業務が終わったはずなのに、終業後もメール対応に追われるようでは休めません。
業務時間外のメール対応が常態化している会社も少なくなく、「たまにだから」「緊急だから」と言い聞かせて我慢している人も多いのではないでしょうか。しかし、一通だけでなく毎日のように続くと、ストレスも大きくなってしまいます。
相談者メールにより仕事とプライベートの境界が曖昧でつらい
相談者業務時間外もメールが気になって休まる気がしない……
業務時間外は「労働から解放される」のが基本ですが、便利なデジタルツールの普及によって状況は一変しました。時間や場所を問わず仕事ができるようになり、柔軟に働けるメリットがある一方、「終業後でもメール対応くらいは当然」という誤解を生んでいるのも事実です。
原則として、業務時間外のメール対応は強制されるものではありません。例外的に対応せざるを得ない場合、残業代の支払いやプライベートへの配慮が必要です。
今回は、業務時間外のメールがどこまで許されるのか、違法となるケースや注意点、適切な対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 業務時間外のメールは、労働者の立場ではストレスであり、違法の可能性あり
- 業務時間外はメールをチェックする義務すらなく、無視してよいのが原則
- 例外的に対応せざるを得ない場合は、必要性を説明し、残業として扱うべき
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業務時間外のメールは違法?

業務時間外にメールが送られてきたとき、どのように対処すべきでしょうか。
判断の出発点として、「業務時間外のメールに違法性があるか」が重要となります。業務時間外のメールが違法なら、少なくとも業務として対応する必要はなく、「無視する」「連絡を返さない」といった対応が正当化されます。
また、仮に違法でなくても、時間帯や頻度、伝える内容などによっては非常識であり、受信者の私生活を侵害する行為になることもあります。
業務時間外のメールそのものを禁止する法律はない
日本の労働法には、業務時間外のメールを禁止する法律はないため、直ちに違法となるわけではありません。
海外では、業務時間外の連絡を法的に規制している国もあります。その根拠として「つながらない権利(right to disconnect)」の保障が挙げられます。「つながらない権利」とは、業務時間外にメールや電話などの連絡を拒否できる権利です。
日本でも、ワークライフバランスが重視され、「つながらない権利」を求める声は増えていますが、残念ながら現在のところ法制化に至っていません。
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、「テレワークにおける人事評価制度」として、時間外、休日又は所定外深夜(以下「時間外等」という。)のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない」との注意喚起がされています。
同ガイドラインの「長時間労働対策」でも、「役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である」という点が重要視されています。
「長時間労働の相談窓口」の解説

業務時間外のメールが違法なケースがある
たとえ法律で明示的に禁じられていなくても違法な場面はあります。
というのも、業務時間外に仕事を命じることは、許されないのが原則だからです。勤務先といえど、私的な時間に過剰に干渉することは許されません。
早朝や深夜でも、矢継ぎ早にメールが飛んでくると無視はしづらいでしょう。
社長や上司から「緊急」「大至急」と書かれたメールが送られてこれば、気になって反応するのが自然です。メールを気にしていた時間は、働いていたのと同然で心は休まりません。
したがって、業務時間外にメールを送る行為は、その態様によっては違法となる可能性が大いにあります。
典型例は、不法行為(民法709条)にあたり違法なケースです。メール送信が業務時間外である点はもちろん、その内容がハラスメントであれば、さらに不法行為に該当しやすくなります。
- 深夜の遅い時間に、業務を指示するメールが大量に送られてきた。
- 業務時間外のメールで指示された期限やノルマの達成が現実的ではない。
- 部署の社員全員をCCに入れて、侮辱的なメールを送信された。
また、次章の通り、業務時間外のメールのチェックや返信が「労働時間」にあたる場合、その時間は仕事をしていたことになり、給料や残業代を請求できます。指揮命令下に置かれていると評価できるなら「労働時間」に該当し、対価を支払わないのは労働基準法違反だからです。

「労働時間の定義」の解説

業務時間外にメールが送られてきたときの対応は?
業務時間外に来たメールも、一度目に入れば確認せざるを得ません。
ブラックな会社は、次のような扱いで更にプレッシャーを強めてきます。
- 返信がないのに何度も督促を送る。
- 業務時間外のメールに対応しないと電話で催促が来る。
(参考:休みの日に仕事の電話がきた時の対応) - 「要返信」「緊急」「本日中」などと件名に付記する。
- 業務時間外のメールに対応しないことを理由に評価を下げる。
- 社用メールを、私用の端末で受信するよう強要する。
このように会社から強いプレッシャーをかけられたら、適切な対応を理解しましょう。
全てのメールをチェックし、返信していては、業務時間外もずっと仕事が続くのと同じことであり、息をつく間もなくなってしまいます。
業務時間外のメールは無視するのが原則
前章で、業務時間外のメールは違法の可能性があることを解説しました。
違法な業務命令に従う必要はないため、メール送付が違法なら無視してよいです。そもそも業務時間外はメールを確認する義務もなく、対応を要するメールが紛れていたとしても、見る必要はありません。したがって、業務時間外のメールは無視するのが基本方針となります。メールを無視したことを不利益に扱うのは不当であり、懲戒処分や解雇などは無効です。

