セクハラというと「女性が被害者、男性が加害者」というイメージの方もいるでしょう。しかし、このような典型例ばかりではありません。
性(性自認・性的指向)の多様化と共に、LGBTの権利尊重が叫ばれる現代。LGBTは当然、そうでない人も、同性から性的な嫌がらせをされたり性被害を受けたりするケースは決して珍しくはなくなりました。同性間(男性同士・女性同士)のセクハラ問題の理解が大切な時代なのです。
「会社に隠しているが実はLGBT」という性的マイノリティも少なくありません。同性だからといって無神経、無遠慮な性的行為、性的発言は控えるべきです。同性からのセクハラ被害はもちろん、同性への不用意な言動がセクハラ扱いされ、加害者になってしまうこともあります。
今回は、同性からのセクハラ被害の実態と、いざ同性同士のセクハラトラブルで被害者・加害者となったときの適切な対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 同性からのセクハラは決して不思議なことではない
- セクハラ被害者がLGBTのとき、精神的苦痛は特に深刻化する
- 同性からのセクハラ被害は少ないため、周囲に理解させるには証拠が大切
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同性からのセクハラが起こる理由
同性同士(同性間)だと、セクハラにあたる発言や行為がどこから違法なのか、線引が難しいです。そのため、異性なら許されないのが明らかな言動でも、同性間だとしてしまいがちです。例えば「男性同士の下ネタ」「女性同士の恋愛トーク」といった例も、内容や程度によっては不快に感じる人もいるのではないでしょうか。
このように同性からのセクハラは、被害者が声をあげるシーンが少ないことから、違法性を指摘されずに続いてしまいがちです。しかし、セクハラは違法なハラスメントであり、「嫌がらせ」の意図があります。たとえ同性でも、相手が不快に思うなら違法なハラスメントと評価できます。違法なセクハラは、たとえ同性からでも不法行為(民法709条)に該当し、慰謝料を請求できます。
同性であり、かつ、上司と部下の関係であると、相手のセクハラを指摘するのは更に困難です(この場合、セクハラと共にパワハラの問題も合わせて生じています)。
同性からの言動に「セクハラかも」という疑問を持ちながら、不安を抱え続けるのはお勧めできません。まずは弁護士に相談して、専門家の意見を聞くのがよいでしょう。
同性からのセクハラが問題になるケース
次に、同性間のセクハラでよくあるトラブルをもとに、どのような言動が同性からのセクハラだといえるのかを具体的に解説します。
「男性から女性」がセクハラの典型ですが、「女性から男性」へのセクハラもあります。そして、異性間だけでなく同性間でもセクハラは起こっています。
被害者の性自認が見た目と違うと(つまりLGBTだと)、意図せぬセクハラが起きやすいです。また、性的少数派(性的マイノリティ)でなくとも同性からベタベタと体を触られたり、必要以上に近寄られたりするのは不快であり、ハラスメント(嫌がらせ)と感じる人は多いでしょう。
「同性からのセクハラ」は、「異性間のセクハラ」に比べると珍しいので、性的発言、性的行動だと指摘をしづらく、泣き寝入りしてしまいがちです。しかし、真面目な性格の人ほど、たとえ同性でも精神的苦痛を受けやすく、我慢は禁物です。
被害者がLGBTの場合
性的発言、性的行動の被害者がLGBTだと、同性でもセクハラが成り立つ可能性が非常に高いです。
LGBTは、外見と中身が一致しません。そのため、外見通りの性別として接すること自体が、セクハラになる危険があります。外見からすれば同性間(男性同士・女性同士)でも、キスやハグ、からだを触るといった行為が、異性に対するのと同じく性的嫌がらせになってしまうのです。
LGBTの定義は、次の通りです。
- レズビアン(L)
女性同性愛者(女性を愛する女性) - ゲイ(G)
男性同性愛者(男性を愛する男性) - バイセクシュアル(B)
両性愛者(男性・女性どちらも愛する性) - トランスジェンダー(T)
性的越境者(自身の性に違和感・嫌悪感を感じる性)
※ LGBTは性的マイノリティ(性的少数者)の典型例ですが、現在の性の多様化によって、更に複雑な性自認の人も出現しています。
LGBTがセクハラの被害者となる場合、「身体的性(体が男性・女性のいずれか)」ではなく「性自認(被害者がどんな性だと自認しているか)」で判断するのが基本となります。例えば、「身体的性」が男性でも「性自認」が女性なら、男性からの性的発言、性的行為に嫌悪感を示し、セクハラだと感じることになります。
