セクハラ被害を受けた際、慰謝料の請求をするなら時効に注意してください。セクハラを受けてすぐに相談し、慰謝料を請求できればよいですが、現実的に難しいケースもあります。
相談者セクハラで強いストレスを受け、すぐには考えられない
相談者精神的苦痛がひどく、慰謝料請求をすぐするのは無理だ
セクハラ問題は多く報道され、社会的関心が高いですが、いざ自分が被害者になってしまうと、すぐに慰謝料請求に踏み切る覚悟のつかない方も少なくありません。
すぐに被害を公にして責任を問うのは耐えられない場合もありますが、「セクハラの責任追及を、いつまでならできるのか」を理解し、期間を過ぎてしまわないよう注意が必要です。面白おかしく取り上げられるなど、セクハラ被害を言い出すと二次被害につながる危険もあります。躊躇する気持ちはわかりますが、時効が過ぎると、責任追及ができなくなってしまいます。
今回は「セクハラの慰謝料請求はいつまでできるか」、つまり、セクハラの時効について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- セクハラの時効は、不法行為は3年または5年、安全配慮義務違反は5年
- 直後には動けなくても、責任追及の可能性があるなら証拠収集は欠かせない
- 時効期間が過ぎてしまっていても、救済されるケースもある
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セクハラの時効とは
セクハラの時効とは、慰謝料請求などの責任を追及できる期限のことです。つまり、いつまでセクハラの慰謝料請求ができるのかを決めるのが、時効の考え方です。法律用語では、「その期限を過ぎたら権利が消滅する」という意味で「消滅時効」ともいいます。
セクハラの時効は、3年・5年・10年
セクハラの責任を追及する方法には、以下の3つがあります。

いずれも、セクハラの責任追及の方法として、慰謝料請求をする具体的な根拠となります。ただ、セクハラの時効の観点からすると、請求方法によって、時効期間の考え方が異なります。それぞれの方法ごとに、セクハラの時効は、民法で次のように定められています。

【不法行為】
- 請求相手:加害者
- 時効
- 損害及び加害者を知った時から3年(生命または身体の侵害は5年)
- 行為の時から20年
【不法行為の使用者責任】
- 請求相手:会社
- 時効
- 損害及び加害者を知った時から3年(生命または身体の侵害は5年)
- 行為の時から20年
【安全配慮義務違反】
- 請求相手:会社
- 時効
- 権利行使できることを知った時から5年
- 権利行使できる時から10年
セクハラのつらさや、その後の会社の対応の不誠実さから、退職せざるを得なくなってしまう被害者も少なくありません。
しかし、セクハラの慰謝料請求は、時効完成前なら「退職後」でも行えます。在職中にセクハラを指摘して責任追及するのは、人間関係的に難しかったり、気まずいと感じてしまったりするとき、一旦退職をした後で、慰謝料請求を検討する手もあります。セクハラ被害の直後に請求しなければならないわけではありませんが、時効にはくれぐれも注意してください。
「セクハラの慰謝料の相場」の解説

2020年4月施行の改正民法による変更点
時効の条文は、2020年4月施行の改正民法で大幅に変更されたため、注意を要します。
まず、不法行為の時効について、改正前は、損害及び加害者を知った時から3年であり、この点は改正後も変わりません。ただし、改正後は、生命・身体を侵害する不法行為は時効期間を5年とするルールが追加されました。
次に、一般的な債権の消滅時効については、セクハラの場合、安全配慮義務違反の責任追及の際に適用されます。債権の消滅時効は、民法改正前は10年でしたが、民法改正後は、権利行使できることを知った時から5年、権利行使できる時から10年に変更されました。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説

セクハラ加害者に対する慰謝料請求の時効

次に、セクハラ加害者に対する慰謝料請求の時効について解説します。
セクハラ被害にあってしまうと、うつ病、適応障害などのメンタルヘルスにかかり、慰謝料請求などの責任追及に、すぐには着手できない方も少なくありません。
セクハラ直後だと、「自分が我慢すれば円満に解決できるのではないか」「セクハラと通告しても相手にしてもらえないのではないか」とふさぎ込み、泣き寝入りしてしまう方もいます。人間関係がネックになるとき、会社への請求はしないとしても、加害者への請求をするのがよいでしょう。
不法行為の時効は、3年または5年
セクハラ被害者が、加害者にする慰謝料請求の根拠は、「不法行為」(民法709条)です。
不法行為は、故意または過失によって、他人の権利または法律上保護される利益を侵害した人に対して、その損害の賠償を請求するという考え方です。加害者への慰謝料請求もまた、セクハラという故意の言動によって被害者の権利を侵害し、精神的苦痛を与えたことに対する請求であり、不法行為を根拠としています。

