労災申請すべきであると、事故や症状発生のしばらく後で気づくことがあります。
相談者労災申請はあとからでも可能?
相談者申請が遅れると不利益がある?
時間が経過しただけで申請が制限されることはありません。ただ、給付の種類によって申請期限があるので、できるだけ早めに対応すべきです。また、あとから申請するときこそ、証拠収集を徹底しないと、労災認定を得られないリスクがあります。
今回は、あとから労災申請を行う際の期限や手続き、注意点などについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 労災の申請は、事故発生から時間が経過しても、あとからでも可能
- あとから労災を申請するケースほど、証拠収集を徹底する必要がある
- 労災の申請が遅れると、認定が難しくなってしまうリスクがある
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労災はあとからでも申請できる?

労災は、一定の要件を満たせば、あとから申請が可能です。
労災保険は、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく制度で、2年〜5年の申請期限があるものの、期限内なら手続き可能です。とはいえ、遅れると不利益は否めないので、気付いたらすぐに申請しましょう。
よくある「あとから申請」の具体例
労災は、事故直後の申請の方が争いになりづらいですが、実際は、気づくのが遅れたり、会社が非協力的だったりなど、適切なタイミングで申請できないケースもあります。
あとからの申請の具体例は、次の通りです。
- 症状の発見が遅れた場合
- 直後は痛みや異常がなかったが、数日〜数週間後に悪化した。
- 最初は「大したことはない」と自己判断してしまった。
- 症状と業務の因果関係に気付けなかった。
- 労災の知識がなかった場合
- そもそも労災制度や申請手続きを知らなかった。
- 健康保険を使って通院し、後で労災だと気付いた。
- 「アルバイトは労災申請できない」と誤解していた。
- 会社に気を使って控えた場合
- 会社の顔色を窺っていたが、徐々に症状が重くなった。
- 不利益や報復が怖かった。
- 症状が顕在化してから、ようやく労災に気付いた。
症状が軽いほど、会社の顔色を窺って申請に踏み切れない人もいます。脳や心臓の疾患、メンタル不調など、症状がすぐ発現しないケースもあります。知識不足や意図的な労災隠しなどの原因で、申請が遅れてしまう例も少なくありません。
申請が遅れたことに事情があれば、期限内に申請して労災認定を受けられる可能性は大いにあります(健康保険で治療中でも切替え可能です)。
「労災隠し」の解説

「あとから申請」をする際の注意点
ただし、あとからの申請だと不利になるケースもあります。
たとえ期限内でも、時間が経過すると証拠は失われ、業務と傷病の因果関係(業務起因性)が立証できないケースも多いです。申請が遅れたことで直ちに労災でなくなるわけではないものの、遅れるほど認定のハードルが上がるのも事実です。
この不利益を回避するため、業務起因性を立証する証拠を集めることが重要です。
労災の可能性があるなら、早めに医療機関を受診し、診断書を入手すべきです。事故状況を示す証拠(現場の写真、目撃者など)も、後からでは集めづらいです。
会社が協力的でないケースは特に、労災事故の直後から、メールやLINE、日報、報告書、録音といった証拠を、労働者側で積極的に集めなければなりません。
「労災を会社が認めない時の対応」の解説

労災申請の期限はいつまで?

