社長の陰湿ないじめ、上司の嫌がらせを執拗に受けると、とてもつらいでしょう。「パワハラでは?」と疑問に感じたら、すぐにすべきなのが、「パワハラの証拠集め」です。
ひどいパワハラだと、慰謝料を請求しないと止まらないケースも少なくありません。労働審判や訴訟など、裁判所に「パワハラ被害があった」と認めてもらうには、証拠が必要です。証拠の収集は特に、パワハラの被害を受けている「最中」にするのが重要です。
パワハラ被害は、誰にでも起こる可能性があります。「自分にも非があったのでは」と後ろめたく思い、あきらめてしまう人もいます。証拠は非常に重要であり、証拠なしに「パワハラだ」と叫んでも、被害者が逆に問題社員扱いされ、不利益を受ける危険もあります。
今回は、パワハラに立ち向かうのに大切な証拠の集め方と、証拠のないパワハラへの対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- パワハラの行為そのものの証拠だけでなく、違法性や損害を証明する証拠も必要
- パワハラの証拠は、録音・録画が一番だが、証言やメモでも証拠になる
- 証拠のないパワハラでも、まずは被害拡大を止め、証拠集めの努力をする
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パワハラの証拠とは
パワハラの疑いある行為を受けたら、すぐに弁護士に相談ください。
ただ、このとき大切なのが、証拠の収集です。パワハラにあたる行為かどうか、グレーなことも多いもの。パワハラの証拠なしには、労働問題に精通した弁護士といえど、満足なサポートができなくなってしまうこともあります。パワハラは、労働問題のなかでも特に証拠に残りづらい性質があるので、注意を要します。「パワハラだ」と感じたら「すぐ拒絶する」という直後の対応とともに、証拠集めを始めてください。
集めておくべきパワハラの証拠は、次のように分類されます。
- パワハラにあたる具体的な行為の証拠
殴る、蹴るなどの暴力、暴言やいじめといった行為を証明する資料 - パワハラが違法であることの証拠
適切な指導ではなく、行き過ぎた違法行為だと証明する資料 - パワハラの被害に関する証拠
労働者が、パワハラで受けた損害を証明する資料
行為そのものを証拠で証明すべきなのは当然ですが、それだけでは不十分です。パワハラの多くは、あからさまにされるのでなく、隠れてこっそりとされたり、指導を装っていたりするからです。
指導の目的があるように見せてするパワハラ行為は、外見からは違法なパワハラかどうかの判断がつきづらいものです。このとき、業務に必要で、かつ、相当な方法でされる指導は、パワハラではありません。「目的」と「手段」の2つの観点から検討する必要があり、指導の目的があったとしても行き過ぎた手段ならばパワハラです。したがって、「行き過ぎた指導でありパワハラである」と示すためにも、より詳細な証拠を必要とします。
「パワハラと指導の違い」の解説
パワハラの証拠として集めるべき資料
パワハラを受けているときに集めるべき証拠資料を、順に解説します。
パワハラの証拠集めは、パワハラを受けている最中にするのが最適です。後から気付いても、過去のパワハラについて集められる証拠は限りがあるからです。パワハラを受け続けると冷静な判断は難しいでしょう。パワハラの証拠がどのようなものか、事前に理解しておく必要があります。
パワハラの音声の録音
パワハラの音声を録音すれば、パワハラを直接記録した、とても重要な証拠になります。
「上司から暴言を吐かれ、罵倒された」といった言葉によるパワハラは、録音による証拠集めが最適です。性能の良いボイスレコーダーを購入し、肌身離さず携帯しましょう。咄嗟の録音なら、スマホのボイスメモでも、十分証拠になります。
「会社の許可なく録音してよいのか」と不安がる人もいます。しかし、パワハラ被害を受けたなら、承諾なく録音しても、裁判で証拠として活用できます。
パワハラを録音して証拠を集めるには、次の点にご注意ください。
- パワハラの正確な日時を記録する(ボイスレコーダーの時間設定など)
- 複数回、継続的にパワハラを録音する
