美容師でも残業代を請求できます。「美容師だから」とあきらめてはいけません。
スタイリングやカット練習など、勤務時間後も遅くまで特訓される方もいます。早くデビューしようと頑張るのは素敵ですが、過酷な労働を強要されて体調を崩してはいけません。人件費を極力減らして利益を追求する、悪質な美容室の犠牲にならないようにしましょう。
「新人は居残ってカット練習」と命じられた
美容師だから、残業代は出ないと思っていた
ブラックな美容業界の慣習を信じ、無給でサービス残業をする美容師も少なくありません。日中に混み合い、来客が続くと休憩もとれず、食事の暇もないことも。食事もとらず、睡眠時間すら削って働く美容師は、ブラック労働の典型です。残業代を請求することで違法な労働実態をストップし、被害が拡大する前に逃げるべきです。
今回は、美容師の残業代、特に「カット練習が労働時間になるか」を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 違法な残業実態の美容室は多いが、美容師でも未払いの残業代は請求可能
- カット練習は、明示または黙示の命令の場合が多く、労働時間に含まれる
- 美容師の残業では顧客管理票や売上伝票など特有の証拠を活用できる
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美容師も残業代請求できる
美容師は、労働基準法9条の「労働者」に該当します。法律による労働者の定義は、業種や業界によっても変わらず、使用されて、賃金を支払われる者であれば該当するからです。
美容室で働く美容師も、労働契約に基づいて雇用される限り、労働基準法の保護を受けられます。労働基準法は、労働者の保護のために最低限の労働条件を定めており、決められた時間を超えて働けば残業代がもらえることが権利として保障されています。逆に、雇用主である美容室経営者にとって残業代の支払いは義務であり、たとえ美容師といえど例外ではありません。
しかし、残業代をもらっていない美容師が多くいるのも現実。本解説は、まずその理由として「美容師によくあるサービス残業」と「美容室のブラックな残業の実態」を紹介します。現状が違法だと理解したら次に「美容師が未払いの残業代を請求する方法」を参考に、残業代の請求を進めてください。
美容師も他の業界で働く労働者と同じく労働基準法で保護されます。適切な労働環境で働くことは美容師自身の権利です。権利を守るには現状を正しく把握し、必要に応じて行動せねばならず、残業代請求が第一歩です。一人で進めるのが難しいなら弁護士の力を借りるのが有益です。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説
美容師によくあるサービス残業
美容師でも残業代をもらえるはずなのに、実際は受け取れない人が多くいるのは、美容室ではサービス残業がよくあるからです。以下のサービス残業はいずれも違法であることを理解し、「美容室による当たり前」を安易に受け入れないでください。
カット練習は残業になる
美容師の残業時間、残業代を考えるにあたり重要なのが「カット練習が残業になるか」という点。
結論、カット練習は残業になるのが原則で、残業代が払われなければ違法なサービス残業のおそれもあります。カット練習に残業代がないのは、練習が自発的に行われるから。しかし実際のところ、会社の明示ないし黙示の指示によることがほとんどでしょう。
カット練習が残業になるのは、例えば次のケースです。技術の練習をしないことで不利益があるなら、カット練習もまた残業だと考えるべきです。
【明示の指示がある場合】
- 新人は営業時間後のカット練習が義務になっている
- 全員で先輩のカットを見る時間がある
【黙示の指示がある場合】
- 練習しないと施術を担当させてもらえない
- カット練習しないと給料が上がらない
- 「アシスタントは時間をかけて修行しろ」と圧をかけられた
- 「営業後の自主練習は当然」という空気がある
- 居残って練習しないと同期と差別される
- カット練習しないと嫌味を言われハラスメントを受ける
結局は、スキルアップはもちろんのこと、会社での出世昇進も閉ざされてしまいます。このような無言の圧力でカット練習をせざるを得ない状況は、残業と評価でき、残業代請求できるのです。使用者の指揮命令下に置かれた時間なら、営業時間の内外を問わず、全て労働時間です。
「労働時間の定義」の解説
営業時間前後の清掃や予約管理業務
開店前や閉店後など、営業時間の前後にも作業をしなければならないとき、それらも残業時間に含まれる可能性があります。例えば、美容室内の清掃や片付けを、営業時間外に行わなければならないケースや、休日でも予約管理業務を指示される場合がこれにあたります。
