁寧に説明し、過度な処分とならないよう自衛する必要があります。特に、言葉によるパワハラのみを理由に、十分な調査もなく懲戒解雇などの重い処分が下された場合、その処分の有効性を争うべきです。
「パワハラと言われた時の対応」の解説

言葉によるパワハラを受けたと感じたときの対応は?(被害者側)
言葉によるパワハラを受けたと感じた場合、まず確認すべきなのは「業務上必要な指導かどうか」という点です。ただ、仮にミスや失敗があっても、人格を否定する言葉や威圧的な叱責が許されるわけではありません。
被害者側は、発言をできる限り録音やメモなどで証拠に残してください。また、一人で抱え込まず、社内のハラスメント相談窓口や弁護士に相談することが重要です。
社内で真剣に取り合ってもらえないときは、早めに弁護士へ相談し、警告書を送付してもらったり、強度のパワハラの場合は労働審判や訴訟といった法的手続きに進んだりといった手段を検討する必要があります。
「パワハラの相談先」の解説

【まとめ】パワハラにあたる言葉一覧

今回は、パワハラにあたる言葉について、具体例をもとに解説しました。
発言内容が侮辱的であったり、威圧的・脅迫的な言葉を含んでいたりする場合、身体的な暴力を伴わなくても、言葉によるパワハラと判断されます。実際の相談例でも、暴力を伴うものより、発言や言葉による精神的なパワハラが問題となるケースの方が多いのが実情です。
ただ、言葉の内容だけを切り取っても、「アウト」「セーフ」の線引きを一律に判断することはできません。業務上の指導との境界が争点となることも多く、発言の目的や頻度、言い方、職場での上下関係などを踏まえ、総合的に判断する必要があります。
言葉によるパワハラは、気付かないうちに心身へ深刻な影響を及ぼし、働き続けることが困難になるおそれもあります。少しでも不安を感じた場合は、一人で抱え込まず、早い段階で弁護士に相談して適切な対応を取ることをおすすめします。
- 暴力的な行動を伴う場合だけでなく、発言や言葉だけでもパワハラになる
- パワハラにあたる言葉は、労働者の権利を侵害し、大きな不利益を与える
- パワハラ発言かどうかは、内容だけでなく状況や動機、目的も考慮される
\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/



