性別に関する固定観念や偏見は、ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)を生みます。
職場で「男のくせに育休?」「女なんだからお茶汲みしろ」といった発言に違和感を覚えた経験もあるのではないでしょうか。ジェンダーハラスメントは、性別に対する誤った役割意識に基づき、「男のくせに(女のくせに)」「女なんだから(男なんだから)」といった形で表れます。
ジェンダーハラスメントは、被害者に精神的苦痛を与える違法行為です。しかし、その多くは発言でされるため、違法性の判断に悩むことも少なくありません。
今回は、ジェンダーハラスメントの定義や具体例を整理した上で、企業や労働者が取るべき対策について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- ジェンダーハラスメントは性別の固定観念や差別意識に基づく違法行為
- 職場では、「男のくせに」「女なんだから」といった発言で表れる
- ジェンハラをなくすには、企業としての対策と労働者の意識改革が必要となる
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ジェンダーハラスメントとは

ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)とは、「男だから」「女だから」といった、社会的・文化的に形成された性別(ジェンダー)に対する固定観念や差別意識に基づく嫌がらせのことです。以下ではまず、ジェンハラの基本について解説します。
ジェンダーハラスメントの意味
ジェンダーハラスメントが起こると、個性よりも性別による偏見で判断されます。
ジェンダーハラスメントは、性別によって社会的な役割が異なるという固定観念に基づいて行われます。個人の能力や特性を無視し、「男らしさ」「女らしさ」を強要して性別のみを理由に差別的に扱われることは、人格権の侵害や就業環境の悪化を招くハラスメントです。
その結果、「男のくせに(女のくせに)」「女なんだから(男なんだから)」といった発言で、特定の行動や振る舞いを押し付けられます。
セクハラとの違い
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)は、いずれも性別にまつわる嫌がらせです。
セクハラは、相手の意に反する「性的」な言動による嫌がらせを指す一方で、ジェンハラは性的な言動を伴わず、「男のくせに」「女なんだから」といった性別に対する役割意識に基づくものです。言動そのものが性的な意味を持つのが「セクハラ」、性別に関する思い込みや差別に基づく言動が「ジェンハラ」と整理することができます。
ただし、セクハラもジェンハラも違法であることに変わりはなく、不法行為(民法709条)に該当すれば慰謝料や損害賠償を請求できます。重複する部分は多くあり、ジェンハラがセクハラに発展することもあります。
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日本のジェンダーハラスメント問題の現状
日本の職場では、ジェンダーハラスメント問題が依然として根強く残るのが現状です。
ジェンダーハラスメントは、企業規模や職種を問わず起こりますが、古い慣習や価値観の根強い企業でよく見られます。原因として、古くから「男性は仕事、女性は家庭」といった役割意識が社会に浸透していたことが挙げられます。これにより、女性管理職の活躍が進まなかったり、男性が育児休業(育休)を取りにくくなったりするなど、働き方の選択に性別による格差が生じます。
次の統計では、職場で受けた・見聞きしたことがあるハラスメントのうち、パワハラやセクハラに次ぐ多さなのが「ジェンダーハラスメント」という結果が示されています。

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職場のジェンダーハラスメントの具体例

次に、職場で起こるジェンダーハラスメント(ジェンハラ)の具体例を解説します。
ジェンダーハラスメントに該当する性別に基づく固定観念の押し付け、業務の不公平な割り当ては、職場の様々な場面で発生します。具体例を知ることで、ジェンハラを早期に発見し、未然に防ぐことができます。
「男のくせに」「女なんだから」といった固定観念の押し付け
「男のくせに」「女なんだから」という発言は、性別を理由に個人の人格や能力を否定するものであり、違法なジェンダーハラスメントの典型例です。男性や女性に特定の役割や固定観念を押し付けることは差別につながり、相手に精神的な苦痛を与えます。個人の多様性を認めず、性別のステレオタイプのみで判断することは許されません。
具体的には、次のような固定観念・偏見があります。
【男性に対する固定観念・偏見】
仕事中心の生活を送るべき(長時間の残業など)、家庭や育児は妻に任せるべき、力が強いのが当然、女々しい態度を取るべきではないなど。
【女性に対する固定観念・偏見】
サポート業務を行うべき、男性を補助すべき、業務遂行能力が低い、おしとやかであるべき、会議で強い意見や自己主張をすべきではないなど。
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性別を理由とした業務割り当て
本人の能力や希望を無視し、性別のみを理由に業務を割り当てるのも、違法なジェンダーハラスメントの例の一つです。このような慣行が根強い企業では、性別を理由にスキルアップの機会を奪われたり、キャリアが固定されたりして、本来の実力を発揮できなくなります。性別を理由とした無理強いは許されず、平等に分担するのが適切です。
性別ごとに、例えば次のような不適切な業務割り当てが行われます。
【男性に対する不適切な業務割り当て】
「重い荷物を持つのは男性の役割」「独身男性は全国転勤に応じて当たり前」「肉体的にきつい仕事は男がやるべき」など。
【女性に対する不適切な業務割り当て】
「女なんだからお茶出しや電話応対を率先してやるべき」「女性が飲み会でお酌し、接待すべき」「女性は管理職になるべきではない」「育休を取る可能性があるから、女性に重大なプロジェクトは任せられない」など。
性別によるキャリアや昇進機会の差異
性別によってキャリアや昇進機会が異なるのも、ジェンダーハラスメントです。
例えば、「女性は出産や育児で休むから、重要なポストには就かせられない」といった会社の判断は、ジェンハラの典型例です。また、女性のみ外見を基準に判断することはルッキズムの現れであり、外見や容姿に言及することはセクハラにも発展する違法性の強い言動です。
管理職に占める女性の割合が極端に低い、男女で給与に大幅な差があるなど、結果として格差が生じている場合、その背景に差別的な考えがないかどうかを見直す必要があります。
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性的マイノリティ(LGBT)への差別や無視
性的指向や性自認に関する差別も、ジェンダーハラスメントの一環です。
LGBTの当事者に対し、望まない性別での呼称を使ったり、「男らしくない」「女らしくない」とからかったりする行為が該当します。加害者には冗談に過ぎなくても、被害者となった人にとっては大きな精神的苦痛となる、深刻な人権侵害です。
性的指向や性自認に関する情報を本人の了解なく暴露する「アウティング」や、これらに関連する「SOGIハラスメント(ソジハラ)」といった新しい問題も注目されています。
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違法なジェンダーハラスメントを放置するリスク

