MENU
浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

→労働問題弁護士ガイドとは
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

高度プロフェッショナル制度とは?メリット・デメリットと問題点をわかりやすく解説

働き方改革の流れのなか、2019年4月に導入された「高度プロフェッショナル制度」。成果に基づく自由な働き方を実現するための制度として注目を集めました。しかし、この制度は、長時間労働を助長し、労働者の保護をないがしろにする「残業代ゼロ法案」との批判もあり、労働者としては、正しい知識を理解して慎重に対応する必要があります。

高度の専門知識を必要とする職種では「労働時間が長ければ成果が上がる」というわけではなく、労働時間による規制は必ずしも合理性がありません。高度プロフェッショナル制によって、残業代や労働時間の上限を気にせずに働けるメリットがある一方、労働者のデメリットも大きいため、その対象や条件については厳しく定められています。

今回は、高度プロフェッショナル制度の内容やメリット・デメリットと、労働者が制度を利用する際の問題点や対策について、わかりやすく解説します。

この解説のポイント
  • 高度プロフェッショナル制度は、要件を満たす場合に残業代をなくす効果がある
  • 高度プロフェッショナル制度が悪用されると、残業代の未払いや過労に繋がる
  • 要件を満たさないのに制度を理由に残業代を払わないのは違法

\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

目次(クリックで移動)
解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

\相談ご予約受付中です/

労働問題に関する相談は、弁護士が詳しくお聞きします。

ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

高度プロフェッショナル制度とは

高度プロフェッショナル制度とは、専門性ある職種に就く労働者について、労働時間の規制を除外する制度で、「高プロ」と略されます。「労働時間」ではなく「成果」によって評価される働き方を推進する制度で、働き方改革の一環として2019年4月に導入されました(労働基準法41条の2)。

同制度の特徴は、従来の労働時間制度が適用されない点です。高度プロフェッショナル制度の対象労働者は、労働時間・休憩・休日・割増賃金のルールが適用されない結果、働く時間についての大幅な裁量を与えられます。その反面、「残業代が得られない」という効果が注目を集め、「残業代ゼロ法案」などと批判されることとなりました。

欧米における「ホワイトカラー・エグゼンプション」を日本流にアレンジした制度ですが、文化や風習も異なるなか、全く同じ制度とするのは弊害があります。様々な議論の末、高度プロフェッショナル制度は、悪用を避けるために、年収1,075万円以上で対象業種に就く労働者に限るといった厳しい条件が定められました。

参考:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の違い

高度プロフェッショナル制度と裁量労働制は、成果主義的な発想に基づく制度ですが、以下の違いがあります。

労働時間規制の違い

裁量労働制は、一定の時間だけ働いたとみなす「みなし労働時間制度」の一種です。労働時間規制の一部は適用され、1日8時間より長いみなし時間とすれば時間外の割増賃金が生じ、休日手当深夜手当も支給されます。一方、高度プロフェッショナル制度は、労働時間に関する全ての規制について除外される点が、裁量労働制との大きな違いです。

対象労働者の違い

専門業務型裁量労働制では研究開発職、エンジニア、デザイナーなど19業務が対象とされ、企画業務型裁量労働制は、職種に関わらず商品開発やマーケティングなど創造的な業務を対象にすることができます。一方、高度プロフェッショナル制度は、対象者がより狭く、高年収(1,075万円以上)であり、かつ、専門的な業務に従事する人に限られます。

裁量労働制の違法性」の解説

高度プロフェッショナル制度と管理監督者の違い

高度プロフェッショナル制度と管理監督者の違いも重要です。労働時間規制の適用除外となる点は共通しますが、その基準や役割は大きく異なります。

労働時間規制の違い

管理監督者は、労働時間、休日などの規制が除外されますが、深夜残業の割増賃金は発生するなど、全ての規制の適用が除外される高度プロフェッショナル制度とは異なります。

対象労働者の違い

高度プロフェッショナル制度が、高年収(1,075万円以上)、かつ、特定の業種に従事するといった専門性についての厳しい定めがあるのに対し、管理監督者に該当する条件については法律に明確な定めはありません。

