心身の不調で休職したものの、休職中に「やはり復職は難しい」「退職した方がよいのではないか」という結論に至ることがあります。回復できそうにないならもちろんのこと、職場に問題がある場合なども、休職し続けるより、いっそ転職して環境を変えたいという人もいるでしょう。
労働者には退職の自由が認められており、休職の期間が満了していなくても、退職することは可能です。ただ、休職中の退職だと、しばらくの間出社せず、会社との連絡も途絶えてしまっているため、退職の伝え方に注意しなければなりません。休職中の退職ほど、伝え方が不適切だとトラブルに発展してしまいます。
今回は、休職中の退職の伝え方と、休職したまま退職する方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
休職中に退職することは可能
結論として、休職中でも、退職することは当然に可能です。
確かに休職は、復職を目的として再度働くための制度で、休職した以上は、会社に復帰することを目指すべきという考え方もあります。あるいは、たとえ復帰が絶望的だとしても、休職期間が満了するまでは退職せず、休職を継続して療養すべきだと思う人もいるかもしれません。
しかし、法律の観点からも、労働契約の側面からも、休職中の退職は、労働者の自由です。
たとえ休職中でも法的に退職は自由
法律上、労働者には退職の自由があり、自ら希望すれば会社を辞めることができます。休職中で、出社していなくても労働契約は存続しているため、労働者の意思に基づいて自主退職できることに変わりはありません。
労使の合意によって退職する場合には、退職日は自由に決めることができ、即時の退職も可能です。また、仮に会社が退職を認めなかったとしても、労働者が退職を申し入れてから2週間が経過すると、労働契約は終了します(民法627条1項)。いずれの場合も、休職中に退職を伝えることに問題はなく、かつ、休職期間満了より前に退職日を設定することも可能です。
「退職は2週間前に申し出るのが原則」の解説
労働契約で休職中の退職を妨げることはできない
会社における退職の具体的なルールは、就業規則や雇用契約書などに定められています。会社のやり方が法律に違反せず、円満退社できるなら従ってよいでしょう。しかし、休職中の退職が禁止されているとすれば、退職の自由を不当に制約するもので、公序良俗(民法90条)に反する定めとして無効です。就業規則といえど、法令には劣後し、違反することは許されません。
復帰後の貢献を約束して休職したのに、その休職中に退職すると、会社から「裏切りだ」と指摘されることもありますが、気にする必要はありません。休職は、それまでの期間に貢献してきたことによって与えられる配慮であり、制度として設けられた企業では利用するのが当然のこと。法律で、退職の自由がある以上、休職中に退職することも、全く問題ありません。
「うつ病で休職して退職するのはずるい?」の解説
休職中の解雇は不当解雇の疑いがある
以上の「休職中の退職」の場面と異なり、むしろ会社が、期間満了までの復職が難しいと判断して解雇を検討するケースもあります。
しかし、解雇には厳しい条件が定められ、労働者の権利が保護されています。休職期間は、少なくともその間に復職が可能な状態になれば辞めさせられることのない地位を保証していますから、休職期間満了前に解雇されるのは、不当解雇の疑いが非常に強いです。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
休職中の退職の伝え方
「休職中に退職することは可能」と解説しましたが、実際に退職を伝える際には、できるだけトラブルにならないような話の切り出し方、伝え方を知る必要があります。
休職中の退職を伝えるタイミング
まず、休職中に退職を考える場合、どのようなタイミングで伝えるべきかを解説します。休職中に、期間満了を待たずして退職を伝えるタイミングには、以下のケースがあります。
- 復職の見通しが立たない
医師の診断や体調の回復状況からして、復職が現実的でないと分かったなら、早めに退職の意向を伝えてもよいでしょう。復職の見通しが立たないなら、会社としても負担を軽減するため、退職に応じてくれる可能性があります。 - より良い転職先が見つかった
休職中の転職活動も、法的に問題ありません。現在よりも良い転職先が見つかったなら、いつまでも休職しているより、退職して他社で活躍する方が、労使いずれにとってもメリットが大きいです。 - 勤務先で働き続けられない原因がある