- カットや編集はせず、パワハラの一部始終を録音する
- パワハラを録音する目的で挑発しない
- 録音を補足するメモを作成する
パワハラは突発的に起こるため、日常的に準備しなければ良い録音はとれません。証拠集めのために、事前準備は欠かせません。
「パワハラの録音」の解説
パワハラの動画の録画
パワハラを動画撮影するのも有効です。録画した動画は、録音と同じくパワハラの直接的な記録であり、証拠として役立ちます。
とはいえ、パワハラ中にスマホを構えて録画するのは現実的ではありません。パワハラの動画を入手するには、次の方法があります。
- 同僚に頼んでこっそり撮影してもらう
- 監視カメラ・防犯カメラの録画を入手する
- パワハラが起こりそうな場所にカメラを設置しておく
ただ、パワハラの性質上、密室でこっそりされるのがほとんどでしょう。パワハラ行為自体を撮影し、動画に残せるケースは限定的です。
パワハラにあたる命令を記載した書面
注意や指導、業務命令がパワハラにあたるケースでは、書面が証拠になります。
パワハラになる命令が、書面に記載されている事案では、その書面を必ず保管してください。書面による証拠は「書証」といって、裁判所でも最重要とされます。記憶はすぐ変わったり忘れたりしますが、書面は改ざんや偽造が難しく、信用性が高いからです。
ただ、パワハラを隠したい加害者ほど、あえて書面にせず、口頭で命令します。このときも「その命令は、書面でください」と要求するのがポイント。「パワハラで解雇された」といった最悪のケースでは、解雇理由証明書など、法律にしたがって会社が出すべき義務のある書類もありますから、強く求めることで証拠集めに役立てられます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
パワハラにあたるメールやチャット
メールやチャットもまた、パワハラが起こりやすいです。対面で連絡するよりもハードルが低く、つい勢いあまってパワハラになりがちだからです。このようなケースで、パワハラにあたるメールやチャットは、証拠として必ず保存しておきましょう。不快だからといって削除してしまえば、大切な証拠を失うこととなります。
「業務時間外のメールの違法性」の解説
労働者の作成した日記・メモ
パワハラの前後の事情を示すには、労働者の作成する日記やメモが証拠になります。録音や録画、書面などは、パワハラ自体を直接示す証拠になりますが、それだけでは「その言動が、不適切かどうか」が判別できないケースもあります。
例えば、指導を装ってされた言動が過剰であり、パワハラにあたると示すようなケース。このような場合に備え、前後の事情をあわせて証拠化するため、必ずメモを残しましょう。
陰湿なパワハラほど、証拠に残りづらいもの。パワハラの「言った言わない」の問題は、証人尋問で決着がつくケースもあります。記憶があり、かつ、客観的な事情に整合すると裁判所に示すにも、当時の日記やメモは大切。労働者側で準備できる証拠は、最大限集める努力をしてください。パワハラの証拠となるメモは、日時・場所・態様を具体的に書くのが大切です。
「パワハラのメモの作り方」の解説
証人の目撃証言
パワハラが、他の社員の前でされていたとき、目撃証言もまた証拠になります。「全社員の前で罵倒された」「人格否定を公の場でされた」といったパワハラで有効な手です。理不尽なブラック上司が、誰彼かまわずパワハラしているなら、同僚の協力が期待できるでしょう。
集団的なパワハラには、こちらも複数で一丸となって対抗しなければなりません。証言と、あなたの被害内容が、重要な点で一致すれば、パワハラが認められやすいです。労働審判や訴訟を起こす前に、記憶を思い出させ、同僚が証言してくれるか、確認しておきましょう。
「裁判で勝つ方法」の解説
退職者の目撃証言
同僚が、社内の立ち位置や人間関係を気にして証言しないなら、別の方法を考えなければなりません。悪質な会社のなかには、あなたが同僚から協力を得ようとしても、協力しないよう先回りして箝口令を敷いたり、嘘の証言をするよう強要したりするケースもあります。
解決策の1つは、退職者にアプローチし、証言に強力してもらうことです。
