長時間労働の相談窓口は、どこにするのが適切でしょうか。相談窓口は複数ありますが、どこが正解かはケースによって異なります。
労働者にとって働く時間が長すぎることは不満の種ではないでしょうか。我慢して働き続け、ワークライフバランスを欠けば心身を削られます。技術の進歩によって業務効率化を進め、労働時間を削減できた会社もある一方、長く働くことを「美徳」とする会社も依然として多く残っています。
労働時間が長過ぎると違法となる場合がありますが、その適法性を正確に判断するには、専門的な法律知識を要します。労働法をよく理解している相談先に、長時間労働についての疑問を伝え、アドバイスを求めるのが解決への近道となります。
今回は、長時間労働の相談窓口とその特徴、ケース別の相談先について、労働問題に強い弁護士が解説します。
長時間労働の相談窓口【一覧】
長らく社会問題となっている長時間労働。その原因は「人手不足の解消」にあることが多く、業界・業種を問わない共通課題となっているのが現状です。
日本では、長期雇用の慣行が根強く残るなかで、解雇は厳しく制限され、ハードルが高くなっています。このことを知っている企業は、人員が必要と感じてもなお、十分な補充をせず、今いる人数で業務を回そうとします。そのしわ寄せが、社員1人ずつの働く時間を長くし、長時間労働のトラブルを増大させているのです。
長時間労働は、労働者に健康被害を与える深刻なトラブルであり、あらゆる労働問題の火種となる可能性があるため、速やかに解消しなければなりません。決して軽視すべきではない長時間労働の問題について、相談窓口は次の6つです。
- 働く人の「こころの耳相談」
>>相談すべきケース - 労働相談ホットライン
>>相談すべきケース - 労働条件相談ほっとライン
>>相談すべきケース - 都道府県労働局
労働局は労働を司る行政機関であり、あっせんによる調整を利用できる
>>相談すべきケース - 労働基準監督署
労働基準監督署は労働法における警察の役割、刑事責任を追及できるケースで相談すべき
>>相談すべきケース - 弁護士
弁護士は法律の専門家、中でも労働問題に強い弁護士に相談すべき
>>相談すべきケース
以上の相談窓口は「どれが一番良い」というものではなく、絶対の正解はありません。むしろ、各相談先にはそれぞれ特徴、長所と短所があるので、ケースに応じて使い分ける必要があります。
「長時間労働の問題と対策」の解説
長時間労働はどこに相談すべき?【ケース別の相談先】
長時間労働の相談窓口が複数あると解説しました。 各相談窓口にはそれぞれに強みがあり、自身の希望に沿った場所に相談せねばなりません。相談先を適切に選ばなければ、あなたの抱えている問題をうまく解消できないおそれもあります。
働きすぎは、労働者にとって負担が大きく、対応には急を要します。手当たり次第に相談して、時間を無駄にするのは避けねばなりません。
働く人の「こころの耳相談」│辛さを打ち明けたい場合
辛さや胸の内を吐露する先を探す方は、相談窓口として、働く人の「こころの耳相談」があります。働く人の「こころの耳相談」は、必ずしも法的解決のみならず、気持ちに配慮した相談先であり、「会社と徹底的に争いたくはない」「周囲に相談する人がいない」といった方に最適です。
ただし、問題を法的に解決するのには向いておらず、根本的な解決には至らないおそれがあります。この相談窓口では、所定の訓練を受けた産業カウンセラーなどの相談員が対応します。相談料は無料であり、電話やメール、LINEでの連絡も可能と、敷居も低いです。
労働相談ホットライン│情報収集をしたい場合
法的な情報を得たいなら、労働相談ホットラインが相談窓口として適しています。
運営主体は、全国労働組合総連合です。法的な問題点や対処法も相談可能であり、労働組合の目線でアドバイスをもらえます。ただし、この相談窓口では、相談のアドバイスだけでは解決できないような問題については、労働組合の助けを借りる必要があります。社内の労働組合のないときには、社外の合同労組(ユニオン)に加入することも一つの手です。
「労働組合がない会社での相談先」の解説
労働条件相談ほっとライン│休日・夜間に相談したい場合
労働条件相談ほっとラインも相談窓口として検討してください。この窓口は、休日や夜間にも、無料で相談可能(月曜から金曜は17:00~22:00、土日祝日は9:00〜21:00)であり、平日の相談が難しい人からすると、ありがたい制度です。
法令や判例などの情報を提供して、匿名で相談可能、外国語の対応も可能です。一方で、あくまで情報提供とアドバイスにとどまり、会社に対する強制力はありません。
総合労働相談コーナー│専門家に調整してほしい場合
総合労働相談コーナーは、労働局、労働基準監督署などに設置された相談窓口です。無料で、より本格的な解決を目指したい方におすすめです。