LGBTが被害者となる同性からのセクハラには、次の例があります。
- 「オカマ」「ホモ」などのLGBTを蔑視する呼び名
- 「男らしくない」「女々しい」など、性自認に反する行為を馬鹿にする
- LGBTに不快感をあらわにするの発言(「気持ち悪い」など)
- LGBTを理由に労働条件を悪化させる
- LGBTであることを社内で噂を流す
なお、LGBTであること自体や、外見と中身が一致しないことを批判されたり、馬鹿にされたりからかわれたり、性差別を強調されたりといったこともセクハラ被害です。その他、異性間であればセクハラになる言動が、LGBTでもセクハラになるのは当然のことです。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
男性同士(男性間)のセクハラ
被害者がLGBTでなくても、同性からのセクハラが違法となるケースは十分あります。たとえ同性に性的な興味関心がなくても、同性からキスされたり抱きつかれたり、下半身を執拗に触られたりと言った行為は正常ではなく、不快に思う人が多いのは当然です。
同性から軽いタッチが頻繁にされ、徐々にエスカレートし、いじめにつながる例もありますが、男性同士だと、酒の席や下ネタなど「ノリ」で見逃されてしまう危険があります。
男性同士(男性間)で起こりがちなセクハラは、次の例です。
- 男性同士(男性間)で、酒のノリで下半身をしつこく触られる
- 男性同士(男性間)でプライベートの性的な質問を繰り返しされる
- 男性から、飲み会で全裸の宴会芸を強要される
- 男性から、罰ゲームで女性社員への告白をさせられる
- 風俗にいって童貞を捨てるよう命令される
男性同士(男性間)のセクハラでは「ノリ」がポイントです。「体育会系のノリ」や「下ネタのノリ」に乗れないと人間関係が築きずらく、会社に居辛くなり、最悪は、昇進や出世といったキャリアに影響するといった理由から、「セクハラなのでは」と不快に思っても我慢してしまいます。
「男性が女性に裸を強要する」となれば、セクハラなのは明らかですが、男性同士だと「ノリ」との境界が曖昧になってしまうわけです。しかし、そのような空気には馴染めない人も多く、不快に思う人がいればセクハラだといってよいでしょう。
女性同士(女性間)のセクハラ
女性同士(女性間)でも、セクハラが発生します。
上記のように「ノリ」が重視される男性同士(男性間)のセクハラに比べ、女性同士(女性間)のセクハラは陰湿な言動になりがちです。他の社員に見られないようこっそりされる同性からのセクハラは、女性間の苛烈ないじめに発展することもあります。
女性同士(女性間)で起こりがちなセクハラは、次の例です。
- 女性同士(女性間)で、胸を揉みしだく。
- 女性同士(女性間)で、尻をしつこく触り続ける。
- 女性に対して性的なことがら(恋愛、彼氏の有無)を追求し続ける。
- 女性同士(女性間)で、体型(体重、スリーサイズなど)を明らかにするよう強要する。
- 女性上司から「ヤリマン」「ビッチ」と噂を流される
同性からのセクハラは、パワハラにもあたる可能性あり
同性からのセクハラが成立しうると解説しました。しかし、同性からのセクハラが違法かどうかは判断しづらいもの、一方で、「性的な意図」がなくても、ハラスメント(嫌がらせ)で被害者が不快に感じるなら、それはパワハラにあたる可能性もあります。
セクハラは「性的な」嫌がらせですが、加害者に「性的な」意図がなくても、被害者にとっては「嫌がらせ」には違いないのです。パワハラは、職場における優越的な地位を利用した嫌がらせであり、男女を問わず成立します。
したがって、同性からのセクハラという指摘が不安なら、同性からのパワハラと指摘してもよいでしょう。性的マイノリティであることを社内で隠している場合など、同性からの違法行為について「セクハラだ」と訴えるのが難しい場合や、恥ずかしい場合、言い出しづらい場合は、パワハラ問題として相談する手も有効です。
「パワハラの相談先」の解説
同性からのパワハラにあたる言動
同性からのしつこいデートの誘い、肉体関係の強要は、性的意図があるならセクハラです。一方で、上司・部下の関係を利用して強要されれば、パワハラにもあたります。
セクハラであれパワハラであれ、いずれも不法行為(民法709条)であり違法なことに変わりはありません。したがって、いずれのハラスメントであっても慰謝料請求の対象とすることができます。ハラスメントを放置し、泣き寝入りする必要はありません。
