逆セクハラとは、女性から男性へのセクハラのこと。つまり、女性が加害者、男性が被害者となるセクハラです。「セクハラ」というと男性上司が立場を利用して女性部下に嫌がらせするケースが多いですが、女性から男性へのセクハラもまた違法なハラスメントに違いはありません。
セクハラは「男性から女性へ」のケースだけでなく「女性から男性へ」の場合もあり、実際「女性上司からセクハラされた」という男性被害者からの法律相談も珍しくはありません。
男性がセクハラ被害を訴えても信じてもらえないのでは?
女性からのセクハラを打ち明けたが真に受けてもらえない
女性から男性へのセクハラは、一般に想定されるセクハラ事例とは「逆」だという意味です。セクハラに違いはないものの、周囲の偏見からセクハラとは扱われず、十分に対応されない危険があります。セクハラは社会問題化したものの、「女性が被害者」という風潮がある結果、逆セクハラの被害に遭った男性のなかには恥ずかしさから泣き寝入りしてしまう方もいます。
今回は、逆セクハラによくある事例と、女性に逆セクハラされた男性被害者の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 女性から男性にされるセクハラ被害を「逆セクハラ」と呼ぶ
- 逆セクハラは、一般のイメージと異なるため、相談時に二次被害に注意する
- 男性でも女性でも、性的に不快感を感じたらセクハラに該当する可能性あり
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逆セクハラとは女性から男性へのセクハラのこと
まず、セクハラ問題に悩む「男性」に知っておいてほしいこと、それは「男性でも、当然にセクハラの被害者になり得る」ということです。そして、女性から男性へのセクハラのことを、通常想定されるセクハラとは「逆」だという意味で、逆セクハラと呼びます。
セクハラの被害者は「女性」に限られるわけではありません。セクハラは「性的な嫌がらせ」という意味しかなく、定義上、男性・女性といった性別の区別はありません。「セクハラ被害は女性だけのもの」という発想こそ問題ある男女差別であり、偏った考え方です。
セクハラが、男性より女性を被害者としやすいのには次のような理由が挙げられます。
- 男性のほうが性的な考えを公にしやすいこと
- 男性のほうが力が強いこと
- 女性のほうが性的魅力を表面から見られやすいこと
しかし、これらはいずれも一般論で、全ての男性・女性に当てはまるわけではありません。そして、セクハラは、レイプや強姦のような荒っぽい手段だけでなく、セクハラ発言のように陰湿なものもあります。身体的な強さと関係なく、女性から男性にも十分な被害を与えられます。
言葉によるセクハラも、頻度高く繰り返されれば心身に深刻なダメージを与えます。女性によるセクハラもまた大きな問題であると理解し、適切に対処しなければなりません。逆セクハラは、一般のイメージとは反するため、セクハラ加害者となった女性の側でも、自分がセクハラをしているという自覚なく行動しているケースもあります。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説
女性から男性へのセクハラのよくある事例
次に、女性から男性へのセクハラでよくある事例を紹介します。
よくあるセクハラ解説は女性被害者を前提としており、男性被害者の状況とは合わず参考にできないことがあります。このとき「一般論に該当しないからセクハラではないのだろうか」とあきらめてはいけません。以下では、ケースごとに具体例を挙げますので、男性被害者が自分の置かれたケースと比べる参考にしてください。
過度なスキンシップによる逆セクハラ
女性から男性に対してであっても、必要以上にスキンシップするのは逆セクハラです。
- 女性上司から執拗に手を握られる
- 女性上司から股間を触られる
- 「いいケツしてる」と尻をなでられる
- 「筋肉がすごい」と胸をなでまわされる
周囲に相談しても「女性からのスキンシップならむしろ嬉しいではないか」「自意識過剰だ」などと馬鹿にされることもあります。しかし、興味のある異性からのスキンシップなら嬉しいですが、職場の女性上司など、業務に関係する人からの過度なスキンシップはむしろプレッシャーであり、ストレスに感じてしまうのは当然です。過度なスキンシップが不快なのは、男性でも女性でも同じです。
自分(女性側)の体を触らせる逆セクハラ
逆に、女性の側から男性に対して、自分(女性側)の体を触らせようとする嫌がらせもあります。これもまた、男性側が不快に思えばセクハラの一種となります。
- 「胸を触っていいよ」と言って反応を楽しむ
- 執拗に胸や尻を押し当ててくる
- 必要以上に顔の距離が近い
- 近付いただけで「体を触った」と言いがかりをつける
- 露出度の高い服をあえて着て見せびらかす
このような行為は逆セクハラなのはもとより、下手すると「男性側のセクハラ」を指摘されて冤罪の被害に遭う危険もあり、決して放置してはいけません。断り方を誤ると女性側の感情を害し、会社に「セクハラをされた」と相談される事例もあります。