次に、あとから労災申請する際に注意すべき「期限」について解説します。
労災保険の給付には、法律の定める申請期限(時効)があり、これを過ぎると権利が消滅して給付を受けられなくなります。事故発生から時間が経ち、あとから申請する場合、時効前に必ず申請書類を労働基準監督署に提出することが重要です。
給付の種類によって、以下のように時効の期間や起算点が異なります。
労災の各給付ごとの申請期限(時効)
労災保険の給付には種類があり、それぞれ申請期限(時効)が異なります。各給付の申請期限は、労災保険法42条に次のように定められています。
| 給付の種類 | 起算点 | 期間 |
|---|---|---|
| 療養(補償)給付 | 費用支出が確定した日の翌日 | 2年 |
| 休業(補償)給付 | 賃金を受けない日の翌日 | |
| 葬祭料(葬祭給付) | 死亡した日の翌日 | |
| 介護(補償)給付 | 介護を受けた月の翌月1日 | |
| 二次健康診断等給付 | 一次健康診断の結果を知ることができる日 | |
| 障害(補償)給付 | 症状固定日の翌日 | 5年 |
| 遺族(補償)給付 | 死亡した日の翌日 | |
| 傷病(補償)年金 | - | - |
申請期限を経過すると、時効によって権利が消滅してしまいます。
なお、あとから申請するケースでは、事故日や受診日などの起算点を誤認していて、申請期限を徒過してしまうことがあるので注意が必要です。
療養(補償)給付
療養(補償)給付は、労災による傷病で療養を要した場合に、治療費などを補償します。現金給付の「療養の費用の支給」と、現物支給の「療養の給付」の2種類があり、前者は費用支出が確定した日の翌日から2年が申請期限です(後者は現物支給なので期限なし)。
休業(補償)給付
休業(補償)給付は、労災による傷病で休業し、賃金を受け取れない場合の補償です。申請期限は、働けずに賃金を受け取ることができなくなった日の翌日から2年間です。
「労災の休業(補償)給付」の解説

葬祭料(葬祭給付)
葬祭料(葬祭給付)は、労災で死亡した労働者に対する一定の現金給付であり、被災した労働者が死亡した日の翌日から起算して2年が申請期限となります。
介護(補償)給付
介護(補償)給付は、労災によって一定の障害があり、「傷病(補償)等年金」又は「障害(補償)等年金」を受給し、かつ、現に介護を受けている場合に、月単位で支給されます。介護を受けた月の翌月1日から起算して2年が申請期限となります。
二次健康診断等給付
労働安全衛生法に基づく定期健康診断(一次健康診断)等の結果、所定の項目の全てに異常の所見が認められた場合に、二次健康診断及び特定保健指導を受けることができます。一次健康診断の結果を知ることができる日から起算して2年が申請期限となります。
障害(補償)等給付
障害(補償)給付は、労災による傷病が症状固定に至った際、一定の障害が残った場合に、障害等級に応じて年金(障害(補償)年金)又は一時金(障害(補償)一時金)として支給されます。症状固定とは、これ以上治療しても症状に変化がない状態のことです。症状が固定した日の翌日から起算して5年が申請期限となります。
遺族(補償)等給付
遺族(補償)給付は、労災で死亡した人の遺族に支給される補償で、年金(遺族(補償)年金)と一時金(遺族(補償)一時金)があります。被災労働者が死亡した日の翌日から起算して5年が申請期限となります。
「労災の遺族(補償)給付」の解説

傷病(補償)年金
傷病(補償)年金は、療養開始後1年6か月を経過しても症状が固定せず、傷病等級(1級~3級)に該当する場合に支給されます。労働基準監督署長の職権により支給が決定されるため、申請期限はありません。
労災の損害賠償請求の時効
労災認定されると、保険給付とは別に損害賠償請求が可能な場合があります。
会社は労働者を安全な環境で働かせる義務(安全配慮義務)を負い、同義務の違反があれば損害賠償を請求できます。例えば、危険な作業を改善しない、適切な休息を与えない、長時間労働やハラスメントを見逃すなど、劣悪な労働環境を放置した企業には責任が生じます。
損害賠償請求は、不法行為(民法709条)に基づく請求なので、その時効が適用されます。具体的には、損害及び加害者を知った時から3年間(生命・身体の侵害は5年間)、不法行為の時から20年間が経過すると、時効によって権利が消滅します。
労災保険では精神的損害は補償されないので、会社に慰謝料を求めることが可能です。
なお、同一の損害について二重取りはできず、会社が先に支払った場合はその分は労災保険から控除され、労災保険を先に受け取った場合は国が会社に求償権を行使することで調整します(なお、労災保険の給付に上乗せして支給される「特別支給金」は、支給調整の対象外)。


退職後でも申請は可能?