「業務命令は拒否できる?」の解説

メール対応した時間は残業代請求できる
業務時間外のメール対応を余儀なくされた場合、そのチェックや返信、用件への対応に要した時間は「労働時間」に含まれ、その対価として給料や残業代を請求できます。
具体的には、その時間を含めて「1日8時間、1週40時間」を超えて働いた場合は、通常の給料を25%割増した時間外割増賃金(残業代)が生じます。深夜や早朝の対応は、深夜労働(午後10時〜午前5時の労働)に当たるなら、さらに25%割増(深夜と時間外を合わせて50%割増)で請求できます。
ただし、残業代を請求するには、実際に労働した証拠が必要です。業務時間外にメール対応する際は、証拠を残しながら進めなければなりません。業務時間外のメール対応による労働を証明するには、次の資料を集めておいてください。
- メールの送受信記録
- 業務時間外のメールに、社用のパソコンやスマホから対応するなら、そのログの記録
- 私用の機器から対応する場合、ログの記録とともに、プライベートのWeb閲覧履歴
証拠が不十分だと、対応に要した時間の立証が難しくなる場合もあります。
例えば、東京地裁平成27年11月17日判決では、自宅のパソコンのWeb閲覧履歴やメールの送受信記録を証拠として提出しましたが、残念ながら、これだけでは連続した時間の就労は認められないと判断されました。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説

業務時間外のメールを無視して不利益な扱いを受けたときの対応
業務時間外のメールは無視してよいのが原則なので、その責任は問われません。
したがって、働く必要のない時間なのに、「その時間中にメールのチェックを怠った」という理由で処分がされるのは、不当であるのは明らかです。これを理由として懲戒処分を受けた場合、不当処分となりますし、解雇されてしまうなら不当解雇として違法、無効です。
これらの不利益を受けた場合、処分の撤回を求めて交渉し、交渉が決裂するなら労働審判や訴訟で争うことができます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

業務時間外に取引先からメールが来るときの対応
社内のメールは無視できても、顧客からのメールだと対応に迷うでしょう。無視したり、返信が遅くなったりすると、クレームにつながる危険もあります。
取引先や顧客など、社外の人から業務時間外にメールが頻繁に送られてくるときは、自分だけで判断するのではなく、上司に報告して指示を仰ぐのが適切です。
営業時間外の対応など、会社として手厚いサービスを約束しているケースもあります。
管理監督者など、残業代の発生しない社員が緊急対応をすることとしている会社もありますし、手厚い顧客対応のために、シフト制や交代制として、いつでもメールに対応できる体制を整えるといった企業努力をする例もあります。
そして、社長や上司など、会社からメールに対応するよう言われたなら、業務命令に基づく労働であり、「労働時間」に含まれ給料や残業代が払われるのは当然です。取引先だからと仕方なく従い続けると、要求がエスカレートして「カスハラ」に発展するおそれもあります。
業務上のメールを送ってよい時間帯は?いつまでなら許される?

次に、業務上のメールを送ってよい時間帯について解説します。
何時まで送ってよいのか、何時からは送ってはいけないのかは、会社によっても異なります。まずは、会社の定める所定労働時間と、労働基準法の法定労働時間をご確認ください。
業務時間外と休日のメールは控える
まず、業務時間外と休日については、メールは控えるべきです。
業務時間外は、「勤務時間外」「就業時間外」と言い換えることもできますが、法的には、会社が定める所定労働時間(始業時刻から終業時刻の間)以外の時間のことです。
全員が同じ時間帯に働いている会社は理解しやすいですが、シフト制や交代制の勤務の場合、自分と異なる時間帯に働く人への配慮が必要です。メールを送る前に、相手が業務時間外や休日でないか、よく確認すべきです。
上位の役職者や社長は、業務時間外や休日でも仕事のことを考えている人は多いですが、ワークライフバランスに関する価値観は人それぞれで、全ての従業員に押し付けるのは不適切です。「休日はしっかり休みたい」という人にも配慮しなければなりません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

