不当解雇のトラブルを会社と争うには証拠が必要です。たとえ違法な解雇の犠牲になったとしても、その違法性を立証できなければ責任追及はできません。不当解雇をするブラックな会社ほど、あることないこと並べて徹底して反論してくるものです。
会社と争おうと決心したら、まずは証拠収集から始めましょう。「不当解雇の証拠としては何が必要なのだろうか」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。実際、証拠となるものには多くの種類があり、有効な証拠を判別しなければ、有利に戦いを進めることができません。
今回は、不当解雇の証拠の種類や集め方、注意点について労働問題に強い弁護士が解説します。
- 不当解雇を裁判で争うなら、証拠が非常に重要となる
- 不当解雇の証拠には種類があり、価値の高い証拠を知って戦略的に集める
- 不当解雇の証拠が手元になくてもあきらめず、弁護士に相談して争うべき
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不当解雇の証拠は裁判で争うのに重要
まず、不当解雇を争うには、証拠が非常に重要です。
不当解雇の争い方は、まずは交渉からはじめ、話し合いで解決できないときは労働審判や訴訟といった裁判手続きに進みます。このとき、労働審判や訴訟などの裁判手続きで会社と争うには、証拠が非常に重要です。
不当解雇の問題を交渉で解決できるなら、必ずしも厳密な証拠は求められません。労働者側で「実は確実な証拠はない」というケースでも、「大事にはしたくない」と考える使用者が交渉に応じれば、不当解雇の解決金を支払うことによる金銭解決によって収まる場合があるからです。
しかし、会社が交渉での解決に応じないとき、労働者もあきらめきれないでしょう。そこであきらめて争いを止めるのでもない限り、裁判手続きに進める決断をすべき。このとき、裁判において不当解雇の問題を解決するなら、証拠が必須となります。
裁判所は、労働者と会社の主張する事実が異なる際に、証拠に基づいて事実を認定します。裁判では、仮に、労働者の主張が「真実」で、会社の主張が「虚偽」だったとしても、証拠による立証ができないと、労働者の主張する事実は「なかったこと」になってしまいます。
不当解雇の問題について会社との争いを始める場合、最終的に裁判手続で解決することも見据えて必ず証拠を準備しておくようにしてください。
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不当解雇の立証のために集めるべき証拠の種類
不当解雇を立証するために集めるべき証拠は、大きく分けると次の3つです。
上記3つの種類のうち、どのような資料が重要性の高い証拠となるかについても具体例で解説します。なお、証拠は「労使間で争いのある事実」を立証する程度のものが必要で、労使間で争いのない事情については不要です。個別のケースでどのような証拠を集めるべきか、判断に迷うときは弁護士にご相談ください。
労働条件に関する証拠
不当解雇か否かを判断するには、前提として労働者の労働条件を知る必要があります。労働条件に関する証拠としては、次のものを集めてください。
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 給与明細
- 就業規則、賃金規程
労働条件を証拠により証明することが不当解雇を争う際に必要なのは、それによって解雇が正当かどうかの結論が変わるからです。次章に解説の通り、解雇には正当な理由が必要ですが、このとき、就業規則に記載された解雇事由に該当するかどうかが問題となり、その前提として、就業規則を証拠として確保しておかなければなりません。
例えば「能力不足による解雇」の事例では、
- 何らかのスキルを持っていることが雇用条件となっていたか
- 高い能力を期待されるほどの給料が支払われていたか
- 労働者の能力を判断するだけの期間があったか
といった点が問題となり、この点について労働者側にとって有利な主張をするには、労働者の給料、求められる能力などに関する雇用契約書上の約束を証明する必要があり、そのための証拠が必要となります。
解雇理由に関する証拠
次に、解雇理由の証拠を準備しましょう。解雇には正当な理由が必要です。解雇に正当な理由があるか否かを判断するには、会社からの解雇理由を明らかにしなければなりません。解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性のない解雇は、違法な不当解雇であり、無効となるからです(労働契約法16条)。
