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新型コロナが理由の退職勧奨は違法?拒否できる?再雇用の約束は?

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運営元:弁護士法人浅野総合法律事務所

新型コロナウイルスの影響で、会社に仕事がまったくなくなってしまったとき、経営をつづける「苦肉の策」として退職勧奨をされてしまうことがあります。

しかし、政府が雇用維持の施策を模索しているように、新型コロナウイルス禍の苦境であっても、会社はできるだけ解雇をすべきではありません。退職勧奨というと、あくまでも「お勧め」であるように聞こえますが、実際にはこの非常時に配慮すればするほど、「退職強要」といわれてもしかたないような強制力を感じてしまいます。

しかし、労働者側には、退職勧奨に応じる義務はありません。また、自主的に応じる場合でも、退職後の生活のために最大限有利な退職条件を勝ち取るようにしてください。その最たる例が「再雇用の約束」です。

そこで今回は、新型コロナウイルス(COVID-19)を理由とする退職勧奨を受けたときの労働者側の適切な対応方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。

「新型コロナウイルスと労働問題」の法律知識まとめ

新型コロナウイルスを理由とする退職勧奨とは?

労働者と会社の間でむすばれている「雇用契約(労働契約)」を終了させるには、次の3つの方法があります。

  • 辞職(自主退職):労働者側からの一方的な解約
  • 解雇:会社側からの一方的な解約
  • 合意解約:労使双方の合意による解約

この中で、退職勧奨は、退職理由は辞職(自主退職)と同じですが、完全に労働者側だけの判断によるものではなく、これを会社が勧める行為のことです。

新型コロナウイルスの感染拡大は止まらず、緊急事態宣言が出されて以降、多くの地域や業種で休業要請が出されています。また、休業要請が出されていない業種であっても、自粛要請の影響を受けて、売上は大きく減少していることでしょう。

このような新型コロナウイルスのあおりをうけて、観光業や飲食業などでは倒産の報道が相次ぐようになりました。同様に、労働者を多く雇用していた大企業では、集団的なリストラ(整理解雇)も報道されています。

整理解雇では、解雇を回避する努力をしなければならず、解雇対象者以外に自発的にやめたい人がいれば、退職勧奨をすることが必要となります。とはいえ、退職勧奨の対象者とあった人には一大事です。今回の解説を踏まえ、退職勧奨への適切な対応を実行してください。

なお、退職勧奨をことわった結果、新型コロナウイルスを理由に解雇されてしまったときの対応は、次の解説もごらんください。

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退職勧奨への対応を決める2つの判断基準

はじめに、退職勧奨を受けてしまったとき、適切な対応を決めるためには、「会社の意図」を知る必要があります。会社がどのような意図で、どのような発言をしているかによって、法的に正しい対応がことなるためです。

そこで、退職勧奨への対応を決めるにあたって、区別しておきたい2つの判断基準について弁護士が解説します。

「退職勧奨」と「休業」を区別して対応する

今回のように会社に仕事がなくなってしまうケースにおける退職勧奨で「会社に仕事がなくなってしまったので、会社に来なくてよい」と伝えられることがあります。このとき注意しておくべきことは「退職勧奨」なのか「休業」なのかを区別して対応することです。

新型コロナウイルスで仕事が急激に減ってしまい「休業」を選択する会社があります。しかし「休業」は原則として給与は発生することをおぼえておいてください。

というのも、労働者が健康にはたらける状態であるけれども感染症の予防などのために休業する場合、それは「会社都合」の休業です。そして、民法では「使用者の責めに帰すべき事由」の休業の場合、労働者は給与の請求権を失いません(民法536条2項)。会社の意図が「退職勧奨」ではなく「休業」だと明らかになったとき、労働者側は就労の意思を示しつづけ、給与を請求するようにしてください。

就労の意思を示すことは、労働者側にははたらく意思と能力があるのに「会社都合」で休業せざるをえなかったことを示すために必要となります。緊急事態宣言が出された後も、生活のために必要となる仕事に通勤することは、「不要不急の外出」にはあたらないとされています。

ココがポイント

「退職勧奨」であるかにみえた会社の意図が「休業」であったときには、まずは休業の要請にしたがって会社にはいかず、自宅で休むようにします。

その上で、休業中の賃金を支払ってもらえない場合には、会社に対して賃金請求をします。交渉では解決できないときには、労働審判・訴訟などの法的手続きをおこないます。なお、「休業」ではなく「在宅勤務」の指示を受けた場合も同様に、仕事をしている日の給与支払いを求めることができます。

「退職勧奨」と「退職強要」を区別して対応する

さきほどの解説のとおりに対応して、実際に「退職すること(離職)」が求められていることが明らかになったとして、次に検討していただきたいのが「退職勧奨」と「退職強要」の区別です。

退職勧奨は、あくまでも「勧奨(自主的な退職をお勧めすること)」にすぎません。これに対して、労働者側に判断の余地がない、強制的な行為の場合、それは「退職勧奨」ではなく「退職強要」であり、違法の疑いの強い行為です。