ただし、管理監督者もまた、企業の経営・運営についての重要な権限と責任を有することが条件とされ、裁判例で基準が定められています。高度プロフェッショナル制度の対象者が、成果を重視される専門職なのに対し、管理監督者は、経営に関する重要な決定をし、部下の監督や管理をする責任者であるといった、社内の役割にも違いがあります。

管理職と管理監督者の違い」「名ばかり管理職」の解説

高度プロフェッショナル制度の仕組み

次に、高度プロフェッショナル制度の仕組みについて解説します。

労働時間規制の適用除外

高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者には、労働時間の規制が除外される結果、働き方について幅広い裁量を与えられます。

  • 労働時間
    時間外労働をしても割増賃金(残業代)が発生せず、労働時間の上限も適用されません。
  • 休憩・休日
    一定の時間働いた場合に与えるべき休憩の規制も適用されません。法定休日に出勤をしても、休日手当は支給されません。
  • 深夜労働
    深夜時間帯に働いた場合にも、深夜手当は支給されません。

これらの規制から解き放たれることによって、従来の労働時間に縛られた働き方から解放され、自分の裁量で仕事を進めることができます。

長時間労働の問題点と対策」の解説

対象業務

高度プロフェッショナル制度の対象となるには、労働基準法41条の2第1項1号に定める対象業務とされる職種に就いている必要があります。

高度プロフェッショナル制度の対象業務は、「高度の専門知識等を必要とし、かつその性質上従事した時間と成果との関連性が高くないと認められるもの」とされ、厚生労働省令で、以下の具体例が列挙されています。

  • 金融商品の開発業務
    例:資産運用会社における新興国企業の株式を中心とする富裕層向け商品(ファンド)の開発の業務
  • 有価証券等の売買その他の取引業務
    例:いわゆるファンドマネージャー、金融ディーラー、トレーダーがする業務
  • 市場動向等の分析、評価または投資に関する助言業務
    例:特定の業界の中⻑期的な企業価値予測について調査分析を行い、その結果に基づき、推奨銘柄について投資判断に資するレポートを作成する業務
  • 顧客の事業のコンサルティング業務
    例:戦略コンサルタント、シンクタンクなどの業務
  • 研究開発業務
    例:大手メーカーの研究開発職

対象職種に形式的には該当しているとしても、使用者から具体的な従事時間の指示を受けていないことが前提であり、上記の職種に関連する業務でも「データ入力や整理業務」「取次業務」といった定型的なものは対象外です。

対象労働者

高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は、次の通りです(労働基準法41条の2第1項2号)。

  • 職務が明確に定められていること
  • 業務の内容や責任、求める成果を書面によって合意していること
  • 1年間の見込まれる賃金が1,075万円以上であること
    (基準準年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること)

対象業務に従事しているかを確認できるよう、業務内容が不明確である場合は高度プロフェッショナル制度が適用できません。また、労働時間の規制を除外しても労働者保護が不足しないよう、年間の給与が1,075万円以上という年収要件が設けられています(確実に支払われる給与の額であり、インセンティブやボーナスといった不確定なものは含みません)。

管理職を辞めたいときの注意点」の解説

高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット

次に、高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリットを説明します。

高度プロフェッショナル制度は、働き方改革のなかで、成果主義的な発想に基づいて導入されたもので、有効に活用すれば、労使双方にメリットがあります。しかし一方で、賛否両論を生んだ制定経緯からしても、運用を誤ればデメリットも大きく、注意が必要です。

労働者側のメリット

高度プロフェッショナル制度の労働者側のメリットは、次の通りです。

労働時間に縛られず柔軟に働ける

労働時間に縛られず、柔軟に働ける点が、高度プロフェッショナル制度の魅力です。

労働基準法の規制に従うと、労働時間に上限があり、残業や休日出勤をすれば残業代が発生します。これらの規制から解放されれば、自身のペースで仕事を進めることができます。例えば「成果を上げるために集中して仕事したい」「家族の事情で働く時間を調整したい」といった個々のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。