解雇理由に関する証拠には、次のものが挙げられます。
- 解雇通知書
- 解雇理由証明書
- 解雇についての話し合いの際の録音
(解雇時の社長の発言や退職勧奨時の指摘など)
不当解雇を争う際は、解雇理由に、客観的合理性が認められるかどうかが最大の争点となります。会社側が解雇した理由が明らかになっていなければ、戦いのスタート地点にも立てていないといってよいでしょう。証拠によって解雇理由を明らかにすることは、会社の主張を覆すためにどのような証拠を集めるべきか、これからの進め方の指針として非常に重要です。
なお、日常的に注意指導を受けていた場合、解雇理由を知るきっかけにはなります。そのため、業務における注意指導の履歴、注意指導書、上司からのメールでの指摘や始末書といったものも重要な証拠です。
ただ、これらはあくまで解雇理由を知るヒントに過ぎず、それぞれの注意や指摘の内容が解雇するほどではないとき、それだけでは解雇が相当とはいえず、解雇理由の証拠としては不十分となってしまいます。解雇されたなら、常日頃の指摘からその理由が推察できたとしてもなお、必ず「解雇理由の証拠」を求めてください。
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解雇後の事情に関する証拠
解雇後の事情に関する証拠も重要です。
解雇後に会社とどんなやり取りがあったか、金銭が支払われたかといった事情は、今後会社に請求する給料や残業代、解雇の慰謝料などの請求額に影響します。解雇予告は少なくとも30日前にするか、30日分の解雇予告手当を要するため、予告が事前にされたらその時点から証拠を集められます。
解雇後の証拠として集めるべきものは、次の通りです。
- 解雇後に交付された給与明細、源泉徴収票
- 解雇後の話し合いの録音
- 解雇の撤回を求める内容証明
- 解雇理由について回答されたメール
不当解雇を争う際は、労働者としての地位確認と共に、解雇が無効となった場合の解雇期間中の賃金(バックペイ)を請求します。このとき、バックペイを請求するには、解雇の撤回と復職の意思を示しておく必要があるため、解雇後に労働者の主張を記した内容証明を送っていることは、非常に重要な証拠となります。
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不当解雇の証拠により労働者が立証すべき事実とは
証拠を集めるにあたり、やみくもに書類をかき集めるのはお勧めしません。手間や労力が余計にかかるのはもちろん、手当たり次第に資料を検討しはじめると煩雑になり、重要な証拠を見逃す危険もあります。
裁判手続きにおける証拠は「自分の主張を立証するため」に必要であることを肝に銘じてください。そのため不当解雇の証拠もまた、「違法な不当解雇であること」を立証するために集めるのです。労使のいずれもが認める事実については証拠は不要ですが、会社は「不当解雇ではない」と反論するでしょうから、これを基礎づける事実について労使の認識が食い違うのは当然です。
不当解雇の争いで、労働者が立証すべきことは、例えば次の事実です。
- 労働条件
- 解雇通知を受けたこと
- 解雇理由を基礎づける事実
- 解雇通知後の事情
重要なポイントは、証拠は「事実」を証明するためにある、という点。「解雇が不当かどうか」というのは「評価」であり「事実」そのものではありません。会社から解雇されると感情的になり「不当だ」「私は能力がある」「勤務態度は悪くなかった」と声高に叫ぶ人は多いですが、大切なのは、それを基礎づける「事実」を1つずつ、証拠を挙げながら反論していくこと。この点で、不当解雇の証拠として、有効なものを地道に集める作業が決定的に重要となります。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
不当解雇の証拠の集め方
不当解雇に関する証拠の集め方は、次の4つの方法が挙げられます。一方的な解雇が不当なことは、正社員でもアルバイトでも同じことで、しっかりと対処が必要となります。
会社に資料の提出を請求する
まず、会社に資料の提出を請求することから始めましょう。不当解雇をはじめ労働トラブルでは、労働者の手元にあまり証拠がなく、会社が保管していることが多いものです。そのような不公平を解消するため、法律は、多くの資料の保管や備え付けの義務を会社に課しています。
会社に請求する証拠は、不当解雇を争う際の前提となるものが多いので、早めに集めておきたいところです。なかでも、解雇理由証明書は、不当解雇の争点を明らかにするうえで重要な証拠であり、会社は、労働者からの請求があれば交付する義務があります(労働基準法22条)。