不法行為による損害賠償請求の時効は、3年が原則です(民法724条)。ただし、生命又は身体を害するときは5年とされるため、重度のセクハラでは時効期間が5年となります(民法724条の2)。
また、民法には「時効」とあわせて「除斥期間」が定められており、不法行為時から20年経つと、請求ができなくなります。除斥期間は、時効とは異なり、更新・完成猶予という考え方はなく、この期間が経過すると当然に請求ができなくなります。
「会社を訴えるリスク」の解説

セクハラの時効の起算点
不法行為の時効は3年もしくは5年と解説しましたが、その起算点は「損害及び加害者を知った時」とされます。つまり、この起算点から、時効期間がスタートするわけです。
不法行為の時効の起算点には、次のような重要な裁判例があります。
- 最高裁平成14年1月29日判決
「損害を知った」といえるには、不法行為により損害を受けたことを認識していれば足り、具体的な損害額を知ったことは不要であると判断されました。 - 最高裁昭和48年11月16日判決
「加害者を知った」といえるには、住所氏名を知り、損害賠償請求が可能な状態になっていることが必要であると判断されました。
通常、セクハラの慰謝料請求のケースでは、セクハラを受けて被害者となった時点で、損害と加害者を知っていることが多いでしょうが、「「加害者を知らなかった」と主張する」ケース、「損害を認識していなかった」と主張する」ケースもあります。
「セクハラの相談窓口」の解説

会社へのセクハラの慰謝料請求の時効

次に、会社に対して請求するセクハラ慰謝料の時効についても解説します。セクハラ被害について、次のケースでは会社の責任を追及できます。
- 会社によるセクハラの予防策が不十分だった。
- セクハラを申告したときの事後対応が不誠実だった。
- 会社の不手際によってセクハラ被害が悪化した。
直後には責任追及を思いとどまっても、結局我慢できず、慰謝料請求を思い立つケースもあります。
安全配慮義務違反の時効は5年または10年
会社は、労働者を安全で健康に働かせる義務(安全配慮義務)があります。
その内容として、社内でセクハラが起こらないよう教育・指導して予防し、いざセクハラが起こってしまっても悪化したり再発したりしないよう努める義務があります。この義務に違反し、セクハラの予防、教育、再発防止を徹底していない企業は、慰謝料請求の対象となります。
安全配慮義務違反の責任追及には、一般的な債権の消滅時効が適用されます。具体的には、権利行使できることを知ったときから5年、もしくは、権利行使できるときから10年が、時効期間です。
不法行為の使用者責任の時効は3年または5年
会社は、労働者が「事業の執行」について損害を与えたとき、使用者責任を負います。これを、不法行為の使用者責任といいます。
民法715条(使用者等の責任)
1. ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2. 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3. 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
民法(e-Gov法令検索)
不法行為の使用者責任の時効については、加害者の不法行為責任と同じく、3年が基本となり、生命または身体の侵害があるときには5年となります。加害者の不法行為責任と同じく、「損害及び加害者を知ったとき」から進行します。
会社が十分注意していても被害が発生したとき、会社の責任は追及できません。セクハラのケースでいえば、例えば「会社がまったく知らなかった」「私的な恋愛関係で、お互いに好意があった」などのケースです。
この免責は例外的ではありますが、社内で起こったハラスメントについては、速やかに社長や上司、人事、セクハラの相談窓口などに相談して、対応を求める必要があります。
「セクハラの二次被害」の解説