休職の理由がセクハラやパワハラ、長時間労働など、会社側に責任があるときや、休職中に会社の配慮のなさが明らかになった場合など、もはや働き続けられない原因のあるときは、速やかに退職を決断し、悪質な会社と縁を切るべきです(なお、会社に責任のある場合、休職ではなく労災による療養とするのが正しい対応です)。
休職中の退職は、就労中にもまして会社の強い引き止めに遭うことがあります。会社としても「配慮のために休職にしてあげていたのに」という思いがあるからです。できるだけ円満に、かつ、迅速に退職するには、休職中こそ、その伝える方法を慎重に検討すべきです。誠実に対応してくれそうな企業なら、まずは直属の上司に伝え、根回しをするのがおすすめです。
「会社の辞め方」の解説
体調に応じて電話かメールで退職を伝える
体調が万全なら、対面で退職を伝えればよいのですが、休職中の退職だと、そもそも出社しておらず、対面で伝えるのは困難です。退職を伝える方法に法的なルールはなく、どのような手段でも構いませんが、休職中の退職では、現実的には、電話かメールで伝える方法を取ることとなります。
電話とメール、それぞれの性質を理解し、メリットとデメリットを比較し、自身の状況に応じた連絡方法を選ぶようにしてください。
【電話で退職を伝える方法】
- メリット
- 気付いてもらいやすく確実に伝達できる
- 感情的なニュアンスを伝えやすい
- 会社からの疑問にすぐ回答できる
- デメリット
- 記録を残しづらい
- 社長や上司が感情的になって口論になる
- 精神的な負担が大きい
- 時間やタイミングの調整が必要
【メールで退職を伝える方法】
- メリット
- 記録が残りやすい
- 業務の支障になりづらい
- 精神的な負担が少ない
- 冷静に内容を伝えることができる
- デメリット
- 気付いてもらえないリスクがある
- 真意が十分に伝わらず誤解される
- 納得感を得づらい
ハラスメントを受けて休職に至ったケースなど、たとえ対面しなくても直接連絡を取り合うのすら辛いという方は、退職代行を利用するのも選択肢の一つです。
「退職届と退職願の違い」の解説
退職届を会社に郵送する
退職の意思を伝えたら、休職中の退職であっても、その後に退職届を会社に提出します。休職中の退職をする際の退職届には、退職理由と退職日を明確に記載してください。
本来、退職理由を伝える義務はなく、「一身上の都合」といった抽象的なものでも構いませんが、休職中の退職では、上司や同僚の疑問を払拭し、不信感を無くしておく方がよいでしょう。その場合、言える範囲で退職理由を説明することが役立ちます。本来なら、休職から復職に向けたスケジュールが組まれていたところを途中で退職するのですから、退職日についても、予定をしっかりと伝えておく必要があります。
健康体なら、会社に出向いて直接に退職届を提出するのが望ましいですが、休職中の退職だとそうもいきません。体調がすぐれない場合、現実的には、退職届を郵送する方法で会社に届けるしかなく、郵送でも、会社に到達すれば意思表示は有効です。なお、郵送する際は、内容証明や書留といった追跡可能な方法を用いることで、確実に会社に届いたことを確認してください。
「退職届を内容証明で出すべきケース」の解説
復職せず退職する場合も診断書を示す
復職を希望する場合は、休職期間満了時に復職できるかどうか判断するために、会社に診断書を提出するのが通例です。一方で、休職中に退職してしまうなら、「会社に健康状態を示す」という目的では、診断書を提出する意味がありません。
ただ、休職中の退職のうち、特に「復職の見通しが立たない」といった理由で会社を辞めるならば、会社に説明するために、診断書を提出すべきです。したがって、復職せずに退職する場合でも、基本的には診断書を示しておいた方がよいと考えられます。診断書の作成は数千円程度の出費であることが多く、この先に会社とトラブルになる危険を回避するためと思えば、安価でしょう。
「会社に診断書を出せと言われたら」の解説
休職中に退職を伝えるための例文と注意点
休職中に退職を伝えるときに特に迷うのが、その具体的な内容ではないでしょうか。
以下では、電話・メール、それぞれの方法ごとに具体的な例文を紹介しながら、休職中に退職を伝える際のポイントや注意点を解説します。
電話での伝え方と例文
電話の例文
「お世話になります。○○部の△△です。現在、休職中でご迷惑をおかけしております。この度、体調の回復が見込めず、復職が難しい状況であると判断し、退職を希望いたします。これまで働かせていただいたことに大変感謝しているのですが、私の決意は変わりませんので、退職の手続きをお願いできますでしょうか」
伝え方のポイント