会社にとって、違法なジェンダーハラスメント(ジェンハラ)を放置すると、経営面、法律面で多くのリスクが生じます。悪影響は大きいため、単なる人間関係の問題と軽視してはいけません。
モチベーションや生産性が低下する
ジェンダーハラスメントの被害を受けた従業員は、精神的苦痛から仕事への集中力や意欲を失い、その結果、本来の実力が発揮できなくなってしまいます。また、周囲の従業員も不快感やストレスを感じる結果、チーム全体の士気が下がり、業績の悪化につながるリスクもあります。
優秀な人材が離職しやすくなる
ジェンダーハラスメントが横行する劣悪な職場環境では、離職が進みやすくなります。男女の性別による二分論だけでは、多様な人材を活用できず、優秀な人材に早めに見切りをつけられてしまいます。結果として人材が定着せず、採用や育成のコストも無駄になります。
企業の社会的評価が低下する
ジェンダーハラスメントの問題がSNSや報道によって公になると、企業の社会的評価も損ないます。人権意識が高まる昨今、ハラスメント問題を放置すれば「従業員を大切にしない企業」という印象がつき、企業イメージが低下します。その結果、顧客離れや取引停止、採用活動の難航など、企業経営の様々な場面に影響を及ぼしかねません。
安全配慮義務違反として法的責任を問われる
会社は、労働者が健康で安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。 ハラスメントの事実を認識しながら適切な措置を講じなかった場合、この義務に違反したと判断され、被害者から会社に対して損害賠償請求などの責任追及をされるおそれがあります。
企業が取り組むべきジェンダーハラスメント防止のための対策
前章「違法なジェンダーハラスメントを放置するリスク」を踏まえ、企業としては速やかに対策を講じる必要があります。ハラスメントが起こりにくい職場環境を構築するためには、組織的かつ継続的な対処が不可欠です。
- ジェンハラ防止の方針を周知する
経営トップがジェンハラを容認しない明確な方針を内外に示します。その上で、就業規則にハラスメントの禁止や懲戒事由を明記し、全社員に周知徹底します。 - ハラスメント研修を実施する
全従業員に研修を実施し、ジェンハラの定義や具体例、リスクを共通認識とします。管理職は、部下からの相談や緊急時の対応について定期的な教育が不可欠です。 - ハラスメント相談窓口を設置する
被害者が安心して相談できる窓口を社内に設置します。窓口の存在を広く周知し、利用しやすい体制を整えることで、問題の早期発見と解決につなげます。 - 再発防止と組織改善を徹底する
ハラスメント事案が発生した場合は、迅速かつ公平に事実関係を調査し、加害者に対しては厳正に対処します。また、同様の問題が二度と起こらないよう組織風土の改善も必須となります。
ジェンダーハラスメント被害に遭った労働者側の対処法と相談先

次に、ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)の被害に遭った際の対処法を解説します。
もし職場でジェンハラを受けた場合、一人で悩まず、信頼できる人や専門機関に相談することが解決への近道です。
ジェンハラへの不快感を示す
ジェンダーハラスメントの多くは発言によるため、エスカレートしないうちに防止すれば大事に至らずに済みます。思い込みや先入観で人を傷つけていることを理解してもらうため、不快感を示し、度を越した差別的な発言であることを指摘することが初動対応として適切です。
信頼できる上司に相談する
加害者ではない、信頼できる上司や先輩に相談することが有効です。
ジェンダーハラスメントを疑われる発言や状況を伝え、意見を求めましょう。特に、異性の上司や先輩ほど、むしろ自分側に思い込みや偏見、勘違いがあるとしても正すことができます。ただし、相談者が加害者と親しい場合や、社長や役員など上位者によるハラスメントの場合、中立公平な対応が期待できないおそれがあります。
社内の相談窓口に相談する
多くの企業は、人事部やコンプライアンス部門が管轄するハラスメント相談窓口を設置しており、ジェンダーハラスメント被害の際にも活用できます。偏見を正すよう全社に周知されたり、個別に指導が行われたりすれば、状況を改善できる可能性があります。


