「外資系企業には退職金がない」と言われて不安を抱くことがあるでしょう。
確かに、日系企業のような一律の退職金制度のない外資系企業は少なくありません。しかし、全ての外資系に退職金がないわけではなく、企業型確定拠出年金(企業型DC)や特別退職金(退職パッケージ)の制度を整えている企業もあります。重要なのは「退職金制度の有無」に固執せず、「どのような仕組みで、いくら受け取れるか」を正しく理解することです。
実力主義の発想の強い外資系では、能力・成果を理由とした退職勧奨やレイオフが行われることも珍しくなく、退職後の生活を守るためにも、退職パッケージの交渉が必要となります。
今回は、外資系企業の退職金制度の実態と、退職パッケージとの違いや相場感、そして、有利な条件で受け取るための考え方までを、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 退職金制度のない会社もあるが、「外資系」ということだけが理由ではない
- 通常の退職金のほか、特別退職金(退職パッケージ)の交渉が重要となる
- 外資系企業から退職勧奨を受けたら、必ずパッケージの増額交渉を行う
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外資系企業に退職金はない?

はじめに、外資系企業の退職金制度の実態について解説します。
「外資系は退職金がない」という説明は、多くの誤解を含んでいます。実態は「外資系だから」「日系だから」という理由で一様に決めることはできず、企業ごとに異なります。
外資系の退職金制度は企業ごとに異なる
外資系企業の中でも、退職金制度の有無は一様ではありません。
退職金制度の存在しない会社ももちろんありますし、日本企業と同じく退職一時金制度のある会社もあれば、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入する会社もあります。近年、日系企業でも、ベンチャー企業やスタートアップを中心に「退職金がない会社」が増えています。
なお、退職金と異なり、社会保険(健康保険・年金保険)や労働保険(労災保険・雇用保険)は法律に基づく制度なので、企業の自由ではありません。要件を満たすのに加入しないのは、たとえ外資系企業であっても違法です。
退職金は法律上当然の制度ではない
そもそも退職金は、法律で必ず支払わなければならない金銭ではありません。
給与や残業代は、労働基準法や最低賃金法で支払い義務が生じますが、退職金は、法律上当然に生じるものではなく、就業規則や労働契約に基づく制度です。そのため、外資系かどうかにかかわらず、「退職金制度を設けるか」は企業の自由です。条件を限定するのも自由なので、「勤続◯年以上の社員を対象とする」といった退職金規程も多いです。
世界的にも退職時に一時金を支払う制度は少数派です。日本に独特の退職金は、終身雇用と年功序列という慣行と結びつき、「長年の功労への報奨」であると同時に「賃金の後払い」という性格を与えられて広く普及しました。
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退職金がなくても外資系は損ではない
退職金制度がない外資系では、「日系企業より損なのでは?」と不安かもしれません。しかし、一概に損得を語ることはできません。
外資系では「トータルリワード(総額報酬)」の考え方が一般的で、月額の給与やインセンティブ、賞与、株式報酬、退職金などを総額で比較する必要があります。「給与水準が高いことが多い」の通り、退職金がない代わりに給与水準の高い会社が多く、早期に対価を受け取れるため、資産運用に成功すれば退職金を待つより有利になる可能性もあります。
ただ、退職金がないと退職所得控除による税制上のメリットはないため、老後資金を計画的に準備するには、iDeCoとNISAなどの非課税優遇措置の活用が大切です。
外資系に退職金制度がない会社が多い理由

