インフルエンザが2017年(平成29年)も猛威を振るっています。
すでにインフルエンザにかかってしまい、会社を休むことになった労働者(従業員)の方も多いのではないでしょうか。
インフルエンザなどの感染力の強い病気にかかってしまった場合、他の社員にうつしてしまわないように、会社を休むことになります。
インフルエンザで休むとき、欠勤、有給休暇(年休)、公休、病気休暇など、会社にあるさまざまな制度のうち、法的にはどのような扱いになるのでしょうか。
また、これに関連して、インフルエンザで休んだ期間に給料が支払われるのか、賞与や評価のうえで、どのように取扱われるのか(欠勤になるのか)といった点は、労働法の観点から理解しておく必要があります。
いざインフルエンザにかかって、高熱、咳などで苦しい体調の中で、欠勤の取り扱いや給料について考えたり、会社と交渉をしたりすることは困難です。平時である今だからこそ、インフルエンザの会社における取扱いについて、確認しておきましょう。
1. いつから出勤できるの?
インフルエンザにかかってしまったとき、「いつから会社にいっていいのか。」つまり、いつから出勤できるのかが気になるのではないでしょうか。
医療の進歩によって、インフルエンザの高熱は、思ったよりも早く下げることができるケースも多いです。
しかし、インフルエンザで怖いのは、その感染力の強さです。たとえ高熱が下がったとしても、他の社員(従業員)にうつしてしまう危険があるのであれば、出勤することは止めたほうがよいでしょう。
労働法では、インフルエンザの場合に、いつから出勤してよいのかについて、弁護士が解説します。
1.1. 厚生労働省の基準
「インフルエンザのときいつから出勤していいの?」という質問に対して、まず参考になるのが、厚生労働省が公表している基準です。
厚生労働省が公表している「インフルエンザQ&A」では、次のようにまとめられています。
インフルエンザQ&A(厚生労働省)
- インフルエンザウィルスを排出している期間は、外出を控えるべき。
→インフルエンザウィルスは、発症前日から、発症後3~7日間、鼻やのどから排出される。- インフルエンザウィルスは、解熱後であっても排出される。
厚生労働省が公表している一般的な基準をまずは参考にするとよいです。
ただし、あくまでもインフルエンザウィルスの排出期間には個人差がありますので、咳、くしゃみなどの症状があり、感染の可能性がある場合には、マスクなどをして他の従業員(社員)に配慮してください。
感染の可能性があるかどうかについては、ケースバイケースの判断が必要となるため、医師の指示にしたがうようにしましょう。
今回の解説は、労働法の立場から、インフルエンザにかかって仕事を休むとき、どの程度休めばよいのか、いつから出勤してもよいのか、というお話です。
これに対して、教育の現場では、「学校保健安全法」によって、「発症後5日、解熱後2日(幼児は3日)を経過するまで」を、インフルエンザによる出席停止期間として、法律で定めています。
1.2. 会社のルールを確認する
法律で決められている学校の場合とちがって、会社の場合には、「何日間は絶対に休まなければいけない。」と法律に定められているわけではありません。
とはいえ、高熱や咳などの症状があるにもかかわらず出勤しては、他の従業員(社員)に迷惑をかけ、会社の業務をストップさせてしまいます。
したがって、原則としては、先程解説したような、厚生労働省の発表や、学校保健安全法の基準を目安にするとよいでしょう。
会社の場合、社員みんなに集団的に適用されるルールは、就業規則でさだめられることが一般的です。
「インフルエンザのときどれくらい休むべきか。いつから出勤できるか。」ということは、雇用形態や業務によって変える必要のないことなので、社員全員に、就業規則でルールつくりをしている会社が多いです。
インフルエンザの出勤、欠勤の「日数」に関する会社のルールを理解するには、次のようなポイントに注意してください。
- 他の従業員(社員)と接触する頻度の多い職場か。
- マスク着用が義務付けられている会社か。
- 在宅ワーク、テレワークなどの制度があるか。
中には、インフルエンザを発症して高熱でも、隔離した部屋で作業をさせ、「這ってでも来い!」というブラック企業もあるようですが、不適切な業務命令であり、したがう必要はありません。
一般的には、1週間(7日)程度の休みとするケースが多いのではないでしょうか。
1.3. 期間(日数)の数え方は?