ステルス残業」の解説

成果を重視した評価を受けられる

高度プロフェッショナル制度では、労働時間ではなく、成果や業績を基準に評価されます。たとえ無用だとしても長時間労働することが評価されてしまうのが従来の労働時間制度を前提とする場合の課題でした。これに対し、高度プロフェッショナル制度なら、効率的に高い成果を出すことが重視されます。労働者にとって努力が直接評価されるので、モチベーションの向上に繋がります。

高収入を期待できる

高度プロフェッショナル制度は、年収1,075万円以上の高収入層を対象に、自由な働き方を容認します。成果主義が追求される結果、プロフェッショナルとして高い能力を持つ人材にとっては、成果次第では、更に給与を伸ばせることが期待できます。

自己成長の機会を得られる

高度プロフェッショナル制度の対象者には、専門性を最大限に発揮できる環境が整備され、スキルを更に向上させる機会が増えると期待できます。労働時間が自由なので自己管理能力が求められ、成果を出すための効率的な働き方を身につけることもできます。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

企業側のメリット

次に、高度プロフェッショナル制度の企業側のメリットについて解説します。うまくメリットを活かすには、制度をよく理解し、適切な運用と労働者への配慮が不可欠です。

人件費を抑制できる

高度プロフェッショナル制度の最大のメリットが、企業側にとって労働時間の対価(残業代、深夜手当、休日手当など)の支払いが不要となる点です。

時間外や深夜、休日の労働については、追加の手当を払う義務があるのが労働基準法の原則ですが、同制度に導入によってこれらのコストを削減できます(なお、厳しい条件を満たさなければ違法であり、無効となるため、「残業代を無くす制度」であるという誤解や悪用は許されません)。

人手不足なのに雇わない理由」の解説

生産性の向上を図ることができる

高度プロフェッショナル制度の対象になると、成果に基づいて評価されるため、仕事の効率を上げるモチベーションが生まれます。労働時間の長さに依存せず、短時間で高い成果を上げる社員が増えることは、業績の向上に繋がります。労働者が自ら管理する意識が高まるので、上司の管理コストも軽減され、組織全体が効率化できます。

高度な専門職の採用が強化できる

高度プロフェッショナル制度は、専門的な知識やスキルを持つ人を優遇します。そのため、優秀な人材を引き付ける手段として、企業の採用力を強化することができます。自由度の高い働き方を認め、競合他社と差別化することで、優秀な人材を確保できます。

評価基準を明確に示せる

成果を基準として労働者を評価することで、評価基準を明確にし、透明化することができます。明確な目標が設定されれば、優秀な人材の士気が高まり、定着率を上げられます。「無駄な残業をした人が評価されている」といった不公平感も払拭できます。

不当な人事評価によるパワハラ」の解説

労働者側のデメリット

高度プロフェッショナル制度の労働者側のデメリットを解説します。デメリットは、制度の導入や運用について、労働者の権利を侵害する誤った知識で進められた場合に特に生じます。

過労のリスクがある

高度プロフェッショナル制度の最大のデメリットは、労働時間の規制がなく、過労のリスクが高まることです。残業や休日出勤が法的に制限されないため、労働者は長時間労働を強いられる可能性があります。成果が求められることが背景にあり、成果が出ないと労働時間が過度に長引き、心身の健康に悪影響をもたらすリスクが増大してしまいます。

過労死の対策」の解説

労働時間の把握が難しい

高度プロフェッショナル制度では、労働時間の管理は労働者の自己責任となります。そのため、適切に労働時間を把握するのが難しくなってしまいます。これにより、企業が労働時間の長さを軽視し、労働者もまた自身の疲労を過小に評価していると、十分な休息やリフレッシュが確保されないまま働き、最悪は、うつ病や適応障害、過労死といった被害が生じてしまいます。

労働時間管理」の解説

本来受け取れたはずの残業代が未払いとなる

高度プロフェッショナル制度が適用されると、残業代や深夜手当、休日手当といった「長く働いたこと」を理由とする対価は一切得られません。高年収であることが要件ですが、激務で残業の多い会社だと、実質的には収入減となり、「残業代を受け取った方が結果的に得だった」ということになりかねません。