「外資系企業=退職金がない」は誤解であると解説しましたが、実際のところ、退職金制度がない外資系企業は多く存在しており、その背景には理由があります。
給与水準が高いことが多い
外資系企業では、年収水準を高める一方で、退職金を抑える傾向があります。
日系企業と比べて高い基本給や年俸が設定され、退職時の「後払い」ではなく、在職中に支払う「先払い」の発想があります。長期雇用慣行のある日本では、月々の給与を抑え、退職金を積み上げる設計が一般的でしたが、外資系では「成果には今報いるべき」という考え方が強いです。
外資系で働く場合、退職金の有無だけでなく、年収総額やインセンティブ、賞与などを含めた合計額で比較することが重要です。
成果主義の発想が強い
外資系では、職務内容に基づいて報酬を決める「ジョブ型」のもと、成果主義の発想が強い傾向にあり、日系企業のように勤続年数で評価されるわけではありません。
退職金は「勤続に対する報償」という性格があり、成果主義とは馴染みづらい面があります。成果主義の下では、勤続が長くても成果がなければ評価されません。一方、成果を上げれば在職中に十分な報酬を得られるので、退職時に追加で退職金を設ける必要がないと考えられます。
長期雇用を前提としていない
日本の退職金制度は、終身雇用を前提とした人事制度と密接に結びついています。
長く勤めるほど退職金が増える設計には、人材の定着を促す効果がありました。一方、外資系企業は長期雇用を前提とせず、専門性を持つ優秀な人材は流動的な傾向にあります。したがって、長期雇用を前提とした退職金制度を設ける理由が弱くなっています。
人材の流動性が高い
外資系は、転職やヘッドハンティングが活発で、人材の流動性が高い傾向があります。
労働者側も、より良い条件やポジションを求めて転職することを前提にキャリアを考え、企業側も、専門的な人材を必要に応じて採用して組織の再編を図っています。転職が一般化している外資系では、将来の働きを前提とした退職金制度は機能しにくい結果、月給やボーナス、インセンティブといった在職中の報酬に重点を置いた制度設計が多く見られます。
老後資金に対する考え方が異なる
欧米では、公的年金や企業年金、個人の資産運用を組み合わせ、老後資金を自身で準備するのが一般的な考え方です。これに対して日本では、老後資金を退職金で一括して受け取り、不足する分を年金で補って暮らすという発想が根強く残ります。
そのため、外資系で退職金のある会社でも、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入し、従業員自身が運用を行う仕組みを整える例が多く見られます。
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外資系企業で退職金の代わりになる制度

次に、日系企業のような退職一時金の制度のない場合に、外資系企業において退職金の代わりになる制度について解説します。
特別退職金(退職パッケージ)
外資系企業では、制度として退職金がなくても、個別の労働者の事情や退職の経緯によって、退職時に一時金を支払う例があります。これを「特別退職金(退職パッケージ)」と呼びます。
典型例は、退職勧奨やPIPの際に、労働者が退職に同意することと引き換えに、会社が一定額の支払いをすることを提案するケースです。
日本では解雇は制限されており「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。
一方で、海外では、日本よりも解雇の規制が緩い国も多く、日本法に従って不当解雇として争われることを防ぐために、外資系企業では「退職に応じてもらう代わりにパッケージを提案する」ということが実務的に多く行われています。
したがって、外資系に勤務する労働者の中では、退職金制度が存在しなくても、自分の意思に反して辞めるよう求められるときは、パッケージの提案を受けたり、増額の交渉をしたりして、一定の金銭を受け取ることが通例となっています。
企業型確定拠出年金(企業側DC)
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、会社が拠出した掛け金をもとに、従業員が運用商品を選んで資産形成を行う退職金制度です。資金は企業から出る一方で、運用や結果の責任は労働者が負うため、成果主義のもとで老後資金を準備する方法としてよく用いられます。
インセンティブ
外資系企業では、インセンティブ制度がよく導入されます。
インセンティブは、業績や成果に応じて給料が増減する制度ですが、外資系ではその割合が高く、成果を出せば高額の給与を受け取れるケースもあります。退職金は、勤続の貢献について退職時に還元しますが、長く勤めることを前提としない外資系企業では、インセンティブによって短期的に報酬を与えることが多いです。
ただし、勤続年数に応じて予測を立てやすい退職金に対し、業績に連動するインセンティブは、労働者にとって将来の見通しが立てにくいデメリットがあります。
RSU(譲渡制限付株式ユニット)・ストックオプション
外資系では、退職金やボーナスの代わりにRSU(譲渡制限付株式ユニット)やストックオプションが付与されることがあります。いずれも、一定期間の勤務を条件に自社株やその購入権を与えるもので、長期間働き続ける動機付けとなります。
なお、確定前に退職すると権利が消滅することとなっている場合が多く、退職勧奨を受ける場合にはこの未確定分の扱いについても交渉しておく必要があります。
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外資系企業の退職金の相場

