朝早く起きれても、電車が遅れて遅刻してしまうことがあります。このようなときは遅延証明書を会社に提出する方が多いでしょう。電車やバスなど、公共交通機関の遅延を証明できるからです。しかし、遅刻に厳しすぎる会社では、遅延証明書を提出してもなお遅刻扱いにされるケースがあります。
電車が遅れても間に合うくらい早く家を出るべき
電車の遅延くらいで遅刻するのはやる気の問題だ
遅刻に対する強い苦言は、精神論、根性論として理解できなくはないですが、遅延証明書があるのに遅刻扱いするのは不当な処遇である可能性が高いです。このような問題ある会社では、逆に早く到着したとしても早出残業の残業代は支払われないこともあります。
今回は、遅延証明書を出しても遅刻扱いとされるのは仕方ないのか、評価が低くなったり懲戒処分されたりしてしまうのか、労働問題に強い弁護士が解説します。
- やむを得ない遅刻だと示すため、必ず、遅延証明書を会社に提出する
- 遅延証明書を出しても遅刻扱いされたら、不当評価・不当処分について争う
- 遅延証明書があっても、度重なる遅刻に対策しないと、労働者の不利に扱われる
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遅延証明書を会社に提出する意味
遅刻と一言でいっても理由は様々で、最もよくあるのが寝坊による遅刻。この場合、労働者の責任は明らかで、厳しく遅刻扱いとされても仕方ありません。しかし、遅刻は、労働者のせいばかりではなく、「やむを得ない遅刻」もあります。その典型例が、公共交通機関の遅延による遅刻です。
公共交通機関の遅延による遅刻は、労働者に全く責任がありません。このとき、遅延証明書を入手して会社に提出することは、労働者に責任のない遅刻であると明らかにする意味があります。遅延証明書は「公共交通機関に遅延があった」と示すために作成する書類であり、通常は遅延があった際に改札などで請求して入手することができます。
一方で、遅延証明書を会社がどのように扱うべきかについては法律上のルールがありません。そのため、会社がその扱いを決めるにあたり、不当な処遇に遭ってしまう危険があります。本解説では、遅延証明書がどう扱われるべきか、その効果を「給料」「評価」「懲戒処分」の3点から解説します。
なお、社内に統一的に適用されるルールは、就業規則に記載されることが多いので、あらかじめ確認しておいてください。
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遅延証明書を提出すれば給料はもらえる?
ノーワークノーペイとは、「働かなかった時間について、給料が払われない」という原則です。当然のようにも聞こえますが、「完全月給制」のように、労働時間が増減しても賃金が変わらないという制度の会社もあります。
遅延証明書を提出しても、遅刻した事実に変わりません。「遅刻」というマイナスな言葉で呼ぶかどうかはともかくとして、「始業時刻に間に合わなかった」ということにはなります。すると、始業時刻の時点では働いておらず、遅れた分だけ労働時間が減ることになります。そのため、電車やバスの遅延など、やむを得ない事情があったとしても、遅刻して働けなかった時間分はノーワークノーペイの原則に基づいて給料がもらえなくなるのが基本です。
ただし、遅刻した分の給料を控除するかどうかは、会社のルールによって異なるため、例えば次の場合には給料が減らないこともあります。
- 遅延証明書を出せば、遅刻扱いにせず、給料の控除もしないというルールである
- そもそも労働時間が減っても給料を控除しない賃金制度である(完全月給制)
自身の勤務先の扱いについては、就業規則のほか、賃金規程や社内の慣習を参考にしてください。賃金規程に「遅刻した場合は給料を控除する」という規定のない会社、過去の慣習によっても遅刻による給与控除をしていない会社だと、遅延証明書を提出して正当な遅刻であることが証明できれば、給料を満額払ってもらえることが期待できます。
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遅延証明書を提出しても低評価になる?
人事評価とは、会社が、その雇用する労働者に評価を下すこと。良い評価は昇給や昇進に繋がりますが、悪い評価だと減給、降格されたり、最悪は解雇されてしまったりします。社内の評価は、会社の広い裁量に委ねられており、その裁量を逸脱するほど不当な評価でない限り、会社が自由に決めることができるのが原則です。
そのため、「遅延証明書を出したのに遅刻扱い」という評価が不当かどうかが争いとなります。この点は、遅刻扱いにされて低い評価にされてしまったとき、労働者に与える不利益がどれほど大きいかによっても判断が異なります。評価に悪影響が及んだ結果、解雇に繋がってしまうなど、労働者にとっての不利益が大きすぎる場合には、違法となる可能性があります。
このとき、労働者の遅刻に関する次の事情もまた、評価に影響します。
- 遅刻の回数・頻度
- 遅刻1回あたりの遅れた時間
- 遅刻が業務に与えた支障の大きさ
- 遅刻後の反省の度合い
- 遅刻の理由がやむを得ないか
- その他の貢献の程度
これらの考慮要素を判断する際も、「遅延証明書が適切に提出されているか」という事情が大きく影響します。遅延証明書のあるやむを得ない遅刻なのに、それのみを理由にして人事評価を大きく下げられたなら、不当な処遇だと考えてよいでしょう。
「労働条件の不利益変更」「不当な人事評価によるパワハラ」の解説
遅延証明書を提出しても懲戒処分される?