社外の専門機関(労働局・弁護士など)に相談する
社内での解決が困難な場合は、外部の専門機関に相談しましょう。
ハラスメントについては、各都道府県の労働局の総合労働相談コーナーや、あっせんの活用が考えられます。また、弁護士に相談すれば、法的な観点から違法性についてアドバイスをもらい、悪質なケースでは損害賠償請求などの手段に進むことができます。
職場のジェンハラの証拠を集めておく
どの相談先を利用するにしても、ジェンダーハラスメントがあったことを客観的に示す証拠は非常に重要です。いつ、どこで、誰から、どのような言動を受けたかを詳細に記録したメモや日記、録音データ、メールやチャットのスクリーンショットなどを、可能な範囲で確保しておきましょう。
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ジェンダーハラスメントに関する裁判例

次に、ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)について判断した裁判例を紹介します。
なお、裁判例では、そのハラスメントがどのような名称で呼ばれているかにかかわらず、不法行為(民法709条)として違法かどうかが重要なポイントとなります。
東京地裁昭和52年3月31日判決(加藤製作所事件)
掃除やお茶汲みに協力しなかった女性社員を、勤務態度不良を理由に解雇した事案です。
裁判所は、「雇用契約上の業務ではなくして、単に慣例またはサービスによる業務にすぎないものであったというべき」「自発的にこれらの業務を行わなかったとしても、更に業務命令を発してまで実行させるべきものであったとは解しえない」とし、解雇を無効と判断しました。
浦和地裁平成10年10月2日判決(与野市社会福祉協議会事件)
来訪者へのお茶入れを拒否した女性社員の懲戒解雇が争われた事案です。
裁判所は、懲戒事由とされた他の点も含め「いずれも事案軽微であり、また、これらを総合しても原告を直ちに排除するのもやむを得ないほどの事由があったものとはいえない」と判断し、相当性がないため懲戒解雇は無効であるとしました。
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ジェンダーハラスメントに関するよくある質問
最後に、ジェンダーハラスメントについて多くの人が抱く疑問に答えておきます。
加害者に悪意がなくてもジェンハラになる?
ジェンダーハラスメントは、加害者の意図ではなく、その言動によって相手が不快に感じ、就業環境が害されたかどうかで判断されます。したがって、悪意なくジェンハラを行なってしまうことがあります。
むしろ、古い価値観から性別に対する役割意識を持つ人ほど、ジェンハラの原因となるような偏見を当然視してしまっていることもあります。
ジェンハラの加害者にならないための注意点は?
ジェンダーハラスメントの加害者とならないために、無意識の偏見や差別に気付く必要があります。とはいえ、性別に対する固定観念は、育った家庭環境や人生経験から形成されるものが多く、簡単には抜けません。
性別に中立的な考え方を理解するとともに、典型的な誤りを知り、「男なんだから」「女のくせに」といった理由付けを口に出さないようにくれぐれも注意しましょう。
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男性もジェンハラの被害者になり得る?
ジェンダーハラスメントの被害は、男性・女性いずれにも起こります。
男性に対するジェンハラとして「男なんだから残業は当然」「男のくせに育児休業を取るなんて情けない」といった発言があります。これらの発言の裏には「男性は早く結婚して身を固め、妻に家庭を任せて働くべき」という固定観念があります。
【まとめ】ジェンダーハラスメント

今回は、ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)の基本と対処法を解説しました。
ジェンダーハラスメントは、性別やその役割に関する固定観念に基づく言動によって、個人の尊厳や職場環境を損なう違法行為です。悪意のない発言や職場で当たり前になっている慣習でも、実はジェンハラに該当して法的責任を問われる可能性もあります。
重要なのは、「どこからが違法か」を正しく理解し、労働者個人も企業も対策を講じることです。男女という性別の違いにあえて着目するのは問題があり、特に、男尊女卑の価値観が根強く残る会社では、女性に不当な扱いを強いるジェンダーハラスメントが多く起こります。
ジェンダーハラスメントの防止には、一人ひとりが無意識の偏見に気づき、互いを尊重する意識を持つことが求められます。疑問のある場合は、速やかに弁護士に相談してください。
- ジェンダーハラスメントは性別の固定観念や差別意識に基づく違法行為
- 職場では、「男のくせに」「女なんだから」といった発言で表れる
- ジェンハラをなくすには、企業としての対策と労働者の意識改革が必要となる
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