時効が過ぎても、過去のセクハラを訴える方法
セクハラの時効の満了後でも、あきらめず責任を追及する方法について解説します。
セクハラ被害直後は、深く考えるとフラッシュバックするなど、精神的苦痛が大きく、それ以上進められないことも多いものです。慰謝料のために、過去のセクハラをよく思い出す必要があるものの、すぐには難しいでしょう。
時効期間が経過したら慰謝料請求できないのが原則ですが、このような辛い状況に置かれた被害者を救済すべきという考え方もあります。
セクハラの時効をストップさせる(時効の更新・完成猶予)
セクハラの時効をストップさせることができる場合があります。
民法改正により、旧来は時効の中断・停止と呼ばれていた考え方は、2020年4月1日施行の改正民法により、時効の更新・完成猶予という名称に変更されました。これらの考え方を使えば、時効の完成を延期することができます。
時効の更新は、更新事由が発生したとき、一旦期間がリセットされて新たな時効が進行します。時効の完成猶予は、完成猶予の事由の発生から終了まで、時効の進行がストップします。

時効を更新したり、完成を猶予したりする事由には、主に次のものがあります。
- 裁判上の請求(民法147条)
訴えの提起、支払督促の申し立てなどがあったら時効の完成が猶予され、確定判決が出ると、そこから10年間の新たな時効が進行します。訴えの却下や取り下げで、確定判決が出なかったときは、その時から6ヶ月間、時効の完成が猶予されます。 - 強制執行(民法148条)
強制執行、担保権実行などがあったら、申立時に時効の完成が猶予され、手続き終了後に新たな時効が進行します。 - 仮差押え、仮処分(民法149条)
手続きが終了したときから6ヶ月経過するまで、時効の完成が猶予されます。 - 催告(民法150条)
催告があったときから6ヶ月経過するまで、時効の完成が猶予されます(ただし、再度の催告は効力を有しません)。 - 協議を行う旨の合意(民法151条)
権利について協議を行う旨の合意を書面でしたとき、時効の完成が、原則1年(当事者の合意により短くすることができる)猶予されます(ただし、猶予の期間が5年を超えることはできません)。 - 承認(民法152条)
権利の承認があったときから新たに時効が進行します。 - 天災など(民法161条)
天災その他避けることのできない事変によって、時効の更新・完成猶予の効果を持つ手続きができないとき、その障害が消滅したときから3ヶ月を経過するまで、時効の完成が猶予されます。
「セクハラで訴える流れ」の解説

「加害者を知らなかった」と主張する
不法行為の時効は、「加害者を知った時」を起算点としています。
つまり、セクハラ加害者を知らなかったのであれば、時効は進行しません。例えば、メールや電話による嫌がらせを受けたが、加害者が誰かを知らなかったケースでは、「セクハラ加害者を知らなかった」と主張することで、時効をスタートさせないことができます。
被害者の権利を害しないため、慰謝料を請求できるほどに加害者のことを知らなければ、時効はスタートしないと考えられています。
判例(最高裁昭和48年11月16日判決)では、加害者が誰かは知っていたが、その住所や氏名を知らず、事実上、慰謝料請求が困難だったという事案でも、「加害者を知らなかったため、時効は進行していない」と判断しました。
「損害を認識していなかった」と主張する
不法行為の時効は、損害を認識した時点を起算点とします。
つまり、「セクハラの損害を認識していなかった」のであれば、時効はスタートしません。セクハラ行為の時点で損害を認識できるケースばかりではありません。セクハラ行為の結果、うつ病、適応障害などの精神疾患にかかってしまったとき、損害が遅れて生じることがあります。
時効期間を経過してしまってもなおセクハラの責任追及をしたいケースでは、セクハラの損害が遅れて生じる事例も少なくありません。このとき、「セクハラ損害をはじめて認識したため、時効はまだ進行していない」と主張することができます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

