役員扱いなのに、業務内容が社員と変わらず、不当な処遇を受けるケースがあります。役員なのにもらえるお金が少ないのは、納得いかないでしょう。「役員だから、残業代は払わない」といわれ、疑問を感じている方もいるかもしれません。
解任を告げられ、会社を辞めざるを得ない役員からの相談もあります。労働者の解雇ならば「不当解雇」として違法でも、役員の解任だと保護されない場合もあります。残念ながら、役員になると、通常の労働者のような身分保障、手厚い保護は受けられません。
一方、「使用人兼務役員」であれば、役員の立場とともに労働者の地位もあわせもちます。そのため、使用人兼務役員ならば、労働者としての保護を受けられます。
今回は、どのような人が使用人兼務役員になるのか、そして、残業代請求、解雇などの問題で受けられる保護について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 使用人兼務役員は、労働者の立場と、役員の立場をあわせもつ
- 使用人兼務役員には、労働基準法をはじめ労働法と、会社法のいずれも適用される
- 使用人兼務役員の法的性質は、労使で対立するため、労働者保護を徹底する必要あり
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使用人兼務役員とは
使用人兼務役員とは、肩書上の地位は「役員」でありながら、同時に「労働者」とも評価できる人のことを指します。
使用人兼務役員は、この「役員」と「労働者」の地位を、同時に有します。このとき、法律上は、役員としても扱われるし、労働者としても扱われることとなります。
使用人兼務役員となるのは、例えば次のケースです。
- 社員から出世して役員になったが、担当業務は変わらない
- 子会社の役員をやってほしいといわれたが、追加の役員報酬はもらっていない
- 役員になっても、社員だった頃と働き方が変わらない
- 外国法人で、日本人の役員が必要なため名義貸ししているが、役員の権限はまったくない
役員と会社の関係は「委任契約」、労働者と会社の関係は「雇用契約」であり、そもそも法律関係が異なります。使用人兼務役員だと、委任契約と雇用契約とが、併存した状態となります。
役員は、取締役や監査役など、会社経営に関わる役職者であって、いわゆる経営者層なので、その役割や法的義務は、会社法に定められたルールを守らなければなりません。これに対して、労働者は、労働基準法をはじめとした労働法によって手厚く保護されています。
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使用人兼務役員には労働基準法が適用される
次に、使用人兼務役員が、会社に対して正当な権利行使をすることができるよう、適用される法律について理解しておいてください。
使用人兼務役員は、その名のとおり、使用人(つまり、労働者)と役員のいずれの地位も持ちます。そのため、労働者に適用される法律、役員に適用される法律のどちらもあてはまります。このなかで最も重要なのは、やはり労働基準法です。労働基準法は、労動者の立場にある人を保護しています。労働者に適用される法律なので、使用人兼務役員にも、適用されます。
雇用契約と委任契約の違い
労働者は、会社との間で雇用契約を締結しています。これに対して、役員は、会社と委任契約を結んでおり、雇用契約は締結していません。使用人兼務取締役なら、雇用契約書を書面で締結していなくても、雇用契約と委任契約、両方を結んでいるものと評価されます。
雇用契約と、委任契約とは、法的性質が異なります。雇用契約は、労働時間に応じて評価され、働いた時間に対して給料が払われ、決められた時間を超えて働いたら残業代を受け取れます。これに対して、委任契約は、委託された業務の遂行に従って報酬を受け取ることを内容とした契約です。
労働者は会社より弱い立場であり、保護されるのに対し、役員は、会社と対等な立場と考えられています。
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労働者でもあるので労働基準法が適用される
使用人兼務役員は、労働者でもあります。そのため、労働基準法をはじめとした労働法が適用され、保護を受けることができます。
労働者として受けられる保護の代表例は、次のものです。
- 最低賃金以上の給料が保障される
- 「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて働くと、残業代を受け取れる
- 「1週1日もしくは4週4日」の法定休日に働くと、休日手当が払われる
- 「午後5時〜午前10時」の深夜労働をすると、深夜手当が払われる
- 36協定の上限(限度時間)による労働時間の制限がある
- 6ヶ月以上、労働日の8割以上働くと、有給休暇が得られる
役員であっても、その業務内容や扱いに照らして、労働者とも評価できるのが、使用人兼務役員です。このとき、形式上は役員でありながら、労働基準法をはじめとした労働法が適用され、労動者としての保護や身分保障を受けることができます。
役員でもあるので会社法が適用される
使用人兼務役員は、役員でもあります。そのため、役員として委任契約を交わしている部分は、会社法が適用されます。委任契約の当事者である会社と役員は、対等であるのが原則で、どちらが有利とはいえません。役員は、会社法に定められた権限と責任のルールに従います。