というのも、退職強要は、会社の一方的な都合による処分であるため、「解雇」と同義です。「解雇」は、日本では厳しい制限があり、「解雇権濫用法理」というルールのもと、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でない限り、解雇権を濫用した「不当解雇」として無効です。

「退職勧奨」にみせかけた「退職強要」は、このような解雇の制限を違法にくぐりぬけようとする行為であり、労働者側としても素直にしたがう必要はありません。

ココがポイント

「退職勧奨」であるかにみえた会社の意図が、実は「退職強要」であったときは、これを「解雇」と同視して、社員でいつづけることのできる地位を求めて会社と争うこととなります。

具体的には「地位確認請求」という争いを、交渉で解決できない場合には労働審判・訴訟などの法的手続きでおこなうこととなります。なお、この際、退職強要に負けて同意してしまったり、同意を意味するような書面に署名(サイン)をしてはいけません。

退職勧奨を受けたときの適切な対応

会社から退職勧奨を受けたとき、つまり、自主的に退職するよううながされたときの、労働者側の適切な対応について弁護士が解説します。

なお、会社からの退職勧奨が「退職強要」を意味する違法なものではなく、適法なものであった場合には、労使間の関係は交渉(話し合い)によって決まることとなります。労働者側で1人では会社と交渉することが難しい場合には、弁護士に法律相談ください。

まずは法律相談だけであっても、交渉(話し合い)をより有利に進めるための、個別のケースに応じたアドバイスを聞くことがでいます。

自分から「辞める」と言わない

退職勧奨を受けたときの対応でもっとも重要なことは「自分から『辞める』と言わない」ことです。

退職勧奨の法律相談で、「退職を強要され、したがわざるをえなかった」という人が、脅しやだましによる大きなプレッシャーを受けたことは容易に想像できることがあります。しかし、それでもなお、一旦退職を自主的にしてしまうと、これが「脅し」によるものであったことを証明することが困難なケースが多いです。

責任感が強く、愛社精神がある人ほど、会社のためを思ってしたがってしまいがちですが、これにつけこんで退職を迫ってくる会社にしたがう必要はありません。退職に応じてしまいそうなときには、「家族への相談」や「一晩の猶予」などを口実として持ち帰った上で、弁護士に早急にご相談ください。

新型コロナウイルスによる不況を理由にするリストラは、集団的におこなわれている可能性があります。他にも退職勧奨の対象者がいる場合には、いっしょに協力して抵抗することもお勧めです。

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給与を請求しつづける

会社と労働者との間の雇用契約(労働契約)を終了させる方法は、「自主退職(辞職)」「解雇」「合意退職」しかありません。そのため、自分から「辞める」といっておらず、「解雇」でもない場合には、どのような状況であっても「労働者である」という地位は失っていないことを意味しています。

そのため、退職勧奨を受けつづけ、その間仕事をすることができなかったとしても、給与を請求しつづけることが重要です。

退職勧奨を受けている間自宅待機になっていたり仕事を与えられなかったりして、結果として仕事ができなかったとしても、それは会社の都合であり、労働者側の都合ではありません。

会社としても仕事がない期間の雇用維持のため、雇用調整助成金などの支援策を利用すべきであり、とくに新型コロナウイルスを理由とする窮状を救うための施策については、国や自治体から多くの特例措置が出されています。

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有利な退職条件を要求する

どうしても退職勧奨に抵抗することが難しい場合や、会社の状況がひっ迫していて退職せざるをえないような場合であっても、退職勧奨に応じて退職するのであれば、より有利な退職条件を要求しておくべきです。

この先、さらに経営状況が悪化していけば、整理解雇、そして倒産という流れになるわけですが、現段階で退職勧奨に応じてくれる社員がいることは、会社にとってもメリットがあるからです。

会社から勝ち取ることを検討したい労働者側にとって有利な退職条件には、次のようなものがあります。

  • 年次有給休暇の残日数を消化した翌日を退職日とする
  • 年次有給休暇を、相当する賃金額で買い取ってもらう
  • (退職金制度が存在しない場合でも)貢献度に応じた退職金の支払いを求める
  • (退職金制度が存在する場合)退職金について増額支給を求める

注意ポイント

交渉によって勝ち取ることを目指したいこれらの条件に加え、そもそも「未払残業代の請求」「未払賃金の請求」などのように労働者の正当な権利として認められているものについて、まだもらえていないものがないかどうか、最後に確認してください。

退職勧奨に応じた退職の際には、「退職合意書」「誓約書」などへの署名(サイン)が求められることがあり、これに応じてしまうと、労働者の正当な権利ですら失ってしまうおそれがあるからです。

失業保険の手続きを有利に進める

退職勧奨に応じるかどうかを悩む労働者として、心配となるのが退職後の生活でしょう。そして、退職後の生活を保障する国の制度に「失業保険」の制度がありますが、この失業保険は、退職理由が「会社都合」であるか「自己都合」であるかによって、次のとおり得られる保障に大きな差があります。

