会社から持ち物検査を命じられることがあります。ロッカーやデスクはもちろん、財布やバッグまであさられれば、不快な気持ちになります。労働者は、会社の持ち物検査に、従わなければならないのでしょうか。
やましくなくても、迷惑をかけなくても、持ち物検査は嫌なもの。プライバシーを侵害され、会社から疑われたようでいい気分は全くしないでしょう。
持ち物検査を、抜き打ちでするのは違法では?
会社の持ち物検査からプライバシーを守りたい
労働者の意に反して、無理やりした持ち物検査は、違法の可能性があります。それだけでなく、命令に従わないと、持ち物検査を拒否したことを理由に、懲戒処分や減給、最悪のケースは懲戒解雇など、労働者にとって不利な処分をされてしまう危険もあります。
今回は、会社に持ち物検査を命じられたとき、従う義務があるのか、違法ではないかといった、持ち物検査についての法律知識を、労働問題に強い弁護士が解説します。
会社の持ち物検査とは、業務命令の一環
職場において、持ち物検査が行われることがあります。持ち物検査は、会社の命令によってスタートします。このように、持ち物検査は会社の命令、つまり、業務命令の一種として行われます。
使用者は、労働者を雇用することによって、業務命令をする権限を有します。これは、企業秩序を維持するための重要な権限です。
また、会社は、労働者が危険物や、禁止された私物を持ち込むのを防止するために、施設管理権も有しています。会社と安全と秩序を守り、ひいては、他の社員を危険から守るため、持ち物検査を命じざるを得ないシーンがあるからです。
持ち物検査は業務命令ですから、上記のように理由あるものなら拒否はできません。つまり、やむを得ない理由で、適法な範囲でされる持ち物検査は、断れません。
しかし、持ち物検査が不快に感じるとき、その検査が違法のおそれがあります。違法な持ち物検査は、労働者のプライバシーを侵害するおそれのある危険な行為。業務上の必要性がないなら、その持ち物検査は違法であり、拒否してもよいケースも少なくありません。
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会社の持ち物検査が違法となるケースと、違法性の判断基準
企業秩序を守るため、会社は、適法な範囲なら持ち物検査をすることができます。施設管理権に基づき、危険な物を持ち込ませないのは、他社員への安全配慮義務の意味合いもあります。
とはいえ、労働者にもプライバシーがあります。オフィスで過ごす時間はかなり長くなるため、私物の持ち込みもある程度はしかたないもの。それなのに、合理的な範囲を超え、持ち物検査すれば、違法となるおそれは強いでしょう。業務上の必要性が小さければ、プライバシー侵害の方が上回って、違法となる可能性が高いです。
裁判例にも、持ち物検査の違法性を判断した事例があります。西日本鉄道事件(最高裁昭和43年8月2日判決)は、持ち物検査の適法性について次の要件をあげています。
持ち物検査の理由があるか
まず、合理的な理由のない持ち物検査は、違法です。合理的な理由とは、つまり、会社の業務にとってその持ち物検査の必要性が高いということです。必要性もないのに、しつこくされる持ち物検査は、違法の可能性が高く、断ってよいでしょう。
理由なき検査は、例えば、次のケースです。
- 毎朝、バッグの中身を上司に見せるよう指示された
- 毎晩、ロッカーとデスクを開けて変えるよう指示された
- 持ち物検査の理由を聞いても、教えてもらえない
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持ち物検査の方法が妥当か
次に、持ち物検査の方法が不当なら、違法です。持ち物検査をしなければならない状況でも、その方法には配慮が必要であるということです。
持ち込んで当然な私物まであさる持ち物検査は、違法の疑いがあります。方法が不当な検査には、例えば次のケースがあります。
- スマホや化粧ポーチをすべて見せるよう指示された
- 無理やり押さえつけられ、バッグの中身をみられた
- 服のなかに手を入れられ、検査された
業務の範囲を超えて、私物をチェックすることは、違法なプライベートの干渉にも該当することがあります。
持ち物検査が全社員にされたか