「解雇理由証明書の請求方法」の解説
メールやLINEのやり取りをスクショする
解雇理由によっては、会社と労働者が日常的にどのようなやり取りをしていたのかが、重要な争点となるケースがあります。以下の資料は、労働者の勤務態度や会社からの指導の内容を明らかにする証拠となります。
- 社長からのメール
- 上司や同僚とのメールやLINEのやり取り
- 会社のグループチャットの履歴など
会社との争いを始める前に、やり取りを全てスクショで保存してください。特に、会社のグループチャットや社内メールは、退職後にはアクセスできなくなったり、会社から消されたりする可能性があります。
また、何が証拠になるかは、裁判の進行によっても変わるため、「証拠になるのか疑問のあるやり取り」や「自分にとって不利と考えられるやり取り」でも、直ちに不要と判断するのでなく、全てのやり取りを残しておきましょう。
会話の内容を録音する
不当解雇のトラブルに巻き込まれそうなら、会話の内容は必ず録音しましょう。
録音データは、客観的な証拠として裁判で活用できます。民事裁判では相手の了承を得ずに録音した会話のデータも、証拠として有効です。争いのなかで、会社にとって状況が不利になると、解雇理由や解雇を告げたときの状況などについて会社が主張を変えてくることがあります。その際に録音データが手元にあれば、主張の変更を許さず、矛盾を突くことができます。
ただし、録音するのは、自身の不当解雇に関する証拠についてのみにしてください。他人の会話や会社の機密事項の含まれる会議を録音し、公開してしまうと、他の社員のプライバシーを侵害したり、会社から逆に損害賠償請求をされたりするおそれもあります。
「パワハラの録音」の解説
日々の出来事を記録しておく
自分自身で、日々の出来事を記録したメモも裁判において証拠になります。
解雇されそうなときや、解雇通知を受けた後には、業務の内容はもとより、自分の身の回りで起こった変化を細かく記録しておくことを強くお勧めします。解雇とは関係なく日常的に日記をつけていた場合、その内容は証拠として重要な価値を有します。メモや日記を取る場合、重要な証拠として評価されるために、次のポイントを押さえてください。
- 日時を正確に記載する
- 毎日記録することを心がけ時系列を辿れるようにする
- 紛失しないよう大切に保管する
- 具体的で、詳細に記録する
- 社長や上司など発言者を明らかにする
- 後から付け加えたり訂正したりしない
メモが具体的であることで、証拠としての価値が増し、裁判で有利に働きます。
確かに、自分で作成した記録は、その他の客観的な証拠に比べると軽視されがちですが、不当解雇を争うためにできる限りの証拠集めをしなければなりません。記憶が新鮮なうちに、リアルタイムで出来事を記録しておけば、「裁判時に自分の都合の良いように作成したのだろう」と排除されることはなく、客観的な記録として、十分な証拠価値を有します。
なお、労働者のメモや日記は、付随的に、パワハラの証拠となったり、働いていた時間を立証し、残業代請求の証拠となったりといった機能もあります。
「メモは残業時間の証拠になる」の解説
不当解雇の証拠を集める際に注意すべきこと
不当解雇の証拠を集める際は、不当、違法な手段を用いないよう注意してください。
不正に証拠を集めても裁判で活用するのは難しく、むしろ会社から損害賠償を請求されたり、訴えられたりして窮地に陥る危険があります。証拠集めの方法が不当かどうかについて裁判例は「著しく反社会的な手段を用いて人格権侵害を伴う方法かどうか」という判断基準を示しています(東京高裁昭和52年7月15日判決)。
証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである。
東京高裁昭和52年7月15日判決
著しく反社会的な手段を用いて、人格権侵害を伴う方法で収集した証拠の例は、次のものが挙げられます。
- 会社から盗み出した証拠
- 上司や同僚のパソコンに不正アクセスして入手した証拠
- 暴力で無理やり取り上げて入手した証拠
- 脅して得た同僚の証言
- 挑発して得た隠し録音
紹介した例は極端ですが、このような方法で証拠を得た場合、最悪は窃盗罪(刑法235条)暴行罪(刑法208条)、脅迫罪(刑法222条)といった罪に問われる危険もあります。不当解雇を裁判で争う証拠を集めようとして、自分が罪を犯しては本末転倒です。
