不当解雇を争っている間に「再就職したい」と考える人も少なくありません。解雇の紛争は、解決までに一定の期間を要します。交渉から労働審判、訴訟へと進むにつれて、相当長期間かかることもあります。現実問題として、再就職しなければ生活に支障が生じてしまう人もいます。
解雇は不満だが、再就職しないと生活できない
再就職すると、解雇の争いに不利にはたらく?
生活のためにやむを得ず、争いながら働く人も多いでしょうが、再就職しても解雇を認めたことにはならないので、あきらめてはなりません。たとえ紛争中に再就職しても、争いに勝って解雇の無効が確認されれば、復職することができます(どうしても復職したくないなら、金銭解決の方針に切り替えることもできます)。
なお、再就職するにあたり、不当解雇の争い中であることが「問題社員なのではないか」と疑われる原因となるおそれがあり、解雇を争う間の転職活動には特有の注意点があります。
今回は、不当解雇を争っている間、再就職して他の仕事をしてよい理由と、その際の注意点について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 解雇を争っている間に再就職しても、解雇を受け入れたことにはならない
- 再就職先での給料は、6割を上限として給料(バックペイ)から控除される
- 再就職先に成功した結果、もはや復職したくないなら解雇の金銭解決を目指す
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不当解雇を争っている間に再就職してもよい
解雇の無効を主張して、不当解雇を争う間でも、再就職して他の仕事をして構いません。
なぜ、このような疑問が生じるのかというと、「解雇は無効だ」という争いは、要は「元の仕事に戻してほしい」ということであり、「再就職すること」と矛盾するように思えるからです。実際、解雇の紛争中に再就職していたことが分かると、会社側から「既に再就職しているなら、解雇を争う必要がないのではないか」と反論されることがあります。
一方で、現実問題として、解雇を争っているからといって無職無収入では、生活に困窮してしまいます。不当解雇なのが明らかでも、当面の生活が苦しくなるのでは「争いはあきらめるしかない」と考える人も出てきてしまいます。この不都合を避けるためにも、不当解雇を争う間の再就職は、当然に認められています。法的な権利としても、労動者は「職業選択の自由」(憲法22条)を有し、いつ、どのような職に就くことも自由に決められます。
不当解雇の争訟中なら、解雇によって雇用関係を終了しており、二重雇用となることもありません。解雇された会社と、退職後の競業避止義務を約束している場合、ライバル会社への再就職は許されませんが、そもそも同義務は無効になる可能性の高いものです。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
再就職しても解雇の争いに悪影響はない
前章の通り、不当解雇を争っている間に再就職しても構いません。その理由は、再就職しても、解雇の争いに悪い影響を及ぼすことはないからです。
解雇された労動者にも生活があり、家族を養っている人も多いでしょう。現実問題として、収入がなくなってしまうのは非常に困ります。もし「再就職は許されず、無職のまま我慢して解雇を争わなければならない」ならば、「貯金のない人は不当解雇に屈して泣き寝入りするしかない」というのと同じことで、不当なのは明らかです。
再就職しても解雇を認めたことにはならない
解雇の争いを有利に進めるポイントとして「労動者から解雇を認めないこと」があります。明示的に解雇に同意してはいけないのは当然、解雇を認めるかのように見える言動もまた、裁判で不利に考慮されるおそれがあります。この禁止事項に触れると、会社側から「同意があった」「解雇でなく合意退職だった」と反論され、負ける可能性があるからです。
実際、解雇中の労働者の行為によって、
- 「就労の意思がない」と判断した裁判例(東京地裁平成元年8月7日判決)
- 退職するという黙示の合意があったと評価する裁判例(東京地裁平成31年4月25日判決)
- 解雇を認めており信義則上争えないとした裁判例(大阪地裁平成4年9月30日判決)
など、労働者に不利な判断を下したケースがあります。
「解雇を認めた」と受け取られ、不利になりかねない言動の例は、次の通りです。
- 「解雇を認める」「退職でかまわない」などの発言
- 退職を示す書類(退職届、退職合意書など)にサインする
- 退職手続きを積極的に進める(退職金や離職票の受領など)