セクハラ冤罪を疑われないためにも速やかな対処が必要です。距離を置き、男性側に性的な意図がないことを明らかにすべきです。「セクハラは男から女に行うもの」という固定観念があると、被害申告された会社が女性の言い分を信じてしまうおそれがあります。
「セクハラ冤罪の対策」「セクハラ加害者側の対応」の解説
性的行為の強要による逆セクハラ
性的行為の強要によるセクハラは、男性から女性へのセクハラの典型例ですが、「男は女より強い」というのは古い考えです。現代では、女性の暴力も盛んにニュース報道されており、実際、女性が男性に、暴力や脅迫で性的行為を強要する事例も珍しくありません。
- 「肉体関係を持たなければ評価を下げる」と伝える
- 交際を断られた腹いせに仕事をとりあげる
- 男性部下に毎朝マッサージをさせる
- 女性上司が酒に酔ってキスしてくる
- 「セクハラされたと言うぞ」と脅してホテルに連れ込む
肉体的な強さを利用せずとも、上司の立場なら性的行為を強要するためのプレッシャーをかけることは可能です。女性が上司で、男性が部下なら、社内の優越的な地位を利用して性的行為を強要するケースはあります。また、セクハラ冤罪を申告するとちらつかせれば、むしろ弱い立場にある女性の方が逆に強くなってしまうことすらあります。
男性でも、性的行為を強要されれば不快なのは当然で、セクハラの被害者になります。そして、性的行為の強要は、セクハラのなかでも重度の被害で、不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条)といった犯罪も、男性が被害者でも成立します。
「犯罪になるセクハラ」の解説
プライベートへの過度な干渉
プライベートへの過度な干渉はセクハラの典型例であり、女性から男性への逆セクハラでも起こり得る行為態様です。例えば、次のような女性上司からの言動は、逆セクハラとなります。
- 社内メールで男性部下をしつこく食事に誘う
- 土日や夜などプライベートの時間を過ごすよう強要する
- 出張の帰りに女性上司の買い物に付き合わされた
- 女性から男性に対し、性生活について執拗に質問する
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説
交際の強要によるセクハラ
肉体関係の強要までいかずとも、交際やお付き合いを強要するのもセクハラです。そして、交際を強要されれば不快なのは、男性も女性も同じことです。
- 女性上司が、男性部下をしつこく食事に誘う
- 女性上司から休日のデートを強要される
- 女性上司から、記念日にプレゼントするよう命じられる
むしろ「恋愛体質」なタイプは女性に多い傾向があります。上司・部下の関係で、男性は仕事上の関係を求めるのに、女性上司が恋愛に発展したいと望んで強要すれば、逆セクハラの被害が発生してしまいます。
「男のくせに」発言
言葉によるセクハラは、女性から男性への逆セクハラで特によく起こります。女性の方が身体的には力が弱い分、言葉で攻撃するケースが多いためです。「男性であること」に着目した差別的な表現は、逆セクハラに該当します。
- 「男なんだからしっかりしなさい」
- 「男のくせにめそめそ泣くな」
- 「男なら数日家に帰れなくても当たり前」
- 「男なら力仕事を担当してほしい」
- 「男らしくない」
女性差別が許されないのと同じく、男性差別もまた許されません。性差別的な発言がセクハラになるのは、男女いずれでも同じです。性別に与えられた偏見をもとにした発言は、ジェンダーハラスメントとも呼ばれます。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」「ジェンダーハラスメント」の解説
男性の容姿を馬鹿にする発言
男性だからといって容姿を馬鹿にされてよいわけはありません。身体的な特徴に言及するような発言は、逆セクハラになります。例えば、次のような発言のケースです。
- 「ハゲ」「ジジイ」「親父」「おっさん」
- 「デブ」「ぽっちゃり」「中年太り」
- 「加齢臭がする」「くさい」
女性上司は、いじり、からかいだと思って無自覚でも、男性部下が悩んでいるケースもあります。「かわいい」などといった言葉は、言う女性としては褒めたつもりでも、言われた男性としては馬鹿にされたと受け取ることもあり、慎重さが必要となります。
君付けによるセクハラ
女性に対して「ちゃん付け」で呼ぶのは、女性を軽く見ていることを意味し、セクハラです。同じく、男性部下を「君付け」で呼ぶのもまた、セクハラになる可能性があります。職場での扱いが悪い、軽く見られているというとき、その悩みはセクハラでなくパワハラのこともあります。
「パワハラの相談先」の解説
逆セクハラでは二次被害が起こりやすい
女性上司からのセクハラ被害を、同僚や上司など会社に相談するとき、特に二次被害に注意してください。
