うつ病になった社員を解雇することができるでしょうか。
うつ病で就労が困難だと、企業から敬遠されやすい一方、労働者としては「うつ病なのに解雇されるのは不当ではないか」と感じることも多く、労使の対立が生じやすい場面です。実際のところ、うつ病であることだけを理由に一律に解雇が認められるわけではなく、それが業務によるものか、それとも私傷病なのかによって判断基準は異なります。
労働法は解雇について厳しい制限を設けているため、うつ病を理由とする場合も、就労可能性や回復の見込みを慎重に考慮しなければ、不当解雇として違法・無効となります。
今回は、うつ病の社員に対する解雇がどのような場合に認められるのか、その判断基準と注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- うつ病になった社員の解雇は、原因が労災か私傷病かで判断が分かれる
- 私傷病でも、休職制度や配置転換など、最大限の配慮を尽くすべき
- 配慮や手続きが不足したまま性急に解雇すると、不当解雇となりやすい
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うつ病になった社員を解雇できる?

うつ病になった社員を解雇できるかどうかは、その原因によって異なります。
うつ病が業務に起因する場合(労災)と、私的な要因による場合(私傷病)に分けて、それぞれの基本的な考え方を解説します。いずれの場合も、単に「うつ病で働けない状態にある」という理由だけで、直ちに解雇が認められるわけではありません。
業務上のうつ病であれば解雇は制限される
うつ病が業務に起因して発症した場合、労災(業務災害)となります。
長時間労働やハラスメント、劣悪な職場環境といった業務上の原因によって発症したうつ病は、労災となり、労働基準法19条により、療養のための休業中とその後30日は、原則として解雇が禁止されます。うつ病が労災認定されるかどうかは、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(厚生労働省)に基づき、ストレス要因の大きさを基準に判断されます。
さらに、業務上の原因によって発症した場合、安全配慮義務違反として企業の責任を問うことができます。そのため、上記の解雇制限に該当しなくても、うつ病を理由に解雇することは不当解雇として違法・無効となる可能性があります。
「労災で休業中の解雇」の解説

私傷病のうつ病には休職制度が適用される
業務と無関係な私的な要因によるうつ病(私傷病)でも、直ちに解雇できるわけではありません。「休職制度」を設けている企業では、先にこの制度に基づく対応を検討すべきだからです。
休職制度は、勤続による功労を踏まえ、解雇の猶予を目的として労働者に療養と回復の機会を与えるものです。休職中は無給とされることが多いですが、要件を満たせば、健康保険による傷病手当金を受給できます。したがって、制度が設けられているのに適用せず、即座に解雇に踏み切った場合、配慮が不十分であるとして違法・無効と判断される可能性があります。
一方で、休職期間を与えても回復の見込みがないことが明らかな場合には解雇が有効とされる余地があります。また、休職期間満了時に復職が不可能である場合は、退職扱いとされます。
「うつ病休職時の適切な対応」の解説

うつ病社員を解雇できるケース

次に、うつ病になった社員を解雇できるケースについて解説します。
うつ病を理由とする解雇は厳しく制限されますが、一定の条件を満たす場合は有効とされる余地があります。私傷病で、十分な配慮を尽くしても就労が困難な場合は、解雇や退職扱いが許されます。重要なポイントは、「解雇までにどのようなプロセスを経たか」「配慮が尽くされたか」といった点を見極めることです。
長期間の就労不能で回復の見込みが乏しい場合
うつ病の症状が長期間続き、回復の見込みが乏しい場合、解雇が有効となる可能性があります。
休職制度の適用は、復職の可能性があることを前提としており、休職期間を経ても就労が難しいと考えられる場合、解雇が許されることがあります。ただし、回復の見込みは客観的に判断しなければならず、医師の診断書や意見書といった医学的な根拠に基づいて判断することが重要です。
一方で、うつ病は長期化することが多いものの、就労が可能な程度に症状が緩和されていれば復職できるため、回復の可能性を考慮せずに性急に解雇すると、無効になるリスクがあります。
休職期間満了時に復職が困難な場合
私傷病休職の制度が整備された企業では、うつ病の場合も、休職期間の満了時において復職が困難である場合には、就業規則に基づいて退職扱いとなります。
ただし、この場合も、会社側の一方的な判断で復職を拒否することは違法とされます。会社は、労働者の職場復帰を支援する必要があるため、主治医や産業医による医学的な判断を参考にしながら、職務軽減や配置転換を行うなどして、就労が可能かどうかを検討しなければなりません。
「復職させてもらえないときの対策」の解説