「発症後5日」などという場合に、その期間(日数)の数え方を知っておきましょう。
民法には、「初日不算入の原則」というルールがあります。
簡単にいうと、期間が定められているときに、その期間をカウントするとき、初日は計算に入れない、というルールです。
民法の条文では、次のように定められています。
民法140条第140条(暦法的計算による期間の起算日)
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前0時から始まるときは、この限りでない。
そのため、法律上のルールどおりであれば、「発症後5日」であれば、発症の翌日から数えて5日間という意味になります。
前章で解説したとおり、法律でインフルエンザの出席停止期間が決められている学校教育の現場の場合には、このように理解することとなります。
これに対して、就業規則などで決まっている会社のルールは、かならずしも「初日不算入」であるとは限りません。「いつの時点から数えて何日なのか。」が、就業規則などを読んだだけでは理解できない場合には、あらかじめ確認して明らかにしておく必要があるでしょう。
2. 会社の基準「いつまで休むべきか」がわからないときの対応
ここまでお読み頂きましたらご理解いただけますように、会社員、サラリーマンが、インフルエンザのときにどれだけ休めばよいのかは、法律では決まっておらず、会社次第となります。
また、新型インフルエンザの場合には、厚生労働省によって、会社に来させることは禁止されているものの、通常の季節性インフルエンザの場合にはそうではありません。
そのため、ブラック企業の例のように、「インフルエンザでも仕事が命!」という対応は、不適切ではあるものの、法律に違反した悪質な違法行為とまではいえないわけです。
そこで、実際にインフルエンザにかかってしまった場合に、平時に就業規則などを確認しておらず会社のルールを知らなかった場合や、そもそも会社に就業規則などがないという場合、次のように対応します。
- まずは、真っ先に医者の検査、治療を受けてください。
- 検査の結果、インフルエンザと判明したら、何日休むべきか、医師の判断を聞いてください。
- 医師の判断を会社に伝え、会社の指示を仰ぎます。
- 治療結果が良好であれば、会社の指示に従って、復帰します。
3. 会社にインフルエンザ休暇がある場合の注意点
会社の中には、インフルエンザにかかった場合に、通常の風邪、体調不良や欠勤とはことなる、特別な休みのルールがある場合があります。
インフルエンザのときに利用できる特別な休暇が準備されている場合、その名称は、会社によってさまざまです。一般的には、次のようなインフルエンザ休暇があります。
- 病気休暇
- インフルエンザ休暇
- インフルエンザによる出勤停止
病気休暇やインフルエンザによる出勤停止が、あなたのはたらいている会社に用意されているかどうかは、就業規則を見ることで確認しておいてください。
インフルエンザのために会社が用意した特別な制度を利用する際の注意点について、弁護士が解説します。
3.1. インフルエンザの診断書を提出する
インフルエンザにかかってしまい、会社を休まざるを得ない場合、インフルエンザの場合に適用されるような「病気休暇」の制度が用意されている場合があります。
また、一方で、インフルエンザにかかったことを理由に、出勤停止となる会社もあります。
いずれの場合であっても、「インフルエンザかどうか。」が、特別な制度の対象となるかを決める重要なポイントとなります。
そこで、医学的な見地から「インフルエンザかどうか。」を証明するために、医師による診断書を取得し、会社に提出しなければなりません。
冬場に高熱や激しい咳が続く場合には、「インフルエンザかも?」と疑い、医師に検査と診断書をお願いするようにしてください。
インフルエンザ証明書の料金は、1000円~3000円程度が相場です。
費用もかかることなので、余裕があれば、まずは、会社に、「診断書、証明書が必要か?」という点と、「診断書、証明書がないと利用できない制度があるか?」ということを確認しておくとよいでしょう。
3.2. 給料は払われるの?
インフルエンザにかかった場合の病気休暇、出勤停止などの特別な制度を利用する場合、給料が支払われるかどうかが、会社のルールで決められていることがあります。
これは、正社員であるか契約社員であるか、バイトであるか、月給、時給、日給のいずれの給与体系であるかなどには関係しません。
3.3. 評価には影響しないのが原則
インフルエンザにかかってしまった場合に、病気休暇や出勤停止の制度を利用するメリットは、労働者(従業員)の評価に影響がないという点です。
単にやすんで欠勤扱いとなってしまうと、「怠慢である。」「やる気がない。」などとみられて、自分の評価(能力、態度)が下がってしまうこともあります。
風邪や体調不良ですら、ブラック企業では「自己管理が甘い。」「やる気がないから言い訳している。」などと、評価が悪くなる原因になることすらあります。
これに対し、インフルエンザであることを診断書を提出して明らかにし、インフルエンザの際に利用できる病気休暇などを利用して休むのであれば、能力などの評価には影響しません。
インフルエンザによる病気休暇は、単なる欠勤や無断欠勤とは、性質が異なるからです。
4. インフルエンザで有給休暇を活用!