電話で伝えるとき、まずは、これまでの勤務や休職について感謝を述べるのが大切です。休職中の退職も、全くの自由ですが、「申し訳ない」というニュアンスで伝える方が人間関係を壊さず、円満に退職することができます。一方で、退職の意思は曖昧にせず明確に伝え、説得があっても屈しないよう、強い決意で臨んでください。最後に、会社側の次のアクションとして、退職の手続きをお願いして、相手が動きやすいようにしましょう。
電話で伝える際の注意点
電話で伝えるときは、次の注意点を押さえておいてください。
- 連絡する時間やタイミングに配慮する
突然の電話は、受け手にとって負担になります。業務時間内に電話をすべきは当然ですが、相手の仕事を想像し、多忙な時間帯は避けるべきです。事前にメールで時間調整をし、相手の都合に配慮する姿勢を示すのが望ましいです。 - 感情的にならないよう心がける
休職中の退職、特に、休職の原因が会社にあると考えるときは、感情的になりがちです。電話で伝えることを選択するなら、冷静に対応しなければなりません。 - メモの準備をしておく
事前に話す内容や質問事項をまとめ、簡潔に伝えましょう。話しながら必要な内容や手続きについて記録できるよう、電話中もメモの準備は欠かせません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
メールでの伝え方と例文
メールの例文
件名:退職のご報告
お世話になっております。○○部の△△です。長期にわたり休職のご配慮を賜り、深く感謝申し上げます。職場の皆様には、常に温かいサポートとご理解をいただき、大変心強く感じております。
この度、誠に勝手ではございますが、20XX年XX月XX日をもちまして退職をいたします。体調が思うように回復せず、復帰が困難であるばかりか、職場の皆様に対し、さらなるご迷惑をおかけすることなるため、このような決断に至りました。何卒ご理解いただけますと幸いです。業務の引継ぎや貸与物の返却につきましては、可能な限り早急に対応ます。
長い間お世話になりました皆様に対し、心より感謝申し上げます。今後とも、皆様のご健康と、会社のますますのご発展を心からお祈り申し上げます。
伝え方のポイント
メールで伝える場合、軽々しくなりがちなので、丁寧な文書を心掛け、ビジネスマナーを守った文体を心掛けてください。対面や電話でなく、メールでの連絡になってしまった経緯を記載し、理解を求めるのが大切です。件名は、受信者が一目で内容を理解できるよう「退職のご報告」「今後の進退について」といった簡潔なものにしましょう。
単なる連絡にならないよう、感謝とお詫びの言葉を交え、口頭で伝えるよりも冷たい印象にならないよう注意してください。
メールで伝える際の注意点
- CCやBCCを慎重に設定する
関係者にCCやBCCを利用して共有することがあるものの、退職に関する情報は、会社の意に反したタイミングで拡散されると、社内に混乱が生じるおそれがあります。 - わかりやすい件名、長すぎない文面
内容がわかりやすく、重要なメールと認識できて見落としづらい件名にしましょう。文面は長すぎず、要点を押さえて記載するようにしてください。 - 送信前に再度確認する
メールは、気軽に送れる手段だからこそ、送信前によく確認し、誤字脱字がないか、失礼な言葉がないかどうかを慎重にチェックする必要があります。
「退職届の書き方と出し方」の解説
休職したまま退職する方法の流れ
休職中に退職をする場合の手続きの流れについて解説します。
休職中に退職を決断する場合は、通常の退職手続きに加えて、休職している場合に特有の注意点を押さえて進める必要があります。
退職の意思を固める
まずは、体調やメンタルの状態をしっかりと見極め、復職できるかどうか検討します。復職が不可能だと判断し、退職すべき理由があるなら、退職の意思を固めてもよいでしょう。重要な決断なので、家族や医師ともよく相談して慎重に決めてください。
「退職したらやることの順番」の解説
退職の意思を会社に伝える
退職の意思は、希望日から逆算して2週間前に伝えておく必要があります(民法627条1項)。もっと早く退職したい場合は、その旨を伝えて会社と交渉し、合意退職を目指しましょう。円満に退職するためには、会社に迷惑をかけたことに対して感謝の意を示すことが重要です。
退職届を郵送する
退職の意思表示を証拠に残すため、電話やメールなどいずれの方法で伝えた場合にも、必ずその後に、退職届を郵送しましょう。退職を伝えた際に会社から反発されたり、退職を拒否されたりしたときは、退職届を内容証明で送付し、退職の強いを示したことを証拠に残しておきます。
貸与物を郵送で返却し、私物を配送してもらう
