厚生労働省は毎年、新卒採用について、内定取り消しの状況を調査し、発表しています。
なかでも、「事業活動縮小を余儀なくされているとは明らかに認められない」事業場について、企業名を公表するという制裁を課すケースがあります。いわゆる、内定取り消しによる企業名公表です。
この制裁は、厚生労働省が「問題ある内定取り消しをした」と評価したことを意味します。そして、企業名を公表されれば、会社のイメージが大きく低下します。
「内定取り消しの違法性」の解説
内定取り消し状況の公表(厚生労働省)
厚生労働省は、労働者の不利益の深刻な、新卒内定の取り消しについて調査結果を公表しています。過去の内定取り消しの調査結果で、企業名公表を受けたケースには次の例があります。
【2013年】
- 株式会社サンユー製作所(茨城県神栖市、電子機器製造業)
- 一誠商事株式会社(茨城県つくば市、不動産業)
【2014年】
- 株式会社水生の庄(静岡県加茂郡東伊豆町、旅行業)
【2015年】
- 株式会社日比谷情報サービス(東京都港区新橋、情報処理業)
- pico la mano(鳥取県米子市冨士見町、美容業)
【2016年】
- トシン・グループ(東京都新宿区新宿、卸売業)
【2017年】
- 株式会社神戸製作所(茨城県北相馬郡利根町、製造業)
- 株式会社メディカルサポート(千葉県千葉市美浜区、その他サービス業)
- 社会福祉法人たちばな保育園(新潟県阿賀野市中央町、福祉)
- 株式会社エーゼット(大阪府大阪市鶴見区、製造業)
- 熊本赤十字病院(熊本県熊本市東区、医療、福祉)
内定を一方的に取り消すことは、違法の可能性があります。内定取り消しについてお悩みの方は、労働問題を得意とする弁護士にご相談ください。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
内定取り消しによる企業名公表とは
内定とは、将来の入社の「約束」にとどまりません。そうではなく、雇用契約は、内定の時点ですでに成立したものとされます。このことを表すため、内定は、法律用語で「始期付解約権留保付労働契約」と呼びます。
つまり、①すぐに働きはじめるわけではないこと、②一定の理由による解約権が留保されていることという2点を除いては、通常の雇用契約と同じと考えるのが基本です。そうすると、内定の取り消しは、法的には「解雇」と同じ性質を有することとなり、厳しい制約を受けます。
解雇権濫用法理により、正当な理由のない内定取り消しは違法です。なかでも「事業活動縮小」なくしてされた内定取り消しの違法性は強いため、企業名公表の対象とされることがあります。
「解雇が無効になる具体例と対応方法」の解説
内定取り消しで、企業名が公表される要件
内定取り消しによって企業名公表される要件は、次の通りです。
・2年度以上連続して行われた
・同一年度内において10名以上の者に対して行われた
(内定取り消しの対象となった新規学卒者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除く)・生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等に鑑み、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないとき
・次のいずれかに該当する事実が確認されたもの
①内定取り消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取り消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
②内定取り消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき
業績が悪くどうしても事業活動を縮小せざるを得ないなら、内定取り消しが許されるケースもあります。このとき、業績悪化は、内定取り消しできる正当な理由というわけです。
ただし、一度は内定を出した以上、面接段階であった事情は理由とはなりません。つまり、内定取り消しの理由となる「事業活動の縮小」は、内定の成立後に明らかになったものでなければなりません。
なお、事業活動の縮小があるとき、これを理由とした内定取り消しが違法かどうかの判断については、整理解雇の違法性の判断基準が参考になります。
「整理解雇が違法になる基準」の解説
まとめ
今回は、悪質な内定取り消しのケースで行われる、企業名公表について解説しました。不幸にも、入社予定の会社から内定取り消しされたとき、適切な対応を心がけてください。
内定取り消しが違法なときはもちろん、違法性に疑問あるときも、弁護士への相談が適切です。正当な理由のない内定取り消しなら、撤回を求めて会社と争うことができます。
「内定取り消しの違法性」の解説