制度が悪用され、本来なら対象業務、対象労働者の要件を満たさないにもかかわらず高度プロフェッショナル制度の対象にされると、違法な未払い残業代が生じます。

残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説

成果主義の強いプレッシャー受ける

高度プロフェッショナル制度では、労働時間ではなく成果に基づいて評価されるため、従業員には常に高い成果が求められます。このことが労働者にとって大きなプレッシャーとなり、追い立てられると、精神的負担が大きくなってしまう危険があります。

成果が出せなかったことを理由にパワハラされたり、降格や減給、最悪は解雇されてしまうといったリスクも伴います。社内の競争が激化することによって、職場内の人間関係も悪化してしまうデメリットがあります。

能力不足を理由とする解雇」の解説

企業側のデメリット

最後に、企業側のデメリットについて解説します。

過剰な成果主義はモチベーションを低下させる

高度プロフェッショナル制度では成果が重視されるものの、過度に成果主義が強調されると社員がプレッシャーを感じ、モチベーションを失うリスクがあります。成果の出ない人に過度なペナルティを下したり、評価を下げたりすると、働く意欲を失わせ、離職に繋がってしまいます。

ノルマ未達を理由とする解雇」の解説

労働環境が悪化して人材が流出する

高度プロフェッショナル制度によって労働時間規制がなくなると、長時間労働に追い込まれる危険があると解説しました。劣悪な労働環境となり、社員のストレスが高まると、他に選択肢のある優秀な人材ほど、離職するリスクが高まることが懸念されます。

制度の導入・運用が違法となるリスク

高度プロフェッショナル制度は新しい制度であり、労働者保護のために複雑な要件が定められています。これらの条件を理解せず、「残業代を無くすことができる」といった軽い考えで制度導入を進めると、違法な状態となってしまいます。

高度プロフェッショナル制度を原因とする違法な状態は、本解説の通り、社員の健康管理が十分ではなく、労災を引き起こして法的責任を追及されたり、未払いの残業代を請求されてしまったりといった大きな問題に発展するおそれがあります。

管理コストの負担が増える

高度プロフェッショナル制度は、労働者の自己管理が求められる一方、企業として管理コストが減るかというと、必ずしもそうではありません。

上記の通り、制度の運用に問題があることによるリスクを軽減するには、労働者の健康を守る対策に、より一層注力しなければならず、長期的に見ると、企業の負担は増えることもあります。

安全配慮義務」の解説

高度プロフェッショナル制度を導入する手続き

次に、高度プロフェッショナル制度を導入する手続きについて解説します。

高度プロフェッショナル制度は、労働時間の制限がなくなるという強い効果を有するため、企業が導入する際は、法的な要件を満たしつつ手続きを進める必要があります。まずは企業側で正しく遵守するのが基本ですが、労働者側でもよく理解し、誤りがないか監視しなければなりません。

STEP

制度の適用要件を確認する

高度プロフェッショナル制度の前提として、法的な要件(職種要件・年収要件など)を満たす、確認する必要があります(「高度プロフェッショナル制度の仕組み」参照)。

STEP

労使委員会を設置する

次に、労使委員会を設置します。高度プロフェッショナル制度では、誰を対象とするかなど、重要事項は労使委員会で決める必要があります。

労使委員会の委員の半数について、労動者の過半数代表者(または過半数組合)が任期を定めて指名することが要件とされています。

STEP

労使委員会の決議を行う

次に、労使委員会の決議を取得します。決議要件は、委員の5分の4以上の多数による決議とされており、決議すべき時効は以下の10つです。

  1. 対象業務
  2. 対象労働者の範囲
  3. 健康管理時間の把握および把握方法
  4. 年間104日以上かつ4週4日以上の休日
  5. 選択的措置
  6. 健康・福祉確保措置
  7. 同意の撤回に関する手続き
  8. 苦情処理措置
  9. 同意しなかった労働者への不利益取扱の禁止
  10. その他厚生労働省令で定める時効(決議の有効期限等)
STEP