- 業務の引き継ぎに協力的である
これに対し、就職をすることは、前章の通り、職業選択の自由に基づく労動者の権利であり、生活を維持するために仕方のないことです。不当解雇の争いが長期化する場合、再就職しなければ、争いを継続することが事実上困難となりかねません。したがって、再就職は生活のためであり「解雇を認めた」とは言えないので、不当解雇を争っている間の再就職も制限されず、再就職が解雇の争いで不利に扱われることもありません。
「不当解雇の裁判の勝率」の解説
不当解雇を争う間に再就職したら給料の調整が必要となる
不当解雇を争う際、解雇が無効であると判断された場合、解雇されていた期間中も労動者だったこととなり、その間の未払い賃金(バックペイ)を請求できます。解雇された間は働いてはいないものの、就労できなかったのは「不当解雇されたから」であり「働きたくても解雇されて働けなかった」のですから、給料の請求権は失われません。
このとき、解雇を争っている間に再就職していると、その期間中は二重に収入があることになり、調整が必要となります。解雇を争っている間の再就職は「解雇が有効かどうか」という点で不利に働くことはないものの、仮に解雇が撤回されて復職できたとしたら、給料を二重取りすることはできず、調整しなければなりません。
「バックペイ」の解説
解雇されていた期間中の賃金(バックペイ)と、再就職先の給料は調整されることとなっていますが、上限があります。再就職先からの給料が全て控除されては、解雇期間中にした仕事が全て無意味となり、労動者の保護が十分ではありません。会社から見れば「不当解雇しても、社員が他の仕事をしていれば給料は払わずに済む」ことになってしまいます。
このとき、労働基準法26条の定める休業手当が「平均賃金の百分の六十以上」(およそ給料の6割)とされることを参考に、解雇期間中に再就職先から得た収入は、元の賃金の6割を上限として差し引くこととするのが実務です。
「休業手当の計算と請求方法」の解説
再就職後に不当解雇の争いを解決するときの影響
不当解雇を争っている間に再就職して、他社で働いている場合、その後の解決(和解・判決など)に影響があることを考慮しなければなりません。再就職は、和解や判決といった解雇トラブルの終了時に一定の影響があるものの、必ずしも労動者に不利益なわけではありません。
和解による解決への影響
不当解雇のトラブルは、和解で解決できることがあります。このとき、労動者が再就職に成功していると、和解交渉を柔軟に進めることができます。労動者としても、新しい職場で安定した収入を得ていれば、解雇された会社に再び戻りたいとは思わないこともあり、「一定の解決金がもらえるならば、これ以上争わなくてもよい」と考え、早期解決を望む人も多いからです。
「解雇の解決金の相場」の解説
解雇トラブルの裁判の判決への影響
これに対して、話し合いによって和解できない場合は、判決で解決することとなります。このとき、解雇が無効であるという判断になると、解雇が撤回され、労動者は復職することとなります。ただ、この場合にも、退職は労動者が自由にすることができるため、一旦は元の会社に戻ったとしても、再就職先を優先して、すぐに退職することもできます(この場合、解雇期間中の賃金であるバックペイは得られます)。
「解雇を撤回させる方法」の解説
損害賠償請求への影響
不当解雇によって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できるケースもあります。この場合、慰謝料額は、労動者の受けた損害の程度によって増減するため、再就職ができているなど、損失が小さいと評価されると、認められる慰謝料額が低くなるおそれがあります。
ただし、解雇の慰謝料が認められるのは例外的なケースのみであり、地位が回復してもなお補償されない損害がある場合に限るものと考えられています。
「不当解雇の慰謝料」の解説
不当解雇を争うのに必要な期間によって方針を決める
解雇を争うのに再就職せざるを得ないのは、「収入が途絶えたことで当座の生活費を稼がなければならないから」という理由の人がほとんどでしょう。逆にいえば、貯金が潤沢にあり、今すぐは困らないなら、就職はせず、ひとまず解雇の戦いに専念できます。
そこで重要なのが、「解雇の争いの解決まで、どれくらいの期間がかかるか」という点です。話し合いや労働審判を駆使し、短期間で解決するなら、その期間再就職しなくても問題はなく、仕事せず、解雇の争いに集中できます。一方で、思いの外争いが長引くと、仕事をしなければならなくなってしまうでしょう。