なお、役員は経営側の立場であることから、会社において、その権限に応じた一定の責任を負わなければならないことがあります。
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使用人兼務役員にあたるかどうかの判断基準
以上の通り、役員として扱われる人のなかには、使用人兼務役員として、労働者としての保護を受けられる人がいます。
自分が、使用人兼務役員に該当するかどうかを知っておかないと、実は労働者でもあるのに、「役員だから」という理由だけで不当な扱いをされてしまっている可能性があります。「役員かどうか」は登記簿を見れば確認できますが、「使用人兼務役員かどうか」を判断するには、その判断基準を理解する必要があります。
雇用契約書を交わしていなくても保護される
使用人兼務役員のポイントは、役員なのに、一般の従業員と同じ保護を受けられる点にあります。このとき、会社側としては「役員」として扱っています。そのため、使用人兼務役員として救済されるべき場合にも、雇用契約書を交わしていない例は多いです。
したがって、使用人兼務役員かどうかを判断するにあたっても、その役員が会社との間で雇用契約書を交わしているかどうかは、決定的な要素とはなりません。むしろ、雇用契約を締結せず、役員として扱われるのが不当だからこそ、裁判で争うべきなのです。なお、雇用契約書がない場合でも、労働問題を争うことができます。
「雇用契約書がもらえないのは違法?」の解説
裁判例における判断基準
どのようなケースで、使用人兼務役員にあたると評価できるのかは、いわゆる「労働者性」の問題です。つまり、役員のなかで、どのような場合に「労働者」でもあると評価されるのか、という判断基準がポイントとなります。
過去の裁判例は、「使用従属関係の有無」という基準で判断しています(東京地裁平成10年2月2日判決など)。裁判例における判断基準は、次のような要素を、総合的に検討します。
- 業務遂行上の指揮監督の有無
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由があるかどうか - 拘束性の有無
勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているかどうか、人事考課、勤怠管理を受けているかどうか - 対価の性質と、金額
対価として会社から受領している金員の名目・内容及び額等が従業員のそれと同質か、それについての税務上の処理など - 取締役としての地位
代表取締役・役付取締役か、平取締役かなど - 具体的な担当職務
従業員のそれと同質かどうか - その者の態度・待遇や他の従業員の意識
- 雇用保険等の適用対象かどうか
- 服務規律を適用されているか
取締役の肩書が、名目上のものに過ぎず、他の労働者と同じく会社に従属していると言えるなら、使用人兼務役員だと評価される可能性があります。
使用人兼務役員の身分は複雑であり、「労働者として保護される立場かどうか」について、労使で意見が割れるケースは少なくありません。話し合いで解決できないなら、労働審判や訴訟といった裁判の手続きを利用するのが適切です、お悩みの場合には、弁護士の無料相談を活用してください。
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使用人兼務役員に起こる労働問題と対処法
次に、使用人兼務役員によく起こる労働問題と、解決策について解説します。
使用人兼務役員なのに、労働者としての正当な権利を侵害されているなら不当です。不当な扱いを受けているとき、使用人兼務役員は、労働者の権利を請求しましょう。
残業代請求する権利がある
純粋な役員なら、会社との関係は「委任」であり、労働基準法は適用されません。したがって、このときには残業代を支払ってもらうことはできません。
一方で、使用人兼務役員だと、時間の裁量がなく、拘束の強い働き方をしている人も少なくないでしょう。そのため、労働者でもあり、労働基準法が適用されますから、残業代を受け取ることができます。「1日8時間、1週40時間」を超えて労働すれば、使用人兼務役員は、労働基準法に基づいて残業代請求ができるのです。
「役員の残業代請求」の解説
不当解雇は制限される
役員が、会社と結ぶ「委任契約」は、双方の信頼で成り立つものです。当事者のいずれからも、どのような理由でも、委任契約を終了できます。そのため、会社は、これ以上任せないと判断するなら、役員を解任できます(なお、正当な理由のない解任だと、残期間の報酬を払わなければならないし、辞任勧告も違法となる場合があります)。
役員の解任は、会社法339条、民法651条で次のように定められます。
会社法339条(解任)
1. 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2. 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
会社法(e−Gov法令検索)
民法651条(委任の解除)
1. 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2. 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
民法(e-Gov法令検索)
