セクハラの加害者になったら対応に注意！訴えられたときの対処も解説

セクハラの加害者になったら、どのように対応すべきでしょうか。セクハラが許されないのは当然ですが、思いもよらず「セクハラだ！」と指摘されることもあります。

人事から呼び出され「あなたにセクハラされたと告発があった」と通告されれば、冷静にはなれないのも当然です。最悪のケースでは、セクハラで訴えられたら、特に注意が必要です。

セクハラの加害者側にも様々な理由があり、多くの法律相談が寄せられています。言い分は多々あるでしょうが、セクハラの加害者だといわれてしまったら、まずは不快に思わせてしまったと十分反省し、対応を検討しましょう。

一方で、セクハラ加害者にされたが、セクハラにあたる行為は全くしていない、冤罪のケースもあります。全くの無罪ではないにせよ、実際の言動は、セクハラの被害を受けたと主張する人の証言と、大きく食い違っていることもよくあります。

今回は、加害者側の立場で、セクハラの加害者だと疑われたときの対応と、セクハラ加害者になってしまったとき、その後にどのような流れが予想されるか、労働問題に強い弁護士が解説します。

「セクハラになるかどうか」の判断が一番大切

「セクハラだ」と指摘されたり、会社からセクハラ加害者の疑いをかけられたとき、まず大切なのが、「自分のした発言や行為が、セクハラにあたるのかどうか」をきちんと判断することです。言動がセクハラにあたり反省しなければならないのか、それとも、セクハラ冤罪なのかによって、その後の適切な対応が大きく異なるからです。

また、セクハラにあたるとしても「どれほどの重さのセクハラなのか」も問題です。その後に会社から処分を受けるたら、「セクハラの重さに応じた相当な処分なのか」を検討すべきだからです。

セクハラをしていないのに処分を受けてしまえば、不当処分なのは当然です。残念ながらセクハラしてしまったという場合も、軽度のセクハラなのに、懲戒解雇などの大きな不利益のある厳しい処分を受けたなら、不当解雇として無効となるケースもあります。セクハラしてしまった加害者が悪いのは当然ですが、内容に応じたバランスの取れた制裁である必要があります。

セクハラだという悪気はなく、無自覚なままにセクハラの加害者になってしまう方もいます。自身の過去の行為がセクハラに該当すると気付いたなら、しっかりと反省し、謝罪すべきです。

セクハラ加害者になったら、その後の流れはどう進むか

次に、セクハラ加害者となったとき、通常よくある流れについて順に解説します。

セクハラの加害者となったとき、一番不安なのは今後の流れでしょう。セクハラ加害者とされ、調査対象となったとしても、すぐに処分が決定される例ばかりではありません。長期間にわたって事情聴取や調査が行われ、なかなか処分が決まらないことも多く、不安が募るでしょう。

セクハラ加害者にされてしまった労働者の法律相談でも、「今後の流れがどうなるか」という質問は必ずあります。セクハラしてしまったときの、その後の流れは、次のような例が多いです。

セクハラ加害者に異動を命じる

セクハラをしてしまったとき、加害者を異動させることが多いです。再発防止のために、セクハラだと訴えられたときに加害者側で真っ先に起こることです。企業規模が小さいほど、加害者と被害者が、これ以上接触するのを避けなければならないからです。

セクハラ加害者を自宅待機させる

重大なセクハラ被害が既に明らかになっていれば、加害者に自宅待機を命じる例もあります。また、調査が未了であり、セクハラ加害者かどうかが判断されていない段階では、再発や証拠隠滅の防止を目的とする自宅待機は、給料を払ってもらえるケースもあります。

セクハラの事実関係を調査する

次に、セクハラの告発があったとき、会社は、実際にセクハラ被害があったのか、事実関係を調査します。被害者の聴取だけでなく、セクハラ加害者のヒアリングも行われます。

被害者だけの一方的な被害申告をもとに、セクハラ加害者に厳しい処分を下すとすれば、その処分は不当であり、無効となる可能性が高いです。被害者と加害者の間で、当時の記憶が大きく違うときには、セクハラ加害者にも複数回のヒアリングがされることもあります。