労使委員会の決議を労働基準監督署に届け出る

労使委員会の決議は、労働基準監督署に届出をします。労働基準法に違反する内容でないか、行政の監督を受ける必要があるからです。

STEP

対象労働者の個別の同意を得る

労使協定で高度プロフェッショナル制度を導入した後、実際に適用するには、対象となる各労働者から個別の同意を得る必要があります。

この同意は、口頭ではなく書面で明確に行われる必要があります。同意がなければ、高度プロフェッショナル制度を強制的に適用することはできません。

企業は、労働者に対して制度の内容、適用後の労働条件や給与体系について、丁寧に説明をする義務があります。同意は、労働者の真意で行われる必要があるため、制度の内容を十分に理解した上で同意を取得しなければなりません。

STEP

健康・福祉確保措置を実施する

制度の導入が労働者に悪影響を与えないよう、健康状態を適切に管理するために、健康確保措置を講じる必要があります。

高度プロフェッショナル制度によって労働時間の規制が適用除外とされると、働きすぎを助長するおそれがあるため、企業が率先して、仕事から完全に解放された時間を確保する努力が必要とされるのです。

健康・福祉確保措置の例は、次の通りです。

  • 健康管理時間の把握
    健康管理時間とは、対象労働者が事業場内にいた時間と事業場外において労働した時間の合計のことです。この時間についての客観的な把握方法を定める必要があります(例:タイムカードや勤怠管理システムなど)。医師による面接指導を適切に実施できるよう、1ヶ月あたりの健康管理時間の合計についても把握すべきです。
  • 休日の確保
    対象労働者に年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えることが義務とされます。連続勤務とならないよう、休日取得の手続きを具体的に明らかにし、対象労働者に周知するのが望ましいです。
  • 選択的措置
    以下のいずれかの措置を選択して実施する必要があります。
    • 勤務間インターバルの確保(始業から24時間を経過するまでに11時間以上の休息期間)と深夜業の回数制限(1カ月に4回以内)
    • 健康管理時間の上限措置(1週間あたり40時間を超えた時間が1カ月に100時間以内または3カ月に240時間以内とすること)
    • 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること(本⼈が請求した場合は連続1週間を2回以上)
    • 臨時の健康診断(1週間に40時間を超えた健康管理時間が1カ月に80時間を超えた労働者または申出があった労働者が対象となる) なお、1つ目の「勤務間インターバルの確保」とは、「始業から24時間を経過するまでに11時間以上の休息期間を確保」することを意味します。
  • 健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
    以下のいずれかの措置を選択して実施する必要があります。
    • 選択的措置のいずれかの措置(選択的措置についての決議で定めたもの以外)
    • 医師による⾯接指導
    • 代償休日または特別な休暇の付与
    • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
    • 適切な部署への配置転換
    • 産業医等による助言指導または保健指導
STEP

適正な制度運用を継続する

高度プロフェッショナル制度の導入後も、適正に運用されているかどうか、定期的に確認し、不適切な点がある場合は速やかに改善すべきです。対象者から、健康や労働条件に不満がないか、フィードバックを定期的に収集し、改善策を講じるようにします。また、6ヶ月以内ごとに、制度の実施状況を労働基準監督署に報告し、監督を受けます。

長時間労働の相談窓口」「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

高度プロフェッショナル制度について労働者側の注意点

最後に、高度プロフェッショナル制度の導入される企業で働く際の、労働者が注意すべきポイントについて解説します。高度プロフェッショナル制度は、労働者の働き方の自由度を高めてくれる一方で、リスクや注意点も多く存在します。

制度の利用に同意するか慎重に判断する

高度プロフェッショナル制度は、労働者の同意が必要な制度です。

適用される要件にあてはまったとしても、同意しない限り、制度の利用を強制されはしません。労働者が内容に納得し、メリットとデメリットを理解して、自分に有利な働き方ができると判断して初めて行われるものです。高度プロフェッショナル制度の対象となるほど専門性の高度な労働者なら、十分に会社と交渉し、自分に不利だと感じれば同意を拒否できるはずです。同意を強制するのは不当であり、違法なパワハラにも該当します。