次に、持ち物検査を狙い撃ちでされれば、違法です。業務の必要性があるなら、誰か一人に持ち物検査をするのではなく、全社員にすべきです。誰か一人や、一つの部署だけを持ち物検査の対象とするなら、その合理的な理由が必要となります。
プライバシーを過剰に侵害し、個人を貶めるような持ち物検査は違法であり、拒否すべきです。
- あなただけが毎日、持ち物検査される
- 上司から危険視され、嫌われたため持ち物検査された
- 新入社員が持ち物検査の対象となった
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持ち物検査の根拠があるか
最後に、持ち物検査を適法にするには、その根拠が労働者に明示されていなければなりません。通常は、就業規則にその根拠があることが多いです。持ち物検査のルールを就業規則に定めなければ、行き過ぎが生じる危険があるからです。したがって、契約上の根拠のない持ち物検査は、違法です。
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会社に持ち物検査を命じられた時の対処法
次に、持ち物検査を命じられたときの労働者側の対処法について解説します。
本解説の通り、持ち物検査が違法なケースもあるものの、適法なケースもあります。そのため、持ち物検査をされそうになったら一律の対応は危険であり、ケースバイケースで、対応方法を変えなければなりません。
プライバシー侵害になりかねない、危険な持ち物検査には、すぐ従わず、立ち止まって考えましょう。持ち物検査は、どのような場合でも許されるわけではないからです。
持ち物検査を命じる根拠を確認する
まず、持ち物検査を命令する根拠があるのか、確認してください。前章「会社の持ち物検査が違法となるケースと、違法性の判断基準」の通り、根拠のない持ち物検査の命令は違法だからです。
会社に雇用されるかぎり、労働者は、一般的な業務命令には従う必要があります。しかし、持ち物検査は、一般的ではなく、むしろ、特殊な業務命令。どのような場合に、どのような手段・方法でできるか、就業規則にルールが定められている必要があります。就業規則に、持ち物検査の条件や方法、手続きが定められているのが確認できたら、会社がこれに従って適切に検査を進めているかどうかも確認してください。
なお、就業規則は、10人以上の労働者のいる事業場で、労働基準監督署へ届け出る義務があり、労働者への周知を要するので、就業規則が確認できないならそれだけで違法です。
持ち物検査する理由を聞く
就業規則で、持ち物検査を命じる根拠があっても、いかなる場合でもできるわけではありません。あくまで、労働者のプライバシーと比較して、業務上の必要性の高いときしか許されません。
そこで、持ち物検査を受けそうなとき、その理由を確認しましょう。会社に対し、「持ち物検査をする理由は、どのような必要性があるか」と質問してください。会社の回答が納得いかければ、持ち物検査を拒否することを考えましょう。なお、持ち物検査をするやむを得ない理由には、次のようなものが考えられます。
- 備品を盗んだ人を探す必要がある
- 危険物を持ち込んだ人がいる
- 会社の現金を横領した人を探す必要がある
仮に理由がしかたないと感じても、持ち物検査の方法は、その理由と合っていなければなりません。目的を達成するのに不要な範囲にまで持ち物検査が及べば、やはり違法といってよいでしょう。
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会社の持ち物検査を拒否する方法
ここまでの対応で、会社の持ち物検査が違法だとわかったら、拒否しましょう。持ち物検査を拒否するとき、拒否のしかたを知らないと、不利益を受けるおそれがあります。
労働者に違法な持ち物検査を強要しようとするなら、悪質なブラック企業かもしれません。拒否するときも慎重に対応し、リスクを少なくしておかなければなりません。
プライバシーを理由に拒否する
まず、持ち物検査を拒否するとき、労働者側の利益、つまり、プライバシーを強く主張しましょう。会社の持ち物検査は業務命令の一環で、命令する権利自体はあるときは、対抗する権利が必要です。拒否する理由をしっかり説明しなければ、持ち物検査は拒否できません。
職場は、プライベートな空間ではなく、プライバシーは限定的ではあります。しかし、職場内でもプライバシーが守られるべき空間は多いものです。
- 私物を入れたロッカー