セクハラ加害者を懲戒処分にする

セクハラ加害者となってしまうと、懲戒処分されるおそれがあります。会社が、セクハラ加害者への懲戒処分を検討するときには、社内で定めた手続きにしたがわなければなりません。適切な手続きをとらなければ懲戒処分を下せないのは、セクハラ加害者でも変わりありません。

どのような処分になるのか、どのような手続きで進めるべきかについては、通常、就業規則をはじめとした会社規程に定められています。セクハラ防止のため、セクハラ規程などを別で定めている会社もありますから、確認しておきましょう。

なお、常時10人以上の社員を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります（労働基準法89条）。あわせて、就業規則を労働者に周知しなければなりませんから、就業規則が確認できないとすれば、違法の疑いがあります。

セクハラ加害者に退職勧奨する

セクハラの加害者となってしまったときも、そのセクハラがさほど重くはなければ、解雇には至らないこともあります。それでもなお、セクハラ行為が真実だと、会社には居辛くなるでしょう。退職を決意せざるを得ないケースもあります。

そのため、会社がセクハラ加害者に対し、自主退職しないかと勧めてくる例があります。このような退職の勧めを、法律用語で「退職勧奨」と呼びます。退職勧奨に同意すれば、合意退職となり、懲戒解雇という最悪の事態は避けられます。ただ、合意退職に応じてしまえばセクハラの事実を争うことはできないので、冤罪のケースでは「退職勧奨を拒否し、解雇された上で、その解雇を争う」という方針を選択すべき場面もあります。

セクハラ加害者を懲戒解雇する

企業秩序を乱した労働者には、制裁として懲戒処分が下されます。なかでも最も重い処分であり、労働者の不利益も大きいのが「懲戒解雇」です。

セクハラ加害者に対しても、そのセクハラ行為が重大だと、懲戒解雇が選択されることがあります。ただし、懲戒解雇という重大な処分をするには、相応の重度のセクハラが存在していなければなりません。また、懲戒解雇の場合には、弁明の機会を与えたり、懲戒委員会を開いたりといった、会社で決められた手続きを適切に行わなければ無効となる可能性が高いです。

なお、セクハラしてしまったのが事実でも、解雇は厳しく制限されており、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、違法な不当解雇として無効になります（労働契約法16条）。

セクハラ加害者がしておくべきことは？

気の迷いか、お酒のせいか、恋愛感情の勘違いか…。セクハラ加害者の理由がどのようなものであれ、セクハラは決して許されることではありません。

セクハラしてしまったのが事実なら、セクハラ加害者は十分に反省し、謝罪すべきです。セクハラ加害者となってしまった方が、まずは事前に、自分でしておくべきことについて解説します。

すぐにセクハラをやめる

すぐにセクハラをやめることは重要です。注意を受けているのに、セクハラといわれた行為をストップしなければ、ますます悪質だと評価されてしまいます。自分にセクハラ加害者という自覚がなくても、すぐにこれまでの言動を改めてください。

記憶を鮮明にする

セクハラ加害者のよくある言い分の1つに「当時のことは記憶にない」というのをよく聞きます。その原因は、「長期間の経過しているから」「昔のことだから」「お酒を飲んでかなり酔っ払っていた」など、ケースバイケースです。

しかし、「おぼえていない」ことほど怖いことはありません。被害者が、被害状況を鮮明に記憶しており、会社にセクハラを告発しているのに、加害者は全くおぼえていないのでは、被害者の言い分だけが通り、厳しい処分を下されてしまいます。被害者の思い違いや記憶のすりかえで、真実よりも盛って話されていても、記憶がなければ反論すらできません。

セクハラ加害者としては、少しでも早く、できるだけ鮮明かつ具体的に、「セクハラがあった」と言われる当時の記憶を思い出さなければなりません。少しでも思い出せたことは、忘れないうちに、すぐ時系列のメモを作成して記録化してください。