十分な配慮を尽くしても就労できない場合
うつ病の社員については、従前と同じ業務が難しい場合でも、配置転換や業務内容の調整によって就労できる可能性がないかを検討することが求められます。
会社が検討すべき具体的な配慮には、次のような例があります。
- 業務負担の軽い部署への異動
- 軽作業への変更
- 短時間勤務や勤務日数の調整
- リモートワークや在宅ワークの許可
これらの配慮を十分に検討せずに解雇に踏み切った場合、不当解雇として違法・無効とされる可能性があります。一方で、これらの措置を講じてもなお就労が困難であったり、現実的に受け入れ可能な業務が存在しなかったりする場合は、最終的に解雇が有効とされる余地があります。
「安全配慮義務」の解説

うつ病社員の解雇が違法となるケース

次に、うつ病社員の解雇が違法となるケースについて解説します。
「うつ病社員を解雇できるケース」がある一方で、判断を誤ると不当解雇となる可能性があります。特に、原因が職場環境などの会社側の事情にあるときや、回復の見込みがある軽度のうつ病などのケースでは、解雇は違法となります。
業務が原因である場合
うつ病の原因が業務にある場合には、不当解雇となります。
前述の通り、業務災害の療養のための休業中とその後30日間は、原則として解雇が禁止されるため、この期間中に解雇した場合には違法であることが明らかです。労災として認定された場合はもちろん、会社が協力しないなどの理由で認定が得られていなくても、実態として業務起因性が認められる場合には解雇制限が適用され、違法・無効とされる余地があります。
なお、打切補償を支払った場合と、天災事変その他やむを得ない事由によって事業継続が不可能となった場合は、労災であっても例外的に解雇が可能です。
「解雇制限」の解説

十分な配慮や手続きを踏んでいない場合
十分な配慮や手続きを踏まず、いきなり解雇した場合、不当解雇となる可能性が高いです。
うつ病が私傷病だとしても、休職制度の利用、異動や配置転換、業務軽減といった対策を、段階的に講じることが企業には求められます。これらの配慮や手続きを踏まず、いきなり解雇に踏み切るような対応は、違法と評価されやすくなります。
解雇をする場合、その理由を労働者に説明したり、労働基準法20条の定める予告の手続き(30日前の予告か、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当の支払い)が必要です。
回復の可能性があるのに判断を急いだ場合
うつ病は症状の回復に一定の時間を要することが多いものです。
そのため、解雇するにあたっても、将来の回復の見込みを慎重に検討する必要があり、そのための手段として休職制度が利用されます。発症から間もない時期や、治療開始からそれほど期間が経過していない段階で、「復職は困難である」と結論付けるのは不適切です。
回復の可能性については医師の診断を参考にすべきであり、うつ病を敬遠し、短期間での解雇を急いだ場合、不当解雇として違法・無効となります。
解雇の正当な理由がない場合
うつ病による解雇にも、解雇権濫用法理が適用されます。
そのため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、不当解雇として違法・無効になります(労働契約法16条)。

うつ病を敬遠する企業は「能力不足」「勤務態度の不良」といった理由付けをすることがありますが、「病気」と「能力」「態度」の問題は分けて考えるべきです。うつ病が原因なのに、集中力の低下や疲労、パフォーマンスの低下などを指摘して解雇理由とすることは、合理的とは言えません。発症前は十分な評価を得ていたなら、休養を取れば、能力にも態度にも問題はないはずです。
過重労働やハラスメントなど、職場環境にも問題がある場合、改善せずに解雇することは相当性を欠く不当解雇であり、安全配慮義務の観点からも不適切です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