懲戒処分とは、企業秩序を侵害した労働者に対し、会社が行う制裁のことです。
遅刻もまた程度によっては悪質な企業秩序違反に該当します。そのため、回数・頻度や理由によっては懲戒処分の対象となることがあります。寝坊や怠慢、二日酔いなど、労働者の責任の大きい遅刻に対しては、厳しい懲戒処分が下されても仕方ありません。
これに対して、遅延証明書のある遅刻は、労働者の責任ではなく、やむを得ない遅刻だといってよいでしょう。たった1回の遅刻で、遅延証明書があるにもかかわらず懲戒処分とするのは、違法な不当処分であり、無効です。撤回を求めても受け入れられないとき、労働審判や訴訟などの裁判手続きで不当処分の撤回を求めて争えば、勝てる可能性が高いでしょう。
懲戒処分は、客観的に合理的な理由なく、社会通念上の相当性を欠くなら、懲戒権の濫用として無効になるからです(労働契約法15条)。既に、ノーワークノーペイの原則によって「給料を得られない」という不利益を被っているとき、これ以上に更に懲戒処分まで下されてしまうのは、少なくとも遅延証明書がきちんと提出された遅刻なら「酷だ」といえます。
「懲戒処分の種類と違法性」の解説
遅延証明書を提出しても遅刻扱いされた時の対応
最後に、やむを得ない遅刻をしてしまったときの労働者側の適切な対応を解説します。
ここまで、遅延証明書の役割や効果について解説しました。しかし残念ながら、遅延証明書を出してもなお、遅刻扱いにされ、不利益を受けてしまうケースがあります。そのような悪質な企業から、低評価や懲戒処分などといった不当な処遇をされないよう、対策を講じてください。
正しい遅延証明書を提出する
まず、寝坊や怠慢といった「責任ある遅刻」と、公共交通機関の遅延といった「責任なき遅刻」とを区別するためにも、遅延証明書は非常に重要な書類です。不当な評価や処分を受けてしまわないよう、必ず正しい遅延証明書を入手し、会社に提出してください。
遅刻の責任を逃れたいからといって遅延証明書の偽造はおすすめできません。交通情報を会社が調べれば嘘はすぐ発覚します。そして、虚偽であることが判明すれば、社内で処分されるだけでなく、受け取った給料について詐欺罪(刑法246条)などの犯罪に該当してしまうおそれもあります。
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「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
不当な評価を争う
遅延証明書をきちんと提出したにもかかわらず、低評価を受けることがあります。このときは、低評価の理由を質問し、確認するようにしてください。「遅刻が理由だ」という証拠を得られれば、不当評価だとして争うことができるからです。不当評価を改めるよう話し合いをして、決裂するならば労働審判や訴訟といった裁判手続きを利用します。
なお、低評価について「遅刻が理由だ」と正面から認めてくれることは少ないでしょう。能力不足や勤怠の不良など、会社がこじつけてくる理由には、徹底して反論しなければなりません。
「能力不足による解雇」の解説
懲戒処分の撤回を求める
遅刻したのを理由に、懲戒処分を下されてしまったときの対応についても解説します。
懲戒処分もまた、遅延証明書のあるやむを得ない遅刻を理由にされれば、不当処分であり、その撤回を求めて争うべきです。不当な処分をした会社と、労働者自身で戦うのが難しいなら、弁護士に依頼する手が有効です。
悪質な遅刻は解雇されるおそれあり
遅延証明書を提出すれば、その遅刻が、労働者の責任によるものではないと示せます。それでも、頻度や回数が多いと、労働者に不利な判断をされても仕方ないケースもあります。最悪の場合は、遅刻を理由に解雇されてしまいます。
不利な扱いを受けないよう、次の点に注意しておきましょう。
- 余裕をもって行動する
- 早寝早起きを心がける
- 前日に深酒しすぎない
- 遅延しやすい電車を使わない
- 少なくとも試用期間中は気を張る
遅刻が何度も続くようだと、たとえ遅延証明書を出しても、「遅刻の対策をしないこと」そのものが、労働者の責任だとして、低評価を受けるおそれがあります。仮に遅刻による懲戒処分を受けるとしても、懲戒解雇、諭旨解雇、諭旨退職などの重度の懲戒処分は適切ではなく、はじめての懲戒処分であれば、まずは戒告や譴責などの軽度の懲戒処分にとどまるべきでしょう。
「遅刻による解雇を争う方法」の解説
まとめ
今回は、遅延証明書を出しても遅刻扱いになってしまうのか、という点について解説しました。遅刻は会社に敵視されていることから、評価や懲戒処分、給料未払いといった様々な労働問題が同時に起こる可能性のある難しい局面です。
遅延証明書を入手できたなら、やむを得ない遅刻だといってよいでしょう。労働者に責任はなく、不利益を受けるいわれはないのですが、厳しい根性論のまかり通るベンチャーや、ブラック企業ではそうもいきません。労働者の責任ではない遅刻について、会社が責任転嫁してきて不利益を感じるときには、慎重に対処法を検討しなければなりません。
不当な評価や懲戒処分など、遅刻を理由にして不利益な扱いを受けたときは、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- やむを得ない遅刻だと示すため、必ず、遅延証明書を会社に提出する
- 遅延証明書を出しても遅刻扱いされたら、不当評価・不当処分について争う
- 遅延証明書があっても、度重なる遅刻に対策しないと、労働者の不利に扱われる
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