原則として、退職後でも申請は可能です。
業務や通勤による負傷や疾病に対して支給される労災保険給付は、「発生時に労働者だったかどうか」を基準に補償されるので、「在職中に申請する」という制限はありません。したがって、原因となった事故が在職中なら労災申請は可能です。
ただし、以下の点にはくれぐれも注意してください。
在職中に比べて事実確認が難しい
退職後の労災申請では、事故発生時の事実の確認が難しいことがあります。
在職中なら、従事した業務の内容や勤務実態、労働環境や事故態様などを速やかに確認し、傷病との因果関係を検討できます。しかし、会社を辞めた後は、正確な把握が困難でしょう。
長時間労働やハラスメントなど、企業側に問題あるケースは特に、会社が協力せず、証拠が開示されないおそれがあります。対策として証拠集めは在職中に行っておくことが重要です。
なお、会社が労災申請に協力しない場合、労働基準監督署に事情を説明し、労働者単独で進めることも可能です(「会社が申請に非協力的な場合の対応」参照)。
「退職後でも支給を受ける方法」の解説

退職後の症状と後遺障害について
退職後に症状が現れたケースは、業務起因性の立証が特に重要です。
あとから症状に気付いても、発症のきっかけが在職中の業務であるなら、労災認定を受けられます(後遺障害の認定を受けることも可能です)。ただし、労災事故の発生から期間が経過するほど、因果関係の立証のハードルは高くなりす。
メンタル不調や、有害業務による疾病などは、症状が目に見えづらい分、更に問題が深刻です。症状の悪化が事故直後から一貫しており、診断書に業務との因果関係が明記されていることなどが重要なポイントとなります。
「労災の不支給決定と不服申し立て」の解説

労災をあとから申請する場合の注意点

次に、労災をあとから申請する場合の注意点について解説します。
事故状況の証拠や診断書を必ず保管する
労災申請で最も重要なのは、業務との因果関係を証明する証拠です。
時間が経過した後で労災申請を行う場合、認定を得るには証拠の確保が課題となります。時間の経過によって失われやすいので、証拠の保全に努めてください。特に、会社が事実を否定する場合、労働基準監督署は次のような資料に基づいて労災認定の可否を判断します。
【事故発生状況の記録】
- 事故現場の写真や動画
- 業務日報や日記など、当日の仕事内容の記録
- LINEやメールのやり取り
- 上司や同僚に事故や体調不良を報告した内容
- 作業指示書や報告書
- 出張中や休日出勤中なら、その日の行動記録
- 翌日以降の症状の推移
【医療記録】
- 診断書
- 検査結果、処方内容
- カルテや診療記録
- 治療内容の説明書
これらの証拠により、症状悪化の推移を示せると、因果関係の説明がスムーズです。
同僚や上司など、現場を知る人の証言も、有力な証拠です。現場で働く人こそ、作業手順や危険性、労働環境の劣悪さなどを如実に語れるからです。可能なら、複数人の証言を確保して補強すると共に、あとから労災申請する場合に備え、署名付きの陳述書を入手しましょう。
「パワハラを第三者が訴えることは可能?」の解説

会社が申請に非協力的な場合の対応
労災は通常、会社が協力して申請することが多いですが、協力的でない会社もあります。中には、責任を逃れたくて「労災ではなかった(業務との関連性のない傷病である)」と主張し、労災を隠そうとする企業もあります。
うつ病や適応障害といった精神疾患だと、因果関係が目に見えず、労災であることを否定する会社は少なくありません。
会社が申請に非協力的でも、労災申請は労働者自身で進められます。この場合、労災保険給付の請求書の事業主証明欄に署名が得られないものの、署名拒否理由書に事情を書いて説明すれば、労働基準監督署の調査が行われます。
会社の協力がないと認定のハードルが上がるのは事実なので、労働基準監督署に書き方を相談したり、労災に精通した弁護士のサポートを受けたりするのがお勧めです。
「労働基準監督署への通報」の解説

健康保険を使って治療してしまったら?
労災事故による傷病でも、誤って健康保険を使って診療を受けてしまう人もいます。
この場合、労災への切り替えが可能です。健康保険は私傷病(私生活中の怪我や病気)に適用されるもので、治療費の自己負担があります。一方、労災保険は業務や通勤中の傷病に適用されるもので、療養にかかった費用は全額補償されます。したがって、労災なのに健康保険を使うのは誤りですが、本人や病院が労災であると認識していなかったり、金銭的な事情でやむを得ず健康保険を利用してしまったりするケースは少なくありません。
労災であると判明した時点で、速やかに健康保険から労災保険への切り替えをしましょう。手続きを踏むことで、一度負担した医療費について労災保険から給付を受けられます(支払った医療費は償還払いにより返金されるので、領収書などの支払い記録は保管しておいてください)。
「労働保険(労災保険・雇用保険)」の解説