対応を強要しない
業務時間外と休日のメールは控えるべきと解説しました。一方で、業務時間内のメールは、特に禁止される時間帯はなく、基本的には、いつ送っても問題ありません。
電話ではなくメールであれば、相手の時間を強制的に奪うことはありません。しかし、人には多忙な時間もありますから、メールへの対応を強要しないよう注意しましょう。急ぐ理由のある用件でない限り、期限を定めて回答を求めるといった過度なプレッシャーをかけるのは控えるべきです。
また、社内のコミュニケーション手段として、チャットや電話など、メール以外の手段も併用されているときには、業務連絡の内容や緊急性に応じて、最適な連絡手段を選ぶ必要があります。
「安全配慮義務」の解説

業務時間外にメールを送る必要があるときのマナーと例文

最後に、業務時間外にメールを送信するときのマナーと例文を解説します。
緊急対応を要する場面など、業務時間外にメールを送らざるを得ないこともありますが、時間帯だけでなく文面にも気を配るべきです。
押さえておくべきメールのマナー
ビジネスメールでは文面に失礼がないのは当然ですが、それに加えて「業務時間外に送る場合」特有のマナーを意識しなければなりません。
たとえ親しい同僚だとしても、時間外にメールを送るのは慎重になるべきです。まして、上司・部下の上下関係がある場合、送るメールがパワハラに該当しないよう注意してください。
特に、次の点に注意してメールを作成し、送付してください。
- 業務時間外に送信することを謝罪する。
(例:「業務時間外のご連絡失礼いたします」「夜分遅くに失礼いたします」) - メールの件名で「用件」「緊急性」が分かるようにする。
- 本文は用件のみを、簡潔に短文で書く。
- 緊急を要する、やむを得ない理由を記載する。
- 求めるアクションを簡潔に記載する。
(緊急のアクションが必要な箇所を区別して書く) - 文末に再度、謝罪を述べる。
一言、お詫びのフレーズを添えるだけでも印象はかなり違ってきます。
部下から上司に業務時間外のメールを送るときの例文
部下から上司に、業務時間外のメールを送るときの例文は、次の通りです。
件名
【至急】△△に関する企画書について、XXXの事項のご確認
本文
◯◯様
お世話になっております。◯◯部の✕✕でございます。
業務時間外のご連絡になり、大変申し訳ございません。本日、議題となっておりました△△に関する企画書が完成いたしました。喫緊の問題であると判断し、遅い時間ではありますが、ご連絡を差し上げた次第でございます。
企画書は以下に添付しましたので、明日11時までに添削していただきたく存じます。どうかよろしくお願い致します。
上司からのメールがハラスメントだと感じるとき、直接のメールによるやり取りのみでは外部から見えづらく、問題が隠蔽されるおそれもあります。特に、社内の端末やサーバーにしか保存されていないと削除されるおそれがあるので、必ず自分でも保存し、合わせてスクリーンショットを確保しておくことがお勧めです。
「パワハラの相談先」の解説

上司から部下に業務時間外のメールを送るときの例文
上司から部下へ、業務時間外のメールを送るときの例文は、次の通りです。
件名
【要確認】明日の企画会議の時間変更について
本文
◯◯さん
業務時間外に失礼します✕✕です。
明日の企画会議の開始時刻を13時に変更します。急遽、取引先との打合せが決定したためです。就寝間近で大変申し訳ありませんが、関係部署の担当者に、開始時刻変更の連絡をお願いします。
あわせてスケジュールの調整もしてください。各担当者にメールする際には、私もccにいれるようにしてください。
ご対応よろしくお願いします。
上司から部下への連絡はプレッシャーが強くなりやすく、まして業務時間外のメールの場合は、パワハラと言われやすくなっています。部下からパワハラだと言われないよう、細心の注意を払って進めるようにしてください。
「パワハラと言われた時の対応」の解説

【まとめ】業務時間外のメールの違法性

今回は、業務時間外のメール対応の扱いについて解説しました。
業務時間外のメールを明確に禁止する法律はありません。しかし、業務時間外は労働から解放されるべきであり、拘束することは許されないのが原則です。業務時間外のメール対応を当然のように強制するのは、労働法の基本原則に反する可能性が高いです。たとえ終業後でも、社長や上司からメールを受け取れば、受信した人のプライベートは侵害されてしまいます。
業務時間外のメールは、確認も返信も不要なケースが多いです。また、対応に要した時間は「労働時間」として扱われ、給料や残業代を請求できます。どうしても業務時間外にメール対応を要する場合でも、労働者の負担やプライベートに十分配慮することが不可欠で、強要するとパワハラになるおそれもあります。
業務時間外のメール対応について「おかしい」「違法ではないか」と感じた場合は、早めに弁護士に相談して、法的なアドバイスを求めてください。
- 業務時間外のメールは、労働者の立場ではストレスであり、違法の可能性あり
- 業務時間外はメールをチェックする義務すらなく、無視してよいのが原則
- 例外的に対応せざるを得ない場合は、必要性を説明し、残業として扱うべき
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