反省し、被害者に謝罪する

セクハラ加害者となってしまい、被害者が訴えているセクハラがすべて真実ならば、十分に反省し、被害者に謝罪をしておきましょう。

ただし、セクハラ加害者と被害者との人間関係は、「今まで通り」というわけにはいかないのが当然。セクハラ加害者側のひとりよがりな判断で、「これくらいはいいだろう」という気持ちで対面の謝罪を希望したり、安心したいからといってLINEや電話をくり返し送ってしまうと、セクハラの二次被害だといわれるおそれもあります。

このような加害者の勝手な真意が透けて見えると、被害者の怒りを買ってしまいます。セクハラ加害者となってしまった場合に、謝罪の方法は非常に重要です。会社の指示に従うばかりでは、加害者にとって有利な進め方になっているか疑問があります。かといって、一方的に謝罪文を送りつけるのは不適切。最善なのは、弁護士に謝罪文を添削してもらい、弁護士もしくは会社を経由して被害者に交付する方法です。

自ら異動を申し出る

してしまったセクハラ行為が、懲戒解雇とはならない軽度なものだったとしても、加害者側からあえて被害者に接触するのはお勧めできません。再びセクハラ加害者になるおそれもありますし、自分にそのつもりがなくても、一度セクハラ加害者にされると、次に少しでも怪しい行為をすると、またセクハラの責任を問われやすくなります。

そこで、セクハラ加害者としてこのような危険を回避するために、他にも事業所や部署があるとき、自ら異動を申し出ておくという方法があります。異動のほか、転勤や配置転換を申し出ておくのもよいでしょう。

自ら退職を申し出て、進退をうかがう

最後に、もはや言い訳できないほどに重度のセクハラで、「懲戒解雇されても仕方ない」というケースでは、自ら退職を申し出て、進退伺いをする方法を検討してください。自ら申し出て、情状面の考慮をしてもらえば、懲戒解雇だけは避けられることもあります。

「セクハラの責任をとって身を引く」というのは、強い反省の表れと受け取られます。会社も、十分反省したセクハラ加害者には、それ以上の厳しい処分を躊躇してくれると期待できます。

セクハラだと訴えられたらすべき対応

ここまで、セクハラ加害者として、セクハラが事実なのであれば、反省と謝罪をベースにして一連の事後対応をすべきことを解説してきました。しかし、社内の処分にとどまらず、セクハラだと訴えられてしまったら、事態は更に深刻です。

セクハラは、被害者の心身を傷つけるため、不法行為（民法709条）にあたり、慰謝料をはじめとした損害賠償請求の対象となる違法行為です。そのため、セクハラ加害者になると、被害者から、慰謝料請求で訴えられ、裁判になる例もあります。スタート地点では、まずは弁護士から内容証明が届くことが多いです。

セクハラが真実なら、認めるしかありませんが、被害者から請求された慰謝料が不当に高額なら、減額を求めて争うのが適切です。セクハラ加害者に悪い点があるにせよ、高額すぎる慰謝料に応じなければならないわけではありません。セクハラの慰謝料の相場は、50万円〜200万円程度なので、ケースに応じた適切な慰謝料が請求されているか、被害者の言い分を聞いて検討してください。

セクハラ加害者がしてはいけないことは？

セクハラ加害者となってしまった場合、絶対にしてはいけない禁止事項は多くあります。

「セクハラ加害者がしてはいけないこと」をあえてすると、より重大な責任追及をされるおそれもあり、注意が必要です。セクハラしてしまっただけでなく、事後の対応が不適切であったり、不誠実だったりすれば、立場は更に危うくなります。

知らずについしてしまうセクハラ加害者もいますが、セクハラ二次被害を招きかねないため、よく理解してください。

セクハラ被害者に報復しない

当然ですが、セクハラ被害者に報復してはなりません。当たり前のことで、誰しも理解しているでしょうが、セクハラ加害者となってしまうと、自分かわいさに、客観的にみれば「報復」と評価される行為をしてしまうことがあります。