「パワハラにあたる言葉一覧」の解説
同性からのパワハラが違法となる基準
同性からのパワハラが違法かどうかは、指導の目的があるかどうかで判断します。指導の目的があり、その手段が相当であれば、適切な業務命令ないし注意指導であり違法ではありません。
ただ、同性からのセクハラを疑われるようなケースは、指導の目的などないと明らかなケースが多いため、違法の可能性が高いと考えてよいでしょう。性的意図のある行為は、同性間でも、業務上必要なものとは到底いえません。
「パワハラと指導の違い」の解説
同性からセクハラ被害を受けたときの対応
最後に、同性からのセクハラの被害に遭ったとき、どのように対処すべきか解説します。同性であってもセクハラが成立することを知れば、同性からのセクハラも異性からのセクハラと同じ対処法が有効であると理解できるでしょう。
拒否の意思を示す
同性からのセクハラは、異性から受ける場合に比べ、意外性の高いもの。被害者の側では「まさか同性からセクハラされるとは思わなかった」と考えるでしょうし、加害者の側でも「まさか嫌だと思っているとは知らなかった」という場合が多いです。
そのため、異性間で起こるセクハラにもまして「拒絶の意思を示す」のが重要です。きちんと不快感を伝えなければ、同性からの言動がセクハラにあたるとは理解してもらえません。
周囲に相談する
同性からのセクハラでも、相談先は、まずは会社内の相談窓口がよいでしょう。同性からのセクハラだと、周りもあなたの精神的苦痛やストレスを理解してくれていないこともあります。
事前に、頻繁に相談しておくことで、セクハラ被害なのだと理解してもらいやすくなります。同性からのセクハラは、噂が誤解を生みやすいもの。相談を受けたときの対応にも万全の注意が必要です。
「セクハラの二次被害を防ぐ対策」の解説
録音する
誰も見ていないところでこっそり行われるのは、同性からのセクハラも同じです。労働審判や訴訟といった裁判手続きで慰謝料を請求しようにも、「証拠がない」というケースもあります。
同性からのセクハラは、異性間のセクハラに比べれば珍しいです。証拠が全くないと、「同性からセクハラを受けるのは通常あり得ない」といった誤った推測でセクハラを否定されかねません。同性からのセクハラに悩むなら、まずは録音の準備をし、セクハラを証拠化してください。
「パワハラの録音」の解説
弁護士に相談する
悪質性の高い問題は、社内での解決には限界があることもあります。
同性からのセクハラでも、重度のセクハラや、しつように続くセクハラ、社長が加害者のセクハラなどでは、会社もまともに対応してくれないおそれがあります。このとき、弁護士に相談するのがおすすめです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、同性からのセクハラも違法であることを解説しました。同性間(男性同士・女性同士)でセクハラされて被害者となったなら、我慢せず周囲に相談しましょう。
同性間だとセクハラの判別は難しいもの。加害者も同性であるがゆえにセクハラの自覚がなく、相談した人からも「気にしすぎだ」などと軽視されるおそれもあります。セクハラ問題として取り上げてもらえるとしても、LGBTなど性的マイノリティであることを社内でオープンにしていない方は、同性からのセクハラを訴えるのに相当な勇気を要し、泣き寝入りしてしまいがちです。
社内で解決できない深刻なセクハラ問題は、弁護士にご相談ください。セクハラトラブルを扱った経験の豊富な弁護士なら、同性からのセクハラといった珍しいケースにも対処でき、違法な扱いを拒絶したり、慰謝料を請求したりするサポートが可能です。
- 同性からのセクハラは決して不思議なことではない
- セクハラ被害者がLGBTのとき、精神的苦痛は特に深刻化する
- 同性からのセクハラ被害は少ないため、周囲に理解させるには証拠が大切
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【セクハラの基本】
【セクハラ被害者の相談】
【セクハラ加害者の相談】
- セクハラ加害者の注意点
- セクハラ冤罪を疑われたら
- 同意があってもセクハラ?
- セクハラ加害者の責任
- セクハラの始末書の書き方
- セクハラの謝罪文の書き方
- 加害者の自宅待機命令
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- セクハラ加害者の退職勧奨
- セクハラで不当解雇されたら
- セクハラで懲戒解雇されたら
- セクハラの示談
【さまざまなセクハラのケース】