既に退職した人や、同じパワハラ被害を争ってこれから退職する予定の人なら、会社との利害関係はなく、気兼ねなく証言してくれると期待できます。劣悪な職場環境や、パワハラ上司に嫌気がさして辞めた人なら、喜んで力になってくれるでしょう。
「退職したらやることの順番」の解説
診断書
パワハラがあったことの証拠だけでなく、それにより被害を受けたことも、証明が必要です。つらい気持ちは目に見えず、パワハラを受けた被害者にしかわかりません。裁判所をはじめ、他人に理解してもらうには、証拠が必要です。
パワハラによる精神的苦痛を証明するには、診断書が最適です。病院の診断書と、通院履歴、ケースによってはカルテなども証拠として役立ちます。これらの医療記録は、パワハラと近接したタイミングで取得することで「パワハラの被害である」として因果関係を主張しやすくなります。
「労災の慰謝料の相場」の解説
パワハラの証拠を集めるべき理由
パワハラだと感じたときに、証拠を集めるのは、法的な解決のためです。つまり、労働審判や訴訟など、裁判所を利用した手続きで、有利に働くようにするのが目的。証拠がなければ、少なくとも裁判所では、不利な判断をされてもしかたありません。証拠が全くないパワハラは、法的に争うのが難しいでしょう。そのため、パワハラの証拠収集の重要性を、よく理解して進めてください。
交渉で、会社がパワハラを認めてくれればよいですが、ブラックな会社だと期待できません。会社側にしてみても、証拠がないなら裁判になっても認める必要はありませんから、ましてや交渉の段階でパワハラを認め、慰謝料を払うなどの譲歩をするような理由はなくなってしまうわけです。必然、労働者にとっては泣き寝入りとなる可能性が高まります。
パワハラ被害の真っ最中だと、つらい気持ちのほうが勝ってしまうかもしれません。しかし、つらい気持ちを被害回復につなげるため、我慢できるうちに証拠を集めましょう。証拠がないと、裁判手続きでは「なかったもの」として扱われ、さらに悔しい思いをします。
「労働問題の種類と解決策」の解説
パワハラの有効な証拠を集めるポイント
次に、パワハラの証拠を、有効に集めるために知るべきポイントを解説します。
パワハラの継続性を証明する
パワハラといっても、その態様は様々です。一度の行為で終わるケースは少なく、日常的に継続されるものほど悪質で、被害が大きいです。そのパワハラの悪質性を主張するには、パワハラの継続性を証明しなければなりません。
そのため、パワハラ1回分の証拠を集めて満足するのではいけません。パワハラが繰り返されたと証明するため、パワハラの継続性を示す証拠を集めるようにしてください。
証拠集めで無理しすぎない
「パワハラ被害は証拠が大切」といえど、無理すれば逆効果のおそれがあります。パワハラを録音、録画しようとして、無理をする人がいるからです。社内で無理やり動画を撮影しようとするなどの行為は、企業秩序違反として懲戒処分を下されるおそれがあります。
強力な証拠がどうしてもとれそうにないなら、無理せず他の証拠も検討してください。会社にモンスター社員扱いされてしまうと、解決が遠のいてしまいます。
パワハラだという同僚の証言が、もらいづらいケースもあります。あなたがパワハラを理由に退職しても、同僚は残り続けるときは、たとえ同じ被害に苦しんでいても、あなたを助ける証言に協力してくれませんし、嘘の証言をされることもあります。「仲間」と思っていた人に告げ口され、不利になる危険もあるので、無理強いは禁物です。
「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説
会社側の証拠に頼らない
パワハラを争おうとするとき、会社側から、思いも寄らない反論を受けることがあります。会社は、労働者が健康的で安全な環境で働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、その一環としてパワハラを防止する責任があります。その責任を果たさないことによる慰謝料を請求されないよう、パワハラの訴えに対しては必死に反論をしてくるでしょう。