貸与物はあくまで会社の物で、返却すべき義務があります。休職中の退職で、出社が難しいときは、郵送で返却するのがよいでしょう。
ただし、高価なものや機密情報が含まれたPCなどは、紛失や損壊する危険があるため、扱いについては会社の指示にしたがうべきです。復職を見越して会社に残しておいた私物は、着払いで配送してもらうよう依頼します。
「退職時の貸与品の返却」の解説
退職時の必要書類を受け取る
退職時に必要となる書類についても、郵送のやり取りで完結することができます(離職票、雇用保険被保険者証、退職証明書、健康保険の資格喪失証明書、源泉徴収票、年金手帳など)。
「離職票のもらい方」の解説
休職したまま退職するときの注意点
最後に、休職したまま退職するときの注意点について解説します。
休職は、無給とされている会社が多いため、休職から、復職せずに退職する場合には、特に金銭面についての注意が必要となります。
失業保険の受給条件を確認する
休職中に退職した場合でも、失業保険をもらうことができます。失業保険は、退職後の生活を保障する重要な金銭なので、退職を決断するときには、必ず受給の条件を確認しておきましょう。
失業保険は、自己都合退職か、会社都合退職かで大きな違いがあるところ、休職中に退職をするときには、自己都合となるのが原則です。自己都合だと、7日間の待機期間の後、2ヶ月間の給付制限期間があるため、退職後の生活設計を事前にしっかりと準備しなければなりません。企業によっては、配慮して会社都合退職にしてくれることもあるので、話し合いを試してみてください。
「自己都合を会社都合にする方法」の解説
健康保険と年金の取り扱いに注意する
休職中といえども、在職中は、健康保険や厚生年金に引き続き加入していることでしょう。退職後にそれらの保険がどのように扱われるかに注意してください。健康保険は、退職後、任意継続するか、もしくは、国民健康保険に切り替えるかを選択できます。厚生年金については、退職後は国民年金に切り替える手続きが必要です。
健康保険から受給している傷病手当金については、受給期間が残っていて労務不能などの要件も満たしているなら、退職後も引き続き受給することができます。
「退職後の傷病手当金」の解説
退職金や未払いの賃金・残業代がないか確認する
退職金は、就業規則や退職金規程に定める条件を満たしたときに、受け取ることができます。休職中の退職であっても、退職金の支給される会社もあるため、よく確認してください。また、在職中の賃金や残業代、休職中に支払われるべきであった休業手当など、適正な支払いを受けられていない場合には、未払いの分を請求する必要があります。
退職時に、退職合意書などで清算条項を定めるとき、その後に未払いがあったと気付いても、請求できなくなってしまう場合があるため、必ず退職前に確認してください。
「未払い賃金を請求する方法」「残業代を取り戻す方法」の解説
休職中に退職した場合の有給消化について
有給休暇を消化せずに休職期間に突入したなら、退職前に消化しておきたいところです。ただ、退職日まで休職期間が継続するようなら、有給消化はできません。有給休暇は、労働義務のある日が対象となるのであって、休職中はそもそも労働義務がないからです。(昭和24年12月28日基1456号、昭和31年2月13日基収489号)。
どうしても有給休暇で損をしたくないなら、一度復職扱いにしてもらって、退職日まで有給休暇を消化させてもらうか、もしくは、有給休暇分を買い取ってもらう手があります。
「退職前なのに有給消化できない時の対応」の解説
まとめ
今回は、休職中に退職する方法や伝え方について、解説しました。
休職中の退職は、体調不良やメンタルの状況を踏まえて、慎重な判断を要します。退職するかどうかは、労働者が自由に決められるので、たとえ休職中だとしても退職することは可能です。ただ、休職中だと、「なぜこのタイミングで退職するのか」といった疑問を周囲に抱かせ、自分勝手な行動と思われてしまうリスクも否めません。
休職中の退職で、円満に辞めるには、伝え方が重要なポイントとなります。退職の意思は、曖昧にせずはっきりと伝え、お礼や感謝の気持ちを忘れないといった誠実な対応が大切です。それでもスムーズに退職できない場合は、退職届を提出して証拠化しましょう。
思うように辞められないのは大きなストレスとなります。休職中でまだ本調子でなく不安なら、退職のトラブルは弁護士に任せ、治療に専念するのが賢明です。
【労災申請と労災認定】
【労災と休職】
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【さまざまなケースの労災】
【労災の責任】