「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」に基づいて、相談のほか、助言指導やあっせんを利用でき、弁護士、大学教授、社労士といった労働問題の専門家である紛争調停委員に調整してもらうことができます。裁判に比べて迅速に終了し、かつ、非公開でありプライバシーが守られる一方で、決して労動者に肩入れしてくれるわけではなく、会社が参加しなければあっせんが打ち切られてしまいます(合意成立率は、統計上約4割に留まります)。
「裁判で勝つ方法」の解説
労働基準監督署│刑事責任を追及する場合
会社の刑事責任を追及するなら、相談窓口は労働基準監督署が適切です。
労働基準監督署は、いわば労働問題の警察。警察と同じく、逮捕したり送検したり、差押えしたりする権限を有します。長時間労働で、残業代が払われなかったり、労働者の生命が脅かされたりするとき、刑事責任を問えるケースである可能性があり、このような危機的事態では、労働基準監督署が動いてくれる可能性があります。
一方で、労働基準監督署を動かすには、十分な証拠をもって違反の事実を示すことが必要です。必ず労働者の利益のために力になってくれるとは限りません。働き方が改善されるきっかけになっても、残業代は未払いのままのおそれもあります。
「労働基準監督署への通報」「労働基準監督署が動かないときの対処法」の解説
弁護士│交渉と裁判のプロに任せ、根本的な解決を目指す場合
アドバイスを聞くのみならず、根本的に問題を解決したいなら弁護士への相談が最適です。
行政における相談窓口の多くは、情報提供はできても、実際のサポートはしてくれないことがあります。あっせんは話し合いを促進するものの、あくまで中立。労働者の利益を第一に考えて行動してくれるわけではありません。
長時間労働の被害を回復するには、労働者に有利なように交渉してくれる弁護士の力を借りるべきです。特に、残業代請求、安全配慮義務違反の慰謝料請求の2つの方法が役立ちます。
「サービス残業の相談先」の解説
長時間労働を弁護士に相談すべきケース
次に、長時間労働の相談窓口を、弁護士とすべきケースについて解説します。
労働時間に関する専門的な知識を要するケース
労働時間についてのルールは、主に労働基準法において複雑に定められています。長時間労働が違法かどうかを判断するには、これら法律の定めを理解しなければなりません。長時間の残業をしているのに適正な残業代が払われない場合のほか、法定の労働時間を超えた過度な労働を強いられたことで健康を崩したなら、その労働条件や労働環境は、違法の可能性があります。
労働問題に詳しい弁護士に相談すれば、専門的な法律知識をもとにアドバイスやサポートを受けることができます。
適切な相談窓口がわからないケース
相談窓口の特徴を踏まえても、どこに相談すべきか確信の持てないとき、まずは弁護士に相談ください。
費用もかかる場合、そもそも相談をすべきか不安になるでしょう。しかし、労働時間に関するトラブルは、迷っているうちに被害が拡大していきます。迷う時間を減らし、被害を最小限に抑えるには、まず弁護士のアドバイスを得るのが有効。
弁護士なら、他の相談先が適切な場合にも、その相談方法まで指導してくれます。例えば、労働基準監督署など、行政にも対応してもらえそうな案件については、弁護士に依頼することで証拠を整理してもらい、労基署に動いてもらいやすくなるようサポートを受けられます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
残業代が未払いのケース
決められた時間より長く働いても、全く残業代が払われないケースこそ、まさに弁護士に相談すべき場面です。
他の相談窓口では、残業代の請求まではしてくれません。また、労働基準監督署に告発したいなら、残業の証拠が必要。しかし、開示がスムーズにいかない、そもそも証拠がない、改ざんがあるといった理由で収集がうまくいかない場合、証拠集めから弁護士のアドバイスを受けるのがお勧めです。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説
休みが取れないケース
休憩や休日がとれず、休みがないケースは、弁護士に相談すべきです。休みがないことで労働時間が長くなっているケースは、違法の可能性が高いからです。
違法な業務命令は拒否してよいのですが、自分ひとりで実行するには勇気がいります。下手な対応がきっかけで、職場いじめやハラスメントにつながるおそれもあります。労働基準監督署が動いてくれ、指導をしてくれても、すぐに休めるとは限りません。
弁護士が間に入り、会社への出社を、安全配慮義務違反を理由に拒否することで、長すぎる労働をストップさせ、会社を休みながら争うことができます。
「休日に働いたときの残業代の計算」の解説
長時間労働による被害が甚大なケース
長時間労働による被害が既に明らかなら、相談窓口は弁護士が適切です。虐げられている労働者本人は、そのダメージに気づいていないこともあります。このような緊急のケースは、一刻の猶予もなく、速やかに相談すべきです。