自己都合 会社都合
「いつ」失業保険をもらえるか 休職の申込み後7日間(待期期間)と3か月(給付制限期間)を経過した後 求職の申込み後7日間(待機期間)を経過した後
「いくら」失業保険をもらえるか 全年齢共通・勤続年数に応じて90日~150日 年齢・勤続年数に応じて90日~330日
必要となる雇用保険への加入期間 離職日以前2年間に被保険者期間が通算して12ヶ月以上あることが必要 離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上あればよい

そして、解雇の場合はもちろんですが、「会社からの退職勧奨に応じて退職をした」という退職理由もまた、「特定受給資格者」に該当して、上記の表でいう「会社都合」としての失業保険における有利な取り扱いを受けることができます。

失業保険についてあまり詳しくない会社も多いため、「自主退職」と同じ扱いにされて、失業保険の取り扱いが不利になってしまわないよう、離職票を発行してもらうときには十分注意が必要です。発行された離職票が「自己都合」ではなく「会社都合」となっているかチェックしてください。

「雇用保険・失業保険」の法律知識まとめ

「再雇用する」という約束とともに退職勧奨されたときは?

新型コロナウイルスによる非常事態で雇用を維持できない会社が、退職勧奨と合わせて、事態収束後の「再雇用」を提案してくることがあります。

「新型コロナウイルスの影響がなくなったら必ず再雇用するから、今はいったん会社を辞めてくれないか」というものです。タクシー会社が大勢のドライバーに対して再雇用を約束して解雇をしたことが話題になりました。

しかし、再雇用をあわせて提案されたとしても「安易に退職勧奨に応じてはいけない」という基本的な対応方針はまったく変わりありません。

会社側としては、すべてを新型コロナウイルスのせいにして頼んでくるのでしょうが、再雇用つきの退職勧奨に応じることには、次のようなデメリットがあります。

  • 再雇用の約束が「口約束」だと、あとから約束が守られないおそれがある
  • 新型コロナウイルスの脅威がいつ収束するかは、誰にも予想できない
  • 新型コロナウイルスの脅威が世間的におさまったとしても、再雇用できるほど経営状況が改善される保証はない
  • 新型コロナウイルスをきっかけとして働き方や需要の変化に、会社が対応できるとは限らない

したがって、再雇用を約束されての退職勧奨に応じてもよい場合とは、再雇用が確実に期待でき、新型コロナウイルスが収束すれば復活できる体力が会社にある場合だけです。そして、そのような会社が労働者に再雇用をお願いしてまで退職勧奨をする必要がないことは明らかです。

それでもなお、再雇用を約束してくれるのであれば退職勧奨に応じるという場合には、すくなくとも、再雇用の約束について労使間で書面を交わしておくべきです。このとき、上記のようなデメリットの犠牲となってしまわないよう、書面には次の要素を盛り込むよう、会社と交渉をしてください。

  • 「再雇用するよう努める」といった努力義務の形にしない
  • 再雇用をする条件を、具体的な数値により明確にする
  • 会社経営を再開する日時を、具体的な年月日により明確にする
  • 再雇用後も、退職時と同じ労働条件を保証することを約束する

なお、「会社が倒産するくらいなら、一旦退職をして、失業保険で生き残ればよい」と考える人もいますが、再雇用を約束しての退職の場合には、失業保険の給付をすることができないおそれがあります。

失業保険は、「失業状態」になければ給付されません。「失業状態」とは、就職をする意思と能力があるけれど仕事が見つかっていない状態のことをいい、将来の再雇用を約束され、求職活動などをする必要のない人がこの「失業状態」には当たらないと評価される可能性があるからです。

以上のことから、結局、再雇用を約束されたとしても、退職勧奨に応じるべきではない場合が多いといえます。

「労働問題」は、弁護士にお任せください!

今回は、新型コロナウイルスの影響により増加する労働問題のうち、会社から退職勧奨を受けたときの適切な対応について弁護士が解説しました。

退職勧奨は自主退職を「お勧め」する行為ですが、実際にはこれにしたがって退職せざるを得ないのではないかと考えてしまう人が多いです。しかし生活のかかった非常事態で「空気を読む」という必要はなく、「本当に退職せざるを得ないのか」を、退職の同意をする前に立ち止まって考えてください。

会社としても、やめてもらいたい一心で、さまざまな有利な条件を提案したり、強くプレッシャーをかけたりします。特に、新型コロナウイルス禍の中では「再雇用の約束」が話題になっていますが、将来うまくいく保証はどこにもありません。

退職勧奨を受けて、労働者が1人で会社と戦うことが難しいときには、ぜひ一度、労働問題に強い弁護士に法律相談ください。

「新型コロナウイルスと労働問題」の法律知識まとめ

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弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)は、代表弁護士浅野英之(日本弁護士連合会・第一東京弁護士会所属)をはじめ弁護士5名が在籍する弁護士法人。 不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、近年ニュースでも多く報道される労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。 「労働問題弁護士ガイド」は、弁護士法人浅野総合法律事務所が運営し、弁護士が全解説を作成する公式ホームページです。

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