労災申請を遅らせないために知っておきたいポイント

最後に、労災申請を遅らせないために知っておきたいポイントについて解説します。
判断に迷うなら、自分一人で申請をあきらめる決断をする前に、弁護士に相談してください。
労災かどうか迷うなら弁護士に相談
労災かどうかは、自身では判断が難しいケースもあります。
業務起因性が曖昧だったり、時間差で症状が悪化したりと、あとから申請するケースほど、労災認定の可否を判断するには法律知識を要します。あとから請求できるからといって申請をためらわず、専門的な知識を持つ法律事務所に早めに相談しましょう。
弁護士は、申請手続きの代行から書面作成、労基署とのやり取り、異議申立て、会社に対する安全配慮義務違反の損害賠償請求まで、労災に関して一括支援できます。また、初回の法律相談でも、労災かどうかの見通しをお伝えできます。
会社が労災を認めないケースや、不当解雇やハラスメントの絡むケースは、労災だけでなく多くの労働問題の解決が必要となり、弁護士のサポートは必須となります。
相談費用が不安な場合は、法テラス(日本司法支援センター)も検討しましょう。一定の収入要件を満たせば、無料相談を受けることができます。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説

申請期限前でも早期申請はメリットあり
労災申請は、たとえ法律上の期限内でも、早期に動くことにメリットがあります。
早い段階で申請すれば、事故現場の状況や証言など、鮮度の高い証拠を収集できます。医師の診断でも、業務との因果関係を明確に記載してもらいやすいです。労基署の審査もスムーズに進み、給付開始が早まることも期待できます。
むしろ、「期限はまだ先だから」と申請を先延ばしにすると、業務との因果関係が疑われやすくなります。そうすると会社も、労災を否認することも多くなり、不信感が生じて関係が悪化しやすいデメリットもあります。
「労働問題の種類と解決策」の解説

あとから痛みや症状が出た場合もすぐに受診する
受傷時は軽症だったり、徐々にメンタルが悪化したりするケースがあります。初期は「これくらい大丈夫」と放置したが、数日〜数週間後に痛みやしびれが悪化するケースもあります。
このようなケースで初動を誤ると、業務との因果関係を証明できず、労災認定が得づらくなります。そのため、あとから痛みや症状が出てきた場合は、その時点で受診することが重要です。放置していると、「本当に業務中のケガなのか」「別の原因(家庭の事情など)があるのでは?」と疑われ、トラブルに発展しかねません。
直後でなくとも、気付いたらすぐに受診してください。症状が軽微でも、念のため速やかに動くべきです。医療機関を受診する際は、医師に対し、業務内容や負荷の程度、事故状況、翌日以降の症状の経過などを具体的に伝え、適切に記録してもらうことが、労災認定のために非常に重要です。
「会社に診断書を出せと言われたら」「業務命令の拒否」の解説


まとめ

今回は、労災をあとから申請する際の法律知識について解説しました。
労災は、事故発生の直後に申請するのが理想ですが、あとから申請も法律上可能です。給付の種類による申請期限を理解し、必ず期限内に進めてください。あとからでも申請は可能ですが、期限を過ぎると十分な補償を受けられなくなるからです。
一方で、申請が遅れることで証拠が不十分になったり、会社が非協力的になったりと、遅れることによるリスクも否めません。労働者側でも、事故状況の記録や医師の診断書など、客観的な証拠をしっかりと残して対策しておきましょう。
労災申請すべきか迷うときは、早めに弁護士に相談してください。遅れたとしても、労災申請をあきらめず、適正な補償を受けるためにサポートします。
- 労災の申請は、事故発生から時間が経過しても、あとからでも可能
- あとから労災を申請するケースほど、証拠収集を徹底する必要がある
- 労災の申請が遅れると、認定が難しくなってしまうリスクがある
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【労災申請と労災認定】
【労災と休職】
【過労死】
【さまざまなケースの労災】
【労災の責任】