次に、外資系企業において退職金で損しないために、相場を理解しておきましょう。
外資系か否かにかかわらず、退職金は企業が自由に定めることができ、一律の相場はありません。とはいえ、金額の決まり方を理解すれば、目安を知ることができます。特に、退職パッケージの交渉では、会社の提案額が妥当かどうかの見極めが必要です。
退職金の相場の考え方
通常の退職金に相場はなく、企業ごとに異なります。日系の大企業で定年まで勤めると、退職金は数千万円規模となることもあります。自社に退職金制度がある場合、退職金規程により、具体的な金額を確認することができます。
特別退職金(退職パッケージ)の相場
これに対し、退職勧奨に伴う特別退職金(退職パッケージ)は、月額給与の3ヶ月分〜1年分程度が、相場の目安とされています。この場面における退職パッケージは、「解雇の解決金」と同様の性質を有するため、金額の決定においては次のような事情が参考にされます。
- 解雇する正当な理由があるか
退職にあたっての労働者と会社の責任の度合いが、パッケージの額に影響します。経営状況の悪化など、労働者に責任がない理由の場合、増額交渉を検討してください。 - 退職せざるを得ない理由
労働者側に退職せざるを得ない理由や、その時期などの制約がある場合、交渉で不利な要素となってしまいます。 - 勤続年数、退職時の年収
通常の退職金と同じく、会社への貢献や成果を示す意味で、一定の考慮がなされます。 - 外資系企業の本国の文化、本社の意向
外資系企業の場合は特に、本国の文化や本社の意向など、日本国内の慣習とは異なるものが影響する可能性があります。

企業内における過去の先例も参考にされ、特に外資系では本国との待遇の比較もされます。自分と同じ条件の退職者が、どれほどの金額を受け取ったか、調査しておいてください。なお、以上はあくまで一般的な相場であり、個別のケースに応じて「外資系企業の退職金を増額する方法」を踏まえた検討は欠かせません。
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外資系企業の退職金を増額する方法

次に、外資系企業の退職金を増額する方法について解説します。特に、自身の意に反して辞めざるを得なくなったときには、退職パッケージの交渉は必須となります。
解雇リスクを交渉材料にする
外資系企業の行う退職勧奨について、労働者に応じる義務はありません。
合意退職が拒否された場合、会社が一方的に解雇することは法律上制限され、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ不当解雇として無効となるリスクがあります。したがって、解雇が無効となるリスクが高いケースほど、会社は紛争回避のために退職パッケージを上積みする傾向にあります。
労働者側では、「解雇をすれば無効になるリスクが高い」ということを説得的に示し、「合意する代わりに◯ヶ月分上乗せしてほしい」と交渉できるのです。
相場を把握して有利な金額を提案する
外資系の退職パッケージは、「月額給与◯ヶ月分」として定めることが多いです。
「外資系企業の退職金の相場」の通り、実務上は3ヶ月〜1年分程度が多いですが、解雇を争うハードルが高いと感じる外資系企業では、1年〜2年分程度の高額の提案をする例もあります。特に、日本法に基づいて日本の裁判所で争うことに抵抗のある企業(日本への進出から日の浅い外資系企業など)では、裁判になる前に金銭で解決しようとする傾向が強いです。
なお、会社側からの最初の提示は、あくまで最低ラインであることが多いので、同業他社の事例や、自社の過去事例も踏まえ、粘り強く増額交渉をする必要があります。
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未払いや未確定の報酬を全て清算する
パッケージ交渉が合意に至れば退職することとなるので、これまでに未払いや未確定の報酬がある場合には、必ずこの交渉の中で清算するようにしてください。
例えば、外資系企業のパッケージ交渉で注意すべきなのは、次の点です。
- 未消化の有給休暇が消化できるか(できない場合は買い取ってもらえるか)。
- 業績連動ボーナスが按分して支給してもらえるか。
- 過去分のインセンティブが支給されるか(例:退職後に締結予定の契約など)。
- RSUやストックオプションが行使可能か。
- 退職日以降にボーナス支給日がある場合、賞与が払われるか。
これの点も含め、基本的に退職に応じるかどうかは労働者の自由なので、納得のいくまで交渉し、不利な条件で応じないよう注意してください。清算条項付きの退職合意書を交わすと、その後に争い直すことは難しくなってしまいます。
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会社都合退職の扱いを求める
退職勧奨に応じた退職は、会社都合となる典型例です。
退職金制度が整備されている会社では、自己都合よりも会社都合の方が上乗せされる例が多く、これは外資系企業でも当てはまります。誤って自己都合扱いとされると、退職金で不利な扱いを受けるだけでなく、失業保険の受給が遅れるおそれもあります。
成果主義の発想の強い外資系ほど、能力不足による解雇では、PIPを実施されて強く責められることもありますが、自主退職を受け入れたり、退職届を書いたりしないよう注意してください。
「自己都合と会社都合の違い」の解説