逆セクハラに理解のない人に相談すると、あなたの話を信じてもらえない可能性があるからです。女性上司からセクハラを受けたと、男性の同僚や上司に相談すると、「自意識過剰ではないか」「本当は嬉しかったのではないか」などと言われてますます傷つくケースもあります。
セクハラを相談したのにこのような発言をする人は、所詮は他人ごとだから無関心なのです。実際に自分が被害を受けたら、男女関係なく非常に苦しい重いをするでしょう。女性上司からのセクハラ被害で、相談後の二次被害が予想されるような場合には、会社の窓口や同僚に相談をするのではなく、弁護士に法律相談することをご検討ください。
「セクハラの二次被害を防ぐ対策」の解説
女性からの逆セクハラを受けた男性被害者の対処法
女性から逆セクハラを受けたら、男性被害者はどのように対応するのが適切でしょうか。最後に、逆セクハラの適切な対処法について解説します。
女性上司からセクハラを受けると、一般に、男性が被害者のセクハラ相談が少ないために、言い出しづらく相談しづらく、我慢して泣き寝入りするケースも多いもの。しかし、セクハラを受けた後の事後対応は、男女で変わるところはありません。
逆セクハラは不快だと伝える
まず、被害者である男性側から、女性に対して「逆セクハラとなっているので不快だ」と明確に伝え、拒絶の姿勢を示すことが重要です。
女性から男性へのセクハラも成立すると解説しましたが、問題視されるのはやはり男性から女性へのセクハラが圧倒的多数です。そのため、肝心の加害者となった女性自身が、自分がセクハラをしていることに気付いていないおそれがあります。このとき、加害者となった女性上司などに次のような勘違いを生んでしまっている危険があります。
- 本当は喜んでいるのだろう、本当は好きなのだろう
- 恥ずかしがっているだけだ
- 男性側も心の中では誘われたがっている
男性がセクハラ被害を我慢し、女性の言うがままに従っていると、このような誤解が解けることはなく、自身の加害行為に気付くことができません。たとえ肉体的な被害がなくても、継続的に積み重ねてエスカレートすれば、精神的苦痛が蓄積します。
社内の相談窓口に相談する
加害者である女性上司本人に伝えてもセクハラが止まらないとき、会社に相談しましょう。会社にセクハラの相談窓口があるなら、そちらへの通報が適切です。
ただ、女性社長が加害者の逆セクハラなどは、社内の相談だけでは解決できず、むしろ問題を悪化させかねません。社内で解決できない場合には社外の相談窓口を検討すべきことも、通常のセクハラと同様です。女性からのセクハラ加害は、知識や経験の少ない社内の人には信じてもらえないおそれすらあります。
また、女性上司からのセクハラの場合には、会社の窓口に相談する際に、理解を得ることが難しいかもしれません。そのため、適切な証拠をしっかりと収集していくことが、男性によるセクハラの場合にまして重要となります。
「セクハラの相談窓口」の解説
弁護士に法律相談する
女性上司からのセクハラがひどいときは、早期の段階で弁護士に相談すべきです。
会社が相手にしない、セクハラか1人で判断できないという例が、逆セクハラ事案では多いもの。大きな精神的ダメージを負う前に、法律の専門家である弁護士の意見を聞いてください。
セクハラトラブルに精通した弁護士なら、女性被害者のケースだけでなく、男性被害者の逆セクハラの相談も多く聞いています。男性が被害者だと相談しても、馬鹿にしたり偏見のある対応をしたりすることはないので安心してください。女性上司からの逆セクハラの問題は、通常のセクハラにもまして経験豊富な弁護士への相談が必要です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、いわゆる「逆セクハラ」、つまり、女性から男性へのセクハラについて、よくある事例と対処法を解説しました。
女性の社会進出が叫ばれて久しく、女性の活躍を阻むセクハラは撲滅されるべきは当然。ただ、この文脈では「セクハラの被害者は女性」という固定観念が前提となっています。女性上司が増えると、上下関係を利用したセクハラの場面でも「女性が加害者」のケースが増加します。また、逆パワハラもあるように、優越的な地位は役職の上下のみによらず、部下の女性から上司の男性に対するセクハラも実際にはよく起こっています。
女性からのセクハラ被害を受けた男性として、黙って我慢するのは最もよくない対応です。女性上司から嫌がらせされたなど、セクハラを疑うケースに遭遇したら、労働問題に精通した弁護士にいち早くご相談ください。
- 女性から男性にされるセクハラ被害を「逆セクハラ」と呼ぶ
- 逆セクハラは、一般のイメージと異なるため、相談時に二次被害に注意する
- 男性でも女性でも、性的に不快感を感じたらセクハラに該当する可能性あり
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【セクハラの基本】
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