うつ病社員の解雇・退職について判断した裁判例

裁判例でも、うつ病社員の解雇や退職扱いについて、違法・無効としたケースと、有効と認めたケースの双方があります。個別の事情に応じて判断する際の参考にしてください。
解雇・退職扱いが無効とされた裁判例
解雇・退職扱いが無効とされた裁判例には、次のものがあります。
東京高裁平成23年2月23日判決(東芝(うつ病・解雇)事件)
休職期間満了時に復帰できなかったことを理由に解雇された労働者が、うつ病が業務に起因するものとして争った事案です。裁判所は、所定時間外労働時間が平均90時間34分、法定時間外労働時間が平均69時間54分あったこと、業務内容の新規性、繁忙かつ緊迫したスケジュールなど、肉体的・精神的な負荷が大きかったことなどを理由に、うつ病の業務起因性を認め、解雇を無効と判断しました。
解雇・退職扱いが有効とされた裁判例
解雇・退職扱いが有効とされた裁判例には、次のものがあります。
東京地裁平成29年11月30日判決(東京電力パワーグリッド事件)
休職期間満了による退職扱いについて争われた事案です。
裁判所は、リワークプログラムへの出席率の低さ、振り返りの不十分さ、病識の欠如などから、通常業務への回復も、軽易作業を経ての回復も見込めず、配置可能な他の業務も存在しないとし、退職扱いを有効と判断しました。
東京地裁令和5年1月25日判決(早稲田大学事件)
脳出血の後遺症で休職していた教授が解雇されて争った事案です。
口頭でのコミュニケーションが困難な状況が認められたこと、大学側が提案した模擬授業にも応じなかったことなどから、債務の本旨に従った労務提供ができる状態になく、合理的配慮による復職も困難な状態であるとし、解雇を有効と判断しました。
うつ病で不当解雇された労働者の対処法

次に、うつ病を理由に不当解雇されたとき、労働者が取るべき対処法を解説します。
「うつ病社員の解雇が違法となるケース」は、実務上もよく見られるため、労働者は自身の権利を守るために、会社と争うことを検討すべきです。
解雇理由を確認する
解雇直後にまず行うべきなのが、解雇理由の確認です。
解雇の理由は、解雇通知書に記載される場合もありますが、労働基準法22条によって、労働者が求める場合は書面(解雇理由証明書)を交付する義務が会社にあります。

会社が説明する解雇理由が、能力不足や勤務態度不良であっても、実際の理由がうつ病であるケースもあります。真の解雇理由が明言されない場合、示された理由に対する反論をすることが必要となるため、納得のいくまで詳細かつ具体的な説明を求めるべきです。
なお、解雇を受け入れる場合、失業保険については「特定受給資格者」として会社都合退職とされるのが原則です。(例外的に、「重責解雇」の場合は自己都合退職となりますが、うつ病社員の解雇では該当しないと考えられます)。
解雇の有効性を判断する
うつ病による不当解雇であると疑われるときは、速やかに撤回を求めましょう。
不当解雇の争いは、まずは交渉での解決を目指しますが、会社が撤回に応じないなら、労働審判や訴訟といった裁判手続きで法的に争う必要があります。労働審判は、迅速かつ柔軟な解決手段として、解雇トラブルによく用いられています。

「解雇を撤回させる方法」の解説

不当解雇である証拠を確保する
「うつ病社員の解雇が違法となるケース」をもとに、不当解雇である証拠を確保しましょう。特に、うつ病に関する証拠で重要なのが、医師による診断書です。また、うつ病を発症した原因が業務にあると主張する場合には、長時間労働やハラスメントの証拠も欠かせません。
「不当解雇の証拠」の解説