競業避止義務や秘密保持義務を交換条件とする
外資系のパッケージ交渉において、企業側が希望する条項があるなら、それと交換条件で退職金の増額を求める方法も有効です。
よくある例が、競業避止義務や秘密保持義務です。特に、退職後の競業避止義務は、労使の約束がない限り負うことはなく、強すぎる制限は無効となるおそれもあります。そのため、会社側が強い制限を求めるなら、その補償として金銭を求めて交渉することができます。
「退職後の競業避止義務」の解説

違法な面談を録音する
退職勧奨では、しばしば違法な対応がされることがあります。
退職はあくまで労働者の自由であり、不当な圧力をかけて強要するのは違法であり、パワハラに該当するおそれがあります。違法な退職勧奨があった場合、退職金だけでなく慰謝料の請求も検討しましょう。万が一に備えて面談を録音しておけば、交渉材料とすることができます。
「パワハラの録音」の解説

外資系の退職金に関するよくある質問
最後に、外資系の退職金についてのよくある質問に回答しておきます。
外資系企業が日本を撤退した場合の退職金の扱いは?
外資系特有の事情として、日本からの撤退リスクがあります。
業績が不振だったり文化に合わなかったりといった理由で日本法人そのものが消滅すれば、労働者は退職を余儀なくされます。法人がなくなる場合、退職金も請求できないのが基本です。ただし、本国の法人が一定の退職パッケージの予算を組んでいることもあるため、あきらめずに交渉するようにしてください。
外資系の役員は退職金を受け取れる?
外資系で役員として働く場合、労働者としての退職金は受け取れません。
外資系企業に退職金がない場合はもちろん、制度があっても労働者のみを対象とする場合、役員には支給されません。ただ、外資系企業の場合、たとえ日本法人の社長や責任者を任されていても、本国の指示が必要であり、権限が少ないこともあります。このように形式は「役員」でも、実質としては「社員」と変わらない場合には、労働法の保護を求めることができる場合もあります。
なお、役員の退職慰労金は、定款もしくは株主総会の決議で支給額を決める必要があるため、決議が得られないと退職慰労金も不支給となるおそれがあります。
「取締役の退職金請求」の解説

日系企業から外資系企業に転職する際の注意点は?
外資系への転職では、「年収の高さ」だけで判断するのは危険です。
そもそも報酬体系や雇用慣行、評価制度が大きく異なることも多いからです。退職金制度の確認でも、日系企業によくある退職金一時金だけでなく、企業型確定拠出年金(企業型DC)の有無や拠出額、レイオフや早期退職時の特別退職金(退職パッケージ)の慣行などを総合的に比較しなければなりません。
年収についても、基本給と業績連動ボーナス、RSUやストックオプションなどを含めた総額を確認するようにしてください。変動報酬の割合が高い外資系企業では、「想定年収」が満額支払われるとは限りません。
また、外資系では成果が重視され、雇用の安定性が下がる傾向にあるので、自分の市場価値を見定めて、「何年在籍するのか」を想定しておくことも大切です。
【まとめ】外資系企業の退職金制度

今回は、外資系企業の退職金制度の実態とパッケージについて解説しました。
退職金は、長期雇用慣行のあった日本で広く普及していますが、世界的に見ると必ずしも当然のものではなく、外資系では退職金制度がない企業もあります。ただし、日本法人では独自に退職金制度を作っていたり、企業型確定拠出年金(企業型DC)や特別退職金(退職パッケージ)などを整備していたりする外資系企業も少なくありません。
特に、労働者の意思に反して退職勧奨を受けた際は、必ず退職パッケージの提案を受け、交渉を行う必要があります。提示額は企業方針や状況によっても異なりますが、転職活動中の生活を支える重要な資金なので、提示された条件が妥当かどうかを冷静に見極め、増額の交渉をすべきです。
外資系の退職金やパッケージについて疑問がある場合、会社の条件に応じてしまう前に、弁護士に相談するのがおすすめです。
- 退職金制度のない会社もあるが、「外資系」ということだけが理由ではない
- 通常の退職金のほか、特別退職金(退職パッケージ)の交渉が重要となる
- 外資系企業から退職勧奨を受けたら、必ずパッケージの増額交渉を行う
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