インフルエンザにかかってしまった場合に、有給休暇(年休)を活用したほうがよいケースもあります。
インフルエンザでも、有給休暇を利用して休んだ方がメリットがある場合があるということです。
日本の有給休暇の消化率は、非常に低いといわれていますが、会社の中には、計画的に有給休暇を活用し、インフルエンザなどのいざという場合に有給休暇を計画的にあてていくという会社もあります。
インフルエンザで、有給休暇を活用するとメリットがあるのは、次のようなケースです。
- 病気休暇などの制度がないか、あっても無給扱いとなってしまう場合。
- 会社が、有給休暇の消化に好意的である場合。
有給休暇を取得して休む場合には、たとえ実際はインフルエンザであったとしても、診断書を提出する必要がありません。有給休暇を取得する理由は聞かれないのが原則だからです。
診断書を提出しなくてもよいため、診断書を作成する費用が必要なくなるというメリットがあります。
とはいっても、インフルエンザにかかったのに、単なる風邪か体調不良だと勘違いして、数日の有給休暇のあとに出勤するということは、会社や他の従業員(社員)に迷惑をかけることになるため、お勧めできません。
診断書を提出する必要まではないとしても、「インフルエンザかも?」と思ったら、検査と治療はかならず受けておくようにしてください。
5. インフルエンザから復帰するときの注意点
インフルエンザがなおって、会社に復帰するときにも、慎重に注意しなければなりません。
あまりあせって復帰しても、感染の可能性があるため迷惑がられるおそれがあります。
インフルエンザについての会社のルールを確認した上で、有給休暇など、労働者の権利として使えるものを使い、ゆっくり、じっくり治すのがよいでしょう。
医療の発達によって、インフルエンザの高熱が、比較的短い期間で解熱できるようになりました。
しかし、自分では元気に動けるとおもっていても、実際には、インフルエンザウィルスの感染力が残っている場合があります。
インフルエンザの感染には、「飛沫感染」と「接触感染」の2つがありますが、いずれも感染力はとても強力です。
- 飛沫感染
:インフルエンザが咳、くしゃみ、唾などによって「飛沫感染」しないよう、会社に復帰した後もしばらくの間は、マスクをつけるようにしましょう。 - 接触感染
:インフルエンザウィルスの感染力は強力です。目、口、鼻をぬぐった手で、同じ場所を触れただけでも「接触感染」の方法で感染する可能性があります。
症状がおさまるかどうかには、個人差があるので、復帰後数日は、たとえ症状がおさまっていたとしても、マスクをつけるのが、会社に迷惑をかけないためにはオススメです。
【追記】今年のインフルエンザ
平成29年(2017年)の冬は、寒さがとても厳しくなると言われており、例年は12月ころから始まるインフルエンザの流行ですが、今年はすでに10月上旬の現在から騒がれています。
インフルエンザのことを早めに意識し、予防対策をしておかなければ、インフルエンザによる欠勤で人手不足が加速したり、納期を守れず顧客に迷惑をかけてしまったり、売上下落につながったりするおそれがあります。
例年よりもインフルエンザの流行が早い平成29年(2017年)冬は、インフルエンザ予防もまた、例年よりも早めに徹底しておかなければなりません。特に、インフルエンザワクチンの接種です。
通常、インフルエンザのワクチンを接種してから効果が出るまで、約2週間かかるとされていますから、本格的なインフルエンザの流行が始まる前に、早めにワクチンの接種を受けておきましょう。
また、労働者が個人でも職場でできるインフルエンザ対策として、加湿器によって感想を防ぐ、アルコールを使った手洗いで除菌するといった方法が考えられます。
6. まとめ
平成29年(2017年)も、例年と同じくインフルエンザが猛威をふるっています。
冬になり、インフルエンザに注意が必要な季節となりました。
いざ、インフルエンザにかかってしまったときには、高熱、だるさで、何も考えたくないことでしょう。もちろん、インフルエンザにかかった後では、弁護士に法律相談しにいくこともできません。
インフルエンザにかかってしまったときのために、労働法の問題点を解消しておいてください。
- 「いつまで休むべきなの?」
- 「いつから出勤していいの?」
- 「給料は払われるの?」
- 「有給休暇を使っていいの?」
といった、インフルエンザにかかったときによくある法律相談について、労働問題に強い弁護士が、まとめて解説しました。