慰謝料の請求を検討する
うつ病が業務に起因するなら、労災申請とともに、慰謝料を請求することも検討しましょう。
会社は、労働契約法5条により、労働者の健康と安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負い、うつ病にならないよう配慮すべきです。パワハラやセクハラによるうつ病のように直接の加害者がいる場合、加害者に対する不法行為(民法709条)、会社の使用者責任(民法715条)が生じます。
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(厚生労働省)にも次の通り、職場におけるストレスが労働者だけでは取り除くことができず、会社の努力が必要であると示されています。
職場に存在するストレス要因は、労働者自身の力だけでは取り除くことができないものもあることから、労働者の心の健康づくりを推進していくためには、事業者によるメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であり、労働の場における組織的かつ計画的な対策の実施は、大きな役割を果たすものである。
労働者の心の健康の保持増進のための指針(厚生労働省)
労災認定された場合、療養や休業の損害は労災保険でカバーされますが、慰謝料は含まれません。したがって、労災保険の給付を得てもなお、会社に慰謝料を請求することができます。責任感の強い人ほど自分を責めがちですが、会社の責任を見逃してはなりません。
「労災の慰謝料の相場」の解説

弁護士と労働基準監督署に相談する
うつ病によって解雇される人ほど、真面目で責任感が強く、一人で悩みを抱え込みがちです。しかし、解雇のトラブルは複雑であり、一人で解決するのは困難です。解雇の不当性について争いになる場合、裁判所での手続きを有利に進めるには、弁護士のサポートを受けるのが最適です。また、うつ病が労災になる可能性があるなら、労働基準監督署への相談も効果的です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

企業側が取るべき適切な対応

最後に、企業側が取るべき適切な対応についても解説しておきます。
会社としては、うつ病をことさらに敵視すべきではなく、十分な配慮なく拙速に解雇や退職扱いとすれば、不当解雇として大きなリスクを背負うこととなります。
産業医や主治医の意見を必ず確認する
従業員の処遇を検討する際、うつ病をはじめとした精神疾患については、産業医や主治医などの意見を確認することが不可欠です。特に、主治医による「復職可能」の診断書が提出された場合、会社の判断で解雇や退職扱いとするのは不当される可能性が高いです。
もっとも、復職の可否には、病状だけでなく業務内容なども考慮されるため、医師の意見のままに判断しなければならないわけではありません。また、主治医の意見に疑問がある場合は、従業員の同意を得て直接面談したり、産業医や指定医を受診させたりといった方法も有効です。
解雇に踏み切る前に退職勧奨を行う
解雇は厳しい法規制があり、将来的にトラブルに発展するリスクが高いものです。
そのため、解雇や退職扱いのように、一方的に会社を追い出す方法を取る前に、退職勧奨を検討することが重要です。退職勧奨は、会社が労働者に自発的な退職を促すものです。労使の合意で退職することとなれば、解雇は回避でき、将来の紛争も避けることができます。解雇も退職勧奨も、失業保険については基本的に会社都合とされるため、労働者の不利益も軽減できます。
ただし、退職勧奨はあくまで自由な意思に基づく必要があります。強要と受け取られる言動は違法となるため、面談の際はくれぐれも注意しなければなりません。
「退職勧奨と解雇の違い」の解説

【まとめ】うつ病になった社員の解雇

今回は、うつ病になった社員を解雇できるかどうかについて解説しました。
うつ病で就労が困難になった結果、解雇に至るケースがあります。しかし、業務を理由とする病気は労災(業務災害)となり、療養による休業中の解雇は制限されます。私傷病でも、すぐに解雇できるとは限りません。休職制度の利用状況、就労可能性や回復の見込み、配置転換といった検討をしていない場合、配慮の不足する解雇は、不当解雇として違法・無効となるリスクがあります。
企業にとって、十分な配慮を積み重ねることが、リスクを軽減するために重要です。労働者としては、病状や健康状態について医師の意見をもとに正確に伝えてください。
うつ病への適切な対応は、すぐに解雇することではなく、労使のコミュニケーションを密に取り、納得のいく解決を目指すべきです。不安がある場合、ぜひ弁護士に相談してください。
- うつ病になった社員の解雇は、原因が労災か私傷病かで判断が分かれる
- 私傷病でも、休職制度や配置転換など、最大限の配慮を尽くすべき
- 配慮や手続きが不足したまま性急に解雇すると、不当解雇となりやすい
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