特に、会社への過度な貢献からくる長時間労働の場合、家族が止めなければいけません。このとき、一緒に、弁護士に相談しようと誘う手が有効です。
「過労死の前兆」の解説
長時間労働を相談すべき弁護士とは?判断基準を解説
次に、長時間労働の相談窓口として、弁護士に相談すべきかどうかの判断基準を解説します。以下の基準を参考に、自分に適した相談先を見つけてください。
長時間労働の相談窓口のなかで、弁護士への相談を選択するとして、どのような弁護士に相談すべきかを慎重に検討していただければ、より納得のいく解決に近づくことができます。
長時間労働についての解決実績があるか
1つ目の判断基準が、解決実績です。
相談の際は、労働問題、その中でも長時間労働についての解決実績が多い事務所を選びましょう。
ただし、実績の中身が特定の分野に偏る事務所もあります。例えば、未払い残業代の実績ばかりが多いとき、うつ病による労災や過労死など、必ずしも金銭のみの問題ではない深刻なトラブルを解決した経験があるか、慎重に判断しなければなりません。
「過労死について弁護士に相談する方法」の解説
相談料がかかるか
2つ目の判断基準が、相談料の有無です。
相談料がかかるかどうか、つまり、無料相談かどうかという点。ただしこの点は、いずれが良い、悪いとは言い切れません。
軽く聞いて疑問点を解決したいだけなら、気軽に利用できる無料相談を選ぶのがよいでしょう。しかし、実際に長時間労働のトラブルを解決したいなら、慎重に弁護士を選別すべきです。無料相談だと、相談時間に制限があったり、経験の浅い弁護士が対応したりするリスクがあります。
当然ながら、依頼するには費用がかかります。そのため、有料相談を実施する弁護士もあわせ、最良の弁護士に巡り会えるよう検討しなければなりません。
「残業代請求を着手金無料で依頼する方法」の解説
スピーディに対応可能か
3つ目の判断基準が、対応のスピード感です。
無理な労働が続いてしまうと、期間が長引くほどダメージが大きいでしょう。弁護士に依頼したら、速やかに対応してもらわなければなりません。
レスポンスの遅い弁護士に相談してしまうと、解決が遅れてしまいます。相談窓口が設けられていても、メールの返信や予約がスムーズに進まない事務所は止めておきましょう。
「残業代請求の解決にかかる時間」の解説
長時間労働について相談するときの注意点
最後に、長時間労働について相談する際の注意点を解説します。
過労死する前に早期に相談する
長時間労働で悩む場合、相談はできるだけ早期にすべきです。仕事が山積みだからこそ労働時間が長くなるわけですが、働き詰めはいけません。むしろ、不当な働き方で与えられた仕事を理由に、相談を先延ばししないでください。いずれ辞める会社に、我慢して尽くす必要はありません。
無理な働き方をして、健康状態を害してしまってからでは遅いでしょう。早急な相談は、体調面だけでなく、残業代の時効(3年)を経過させないためにも重要です。
「残業代請求の時効」の解説
メールや電話で軽々に判断しない
相談について、メールや電話でも対応している事務所もあります。しかし、労働時間に関するトラブルはとても複雑で、対面しないでの相談には限界があります。労働時間の長さを理解してもらうため、証拠も直接見てもらった方がよいでしょう。
対面の相談なら、気持ちをよく理解してもらい、親身に、かつ、緻密なアドバイスを得られます。また、そもそも弁護士への相談の目的は、単なる情報収集にとどまりません。その弁護士が信頼できるかをチェックし、相性を確認するには、会って相談するのがよいでしょう。
初回の法律相談をフル活用する
弁護士に相談するときは、初回の法律相談をフル活用してください。
決められた時間内に問題を解消できないと相談料がかかるおそれがあります。何度も相談を繰り返すのは意味がありません。
まずは、どのような解決を望むのか、できるだけ自分の希望を明確にするのが大切。相談前に、事実関係を時系列でまとめておくのも、当日の相談を有効なものにするためのポイントです。メモ書き程度でもよく、相談時に持参するのがおすすめです。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
まとめ
今回は、長時間労働の相談窓口について、ケースごとに解説しました。
労働は、多くの人にとって生活の大部分を占める大切なものですが、長すぎるのは辛いもの。プライベートがなくなるほどの長時間労働は、違法の疑いがあります。違法状態なのに耐えて働き続ければ、回復不能なほどの負荷がかかり、再起不能となってしまう危険もあります。それほどに長い時間働き、貢献し続けた職場でのトラブルに、泣き寝入りする必要はありません。
多様な相談窓口の特徴を理解し、速やかに相談するようにしてください。なお、相談先に迷うときには、労働問題に強い弁護士にご連絡ください。
【労災申請と労災認定】
【労災と休職】
【過労死】
【さまざまなケースの労災】
【労災の責任】