このようなパワハラのケースで、会社側が良い証拠を開示してくれるとは期待できません。会社が誠意ある対応をせず、もみ消しを図ろうとする場合でも、労働者側で証拠集めをすべきです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
パワハラの証拠がないときの対処法
最後に、ここまで解説してきたような良い証拠が集まらなかったときの対策について解説します。つまり、パワハラの証拠がないときの対応についてです。
社内の話し合いで解決する
まず、軽度のパワハラなら、社内の話し合いで解決するのが基本です。会社にパワハラを受けていると伝え、再発が防止されるなら、裁判での慰謝料請求の段階に進まないケースもあります。裁判での解決ではない場合、証拠はあるに越したことはないものの必須ではありません。
会社は安全配慮義務を負いますから、パワハラの申告があったら、たとえ証拠が十分でなくても、むしろ会社が積極的に調査してパワハラを発見し、被害を食い止める義務があります。
「安全配慮義務」の解説
パワハラを指摘して相手の反論を証拠に残す
どうしても証拠がないときでも、まずはパワハラだと指摘し、ストップさせましょう。慰謝料請求などはしなくても、被害の拡大を止めるためです。ケースによっては、あなたの指摘に対する相手の反論が、証拠になることがあります。
例えば、「パワハラにあたるかどうか」はともかく、行為自体は認めるケースなどです。相手の反論は必ず証拠に残せるよう、パワハラの指摘は内容証明で行うことで、記録に残すようにしてください。証拠が十分になくても、会社が再発防止策の一環として加害者を異動させたり、接触しないよう配慮したり、といった事情もまた、パワハラがあったと推測させる事情として役に立ちます。
バランスのとれた対策を求める
バランスのとれた対策を求めることもまた、証拠がないパワハラへの対策となります。
証拠なく、軽度なパワハラなのに強すぎる処罰を求めれば、あなたに問題があると思われるでしょう。しかし、行為の程度にあった対策を求めるなら、そうではありません。必ずしも証拠がなくても、会社が耳を傾けてくれる可能性は高いです。
厳密に区別されてはいませんが、パワハラでなく「モラハラ」だと主張する手もあります。モラハラは、パワハラに満たない態度や言葉による嫌がらせを指すことが多いです。パワハラよりも陰湿で、証拠に残りづらい傾向にあります。
「職場のモラハラの対処法」の解説
報復行為を恐れない
加害者や会社からの報復を怖がって、パワハラを我慢してしまう人がいます。あなたが戦おうとしても、報復を恐れた同僚が証言してくれず、証拠が得られないこともあります。
しかし、パワハラ被害が公になれば、不利なのは加害者のほうです。会社としても、パワハラがあったという悪い評判が広まれば、社会的な信用を失います。正当なパワハラ被害の告発に報復することは、さらに違法行為を積み重ねるだけです。
報復されず、組織ぐるみでもみ消されないようにするにも、証拠収集は大切です。
「パワハラの相談先」の解説
まとめ
今回は、パワハラの証拠集めと、パワハラの証拠になりうる資料を解説しました。パワハラ被害を申告する際は、事前に、十分な証拠を集めるようにしてください。
パワハラの被害申告をして、会社が適切に対処してくれれば、それに越したことはありません。慰謝料をはじめ、損害賠償による相当な補償を得られ、被害を回復できるでしょう。しかし、証拠が十分にない訴えを無視し、まともに対応してくれない会社も少なくありません。
会社に誠意がなく、証拠もなければ、有利な解決は望めません。その後に労働審判や訴訟などの裁判手続きを起こしたとしても、裁判の審理でも証拠が重視され、結果的に、救済が受けられないおそれもあります。パワハラの被害に遭っている方は、耐えられなってしまう前に、有効な証拠を入手するため、弁護士のアドバイスをお受けください。
- パワハラの行為そのものの証拠だけでなく、違法性や損害を証明する証拠も必要
- パワハラの証拠は、録音・録画が一番だが、証言やメモでも証拠になる
- 証拠のないパワハラでも、まずは被害拡大を止め、証拠集めの努力をする
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