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
一方、会社と雇用契約を結ぶ労働者なら、解雇は制限されます。労働者は、会社より弱い立場にあるので、解雇によって収入を奪われ、生活の維持が困難になってしまう不利益を避けるために、労働法による保護があるからです。
労働者の解雇は、解雇権濫用法理により厳しく制限されます。客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でなければ、不当解雇として違法であり、無効となります(労働契約法16条)。
労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法(e-Gov法令検索)
使用人兼務役員は、労働者としての身分に基づいて、解雇権濫用法理が適用されます。そのため、役員でありながら、一方で、解雇が制限されるという保護も受けられます。
役員として解任されたとしても、労働者としての身分は失われません。そのため、使用人兼務役員が、会社をやめざるを得ないならば、解雇の撤回を求めて争うことができます。
「解雇を撤回させる方法」「解雇の解決金の相場」の解説
セクハラ・パワハラの慰謝料を請求できる
セクハラやパワハラは、労働者でも役員でも、いずれにせよ違法に違いはありません。ハラスメントは、嫌がらせであり、被害者の性質にかかわらず違法だからです。
ちなみに、加害者となったときにも、労動者でも役員でも、不利な扱いを受けます。労働者なら、人事考課でマイナス評価されたり、懲戒処分となったりするリスクがあり、一方で、役員の場合にも、職務適性が疑われ、解任されるリスクがあります。
したがって、使用人兼務役員のセクハラ、パワハラなどハラスメント問題は、労働者の労働問題と同様に考えることができ、慰謝料をはじめ損害賠償請求によって対応すべきです。
使用人兼務役員が不当な扱いに対抗する時の注意点
使用人兼務役員が、労働者としての正当な権利を持つことを理解いただけたでしょうか。最後に、使用人兼務役員が、不当な扱いに対抗する時、注意したいポイントについて解説します。
「使用人兼務」を裏付ける証拠を集める
労働者として扱われ、有利に解決するには、純粋な役員ではなく「使用人兼務」だという証拠が必要です。「使用人兼務」であることについては、労働者側で立証しなければなりません。
前章で解説した判断要素について、できるだけ多くの証拠を集めておきましょう。どのような証拠があれば有利になるのか、その証拠はどのようにして入手できるかなど、詳しいことはケースバイケースの対応が必要なため、弁護士にご相談ください。
「裁判で勝つ方法」の解説
不当な扱いのケースに応じた救済方法を選ぶ
純粋な役員ではなく、使用人兼務役員だと評価されるなら、前述した通り、残業代をもらえる上、解雇権濫用法理が適用されるといった保護を受けることができます。
そのため、労働者の権利を侵害されるような不当な扱いを受けたら、次の救済方法が利用できます。これらはいずれも、労働者の正当な権利の請求と同じですから、労働問題として解決できるということです。
- 金銭請求
長時間の労働にもかかわらず残業代が支給されない場合や、不当解任・解雇で報酬の支払いを止められた場合には、未払い分の残業代や報酬の支払いを会社に請求できます。 - 地位確認請求
役員を解任されても、労働者としての地位が残っていれば、会社に留まることができます。理由もなく役員を解任された場合や、解任が相当といえるほどの理由がない場合は、少なくとも労働者としての地位があることの確認請求ができます。 - 損害賠償請求(安全配慮義務違反、不法行為)
セクハラ、パワハラの被害者になってしまったときは、会社に対する安全配慮義務違反の責任や使用者責任、直接の加害者に対する不法行為責任を追及できます。
交渉で解決できない時、労働審判、裁判を利用する
上記の労働者としての請求権は、まずは交渉で行使するのが基本です。
しかし、交渉で解決できない時、労働審判や裁判など法的手続きを利用して行います。準備する書類が少なく、手続や弁護士費用も安いことの多い労働審判を優先し、スピーディな解決を目指してください。どうしても会社との折り合いがつかない場合は、民事裁判に臨むこともできます。
「労働問題の種類と解決策」の解説
まとめ
今回は、使用人兼務役員の特徴と、不当な扱いへの対処法について解説しました。
使用人兼務役員は、役員と労働者の考えをあわせもつ、複雑な立場にあります。そのため、法律上の扱いが理解しづらく、不利益な扱いを受けがちなので、よく理解してください。
使用人兼務役員は、役員ではありながら、労働者に近い身分を有しています。そのため、純粋な役員とは違って、労働法の保護を受けることができます。労働者としての手厚い保護を理解して、会社に対抗しなければ、役員といえどブラック企業の言うなりになりかねません。
会社から役員扱いされているけれど、実態が伴っていないとき、その扱いは不当な可能性もあります、ぜひ一度、労働法に詳しい弁護士に相談してください。
- 使用人兼務役員は、労働者の立場と、役員の立場をあわせもつ
- 使用人兼務役員には、労働基準法をはじめ労働法と、会社法のいずれも適用される
- 使用人兼務役員の法的性質は、労使で対立するため、労働者保護を徹底する必要あり
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