制度の利用に同意するかを決断するにあたり、次の点を考慮してください。

過労のリスクを認識する

高度プロフェッショナル制度は労働時間の規制がなく、長時間労働や過労に陥るリスクがあります。十分な休息を確保して、無理のない働き方ができるか、確認してください。

時間外手当が支給されないことを理解する

高度プロフェッショナル制度では、時間外労働に対する手当(残業手当、深夜手当、休日出勤手当など)が一切支給されないことを理解する必要があります。これまでの働き方を見直し、収入に占める残業代の割合が大きい労働者には適していない可能性があります。

契約内容を十分に確認する

高度プロフェッショナル制度が適用される場合、労働委員会の取り決めや、個別の労働契約の内容をよく確認してください。休息の確保や評価基準、給与の決め方などが納得感のあるものでない場合、事前に会社に確認し、安易に同意してはいけません。

労働条件の不利益変更」の解説

成果主義のプレッシャーによるパワハラに備える

高度プロフェッショナル制度では、常に高い成果を求められるため、社内の競争が激化したり、ノルマや期限のプレッシャーが過大になったり、職場における社員間の摩擦やストレスが大きくなったりする弊害が考えられます。成果が出ないと報酬が減少したり、昇進の機会が減り、退職を迫られることもあります。

高度プロフェッショナル制度だからといって過度に追い詰めてよいわけではなく、業務に必要ない指示であったり、目的達成のために不相当なほどの強い圧力であったりするときは、その言動がパワハラにあたる可能性があります。

「高い給料をもらっているのだから」「自由には責任が伴う」といった理屈によっても、違法なパワハラが正当化されることはありません。

パワハラの相談先」「パワハラと指導の違い」の解説


健康状態が悪化しないよう慎重に管理する

高度プロフェッショナル制度を活用するには、労働者自身が、時間や仕事の進行を自己管理できる能力が必須となります。会社から細かい指示や時間管理をされない分、自ら業務の進捗を管理して、効率的に働く必要があります。自己管理が十分でないと、高度プロフェッショナル制度では専門性が活かせず、重要な仕事に遅れが生じたり、結果的に長時間労働によって解決せざるを得なくなったりするおそれがあります。

企業には、高度プロフェッショナル制度に伴って健康・福祉確保措置を講じる義務がありますが、労働者としても、自身の健康を損なわないよう慎重にチェックし、定期的に健康診断を受けたり、適切な休息を確保したりといった心がけが大切です。

労働者の自己保健義務」の解説

制度が無効なら残業代を請求できる

高度プロフェッショナル制度に厳しい条件が設定されているのは、労働者の権利を不当に侵害されるような悪用を防ぐためです。そのため、これらの条件を満たさない場合は、制度の導入は違法であり、無効であると言わざるを得ません。

高度プロフェッショナル制度が違法で、無効となる場合、原則に戻って労働時間の規制が適用されることとなる結果、残業代を受け取ることができます。会社が、高度プロフェッショナル制度を理由として残業代を支払ってこなかったなら、未払いとなっている残業代を請求すべきです。残業代請求の時効は3年間のため、請求から3年前まで遡って請求することができます。

残業代の計算方法」「残業代を取り戻す方法」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、高度プロフェッショナル制度についてわかりやすく解説しました。

高度プロフェッショナル制度は、自由度の高い働き方を可能にしますが、過労や残業代未払いといった違法状態に巻き込まれるおそれがあります。同制度の下では、労働時間の管理は労働者の自己責任となるため、働き過ぎによる負担は、直接に跳ね返ってきてしまいます。

高度プロフェッショナル制度をうまく活用すれば、時間に縛られない働き方で、生産性を向上させられるメリットがあるものの、デメリットとして残業代は得られません。企業の利益が優先され、本来なら条件を満たさないのに対象とされてしまうと、大切な権利を侵害されてしまいます。

高度プロフェッショナル制度は新しい制度なので、対象とされた労働者は自身の労働条件をよく確認し、違法の疑いがあるときは弁護士に相談するのがおすすめです。

この解説のポイント
  • 高度プロフェッショナル制度は、要件を満たす場合に残業代をなくす効果がある
  • 高度プロフェッショナル制度が悪用されると、残業代の未払いや過労に繋がる
  • 要件を満たさないのに制度を理由に残業代を払わないのは違法

\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

目次(クリックで移動)