せっかく入手した証拠も裁判で利用できなければ意味がありません。証拠の収集方法には十分に注意してください。弁護士に事前に相談すれば、無理して証拠を集めるよう指示することはなく、必要な範囲で工夫と努力で得られる証拠によって、どのように争うべきか戦略をアドバイスします。
不当解雇の証拠がないときの対処法
ここまで解説したような不当解雇の証拠が入手できなくても、まだあきらめてはいけません。悪質な会社ほど証拠を開示しないよう、証拠を隠すようにして不当解雇をしてきます。証拠が入手できなくても負けが確定したわけではなく、対処法を理解しておいてください。
代案となる証拠を検討する
証拠がないと労働者にとって重要な事実が証明できないおそれがありますが、代案となる証拠がないかどうか検討してください。
入社時に労働条件が明示されないのは労働基準法15条違反ですが、それでもなお雇用されているなら、毎月の給料明細や入社時のLINEやメールなどで労働条件の証明が可能です。解雇理由についても、解雇理由証明書を交付しない会社は違法ではあるものの、社長とのやり取りや上司からの指導などによって会社が裁判でどのような点を突いてくるかは予想ができます。
会社が証拠を出すよう誘導する
裁判に移行する前に交渉で、会社が証拠を出すように誘導することも重要です。
労使間で、事実の認識に食い違いがある点は、労働審判や訴訟に移行すれば、互いに証拠を出し合って証明し、自身にとって有利になるよう裁判所に働きかけることとなります。そのため、交渉段階で労働者の主張を説得的に示せば、会社の手元にそれと逆の証拠があるなら積極的に開示するよう誘導することができるのです。裁判では、自分の主張を裏付けるだけでなく、会社の主張に疑いを持たえることも大切です。
また、就業規則や解雇理由証明書のように、法的な義務となっているものについては、労働者に見せないことの違法性を強く指摘することで、証拠を開示するようプレッシャーをかけられます。
弁護士に相談する
以上のように不当解雇の証拠について戦略的に集めるためには、法律知識と経験が必要であり、弁護士に相談して進めるのが有効です。
不当解雇を争う証拠を入手できなくても、それだけですぐに負けるわけではありません。そもそも、何が証拠として必要かは裁判の流れで変わるほか、証拠として有効かどうかを判断するのも専門家でなければ難しいです。
証拠を入手できずにお悩みの方は、まずは専門家である弁護士に相談してください。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
不当解雇の証拠集めについても弁護士に相談できる
早い段階で専門家のアドバイスを受けると、集めておくべき証拠や解決の見込みを知ることができ、先の見えない不安を解消できます。また、会社との交渉を弁護士に依頼すると、自分で会社と交渉するストレスから開放されるだけでなく、会社も真剣に対応してくれるようになります。
裁判手続きを利用するなら専門的知識が不可欠であり、弁護士の協力なしに進めるのは難しいでしょう。弁護士によるアドバイスは、実際になるよりも前の、証拠集めの段階から役立ちます。不当解雇の問題が起きたらすぐに弁護士に相談して早期解決を目指しましょう。
依頼や相談に弁護士費用がかかったとしても、証拠がなく負けてしまっては意味がありません。不当解雇の証拠を適切に入手するサポートをしてもらい、争いに勝てるなら大きなメリットがあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、不当解雇を争う際に集めるべき証拠と、その集め方、注意点を解説しました。
不当解雇トラブルといっても、争いの態様は事例によって様々なので、具体的にどのような証拠を集めるべきかは、事案によって判断しなければなりません。基本は、解雇理由を証拠によって明らかにし、更に、それを覆すための労働者側の主張を証明する証拠を集める、というのがセオリーです。
証拠を入手できない場合や、集めた証拠の内容に不安がある場合でもあきらめる必要はありません。会社との争いでは弁護士が強い味方となります。労働問題に精通した弁護士は、法律を知っているだけでなく、どのような証拠に価値があるかもアドバイスできるので、ぜひ、一度ご相談ください。
- 不当解雇を裁判で争うなら、証拠が非常に重要となる
- 不当解雇の証拠には種類があり、価値の高い証拠を知って戦略的に集める
- 不当解雇の証拠が手元になくてもあきらめず、弁護士に相談して争うべき
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