- 私物を入れたデスクの引き出し
- バッグの中身
- ポケットの中身
- スマホの中身
- パソコン内部のデータ
- 手帳の記載
これらは、たとえ職場内でもプライバシーが守られるべきです。持ち物検査といえど、よほどの理由なしには侵害することは許されません。
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無理やりの持ち物検査は、必ず拒否する
労働者が拒否するのに対して、無理やり持ち物検査をされることもあります。このようなときは、必ず拒否し続けるようにしてください。
持ち物検査に理由があっても、無理やりの方法は妥当ではなく、違法であり拒否すべきものです。無理やり私物を奪いとったり、暴力をふるったり脅したりすれば、違法なのは明らかです。持ち物検査が違法というにとどまらず、暴行罪、脅迫罪などの犯罪にあたる危険もあります。
身体検査は拒否する
私物をチェックするなどの持ち物検査を超え、身体検査に至れば、違法の可能性が高まります。身体検査は、所持品検査にもまして、労働者のプライバシーの権利を侵害するからです。特に、着衣のなかにまで及ぶような身体検査は、よほどの必要性があっても許されません。
身体検査を命じられたら、理由をよく問いただし、必要性を確認してください。会社の業務で、持ち物検査はともかくも身体検査まで必要となるシーンはほとんどないと考えられます。
嫌がらせの持ち物検査なら、パワハラの慰謝料を請求する
会社が持ち物検査を命じた理由が、嫌がらせにあることがあります。ある特定の労働者だけに、狙い撃ちで、業務上の必要性のない持ち物検査をさせる例がこれにあたります。このとき、その持ち物検査は嫌がらせであり、パワハラにあたります。
持ち物検査には目的はなく、職場いじめが真の目的だと考えられます。このとき、ただ拒否するだけでなく、パワハラで受けた精神的苦痛について、慰謝料請求して被害回復を図ることができます。
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会社の持ち物検査を拒否して、解雇された時の対応
会社の持ち物検査が、適法なものなら、拒否すると不利益な処分を受けてしまいます。持ち物検査の拒否は、「業務命令違反」となるからです。
労働者はプライバシー侵害が強く違法だと考えても、会社は適法だと考え、意見が異なることも。すると、会社は、拒否した人に不利益な扱いを強要してくることもあります。
不利益な扱いによくあるのが懲戒処分、そして解雇(最悪のケースが、懲戒解雇)です。
業務命令違反は、就業規則でも、懲戒処分事由や解雇事由と定められるのが通例です。持ち物検査に従わせようとした会社が、「命令に従わないと解雇する」と通告してくる例もあります。
しかし、違法な持ち物検査を拒否するのは当然です。違法な命令を拒否したことを理由にする解雇は、「不当解雇」であり、これまた違法です。解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇は、無効だからです(労働契約法16条)。
懲戒解雇は特に、労働者に大きなダメージを与えます。懲罰的に辞めさせられるわけですから、持ち物検査によるプライバシー侵害の比ではありません。したがって、持ち物検査の拒否くらいで解雇にできるのは、相当例外的なケースに限られますから、不当解雇を強く疑いましょう。
不当解雇されたなら、労働審判、訴訟などの裁判の方法によってその異方性を争い、解雇の撤回を求めましょう。違法な持ち物検査を強要するような会社に戻りたくないとき、話し合いにより、解決金をもらって退職するという金銭解決を求めることもできます。
「解雇を撤回させる方法」「解雇の解決金の相場」の解説
まとめ
今回は、会社が持ち物検査を命じたら、労働者がこれに素直に従わなければならないのか、解説しました。持ち物検査は、違法となるケースもあるため、慎重な対応が必要です。
違法な持ち物検査を命じられたり、それを拒否したら懲戒処分、解雇など不当な処分を受けてしまったら、労働審判、裁判などを活用して会社と争うのを検討してください。嫌がらせ的な持ち物検査なら、ハラスメントにもなります。
嫌がらせ目的の持ち物検査にお悩みなら、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】