違法なサービス残業の理由は、サロンの営業時間と労働時間を混同する使用者の誤った考えにあります。「営業時間=労働時間」とし「営業時間外は業務ではない」とする会社の考えは間違っています。営業時間内だけが労働時間なら、店が終了したらすぐ帰ってよいわけで、居残りが強制されている時点で、その後も労働時間なのは明らかです。
「違法な残業の断り方」の解説
休憩時間中の顧客対応
美容師のような接客業では、顧客対応のために自分で労働時間を調整できない場面があります。休憩中でも、突然の来店があれば対応せざるをえません。繁盛店では全く来客のない時間帯などないのではないでしょうか。閉店時間を過ぎても、施術が終わらなければ残業するしかありません。
労働基準法34条で保障された休憩は、自由に利用できることが保障されています。休憩時間でも顧客対応をしなければならなかったり、薬剤の準備や予約電話の対応などを指示される可能性があったりするなら、それは休憩ではなく労働時間であり、残業代の対象となります。
「休憩時間を取れなかった場合」の解説
美容室のブラックな残業の実態
美容師が、ブラックな労働環境で働かざるをえないことには、さまざまな理由があります。以下の美容師のブラックな残業の実態について、1つでもあてはまる方は、未払いの残業代を請求できる可能性があります。
美容師のやりがい搾取
「もともと美容が好きで美容師になった」という方は多いもの。目指し続け、やっと美容師として働けるようになれば、労働も楽しいかもしれません。カット練習はじめ、給料をもらえない特訓を押し付けられても、従う方は珍しくありません。
悪質な会社は、このような美容師の思いにつけ込み、やりがい搾取で利益をあげようとします。「練習し、営業し、売上をあげる」のを、美容師の無償奉仕として強要するのです。カット練習からSNS投稿、ビラ配りなど、本来の仕事以外にも活動せざるを得なくなっている方も多いですが、果たして本当に自分の意思なのか、立ち止まって考えるべきです。
「練習」にも給料や残業代が発生します。「営業し、顧客を獲得して売上をあげる」のは会社の責任であり、労働者の仕事ではありません。
「違法なやりがい搾取の対処法」の解説
「売上がなければ給料はない」という成果主義
美容師がカット練習をはじめ、無給で作業をしてしまう背景には、「売上がなければ給料はない」という成果主義の考えがあります。
しかし、「顧客から料金をもらえない時間は残業ではない」という発想は誤りで、改めるべきです。「新人は腕をみがくため無給で練習すべき」という精神論、根性論に従う必要もありません。練習が大切なのは当然ですが、給料や残業代が発生しない限り、労働は強制できません。
「手に職」の考えが強く「個人のスキルアップになる」と従いがちです。悪質な会社ほど、新人研修、技術試験やコンテストなどの制度を悪用し、美容師のスキルアップへの気持ちをあおり、無償の労働に誘導しようとします。
零細企業が多く業績が悪化しやすい
美容室のなかには、経営がそれほど順調でないサロンもあります。大手チェーンもありますが、多くは、個人経営に近い、零細企業です。
人件費をできるだけ削減して利益を増やし、その分、限られた美容師が必死に労働時間を長くして働き、多くの顧客をさばかなければ、経営が立ち行きません。経営の苦しいサロンほど残業代を払う余裕がなく、サービス残業が必要悪となっていますが、労働者へのしわ寄せは断るべきです。
美容師が未払いの残業代を請求する方法
美容師でも、残業代がもらえるケースが多いと理解いただけたところで、次に、美容師が、これまで未払いとなっていた残業代を請求する方法について解説します。一人でブラックな経営者に立ち向かうのが難しいときは、弁護士に相談ください。
労働時間の証拠を集める
まず、自分が美容師としてする活動で、「労働時間」になるものを理解しましょう。接客し、カットやカラー、スタイリングといった顧客の施術をする時間は当然ですが、本解説の通り、美容師としての本業以外にも、次のものが労働時間となり、残業に含まれます。
- 営業時間前後の清掃や片付け
- カット練習時間
- 休憩中の接客、予約電話の対応
- 日程調整、予約管理業務
- 新人研修
- 宣伝のためのSNS投稿、動画撮影
- ビラ配り、カットモデルのスカウト
そして、これら労働時間にあたる1つ1つにつき、証拠を準備します。美容室側で、労働時間だと考えられていない時間だと、タイムカードなど証明力の高い証拠は存在していないこともあります。このときでもあきらめず、美容師ならではの次の資料を検討してください。
- 顧客管理表
- 売上伝票
- 指名履歴
- 予約管理票
- ポータルサイト経由の予約履歴
タイムカードなど、一般の労働者が用意すべき残業の証拠は、美容師でも当然に大切です。
「残業の証拠」の解説
残業代を計算して内容証明で請求する