解雇の争いは、初めは話し合い、つまりは交渉をし、解決できないときは労働審判、訴訟という流れで進むのが通例です。
ケースバイケースですが、交渉には1〜3ヶ月程度の時間を要し、3ヶ月経過しても解決できない場合は労働審判を申し立てることが多いです。労働審判は、3回までの期日で終了し、平均して70日程度かかるとされます。一方、訴訟に発展すると、数ヶ月から、長いと年単位の時間を要します。
いずれの手続きも、「早く終えたい」と考えるなら、妥協して和解をすれば、期間を短縮できますが、得られるものは少なくなり、バランスが重要です。あなたが、どれくらいの期間なら再就職しなくても耐えられるのかと、交渉や裁判の行方を見て、方針を慎重に決めるようにしてください。
「労働問題の種類と解決策」の解説
不当解雇を争う間に再就職する時の注意点
最後に、不当解雇を争う間に、再就職して他の仕事をするケースで、注意すべき点を解説します。
解雇を争っていることは再就職で不利にならない
「解雇を争う間に再就職しても、裁判で不利にはならない」と解説しましたが、逆に、解雇を前職と争っているという事実もまた、再就職で不利になることはありません。
そもそも、解雇された期間中の転職活動といえど「解雇された」「紛争中である」と伝える必要はありません。また、たとえ伝わってしまっても、「不当解雇であり理由に誤りがある」「現在争っている最中である」と伝えれば、あなたの非によって下された解雇であるという印象をなくし、問題社員というレッテルを貼られづらくすることができます。
「懲戒解雇が再就職で不利にならない対策」の解説
前職の企業とのトラブルは可能な限り防止する
不当解雇を争っている最中に再就職せざるを得ないとしても、争いに勝ったら復職する可能性もあるならば、前職との関係は、可能な限り悪化しないよう配慮しておいて損はありません。
再就職によって前職に誤解を生ませないためにも、コミュニケーションを密に取り、再就職せざるを得なかった理由を説明すべきです。例えば、解雇の戦いにおける交渉中もしくは裁判中に「復職を求めているが、生活のため再就職せざるを得なかった」と伝えておくことは、将来に復職することとなった場合に円滑に進める助けとなります。
また、再就職するにしても、秘密保持義務は守らなければなりません。前職との労働契約の内容によっては、退職後の競業避止義務を負っていることもあります。これらを無視して再就職すると、前職との対立が深まるのはもちろんのこと、前職から再就職先に損害賠償請求されるなど、前職との労働トラブルを再就職先にも派生させるおそれもあります。
「誓約書を守らなかった場合」の解説
再就職先を優先することもできる
解雇され、争いながらも再就職していると、「もう会社に戻りたくない」という方もいます。このとき解雇トラブルの争いは続けながらも、再就職先を優先する対応も可能です。
再就職先を優先するなら、解雇の争いの途中で妥協し、退職をして解決金をもらう、いわゆる金銭解決を目指す方針で進めるのがよいでしょう。また、解雇が無効になったとしても必ずしも復職する必要はなく、そこまでの未払い賃金(バックペイ)を受け取ってすぐに退職することもできます。
「不当解雇から復職したくない時の対応」の解説
まとめ
今回は、不当解雇を争っている間の再就職について解説しました。
「不当解雇について会社と争いたい」という法律相談のなかで、「争っている期間中の生活をどのように立て直すのか」「できれば再就職したい」という不安を聞くことがよくあります。解雇を争うからといって、その戦いのみに集中できる人は少なく、現実問題として、生活のためには仕事をして、収入を維持する必要のあることが多いでしょう。
本解説の通り、不当解雇を争う最中でも他の会社に就職してよく、注意すべきポイントを押さえておけば、再就職したからといって解雇が有効になるわけではなく、不利にもなりません。生活もかかっているでしょうから、安心して戦うためにも再就職して構いません。ただし、再就職先の給料は、元の給料の6割を上限として、解雇期間中の賃金(バックペイ)から差し引かれます。
解雇の争いで不利にならない立ち回りは、弁護士のアドバイスをお聞きください。
- 解雇を争っている間に再就職しても、解雇を受け入れたことにはならない
- 再就職先での給料は、6割を上限として給料(バックペイ)から控除される
- 再就職先に成功した結果、もはや復職したくないなら解雇の金銭解決を目指す
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