無意識にした発言・行為が、セクハラ被害者に大きなストレスを与えることもあります。例えば、次の行為は、セクハラ被害者への報復にあたり、新たなセクハラだと指摘されるリスクがあります。

また、これらの新たなセクハラ行為は、セクハラ被害者への報復としてされるだけでなく、目撃者や、セクハラを告発した他の社員に対してされる場合、パワハラとして違法行為になるおそれもあります。

被害者と直接話し合わない

直接話し合ったら解決するのではないかと思うセクハラ加害者の気持ちは理解できます。「被害者は、本当はそこまで嫌な思いはしていないのでは」「会社や弁護士が被害申告するよう唆したのではないか」など、想像を巡らせがちです。

これまで自分に好意があったと勘違いしていた人ほど、直接話し合おうとしがちですが、やめておきましょう。セクハラ疑いをかけられたとき、「当事者同士で話さないように」と注意されるのは、真実を闇に葬りたいからではなく、セクハラ被害者があなたにはもう会いたくないからです。被害者は非常に辛い思いをしており「加害者とは二度と会いたくない」と思っているであろう現実をよく理解しておかなければなりません。

目撃者や同僚に事実確認しない

セクハラの現場にいあわせた目撃者や同僚に、事実確認するのも慎重になるべきです。セクハラ加害者になると、「見ていた人がいるはずだ」「味方になって証言してくれれば助かるのではないか」「同じ男性なら気持ちがわかるはず。協力してくれるのでは」といった考えを抱く方もいます。

しかし、会社からセクハラ加害者だと指摘を受けた頃には、既に目撃者には事情聴取がされた後であることがほとんどです。会社もしっかりと裏どりして進めているとき、目撃者に自分の味方となるよう圧力をかけるのは逆効果です。社員だとむしろ、会社と敵対してまでセクハラ加害者に協力してくれることは期待できません。なかには、昔の恩義や情で、会社の処分方針について情報を漏らしてくれる人もいますが、セクハラ加害者が今後の有利な立場を築くためには不十分です。

セクハラが冤罪のときの対応策

以上の対応策はいずれも、セクハラ加害者と疑われ、かつ、そのセクハラ行為が真実だったときのもの。一方で、「セクハラだ」と被害を訴えられても、自分はセクハラとなる行為をしたことがまったくないケースもあります。つまり、セクハラ冤罪の事例です。

残念ながら、被害者の言い分だけを聞くという、問題ある進め方だと、セクハラ冤罪が起こってしまいます。セクハラ冤罪のときは、次のポイントを守って対応してください。

ここでも「セクハラになるかどうか」の判断が一番大切であるのにかわりはなく、適切に反論するためには「記憶を鮮明にする」という準備が重要になります。くじけて認めてしまうことのないよう、徹底して争う姿勢を示してください。早く楽になりたいという気持ちから、事実を認めて謝罪する、といった対応は、自分の首をしめることになりますから、決してしないでください。

セクハラ冤罪を疑ってくる会社と戦うときこそ、弁護士のサポートが有効です。

まとめ

今回は、セクハラ加害者となってしまったとき、どのような流れで進むのかを説明し、セクハラ加害者がやっておくべきこと、やってはいけないことなどの対応策について解説しました。

セクハラ加害者となってしまい、セクハラ行為が事実なら、二次被害を防ぐため、慎重な配慮を要します。ただ、懲戒解雇をはじめとした厳しい処分が予想されるケースでは、早めに準備して反論し、妥当な処分まで引き下げられるように戦わなければなりません。

「セクハラだ」という指摘を受けてはじめて気づくことのないよう、常日頃からセクハラにあたる言動を理解し、注意深く行動するのが大切です。いざ自分がセクハラ加害者となってしまったら、ぜひ弁護士にご相談ください。