セクハラの刑事責任を追及する方法と、公訴時効

セクハラの消滅時効は、慰謝料請求の時効です。つまり、セクハラの民事責任が、いつまで請求できるのかという問題です。
これに対し、重度のセクハラでは、刑事責任を追及することも考えられます。意に反した性交渉の強要があったなどの深刻なセクハラ事例では、犯罪になるからです。
セクハラが犯罪になるとき、警察・検察などの捜査機関に告訴し、刑事処罰を求められます。また、労働問題でもあるため、セクハラ問題が犯罪になる例では、労働基準監督署に相談することで、助言指導や是正勧告のほか、逮捕、送検してもらえるケースがあります。
セクハラの刑事責任には、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪などの例があります。このとき、刑事責任の追及には民事の消滅時効は適用されず、公訴時効が適用されます。公訴時効は、犯罪行為時から進行し、時効期間が過ぎると、告訴して処罰してもらうことができなくなります。
セクハラで該当する犯罪について、公訴時効は、最高刑に応じて次のように定められます。
| 罪名 | 公訴時効 | 最高刑 |
|---|---|---|
| 不同意わいせつ罪(刑法176条) | 12年 | 10年以下の懲役 |
| 不同意わいせつ致傷罪(刑法181条) | 20年 | 無期懲役 |
| 不同意わいせつ致死罪(刑法181条) | 30年 | 無期懲役 |
| 不同意性交等罪(刑法177条) | 15年 | 5年以上の有期懲役 |
| 不同意性交等致傷罪(刑法181条) | 20年 | 無期懲役 |
| 不同意性交致死罪(刑法181条) | 30年 | 無期懲役 |
なお、上記全ての罪について、犯罪行為を終えた時点で被害者が18歳未満の場合は、被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間が、公訴時効期間に加算されます(例えば、被害者が12歳であった場合、6年加算されます)。
「犯罪となるセクハラ行為」の解説

セクハラの時効を検討するときの注意点

最後に、セクハラの時効を検討するときに知っておきたい注意点を解説します。
セクハラの時効より前に証拠を集める
セクハラの被害直後では、すぐに責任追及は考えられないこともあります。
精神的負担が重くても、まずは被害拡大を防ぐため、休職したり退職したりといった対応が先になってしまうことも多いものです。時効が経過していなければ慰謝料請求自体はできますが、セクハラの証拠収集は、行為直後にしておくべきです。
セクハラの事実を否定されたり、行為態様を争われたりするケースでは、満足のいく慰謝料を勝ち取るには、労働審判や訴訟できちんと証拠を示すのが大切です。証拠がなければ、セクハラの事実を裁判で認定してもらうことはできません。
セクハラの時効までは余裕があっても、証拠収集はスピーディに進めてください。セクハラは、密室で2人きりのときにされるなど、証拠に残りづらいことも多いですが、セクハラ被害を立証するために役立つ証拠には、例えば次のものがあります。
- セクハラ発言の録音
- セクハラ行為の録画
- 現場に居合わせた同僚の目撃証言
- セクハラを記録したメモ、日記、スケジュール帳
- セクハラ直後に治療したカルテ、診断書
セクハラ直後に、耐えかねて退職するとき、在職中でなければ入手できない証拠は得られなくなってしまいます。後から会社に要求しても、不利な証拠を出してくれるとは限りません。セクハラ後の苦しい状態では、精神的負担の解消を重視するのは当然ですが、「時効までに請求すればよい」「証拠は落ち着いてから集まればよい」という考えは甘く、耐えきれなくなる前に日常的に証拠を入手する努力をしなければなりません。


退職後でも慰謝料請求できる
セクハラを訴える前に退職したとき、その後でも慰謝料請求することができます。
セクハラ被害者となった上に、会社の不適切な調査で二次被害を負ってしまったとき、退職前にセクハラの慰謝料を請求するのは困難なときもあります。
セクハラ被害で苦しむ中の退職だと、退職手続きもままならないケースも少なくありません。少しでも有利な退職ができるよう配慮してもらい、特に、社会保険、雇用保険、税金などをはじめとした手続きは滞りなく行いましょう。
「退職を会社都合にしてもらうには?」の解説

【まとめ】セクハラの時効

今回は、セクハラ被害に遭ったとき「慰謝料をいつまで請求可能か」、セクハラ慰謝料請求の時効について、その期間・起算点・対応を解説しました。
セクハラの時効期間は、原則3年です。ただし、生命・身体を害するセクハラなら5年、会社への安全配慮義務違反を根拠とした請求なら10年といったように、ケースによって異なります。ただし、これらの時効期間が経過していないからといって放置してよいわけではありません。時効前でも、時が経つごとに証拠は消えてしまいます。
たとえ時効の完成はまだ先だったとしても、証拠が消滅してしまえば、セクハラの事実が認められず、慰謝料を請求できないおそれがあります。
セクハラ被害で精神的苦痛が大きいほど、慰謝料請求をすぐするのは難しいでしょう。できるだけ早く、慰謝料請求の意思表示だけでもしておくのが、セクハラの時効問題を回避するポイントです。
- セクハラの時効は、不法行為は3年または5年、安全配慮義務違反は5年
- 直後には動けなくても、責任追及の可能性があるなら証拠収集は欠かせない
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