証拠が整ったら、残業代を計算してください。美容師といえど特別なルールはなく、労働基準法にしたがって計算をするので、残業代の計算方法は、美容師だからといって変わりありません。
未払いの残業代が計算できたら、残業代の請求書を送って、会社に通知します。残業代の請求は、後に法的手続きで争う場合に備え、内容証明で証拠化しておきましょう。
労働審判、裁判で残業代を請求する
交渉では解決できないときや、美容室側がまっとうな話し合いをしてくれないケースもあります。本解説の通り、ブラックな美容室では、サービス残業を当たり前のことと考え、労働者側の主張を受け入れてはくれません。このとき、交渉は決裂であり、裁判所を活用した手続きに移行します。
労働審判や裁判など、法的手続きによって、未払い残業代を請求しましょう。裁判所への申し立てには、弁護士のサポートが有効です。
「労働問題の解決方法」の解説
例外的に美容師が残業代をもらえないケースもある
美容師の労働のなかには、残念ながら残業代が発生しないものもあります。また、労働基準法には、残業代を払う義務をなくす制度もあります。そのため、次の場合には例外的に、残業代をもらえないことがあります。
ただし、いずれも労働者に大きな不利益となるため、厳しい要件が定められています。安易な会社が「美容師だから残業代が発生しない」と反論しても、その理由をよく聞けば、これらの要件が満たされておらず違法なケースは少なくないことでしょう。
残業代が基本給や手当に含まれる場合
美容師の仕事には、残業代がつきものです。そのため、予想される残業代に充当するための固定残業代やみなし残業をあらかじめ払っていることがあります。このとき、あらかじめ払った一定額を超える残業がないかぎり、残業代はもらえません。
ただし、残業代がまったくなくなるわけではありません。まず、事前に払われた額を超える残業が発生すれば、差額を追加で請求できます。また、残業代がいくら支払い済かわかるよう、残業代に充当される額と通常の給料が区別されていなければ、その制度そのものが違法となり、残業代が全く払われていなかったのと同じこととされます。
この要件を満たさない場合は多く、そのような美容師には未払い残業代が多く存在します。また、残業代を引いて計算してみると、最低賃金以下で働かされている美容師も多いです。
「固定残業代の計算方法」の解説
面貸しの個人事業主の場合
美容師のなかには「雇用された労働者」でない人がいます。美容室のなかで場所を借りて、個人事業主(フリーランス)として営業する美容師がこれにあたり、「面貸し」「ミラーレンタル」などとも呼ばれます。
個人事業主の美容師は、雇用契約ではなく業務委託契約であり、労働基準法9条の「労働者」ではありません。したがって、労働基準法の保護はなく、残業代は発生しません。
ただし、個人事業主と評価されるには、独立した個人として、働き方に裁量が必要です。労働時間や業務に指揮命令があれば、形式はフリーランスでも労働者に違いありません。「美容師は個人事業主だ」という説明だけで残業を強要されるなら、残業代の請求が可能です。
なお、個人事業主でも、突然の契約解除を争える場合があります。
「個人事業主の解雇」の解説
管理職の店長の場合
店長など、店舗の責任者となると、仕事が多くなり、労働時間も長くなりがち。しかし、悪質な会社では、「店長は管理職だから」といって残業代を払いません。
確かに、店舗の責任者は残業代をもらえないことがあります。経営者と一体的な立場にある「管理監督者」なら、残業代を適用除外とする定めがあるからです(労働基準法41条2号)。
ただ、これはあくまで、十分な権限と裁量、そして、保障が与えられることが要件です。会社が「管理職」扱いしても、法律上「管理監督者」の要件を満たさないなら、いわゆる「名ばかり管理職」であり、残業代を払わないのは違法です。
「管理職と管理監督者の違い」「名ばかり管理職」の解説
まとめ
美容師の労働環境は、過酷であることが多いです。今回解説した長時間労働、サービス残業の問題はもちろん、基本は立ち仕事であり、顧客対応。身体だけでなく、心の疲弊もとても大きい職種です。
「美容師になるのが夢」「好きでやっている」という考えだけでは続きません。将来の活躍のために労働時間を確保するなら、その分の残業代もきちんともらっておきましょう。法律に定められた正しい残業代をもらわないことは、美容室の経営者の得にしかなりません。
無理して体を壊したり、うつ病、適応障害になってしまう前に、弁護士にご相談ください。
- 違法な残業実態の美容室は多いが、美容師でも未払いの残業代は請求可能
- カット練習は、明示または黙示の命令の場合が多く、労働時間に含まれる
- 美容師の残業では顧客管理票や売上伝票など特有の証拠を活用できる
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